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56話:天空島観光からの

「本日は天空島観光へご参加くださり、誠にありがとうございます。ただ今より数分間、皆さまには夢のような空の旅を体験していただきます。ご案内は私、カゾ観光協会のシシリーが――」


 ガイドのお姉さんが語るなか、俺たちの乗ったコンテナはグランドホークに掴まれて、天空島へと向かって飛んでいく。

 青く澄んだ大空の間には、空に浮かぶ小島がいくつも見えた。

 それらの間には虹鯉が悠々と泳いでおり、とても幻想的な光景だ。


「おおー! コウジさん、すごいですね! 綺麗ですね!」


 右隣に座るノルンちゃんが、とても楽しそうに外の景色を眺めながらはしゃいでいる。

 左隣では、チキちゃんが俺の腕にしがみついてブルブル震えていた。

 本当に高いところが苦手なんだな。


「だね! こんなに綺麗な景色、今まで見たことないや……チキちゃん、目を開けなよ。見ないともったいないよ?」


「こ、こ、怖くて」


「チキさん、すっごく綺麗な景色なのですよ! 見ておいたほうがいいですって!」


「う、うん……あわわ……」


「チキちゃん、大丈夫だって。落ちたりしないんだからさ」


「そ、それはわかってるんだけど……」


 まるで空の中を泳いでいるような、素晴らしい景色を堪能しながらコンテナは天空島へと飛んでいく。

 グランドホークは右へ左へと時折旋回して、本島や天空島が俺たちに見えるようにコンテナを傾けてくれた。

 そのたびに、乗客たちからは楽しそうな悲鳴やら歓声が沸き起こる。

 俺が今まで乗ってきたアトラクションのなかで、ぶっちぎりで一番楽しいと言い切れる。


「これは楽しいなぁ……カルバンさん、渡島料金って一人大金貨三枚でしたっけ?」


「おう、そうだぞ! 俺たちはタダだけどな!」


 他のお客さんたちと同じように歓声を上げながら、カルバンさんが満面の笑みで答える。


「えっ、そうだったんですか?」


「ああ。代表さんが、俺たちから金を取るわけにはいかないって言ってさ。俺たちはこの先ずっと無料でいいらしいぞ」


 カルバンさんの言葉に、俺は頭上のグランドホークを見上げた。

 真っ白な毛に覆われたもふもふのお腹が、視界一杯に広がっている。

 今グランドホークを操縦しているのはベラドンナさんだ。


「ベラドンナさん、料金のこと、ありがとうございます!」


「いえいえ! コウジさんたちのおかげで、こうして再び天空島を観光地として開放することができましたので!」


 大声で呼びかける俺に、ベラドンナさんの声が響く。

 とても明るく、元気な声だ。

 それを聞いていたガイドのお姉さんが、俺たちに目を向けた。


「皆さま、今日こちらにおられる五人の方々は、天空島で発生していた積乱雲を取り除いてくれた英雄なのです! どうぞ、彼らに盛大な拍手を!」


 わあっ、と他の乗客が一斉に拍手する。

 「よくやった!」とか「あんたらは俺らの英雄だ!」と温かな言葉が雨あられとかけられる。

 そんなこっぱずかしい思いをしながら空の旅を満喫し、天空島へとコンテナは降り立った。

 座席の安全バーが上がり、皆でコンテナの外へと出る。

 するとそこには、数十体のロボット兵が、まるで道を作るようなかたちで列を作っていた。

 その列の先には、見知った顔が。


「ようこそ、我が天空島へ。私はこの島の王、ベルゼルである!」


 まさに王様、といった豪奢な衣装に身を包んだベルゼルさんが、大勢の観光客に向けて大仰に言い放つ。


「おお、ベルゼルさん、ノリノリだなぁ」


「堂々としていていいですね! さすが本職なのですよ!」


 ベルゼルさんはベラドンナさんが血縁者だと分かった途端、それまでの態度から一転して、まるで自分の孫に接するかのようにベラドンナさんに甘々になった。

 二千年前も時代が離れた先の血縁者だとはいえ、自分とつながりを持つ者がいて嬉しかったのだそうだ。

 エステルさんや他の職員の人たちも何人か血液検査をしたのだが、どうやら天空都市カゾに住んでいる翼人たちは全員がベルゼルさんの血縁者らしいということが分かった。

 地上に散ってしまった国民のなかには、場所は違えど再び空での生活に戻った人たちが大勢いたということなのだろう。

 血縁といっても、あまりにも時が経ちすぎていて「遺伝子的につながりがある」といった程度のものらしいのだが、ベルゼルさんにはそれでも十分嬉しいことだったようだ。

 そんなわけで、今までどおり天空島をカゾの観光地として使うことも承諾してもらえた。

 さらに、ベルゼルさんは天空島のカイド役を買って出てくれて、観光協会の職員として働くことになったのだった。


「諸君らには、王である私が直々に、この国の歴史を紐解いて聞かせよう。二千年前、この国がいかに栄え、そして滅んでしまったのか、悠久の時に思いをはせながら、存分に楽しんでいってもらいたい」


 カツン、とベルゼルさんが杖で地面を叩く。

 すると、少し離れた場所の地面が地響きとともに開き、中から謎の球体が現れた。

 なんだろう、と皆が視線を向けるなか、球体から空に向かって勢いよく水が吹きあがった。

 水の飛沫に太陽の光が当たり、大きな虹が皆の頭上に出来上がる。


「おー! すごい! こんな設備まであったんだね!」


「コウジ、虹鯉が来たよ!」


 ネイリーさんとチキちゃんがはしゃいだ声を上げる。

 空を舞っていた虹鯉たちが、出来立ての虹に向かってゆっくりと近づいてきた。

 虹鯉が大きく口を開くと、そのなかに虹が吸い込まれ始めた。


「うわ、なんだあれ!? どうなってるの!?」


「虹が吸い込まれていきますよ!」


 驚く俺とノルンちゃんの声が響くなか、数十匹の虹鯉が虹を吸い込み始めた。

 まるで水でも飲んでいるかのように、大きな虹が虹鯉たちに方々から吸い取られていく。

 どういう原理なのか、さっぱり分からない。

 唖然としてそれを見ていると、虹鯉たちの全身が美しく虹色に輝きだした。

 この世のものとは思えないほどの美しい光景に、皆が感嘆の声を上げる。


「おお、無料サービスで虹まで見せるようにしたのか。こりゃあ、さらに人気が出そうだな」


 感心した様子で頷くカルバンさん。

 その隣に、ベラドンナさんがやってきた。


「はい! あと、じょうろを使って作った虹での餌やりも、古城のベランダでできることになっています。値段は小銀貨三枚ですけど、コウジさんたちは無料で大丈夫ですので!」


「ほう、そうか! コウジ、せっかくだからやってみないか?」


「コウジ、私もやりたい」


「私もやりたいです!」


「私もー!」


 やいのやいの皆が騒ぐ。

 わかったから落ち着けと皆を諫めていると、ベルゼルさんが俺たちの下へと歩いてきた。


「ベラドンナ、記念撮影を始めていいぞ。虹はあと二十分くらい出続けるから、手早く済ませるがいい」


 ベルゼルさんが手のひらサイズの四角い機械を、ベラドンナさんに差し出す。

 どうやら、これがカメラのようだ。


「はい! おじいさま、ありがとうございます!」


 カメラを受け取り、にっこりと微笑むベラドンナさん。

 ベルゼルさんは頬に皺を作り、嬉しそうに頷く。

 孫にデレデレなおじいちゃんと化している。


「写真ですって! コウジさん、せっかくなので皆で撮るですよ!」


「お、いいねぇ。ベラドンナさん、俺たちもお願いしていいですか?」


「わかりました! では、一番最初にどうぞ!」


 ベラドンナさんに連れられて、指定された場所へと皆で移動する。

 虹を食べている虹鯉が背景に収まるように、ベラドンナさんはカメラを持って後ろに下がった。


「コウジ、腕組みたい」


「あ、私もお願いします!」


 チキちゃんとノルンちゃんが、両側から俺の腕に自身の腕を絡める。

 周囲のギャラリーから、「よっ、色男!」「羨ましいぞ兄ちゃん!」といったヤジが飛んだ。

 かなり恥ずかしい。


「あはは、コウジ君、モテモテだねぇ」


「若いっていいねぇ……」


「あはは……は、恥ずかしいなこれ」


「皆さん、撮りますよー! 笑ってください! はい、3、2、1」


 ベラドンナさんの合図とともに、シャッターが切られる。

 その瞬間、俺たちの体が光り輝きだした。


「げっ!? 帰還の光だ! これから観光だってのに!」


「あ、あわわ。コウジさん、私たちまで光ってますよ!?」


 俺だけでなく、ノルンちゃんやチキちゃん、さらにはベラドンナさんとベルゼルさんまで光っている。

 次の瞬間、光がいっそう強くなり、俺の目の前は真っ白になった。

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