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58話:続・大惨事

「おおっ、すごいですね! これ、どういう仕組みになってるんですか!?」


 後部座席に乗ったベラドンナさんが窓に手を当て、外を眺める。

 折りたたんだ翼が天井に当たりそうになっており、かなり窮屈そうだ。

 エステルさんは背中の翼に目を向け、涙目になっている。


「いたた……うう、誰か私の羽根を引っこ抜いて行った人がいますよ。何であんなことするかなぁ」


「言ってなかったんですけど、この世界には人間しかいないんですよ。翼人とか、犬人や猫人もいないんです」


「え? いないって、ひとりもですか?」


「ええ。だから、こっちの人にしてみれば、エステルさんたちはおとぎ話の中に出てくるような超常的な存在なんですよ」


「ああ、だから皆して、私たちを指差して騒いでいたんですか……」


「はい……なので、あんまり外には出ないようにしてもらえると。もう手遅れな気もしますけど」


「コウジ、ネットニュースがすごいことになってるよ」


 チキちゃんが俺のスマホで、ニュースサイトを開く。

 信号で止まったところで覗いてみると、速報という扱いで、空を飛ぶベラドンナさんたちの動画が早くもトップに上がっていた。


「うへ、どうすんのこれ。ものすごくはっきり映ってるじゃん」


「あ、コウジさんも撮られちゃってますね」


「私とノルン様も映ってる」


 ベラドンナさんたちが車に乗り込む際の動画がしっかりと撮られており、俺たちの顔がはっきりと映っていた。

 チキちゃんは耳がそのままでエルフ丸出しだわ、その肩の上で何やらしゃべっているノルンちゃんも映っているわでえらいことになっていた。


「なんか、ここまでいくと逆にフェイクだって思われたりしないかね。どう考えても現実的じゃないだろ、みたいにさ」


「でも、すごくたくさんの人に見られちゃったよ。ほとんどの人がスマホで写真とか動画を撮ってたみたいだし」


「う、うーん……どうしようか」


「まあ、とりあえず帰るですよ。お二人を降ろして、今度はネイリーさんを探しに行かないといけません」


「だなぁ……って、あれ?」


 再び車を走らせていると、交差点の真ん中にすさまじい人だかりができていた。

 青信号なのに車が進めず、クラクションを鳴らしたり運転手が怒鳴り散らしたりしている。

 すると突然、人混みが二手に分かれた。


「うわ、ネイリーさんだ。なにやってるのあの人」


「あわわ、杖を振りかざしてますよ! 魔法を使うつもりなのですよ!」


 ノルンちゃんがそう言った瞬間、ネイリーさんの杖の水晶玉が光り輝き、白い煙のようなものがネイリーさんの前に浮かび上がった。

 ネイリーさんはそれに向かい、ふうっと息を吹きかける。

 すると、その煙はクラクションを鳴らしていた車に向かっていき、そのまま車を包み込んだ。

 同時に、あれだけけたたましく響いていたクラクションと運転手の怒声がぴたりと止まった。


「うわ、なにあれすごい。どうなってんの?」


「コウジ、そんなのどうでもいいから、ネイリーをなんとかしないとだよ」


「よ、よし! 皆はそのまま待ってて!」


 車を降り、ネイリーさんの下へ駆け寄る。

 ネイリーさんも俺に気づき、ぶんぶんと大きく手を振ってきた。


「コウジ君! こっちこっち!」


「ネイリーさん、魔法なんて使っちゃダメですって!」


「え、なんで? みんなすごく喜んでくれるよ?」


 俺が駆け寄ると、周囲のギャラリーから「やっぱり魔法だってよ!」とか「マジで本物なのか?」といった声が上がった。

 余計に彼らを煽ってしまった気もするが、それどころではない。


「理由はあとで説明しますから、家に戻ってください! お願いしますから!」


「う、うん、わかった」


 ネイリーさんが頷くと、俺たちを取り囲んでいたギャラリーが、わっと迫ってきた。


「ちょっと待てって! あんた、本物の魔法使いなのか!?」


「その顔、もしかして特殊メイクじゃなくて本物?」


「なんでもいいから魔法使ってよ!」


「魔法使いさん、一緒に写真撮らせて!」


 やいのやいの言いながら迫る人々。

 まるでおしくらまんじゅうのように、もみくちゃにされてしまって身動きが取れない。


「いたたっ! ちょっと、押さないでくれるかな!? こ、こら! 尻尾触らないでよ!」


「兄ちゃん邪魔だよ! 魔法使いさんが見えないだろ!」


「いててっ、引っ張らないでくださいよ!?」


「魔法使いさーん! こっち向いてー!」


 わーわーと取り囲まれていると、遠くから「ピーッ!」と警笛の音が響いた。

 どうやら、あまりの騒ぎに警察が来てしまったらしい。


「やべ、ネイリーさん、警察来ちゃいましたよ!」


「あだだっ!? 誰なの今尻尾引っ張ったの!? やめてよ!」


「ネイリーさん、逃げないと!」


「あーもー!」


 ネイリーさんは叫ぶと、杖を頭上に突き出した。


「コウジ君、私に抱き着いて!」


「はい!?」


「いいから!」


 言われるがまま、ネイリーさんに抱き着く。


「石の聖霊よ、汝の記憶を呼び起こせ。いにしえの姿に、今一度!」


 こん、とネイリーさんが杖の石突で勢いよくアスファルトを叩く。

 すると突然、俺たちの周囲にいる人々が地面の中に沈み込んだ。


「うわあっ!? な、なんだぁっ!?」


「きゃあああ!?」


 俺たち2人以外の人々が、全員腰あたりまで道路に沈んでしまっている。


「まったく。そこでしばらく反省しててよね!」


 ぷんすかと怒っているネイリーさん。

 俺が唖然としていると、ネイリーさんが少し離れた場所に停車してある俺の車を見つけた。


「あ、チキさんとかも一緒に来てたんだ」


「は、はい。俺たちは車で帰るんで、あそこまで行きたいんですけど……」


「おっと、私から離れないでね。この人たちみたいに、地面に埋まることになるよ」


「お、おい! お前ら、そこを動くなっ!」


 その声に振り向くと、警察官が地面に埋まっている人々の前でおろおろしていた。

 どうやら、ギリギリ魔法の効果範囲外にいたようだ。


「ん? あれは衛兵かな?」


「そんな感じです。俺たちを捕まえに来たみたいです」


「ありゃ。よく分からないけど、それは困るなぁ。コウジ君、ぎゅって、私に掴まって」


 ネイリーさんはそう言うと、とん、と地面を蹴った。

 ふわりと俺たちの体が浮き上がり、10メートル以上も飛んで唖然とした顔をしている警察官の前に降り立った。


「おやすみ!」


 こつん、とネイリーさんが杖で警察官のおでこを叩く。

 その途端、警察官は白目を剥いてその場に倒れ込んだ。


「ちょ、なにしてんの!?」


「なにって、気絶してもらっただけだよ?」


「あわわ、い、いいから逃げないと! 車まで運んでください!」


「はいよー!」


 再びネイリーさんが地面を蹴り、俺の車の前まで一気に飛ぶ。

 遠巻きに見ていたギャラリーたちが、悲鳴を上げて後ずさった。


「あー、なんかやばそうだね。このまま家に帰れる?」


「な、なんとか帰ってみます! ネイリーさんも急いで帰ってて!」


「ん、りょーかい」


 俺が離れると、ネイリーさんは帽子を押さえて近くのビルの屋上までジャンプした。

 そのまま、ぴょんぴょんとすごい勢いで飛び跳ねて、あっというまに視界から消えて行った。


「コウジさん! 早く逃げるですよ!」


「わ、わかった!」


 ノルンちゃんの声で、俺も慌てて車に飛び乗った。

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