77話:精霊さんミーティング
「へえ、世界のバグ取りねぇ。なかなか面白い話だな」
「神様って本当にいたのか。それも、こんな可愛いお嬢さんだとはな」
作業員さんたちが感心した様子で頷く。
本日3度目となる俺たちの自己紹介&旅の目的を説明したのだが、コーヒーやライターなどの珍しい品物や、ノルンちゃんの変異能力のおかげですんなり信じてもらえることができた。
「しかしまあ、あの遺物を掘り出してくれるんなら神様でもなんでも大歓迎だよ」
「ああ。どうしようかって、皆で頭を抱えてたところなんだ。本当に助かったよ」
作業員さんたちが口々に、よかった、助かった、と声をあげる。
「ノルンさん、遺物は何日くらいで掘り出せそう?」
マイアコットさんがパンをかじりながら、ノルンちゃんに話しかける。
「もぐもぐ……5日間くらいははかかると思いますよ。ただ、その後に遺物周りの硬い部分を砕くとなると、私の力だけではちょっと難しいかもしれません。作業員さんたちの協力が必要なのですよ」
「そっか。となると、やっぱり掘り出した後も採掘ドリルとか石ノミでコツコツ削ることになりそうだね。中身を拝むのには、相当時間がかかるかも」
「まあ、急ぐ旅でもありませんので、のんびりで大丈夫なのですよ。ね、コウジさん?」
「うん。その間、俺たちも他の遺物の採掘のお手伝いをしよっか」
「えっ、いいの!?」
「もちろんですよ。他に何が埋まってるのか、すごく興味がありますし」
俺が言うと、作業員さんたちから喜びの声が上がった。
採掘場に降りてきた時は皆ピリピリしていてどうなることかと思ったが、この様子なら今後も仲良くやっていけそうだ。
「あと、羽ばたき飛行機械を見てみたいんですけど、暇なときでいいので見せてもらえませんか?」
「もちろんいいよ! 飛行士に連絡しておくね!」
マイアコットさんがすぐさま頷く。
俺のかねてからの夢がついに実現することになり、俺のテンションはうなぎのぼりだ。
アニメの中でしか見た事のない乗り物を、この目で拝むことができるとは、俺はなんて幸せ者なのだろうか。
そうしていると、建物の外からぞろぞろと人が入ってきた。
先ほどマイアコットさんの倉庫でポン菓子を配った時にいた、近隣住民だ。
雨が降っているというのに、わざわざ来てくれようだ。
リルちゃんとポンスケ君も一緒だ。
「コウジさん、私たちも来ちゃいました。パンも、たくさん焼いてきましたよ。皆さんも食べてくださいね」
リルちゃんが手にしたバスケットを揺らしてみせる。
作業員さんたちが、わっと歓声をあげた。
「わわっ、コウジさん、追加のパンですって! 焼きたての香りがしますよ!」
「ノルンちゃん、あれだけ食べて、まだ食べたりないわけ?」
「女神の胃袋はブラックホールですので!」
にしし、と笑うノルンちゃん。
こんな小さな体で、よくそんなにたくさん食べられるものだ。
「馬は倉庫に入れておいたよ。皆がいらない毛布とか持ってきてくれて、その上で座り込んでる。あとこれ、ポン菓子も持ってきたから」
ポンスケ君が大きな布袋を渡してくれた。
ほんのり甘い香りがする、大量のポン菓子だ。
「ふたりともありがとう! チキちゃん、皆にもコーヒーを配ろっか」
「うん。子供にはココアでいいかな?」
「そうだね。お菓子もたくさんあるから、ぱーっとやろう」
「コウジ、酒も飲もうぜ。マイアコットさんも一緒にやろうや」
カルバンさんがバッグからウイスキーのボトルを取り出す。
「やった! あのお酒、ずっと気になってたんだよね!」
「こいつは美味いぞ! たくさんあるから、皆で飲もうぜ!」
そうして、皆でわいわい話しながら夕食を食べていると、再び外から大きな雷の音が響いた。
先ほどよりも、音が近づいている気がする。
「すごい雷だな。だいぶ近いんじゃねえか?」
酒をあおっていたカルバンさんが、建物の外に目を向ける。
雨脚はさらに強くなり、ざあざあという雨音が響いていた。
空に稲妻が走っているのか、時折ピカッと明るくなっている。
ノルンちゃんがパンを咥えながら、とてとてと出入口に駆けて行った。
「おー、土砂降りなのですよ。マイアコットさんの家の屋根が心配……あ! コウジさん、見てください! 積乱雲が!」
ノルンちゃんが出入口から空を見上げながら、俺に手招きする。
なんだなんだと、皆で出入口に向かった。
「うわ、本当だ!」
夜空には先ほどはなかった巨大な積乱雲があり、ゆっくりと街の上に移動してきていた。
ピカピカゴロゴロと、暗い夜空で積乱雲が光り輝いている。
「な、なにあれ!? 雲が移動してきてるわけ!?」
マイアコットさんが驚愕の表情で積乱雲を見上げる。
他の皆も、不安そうな顔で空を見上げていた。
「みたいですね……カゾから移動してきたのかもしれないです」
「カゾから? 天空島を覆ってたってやつ?」
「はい。ネイリーさんが、積乱雲に集まってきた雷の精霊さんにお願いして、山にいる雷の精霊さんに話を聞くって言っていましたし」
「そっか……まさか、積乱雲ごと移動してくるとは思わなかったなぁ。もしかして、あの中に天空島があったりするのかな?」
「うーん、それはどうでしょう。中が見えないので何とも言えないですね」
そうこう言っている間に、積乱雲は俺たちの頭上をゆっくりと通り過ぎていった。
地図上でバグの印が付いている、常に雷雲が立ち込めている炭鉱がある山へと向かっているようだ。
積乱雲が過ぎ去ると同時に、雨がぴたりと止んだ。
皆で外に出て、積乱雲が去って行った方向を見る。
「むむ、ここからだと全然見えないのです」
ノルンちゃんが足を木の根に変異させ、地面に突き刺す。
先ほどのように、根を伸ばしてぎゅんぎゅんと空へ上って行く。
それを見たご近所さんたちが、一斉に驚いた声を上げた。
「ノルンちゃーん! 何が見えるー!?」
頭上100メートル程にまで上って行ったノルンちゃんに、大声で呼びかける。
「積乱雲が、山の雷雲の近くでゴロゴロピカピカしています!」
「積乱雲はもう移動してないの?」
「はい! その場にとどまって、ぐるぐる渦を巻いていますね!」
ノルンちゃんはそう言うと、根を縮めて俺たちの元へと降りてきた。
「たぶん、あれはネイリーさんが仕向けたものなのですよ。きっと、積乱雲の雷の精霊さんと山の雷の精霊さんが、話し合いをしているのです」
「そっか。まあ、ネイリーさんが戻ってこないことには何もわからないね」
「はい。見ててもどうにもなりませんし、夕食の続きをするのですよ」
「だね。そうしよっか」
そうして、俺たちは再び建物の中に戻るのだった。




