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73話:謎の遺物

 大穴を降りていくにつれ、遠目ではわからなかった採掘場の全容が見えてきた。

 たくさんの店や工場のような建物が、半ばほど掘り出された状態で姿を見せている。

 深さは地上から約300メートルといったところだろうか。

 かなりの深さだ。


「はー、本当に街が丸ごと埋まってるんだねぇ」


 ネイリーさんが物珍しそうにそれらを眺める。

 古代都市、というよりは、現世の都市部で見られるような建物ばかりに見えた。


「ほらあそこ、最近見つかったベアリング工場だよ。すんごい高精度のものが大量に出てきたんだ」


 マイアコットさんが指さす先には、真四角の大きな建物があった。

 数人の作業員が中から運び出した品物を手に、多脚式のスチームウォーカーに向かっている。


「へえ、数千年前のものでも、使えるものが残ってるんですね」


「うん。1つ1つ油紙で包装されててさ、ケースもしっかりしてるから、使えるものはたくさんあったよ」


「そんないい物があちこちに埋まってるなら、掘り出さない手はないですもんね。それにしても、街ごと地中に埋まってるなんて、いったいここでなにがあったんですかね」


「たぶん、大洪水か何かだと思うよ。建物の中に別の建物の屋根とかが流れ込んだ跡があったりするから」


「大洪水ですか……」


 まるで滅び去った現代の町を見ているようで、なんとも言えない哀愁を感じてしまう。

 この世界は俺の願望を元に作られているとノルンちゃんは言っていたけど、こういったものも俺の願望だったりするのかもしれない。

 ノルンちゃんが来てくれるまでは、日々の生活に疲れ切っていて「こんな世界は滅んでしまえ」などと何度も考えたものだ。


「ええと、地図の印の場所は……あ、あそこかな?」


 マイアコットさんを先頭に、崖沿いの階段を底部まで降りきる。

 滅んだ街並みを眺めながら地図が示す中心地へと向かうと、真っ黒なドーム状のものが地面から露出している場所にたどり着いた。

 露出している部分は多くなく、高さ1メートル、長さ3メートル程度だ。


「なんですかあれ?」


「最近見つかった遺物だね。周りの地層がやたらと硬くて、掘り出すのにすごく苦労してるんだよ」


 周囲には採掘をしている作業員が数人いて、疲れた表情で何やら話し合っている。

 近くには採掘用のドリルが付いたスチームウォーカーも数台あるのだが、そのうちの一台はドリルの先端が割れてしまっていた。


「おい、コウジ。地図によると、その黒いやつがバグって出てるぞ」


 カルバンさんが広げている地図を皆でのぞき込む。

 地図はこの辺りをズームしており、黒い塊が赤い丸印で囲われていた。


「ほんとですね。マイアコットさん、近くに寄って見てもいいですか?」


「うん、ちょっと待ってね。おーい、みんなー! お客さんが遺物を見たいってさー!」


 マイアコットさんが作業員たちに呼びかける。


「あー? 採掘の邪魔だから、他所行ってくれよ」


「遺物が見たいなら博物館でも案内すりゃいいだろ」


「まあまあ、そう言わずにさ。お願いだから、ね?」


 マイアコットさんがぱちんと手を合わせて、彼らにお願いする。

 作業員たちは心底迷惑そうな顔をしながらも、「さっさと済ませろよ」と見学を了承した。


「……なんか、あんまり歓迎されてないですね」


 小声で言う俺に、マイアコットさんが苦笑した。


「雷のせいで一番大きな石炭鉱脈が掘れなくなっちゃって、みんなピリピリしてるの。遺物から石炭とは違う燃料を使う動力装置が見つかるはずだっていって、一生懸命掘ってるんだけど、なかなか上手くいかなくてさ」


「石炭の代わり、ですか?」


「うん。掘り出される工場とかお店には、蒸気機関が全く使われてないんだよ。だから、何か別の動力装置があるはずだっていうのが、みんなの見解なんだ」


「あれ? でも、5年前に石炭を使ったガス灯をイーギリで発明して、それがカゾで一気に普及したっていう話を聞いたんですけど」


「ああ。それは掘り出した博物館にあった設計図を基に作ったんだ。石炭燃料で動く装置は、ほとんど博物館から見つかったものを基に作ってるんだよ」


「なるほど。ということは、古代都市でも骨董品扱いだったものを再現して、街で使ってるっていうわけですか」


「そそ。もう、どんだけ旧世代のものを再利用するんだって話だよね。しかも、それが私たちにとっては先進的なものになるんだから、この世界の文明はどれだけ退化しちゃったんだって感じ」


「おい! くっちゃべってないで、見るならさっさと見てくれよ!」


 だべっている俺たちに、作業員の一人が怒鳴りつけてきた。

 みんな、かなり気が立っているようだ。


「あ、ごめんごめん! すぐに済ませるから、ちょっと待ってて!」


 マイアコットさんが俺たちに「ごめんね」と小声で囁き、黒い物体へと向かう。

 マイアコットさん、こんな扱いされて、よく代表なんてやってるな……。

 俺ならストレスで即辞任してしまいそうだ。


「ったく、山の雷も放置しっぱなしで、こんなところで油売ってる場合じゃねえだろ」


「本当だよ。落石で死んじまった奴らの死体だって、まだ何人も見つかってないっていうのに」


「おい! てめえ――」


 作業員たちのあまりにもな物言いにカルバンさんが食って掛かろうとした瞬間、背後にいたノルンちゃんが右腕を蔓に変異させて、一瞬のうちにカルバンさんを簀巻きにした。

 カルバンさんは過剰というほどの蔓に巻きつかれて、毛糸玉みたいになってしまっている。


「う、うわっ!?」


「な、なんだこりゃ!?」


 簀巻きにされた挙句に空中高く持ち上げられてしまったカルバンさんを、作業員が唖然として見上げる。

 突然の出来事に、俺たちも口をあんぐりと開けて見上げてしまった。


「カルバンさん、喧嘩はダメなのですよ。マイアコットさんのご苦労を台無しにするつもりですか?」


「むー! むぐー!」


 カルバンさんは口元まで蔓で絡められてしまい、なにもしゃべれない様子だ。

 だが、その憤怒の形相から、何か文句を言っているのは分かる。

 簀巻きにされても作業員たちへの怒りをぶちまけようとしているとは、なんというか、すごいなあの人。

 ノルンちゃんはそんなカルバンさんから視線を逸らし、作業員たちを見た。

 顔は笑顔だが、目が笑っていない。


「皆様、お騒がせして申し訳ありません。少しの間だけ、この遺物を見させてほしいのですよ」


「あ、ああ。分かった」


「お、俺たちは休憩してくるから、まあ、ゆっくり見ていってくれ」


 作業員たちは怯えた顔でそう言うと、こそこそと立ち去って行った。

 ノルンちゃんは彼らが遠く離れたのを確認すると、カルバンさんを地面に降ろして蔓を取り外した。


「はあっ、はあっ……おい、女神さんよ! なんで俺を縛り付けるんだ! やるならあいつらだろうが!」


 納得いかない、といった様子でカルバンさんが去っていく作業員たちを指さし、ノルンちゃんに怒鳴る。


「いいえ。そんなことをしたら、後で彼らに頭を下げないといけないのはマイアコットさんなのですよ。カルバンさんこそ、頭を冷やしてくださいませ」


「ぐ……」


 もっともな指摘に、カルバンさんが言葉に詰まる。


「そ、そうか。そうだな……俺が悪かった。すまない」


「いえいえ。むしろ、あそこで怒っていただけて好都合だったのです。これで、ゆっくりと遺物を見学ができますので」


「なんだそりゃ。言ってることがあべこべじゃねえか」


 にぱっと笑うノルンちゃんに、カルバンさんが苦笑する。


「代表さんよ。すまん、ついカッとなっちまった。今後は気を付ける」


「ううん、私こそごめんね。嫌な気分にさせちゃったよね」


 マイアコットさんが少し寂しそうに笑う。


「いや、あんたが謝ることじゃないだろ」


「そんなことないよ。私、事故を起こさないようにするなんて偉そうなこと言って代表を引き継いだけど、結局まだ何もできてないしさ。代表らしいことは何一つできてないし、街のみんなが怒るのも無理ないよ」


 マイアコットさんはそう言うと、「さて!」と遺物に向き直った。

 少しだけ見せた暗い表情はもう消えており、いつもの元気なマイアコットさんに戻っている。


「邪魔者はいなくなったし、じっくり遺物観察としましょっか! ほとんど埋まっちゃってるけどね!」


 元気に遺物に駆け寄っていくマイアコットさん。

 そんな彼女を追い、俺たちも遺物へと歩み寄った。

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