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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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44/150

44話:没収します

「それじゃ、また後で」


「はい! また夕食時に!」


「コウジ君、本当にありがとね!」


「……」


 女性陣と別れ、カルバンさんと一緒に部屋に入る。


「おー」


「ううむ、こりゃいい部屋だな」


 部屋に入ると、見るからにふかふかな大きなベッドが目に飛び込んできた。

 部屋の内装もシックな雰囲気で、使われている家具はどれも品があって高級そうだ。

 壁にはガス灯が2つ掛かっていて、部屋を明るく照らしていた。

 カルバンさんがベッドに腰かけ、荷物を下ろす。


「ずっとテント暮らしでしたし、ふかふかのベッドなんて久しぶりですね!」


「だな。さて、明日からの商売の準備でもするか」


「そうですね、俺は商売なんて初めてなんで、カルバンさんにいろいろ教えてもらわないと……あ、ガス灯か」


「ん? どうした?」


「いえ、ガス灯なんて初めて見たから、気になっちゃって」


 壁に掛けられているガラスカバー付きのガス灯に近づき、まじまじと見つめる。

 ガス灯の灯りは柔らかで、見ていてほっとする。 

 この世界の科学技術がどうなっているのかよく分からないのだが、魔法と科学が混在している様はどこか不思議な感じだ。


「ああ、確か石炭を使って灯りを点けてるらしいぞ。詳しいことは知らんがな」


「へえ、そうなんですか。ガス灯っていうと天然ガスってイメージがあったんですが、そうじゃないんですね」


「天然ガス? なんだそりゃ?」


「地面の中に埋まってる可燃性のガスのことです。それを掘ってきて、燃料にするんですよ」


 俺が答えると、カルバンさんは不思議そうな顔で小首を傾げた。


「ガスを掘るって、どうやるんだ? 掘っ穴から吹き出てきちまうんじゃないか?」


「いや、俺も詳しく知ってるわけじゃないんで……そういえば、石炭ってこの浮遊島で採掘してるんですかね? たくさんガス灯がありましたけど」


「どうなんだろうな? 少し行ったところに蒸気都市イーギリがあるし、そこから運んできてるのかもしれないな」


「ああ、なるほど。そうかもしれないですね」


「あと、ガス灯が使われ始めたのはここ5年くらいらしいぞ。イーギリで発明されて、あっというまにカゾに普及したらしい。見栄えがいいっていうのが、観光で儲けてるこの街にはウケたんだろうな」


「へえ、そうなんですか。確かに、ガス灯ってすごく綺麗ですもんね」


 そんな話をしながら、カルバンさんとコーヒー販売についてあれこれと相談する。

 販売価格はすでに検査官さんに報告済みなのだが、それを小分けにして売る分には別に問題ないらしい。

 ただ、合計の販売価格が大幅に安くなったり高くなったりすると、ばれた時にブタ箱直行らしいので気をつけねばならない。

 販売品の帳簿を持った保安員が、買い物客のふりをして街を巡回しているからだ。

 ちなみに、これも検査員のお姉さんが教えてくれたことだ。


「商売もそうだが、バグ取りってのもやらないといけないんだろ?」


「ええ、そうです。ここの周りの浮遊島の1つに印が付いてたんで、そこまで行かないと」


「おし、場所を確認しとくか」


 カルバンさんが地図を出してくれたので、それを覗き込む。

 入場ゲートとは反対側にある浮遊島の中心部に、赤い丸印が付いていた。


「この場所は天空島だな」


「天空島って、ものすごく綺麗な景色が見れるって言ってたところですよね?」


「ああ、そうだ。前に1度渡ったことがあるが、特におかしなものはなかったと思うんだけどな……」


「ということは、島の中を詳しく調べないとですね」


「ふうむ……」


 カルバンさんが難しい顔で唸る。


「それは少し難しいかもしれないぞ」


「えっ、何でですか?」


「あそこはこの都市の目玉観光地なんだよ。島にはでかい城が建ってるんだが、その外も中も見学路が決まってるんだ。それ以外の場所に入るのは禁止されてるんだよ」


「マジですか。見学路でバグが見つかることを祈るしかないですね……」


 世界のバグ取りはやらねばならないが、この都市で法を犯すとかなり罪が重そうだ。

 見学路以外にそれが存在した場合、こっそり侵入するといった危険な橋を渡る必要が出てくるかもしれない。

 もしくは、都市の責任者に相談して特別に入れてもらうとか。


「まあ、とりあえずは行ってみないとな。明日は商売しながら、情報収集もしようや」


「そうですね、そうしましょう」


 そんな話をしながら、明日からの商売の予定を立てる。

 俺はもっぱらカルバンさんの説明を聞いているだけだ。

 とりあえず、試飲用に紙コップでコーヒーを配りながらお客を集める手法を取るらしい。


「あの香りをかがせれば、どんどん人が集まってくるはずだ。んで、ある程度売ったら、観光するなりバグを探すなりしようや」


「そうですね。調味料はどうします?」


「もちろん一緒に売る。あれだろ、バグ取りが終わったら、また日本に行けるんだろ?」


「ええ、たぶん」


「ならまた仕入れは出来るし、在庫のことは心配しなくてもいいな。がんがん売ろうぜ」


「了解です。商売とバグ取りが終わったら、お金の糸目をつけずに楽しんじゃいましょうか!」


「だな。さて、そろそろ夕食の時間か」


 振り子付の壁掛け時計に目を向け、カルバンさんが言う。

 いつの間にやら、もう夕食の時間だ。


「そうですね、行きましょう」


 ベッドから腰を上げ、俺たちは再び部屋を出た。




 部屋を出ると、ちょうどノルンちゃんたちも部屋から出てきたところだった。

 皆で食堂のある1階へと、階段を下りる。

 受付のあるロビーを抜けて食堂へと入った。

 一枚板で作られた4人掛けのテーブルがいくつも置かれている。

 他に客はおらず、どうやら俺たちが一番手のようだ。

 部屋割りと同じように、男性陣と女性陣に分かれて席に座った。


「ローストビーフ、楽しみですね!」


 ノルンちゃんがうきうきした様子で言う。

 すでに人数分、ローストビーフは注文済みだ。

 1人大銀貨1枚もかかってしまったが、それだけ高いのなら味も期待できそうだ。


「だね。そういえば、ネイリーさん、気になってたことがあるんですが」


「ん、なあに?」


 ネイリーさんがかわいらしく小首を傾げる。


「旅人の宿で俺たちと別れた後、ルールンの街やドワーフの里に行くって言ってたじゃないですか」


「うん、行ってきたよ。エルフの里にも行ってきた」


「ですよね。俺たち、宿を出てからまっすぐここまで来たんですけど、どうしてほぼ同時に着いたのかなって。いくらなんでも早すぎじゃないですか?」


「私は魔法が使えるからね! ぴょーんぴょーんって、100メートルくらいずつ飛び跳ねて移動できるんだよ」


 あはは、と笑うネイリーさん。

 さすが天才魔術師、そんな芸当ができるとは。

 100メートルも跳ねながら移動できるなんて、ほとんど飛んでるみたいな速度なんだろうな。

 そうして話していると、カラカラとカートに載せられて料理が運ばれてきた。

 1人1人に前菜のサラダが置かれていく。

 どうやら、フルコース料理のようだ。


「お隣いいかしら?」


 さあ食べよう、とフォークを手に持った時、涼やかな声が響いた。

 いつの間にか俺の左斜め後ろに、金髪ロングの翼人のお姉さんが立っていた。

 びしっとしたスーツ姿で、ずいぶんと大きな胸をお持ちの女性だ。


「え? あ、はい、どうぞ」


 他にも席は空いてるのになと思いつつも答える。

 見ると、彼女の背後に検査官のお姉さんがいることに気が付いた。

 なぜか、ものすごく気まずそうな顔をしている。


「ありがとう。ほら、あなたもこっちに座りなさい」


「は、はい……」


 検査官のお姉さんが対面の席に着くと、金髪のお姉さんは俺に顔を向けた。


「初めまして。私は天空都市カゾで代表を務めております、ベラドンナと申します」


「だ、代表!?」


 思わずぎょっとした声を上げてしまう。

 他の皆も、驚いた顔をしている。

 代表といえば、この都市で一番偉い人だ。

 そんな人が俺たちに、いったい何の用だろう。


「突然ですが、あなたたちの持っているコーヒーという粉末飲料について、軽度の依存性があると判定がでました。なので、

すべて没収させていただこうかと思います」


「ぶほっ!?」


 サラダを口に運んでいたカルバンさんが、勢いよく野菜を吹き出した。

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