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54話:お説教

 夕日に染まる天空島の島端で俺たちが待っていると、ベラドンナさんがグランドホークに乗って飛んできた。

 ばさばさと翼の音を響かせて、グランドホークが地面に降り立つ。

 ぴょこんと、ベラドンナさんがその背から飛び降りた。


「皆さん、ありがとうございます! これでまた、この島が観光地として使えます!」


 彼女が満面の笑みで俺たちに駆け寄る。


「議員や市民たちも、大騒ぎしてますよ! あちらを見てください!」


 ベラドンナさんが本島を指差す。

 本島の端には大勢の人々が集まっており、こちらを見てわいわいと騒いでいるのが見て取れた。

 クレープやらホットドッグやらの出店も開き始めているようで、早くもお祭りのような雰囲気になっている。


「おー、ずいぶんと集まってますねぇ」


 人々を眺める俺に、ベラドンナさんがにっこりと微笑む。

 心のつかえが取れたような、とても柔らかな微笑みだ。


「はい! 積乱雲が消えて、すぐに人が集まってきましたよ! 自分の翼でこっちに渡ろうとする人がたくさんいて、行かないようにって連れ戻すのに苦労しました」


 元から美人さんなのもあるけど、やはり笑顔になると余計に美人に見える。

 思わず見惚れていると、隣のチキちゃんから鋭い視線を向けられているのに気づいて慌ててベラドンナさんから目を逸らした。


「ふむ、それほどまでに我が国を必要としておるのか」


 ベルゼルさんは顎をさすりながら、遠目に見える人々を眺めている。

 何となく嬉しそうだ。

 

「えっと……エステル、この方が積乱雲を?」


「うん。二千年前に、天空島で王様をしてたんだって」


「に、二千年前……機械に入って眠ってたって言ってたけど、それ、本当なの?」


「そうみたい。さっき古城の地下を案内してもらったんだけど、なんかもうすごかったよ」


 エステルさんの説明に、ベルゼルさんがやれやれとため息をつく。


「そんな説明で分かるわけがないだろう。ほれ、これを見るがいい」


 ベルゼルさんの持つ杖の水晶玉から光が延び、空中にホログラム映像が表示された。

 先ほど俺たちが古城の地下であれこれやりとりしていた様子が映し出されている。


「わわっ!? な、なんですかこれ!?」


「一時間ほど前の映像だ。監視装置で記録したものを再生している」


「記録って……こんなもの、初めて見ます……」


 ベラドンナさんが映像に顔を近づけ、はー、とため息をつきながら見つめる。


「ふむ……現代には、映像を記録する装置は存在していないのか?」


「私は見たことも聞いたこともありません。イーギリにだって、こんなすごい道具は存在していないと思います」


「イーギリとは何だ?」


「カゾの近くにある都市の名前です。石炭採掘と蒸気機関で栄えている都市国家ですね」


「蒸気機関だと? ……そうか。この二千年間で、文明は大きく後退してしまったということか……いや、魔法具の進歩を見れば、そちらに特化したというべきか?」


 ベルゼルさんが顎をさすりながら唸る。

 彼の知っている世界と今の世界とは、技術的な面でかなりの乖離があるようだ。


「二千年前は、こういう装置は一般的だったのですか?」


 ノルンちゃんがベルゼルさんに聞く。


「うむ。といっても、進んだ科学力を持っていたのは、我が国のように浮遊島で国家を築いている数カ国だけだ。地上で暮らす連中は、機械とは無縁の生活をしていたようだ。魔法具は使っていたようだがな」


「えっ、他にも浮遊島に都市があったのですか?」


「あったぞ。昔……今から二千二百年ほど前は浮遊島同士で領土争いがあってな。互いの国を攻め落とそうと、凄惨な戦いが繰り広げられていたと記録が残っている」


「なるほど、それで、あのロボットたちみたいな兵器が存在していたのですか」


「うむ。軍備を持たずして平和は築けないからな。戦争がなくなった後も、ロボット兵や機雷魚といった兵器は常に一定数を確保するようにしていたのだ」


 ふむふむ、とノルンちゃんが頷く。

 すると、話を聞いていたエステルさんが小さく手を上げた。


「あの、どうして地上では浮遊島のように機械が広まらなかったんでしょうか?」


「さあな。私にはよく分からん。ただ、『地上の連中は精霊たちとの関係性が薄れることを嫌っている』、と聞いたことはあるな」


「精霊との関係性、ですか……」


「ここじゃ、風の精霊さんが幅を利かせてるくらいで、他の精霊さんたちはあんまり元気がないからね」


 ネイリーさんが横から口を挟む。


「もちろん種族にもよるけど、いろんな精霊さんたちが周りにいないと関係は希薄になるからね。どんどんお互い無関心になっていって当然だと思う」


 さて、とネイリーさんがベラドンナさんを見る。


「ここでうだうだやってても仕方ないし、とりあえず本島に戻ろうよ。あと、お腹空いたからごはん食べたいな」


「あ、はい! そうですね! ノルンさん、来たときと同じように、またシェルターを作ってもらうことはできますでしょうか?」


「了解であります! 少々お待ちを!」


 ノルンちゃんの腕が蔓に変異し、しゅるしゅると延びて蔓のシェルターを作っていく。

 ものの数分で出来上がったそれに乗り込み、俺たちは天空島を後にした。




 数分の空の旅を経て、俺たちは昨日宿泊した『虹の翼亭』の前の道に降り立った。

 皆の希望で、宿で夕食を食べながら話をしようとなったのだ。

 俺を先頭に宿へと入り、ついでにと全員分の宿泊予約(料金はカゾの経費から出してくれるらしい)を済ませて食堂へと向かった。

 皆で席に着き、ベラドンナさんが、こほん、と息をついてベルゼルさんに顔を向ける。


「改めまして、挨拶をさせてください。天空都市カゾで代表をしております、ベラドンナと申します。よろしくお願いいたします」


 ベラドンナさんが深々と腰を折る。

 ちなみに、島で何があったのかは、移動中に皆でベラドンナさんには説明してある。

 あやうく殺されかけた、といった話をした時は、彼女はかわいそうなくらいに必死に謝っていた。


「私はあの浮遊島の国の国王、ベルゼルだ。我が国を観光地として使いたいと聞いているが?」


「はい。天空島の、あなたの国の扱いなのですが、現在は我が国カゾの領土として扱われています。とても重要な観光地として用いていて、わが国の財政のかなめなのです」


「うむ、そうらしいな。島が使えないままだと、国の財政が破綻してしまうとのことだが」


「は、はい。なので、またあの場所を観光地として使わせていただきたいんです。あの場所は――」


 天空島がカゾにとっていかに重要な観光地で、今までどういった扱いがされてきたかをベラドンナさんが丁寧に説明する。

 今までいかに島が大切に扱われてきたかということをカゾの歴史を交えて説明し、今後もできる限り島の建物や自然には手を加えないと付け加えて説明を終えた。


「ベルゼルさんの身柄につきましても、私が責任を持って議会に話を通し、特例というかたちで市民権を付与いたします。どうかご理解いただけないでしょうか」


「大筋はそれで構わんよ。王とはいっても、もう国民はひとりもいなくなってしまったしな。今後はお前たちとともに生きていくことにするよ」


 すんなりと受け入れたベルゼルさんに、ベラドンナさんがほっとした顔になる。


「ただし、私の国を使わせるのだから、私も都市の運営方針を決める議会には参加させてもらうぞ」


「えっ? そ、それって、議員になりたいということでしょうか?」


「そういうことになるな。というより、聞く限りではお前たちの財務計画は雑すぎる。あぶなっかしくて、とてもではないが見過ごすことなどできん。いいか、耳当たりがよく派手な投資をするのも時には重要かもしれんが――」


 都市運営のなんたるかを、半ば説教のような言い回しでベルゼルさんがこんこんと説く。

 ベラドンナさんは、はい、はい、と頷いて聞いていたが、だんだんと涙目になっていった。

 半ば、お前はポンコツだ、と言われているに等しい説教内容で、見ていて少し痛々しい。


「……ノルンちゃん、ちょっとベラドンナさんがかわいそうだから、何とかしてあげてよ」


 こそっと、俺は隣に座るノルンちゃんに小声で話しかける。


「えっ、いえ、私にそんなこと言われても。お年寄りが説教臭いのは仕方がないことかと」


「だってほら、ベラドンナさん、そろそろ泣きそうだよ」


「う、そ、そうですね。話を変えたほうがよさそうですね」


「うん、何かお願い」


「了解なのです……そ、そういえば、ベラドンナさんもベルゼルさんも、おふたりとも翼人さんですね!」


 突然話し始めたノルンちゃんに、皆の視線が集まる。


「ん? ああ、そうだが、それがどうかしたか?」


「はい。もしかしたら、ベラドンナさんはベルゼルさんの子孫だったりしないのかなと。もしそうだったら運命的な出会いですね!」


 ノルンちゃんが明るい声で言う。

 ベルゼルさんは感心したように、ほう、と頷いた。


「なるほど、それは考え付かなかったな。調べてみるか」


 ベルゼルさんの杖の側面が開き、中から紐のようなものがスルスルと延びた。


「ベラドンナ、腕を出せ」


「えっ、腕ですか?」


「うむ。さっさと出すがいい」


「は、はい」


 ベラドンナさんが延ばした腕に、杖から延びた紐が向かっていく。

 紐は何やら探るようにして腕の周りを動き回っていたが、手の甲の血管の上で動きを止めると、先端から素早く針を出して血管に突き刺さった。


「痛っ!?」


 思わず引っ込めようとしたベラドンナさんの腕を、ベルゼルさんが掴む。


「なな、何をするんですかっ!?」


「血液データを調べているのだ。いいから、少し我慢しろ」


 数秒して針が抜かれ、紐は杖の中に戻って行った。

 いきなり手に針を刺されてしまい、ベラドンナさんは涙目だ。


『検査完了。データを表示します』


 杖の水晶玉から光が延び、空中に遺伝形質がどうたらといった情報が羅列された。

 いろいろ書いてあるが、俺にはよく分からない。


「私との血縁関係は?」


『99.5%の確率で血縁者です』


 杖から響いた機械音声に、皆から「おお」と声が漏れた。

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