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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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46話:大好き

「……女神様、ですか?」


「はい。救済担当官をしているのです。私は栽培を司る女神なのですよ」


 俺たちがどういう存在なのかをざっくりと説明すると、2人があからさまに怪訝な顔になった。

 普通に考えて、こんな話を聞かされても作り話としか思えないだろう。


「あの……失礼なのですが、いきなりそのような話を聞かされても」


 おずおずと、ベラドンナさんがノルンちゃんに言う。

 こいつら頭大丈夫か? といったようなニュアンスが、言葉に感じられる。


「まあ、信じても信じなくてもどちらでもいいのですよ。ただ、どうやら天空島の異変については、どうやらに私に責任がありそうなのです。なので、それは解決させていただきます」


「えっ、解決って、何かあてがあるのですか?」


「いえ、原因はまだ分かりませんが、まあ、なんとかなると思うのですよ。とりあえず明日にでも、天空島を見に行ってみましょう」


「は、はあ」


「ねえねえ、何だか面白そうだし、私も一緒に天空島を見に行ってもいいかな?」


 それまで黙って話を聞いていたネイリーさんが、口を挟む。


「えっ、ネイリーさんも手伝ってくれるんですか?」


 俺が言うと、ネイリーさんは「あ、いやいや」と胸の前で手を振った。


「ううん、とりあえず一緒に見に行ってみるだけ。どんなことになってるのか、すごく興味あるし」


「そうですか……もし手こずりそうだったら手伝ってもらえたらなって思ったんですが」


「そうだねぇ。ま、それは見てから考えてみるよ。何がどうなってるのかも、まだよく分からないしさ」


 そんなこんなで話はまとまり、明日の朝から皆で天空島を見に行ってみることになった。

 今日のところは2人には帰ってもらい、中断してしまった夕食をとるために俺たちは再び食堂へと向かった。




「はあ、美味しかったのです……ローストビーフ、最高でした……」


 満足、といった表情で、ノルンちゃんがお腹をさする。

 出てきた料理は前菜のサラダ(驚いたことにまた新しいものが1から出てきた)から始まり、かぼちゃの冷たいスープ、川魚の香草焼き、梨のゼリー、骨付き羊肉のソテー、クリームチーズのケーキ、ミント系のハーブティーと色鮮やかなクッキーが数枚と、盛りだくさんだった。

 それとは別にローストビーフも頼んでいたので、かなりのボリュームで全員大満足だ。

 俺としては食べすぎてしまったくらいで、お腹がけっこう苦しい。

 ネイリーさんがハーブティーを手に、うんうんと頷く。


「うん、美味しかったね! 私もあちこちでいろいろ食べてきたけど、その中でもここは上位にランクインするよ!」


「ネイリーさんって、ずっと旅をしているんですか?」


 俺が聞くと、ネイリーさんは、そうだよ、と頷いた。


「うん。もう5年くらい、あっちに行ったりこっちに行ったりしてるよ。すべては杖の導くままに、ってね」


 ネイリーさんがぱちんと指を鳴らすと、傍の壁に立てかけられていた彼女の杖がふわりと浮き上がった。

 そのまま彼女の隣にまでやってきて、杖の先の水晶玉が青白く光り輝く。

 光が数十センチ伸び、俺の方を指した。


「ん? 何ですそれ?」


「私の今の目的地。まあ、占いみたいなものかな」


「占い? 何を占ったんです?」


「お金儲けができる場所。近くにそういうところがあると、こうやって杖が導いてくれるんだ」


 へへ、とネイリーさんが笑う。


「へえ、すごい杖ですね! 便利ですね!」


「でしょ? お師匠様に貰ったんだ」


 えへへ、とネイリーさんが嬉しそうに笑う。

 ネイリーさんのお師匠様って、どんな人なんだろうか。

 師匠というくらいだから、彼女よりすごい魔術師なんだろうな。


「お金儲けって、俺と一緒にいればお金が稼げるってことですかね?」


「みたいだね。街に着いて占ってみたら、ちょうどコウジ君のいる宿に来たってわけ。ローストビーフ目当てでこの宿には泊まるつもりだったし、ちょうどよかったよ」


「なるほど……儲け話って、コーヒーのことかな? いっぱい持ってきてるし」


「コーヒーって、さっき代表さんと話してた粉末飲料のことだよね?」


「ええ、そうです。街で売りさばこうと思ってて」


「なるほど。でも、それはコウジ君たちの物だしなぁ……私が儲けるってわけでもないし、何か別のことがあるのかな」


「どうなんでしょう。でも、それって何だか面白いですね。何が起こるのかわくわくして待てるというか」


「そうそう! コウジ君、分かってるねぇ!」


 楽しそうにネイリーさんが笑う。

 何というか、人生をこれでもかっていうくらい謳歌している人だな。

 自由気ままで、毎日が楽しそうだ。


「コウジ、そろそろお部屋戻りたい」


 そんな話をしていると、隣のチキちゃんが手を伸ばして俺の袖を引っ張った。


「あ、そうだね。そうしようか。お風呂の時間もあるしね」


 宿には男女別で風呂場があり、入浴時間は夜の11時までだ。

 石炭で沸かしてお湯を循環させているらしく、常に温かい湯と水流を楽しむことができると説明を受けていた。

 どういう構造なのかよく分からないが、スーパー銭湯にあるジェットバスのようなものだろうか。


「コウジはすぐにお風呂入るの?」


「んー、少しだけ部屋で寛いでからにしようかな」


「カルバンは?」


「俺はすぐに入るぞ。ぱぱっと入って、ちゃっちゃと寝る。明日は忙しそうだしな」


「ん、分かった」


 そうして皆で席を立ち、食堂を出た。




「ふう、さっぱりした。面白いお風呂だったな」


 脱衣所で濡れた身体を拭き、服を着る。

 風呂場は6畳間ほどの広さで、3、4人が入れる程度の大きさの浴槽が付いていた。

 浴槽には斜めに腰掛けられるように背もたれが付いていて、腰が当たる部分には小さな無数の穴があり、そこからお湯が勢いよく流れ出てきていた。

 どういう仕組みになっているのか分からないが、腰を中心としてとてもよく温まることができた。


「あれ、チキちゃん。どうしたの?」


 俺が脱衣所を出ると、チキちゃんが壁に背をもたれていた。

 風呂から出たばかりなのか、髪はしっとりと濡れている。


「コウジを待ってたの。約束だから」


「約束? 待ち合わせなんてしたっけ?」


 俺が聞くと、チキちゃんが少し不満そうな顔になった。

 そんな顔をされても、約束なんてした覚えはないのだけども。


「いいから、行こう。こっち来て」


 チキちゃんが俺の手を取り、引っ張る。

 わけが分からないまま、彼女に手を引かれて廊下を進む。


「どこ行くの?」


「宿の外。いいから付いてきて」


 宿を出て、ガス灯に照らされた夜の街を歩く。

 さすが観光地というだけあり、夜にも関わらず多くの人が通りを歩いていた。

 あちこちから、飲食店の従業員が呼び込みをかけている声が聞こえる。


「ここ」


 一軒の宿のような建物の前で、チキちゃんが立ち止まる。

 俺は建物を見上げ、小首を傾げた。


「何のお店? 居酒屋とかかな?」


「入れば分かるから」


 チキちゃんがドアを開けて、店に入る。

 中はやや薄暗く、壁に掛けられた数個のガス灯がぼんやりと室内を照らしていた。


「1部屋、お願いします」


 チキちゃんが大銀貨を1枚、カウンターにいるお兄さんに手渡す。


「かしこまりました。チェックアウトは明日の朝10時です」


「ありがとう」


 チキちゃんが礼を言い、鍵を受け取る。


「え、ちょ、チキちゃん、ここって」


「こっち」


 そのままぐいぐいと引きずられるようにして、廊下の奥の一室に連れ込まれた。

 室内には、柔らかそうな大きなベッドが1つ。

 そして、椅子と鏡台が1つずつ置かれている。

 どう見てもラブホテルです、本当にありがとうございます。


「コウジ、約束だよ。コウジが私のことを好きになったら、するって」


「え? 好きにって……」


 確かに、チキちゃんと現世の俺の部屋でそんなやり取りをした記憶はある。

 だけど、彼女のことを好きだなどと言った記憶がさっぱりない。

 好きかと聞かれれば、そりゃあもちろん好きだけども。

 かわいいし、優しいし、気が利くし、非の打ちどころがない。


「旅人の宿で言ったでしょ。私のこと、好きだって」


「旅人の宿? ……あっ!」


 そう言われ、何となく思い出した。

 宿の外で部長(馬)をしこたま殴った時、ネイリーさんとそんな感じのやり取りをしたような気がする。

 俺が思い出したとみて、チキちゃんがほっとしたように微笑んだ。


「思い出した?」


「う、うん……まあ、確かにそんな感じのやり取りはしたような」


「ん、よかった」


 チキちゃんが、俺に抱き着く。

 ふわりと、石鹸のいい香りが彼女の髪から感じられた。


「なら、いいよね?」


「え、ええと……その、嬉しいんだけど……」


「だけど、何?」


「い、いいのかな?」


「コウジは、私のことどう思ってるの?」


 チキちゃんが俺を見上げ、潤んだ瞳を向けてくる。

 反則的にかわいい。


「か、かわいいと思ってます。いろいろ気が付くし、いい娘だなって」


「私のこと、好き?」


「す、好きです」


「私も、コウジのこと好き。大好き。だから、いいんだよ」


 チキちゃんがぎゅっと俺を抱きしめ、離れる。

 手を握られ、ベッドへと連れていかれた。


「座って」


「は、はい」


 座った俺の両肩に手を置き、妖艶な瞳で俺を見つめるチキちゃん。

 俺は心臓バクバクだ。


「コウジ、初めてなんだよね?」


「う、うん」


「ん、分かった。大丈夫だから」


 何が? と聞き返す間もなく、俺はチキちゃんに押し倒された。

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