74話:遺物採掘&作業員さんたちと仲良くなろう計画
遺物に近づき、まじまじと皆で眺める。
地表に露出している黒い半円状のそれは、砂埃を被って少し白みがかっていた。
「なんだろ、これ。他の採掘中の建物とかとは、明らかに材質が違うように見えますね」
俺は遺物の傍にしゃがみ込み、表面を手で撫でてみた。
つやつやしていて、ひんやりと冷たい。
金属というよりは、冷たい石の塊に触れているような感覚だ。
「そうなんだよ。きっと何か特別な物だと思うんだけど、なかなか掘り出せなくてさ。2か月前くらいに天辺が見えてから、まだこれしか掘り出せてないんだ」
マイアコットさんも俺の隣に来て、遺物に手を触れる。
「採掘ドリルも周りの土にほとんど歯が立たないし、地面にあとどれだけ埋まってるのかも分からないし、全部掘り出すにはどれくらいかかるのか分からないんだよね」
「それは困りましたね……バグが目の前にあっても、掘り出せないんじゃどうにもならないしなぁ」
「コウジさん、それなら私が掘り出しますよ」
俺とマイアコットさんが話していると、ノルンちゃんが「はい」と手を挙げた。
「えっ。ノルンちゃん、これ掘り出せるの?」
「少し時間はかかりますが、できると思いますよ」
「そんなことできるの? すごい重量になると思うけど」
「大丈夫です。植物の力を侮るなかれ、なのですよ!」
ノルンちゃんの説明によると、竹のような植物を大量に遺物の真下に這わせて、そこから遺物全体を持ち上げるようなかたちで成長させるとのことだ。
植物の成長による力はコンクリートを割って地表に飛び出すものもあるくらいだ。
ノルンちゃんの力をもってすれば、それをさらに強化して、周囲一帯を地上に押し上げることもできそうだ。
「そうなんだ。それじゃあ、お願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。マイアコットさん、私は何日かこの場所に居座ることになりますが、大丈夫でしょうか?」
ノルンちゃんが聞くと、マイアコットさんはすぐに頷いた。
「うん、いいよ。作業員の人たちには私から話しておくから」
「ありがとうございます。コウジさん、ここは私がやりますので、コウジさんは皆さんと一緒にマイアコットさんのお家でのんびりしていてくださいませ」
「いやいや、俺も一緒にいるよ。テントでも張って、周りの遺物を見学しながらのんびりしてるから」
「あ、それはやめた方がいいかも」
マイアコットさんが待ったをかける。
「ここ、雨が降ると水が溜まっちゃうから、テントは張らない方がいいよ」
そう言われて周囲を見てみると、確かにあちこちに大きな水たまりができていた。
地面もぬかるんでいるし、テントの設営には適さなそうだ。
「私のゴリちゃんを連れてくるから、その中で寝泊まりしたらどうかな?」
「おお、それはありがたいです。それじゃあ、お願いしようかな」
マイアコットさんの持つ巨大スチームウォーカーなら、雨が降っても安心だ。
ここまで降ろすのは大変そうだけど、採掘場の道は幅がそこそこ広かったので降りられないこともないだろう。
ちなみに、ゴリちゃんは正式名称は「ゴリアテ」というらしい。
マイアコットさんのお父さんが設計したもので、遠方でも長期滞在ができるように考えたものとのことだ。
「ねね、コウジ君」
俺たちが話していると、ネイリーさんが空を見上げながら声をかけてきた。
空には、暗い雲が厚く覆っている。
「私、ちょっとカゾに行ってこようと思うんだけど、しばらく留守にしてもいいかな?」
「えっ。急にどうしたんです?」
「えっとね、あそこの山、見える?」
ネイリーさんが遠目に見える山を指さす。
真っ黒な雲が山の上に立ち込めており、稲妻の光がチカチカと光っていた。
おそらく、あれが石炭の大鉱脈があるという鉱山だろう。
「あそこの山にいる雷の精霊さんたち、なんだかこっちを見てる気がするんだよね」
「マジですか。そんなことまでわかるんですか?」
「うん。ここじゃ魔法は全く使えないけど、なんとなく感じるんだ」
「そうなんですか。でも、それとカゾに行くことと、何か関係があるんですか?」
「ベルゼルさんにお願いして、積乱雲をもう一度出してもらおうと思って。積乱雲に集まってきた雷の精霊さんにお願いして、あそこの山にいる雷の精霊さんに、『なんでそんなに騒いでいるの?』って聞いてもらおうと思うの」
「そ、そんなこともできるんですか」
「天才だからね!」
いつものように、ネイリーさんが胸を張る。
イーギリに来てから魔法が使えなくてあまり元気がなく見えたけど、杞憂だったようだ。
「だから、それで理由がわかれば、この遺物が何なのかもわかるかと思ってさ。どうかな?」
「それはいい考えですね! ぜひお願いしたいです!」
俺が言うと、ネイリーさんがにっこりと微笑んだ。
「ん、了解。それじゃ、一旦魔法障壁の外に出ないとだ。障壁の外に出ないと、飛翔魔法も使えないしさ」
「それなら、私が障壁の外までゴリちゃんで送るよ。雨も気にしないでいけるし」
マイアコットさんのありがたい申し出に、ネイリーさんが微笑む。
「おっ、それはありがたいね! じゃあ、お願いしちゃおっかな」
「コウジさん。少し時間がかかると思うので、その間にこの作業場の皆さんに、コーヒーやチョコレートを振舞うというのはどうでしょうか?」
ノルンちゃんの提案に、それはいい、と俺たちは頷く。
作業員さんたちはピリピリしているみたいだし、なんとか仲良くなれないかと考えていたところだ。
珍しくて美味しい食べ物を振舞えば、きっと皆喜んでくれるだろう。
「それいいね! 持って来た在庫全部使って、外来食品パーティーでもやろっか!」
「はい! 調味料も大盤振る舞いして、皆さんに振舞うといいのです! 私も野菜や果物を、採掘作業と同時並行で育てますので!」
「えっ! そ、そんな、悪いよ! そこまでしてもらわなくても!」
慌てるマイアコットさんを、チキちゃんが見上げる。
「大丈夫。いつものことだから」
「い、いつものことって……それに、在庫全部って、あなたたちにすごく迷惑がかかっちゃうよ」
「それも大丈夫。金貨が少しあれば、こっちの世界と日本を行き来してお金は無限に増やせるの」
「む、無限に? なにそれ、どうなってるの?」
その後、金策の反則技やら野菜や果物の超絶栽培方法などをマイアコットさんに説明し、なんとか納得してもらうことができた。
マイアコットさんとネイリーさんを見送り、俺たちは「さて」と遺物に向き直る。
「それじゃ、ノルンちゃん、早速お願いしてもいいかな?」
「はい! 始めますね!」
ノルンちゃんは遺物から少し離れると、両足を竹の根に変異させて地面に突き刺した。
「む。これはかなり土が硬い、というか、コンクリートみたいなもので地面が構成されていますね」
「コンクリートか。まるで、遺物を閉じ込めてたみたいな感じだね」
「あ、確かにそうですね。ちょっとこのままだと根を下ろせないので、もうちょっとだけ離れてやってみます」
ノルンちゃんがトコトコと走り、離れた場所に根を下ろす。
今度は大丈夫だったようで、メキメキと足元から音を立て始めた。
「カルバンさん。この辺にコーヒーの出店を出そうと思うんで、イスとかテーブルとか、借りれそうなものを探しておいてもらえません?」
「おう、わかった。そこらの作業員に声かけてみる」
「カルバン、今度は喧嘩しちゃダメだよ?」
チキちゃんのお叱りに、カルバンさんは苦笑しながら頭を掻いた。
「わかってるって。もうあんなバカな真似はしねえよ」
「カルバンさーん! ここで果物と野菜も栽培しようと思うのですよ。種を作るので、私の周りに植えていってくださいませ!」
「おうよ。こりゃ忙しいな」
出店の用意と採掘をカルバンとノルンちゃんに任せ、俺とチキちゃんはコーヒーなどを取りに、街の入り口に停めてある馬車へと向かうのだった。
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