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40話:巨大リフト

 数日後の昼過ぎ。

 のんびりキャンプをしながら旅を続けた俺たちは、馬車に揺られて天空都市カゾの真下へとやってきていた。

 周囲はちょっとした街のようになっていて、土産物屋や食事処がいくつも並んでいる。

 たくさんの人で賑わっており、店舗からの呼び込みの声や楽し気な音楽も相まって、まさに観光地といった雰囲気だ。


「すごく賑わってますねぇ。あれが天空都市カゾですか」


 俺の隣に座るノルンちゃんが、日差しを遮るように手をおでこに当て、頭上を見上げる。

 はるか高所に、直径数キロはあろうかという巨大な島が浮かんでいた。

 島には川が流れているのか、所々から水が霧状になって流れ落ちている。

 真っ白な雲があちこちに浮かんでおり、島の一部にかかっていた。


「おお、すげえ……エンジェルフォールみたいだ」


「ベネズエラにある滝ですね! 私も、友人の女神と天界から覗いたことがあるですよ!」


 チキちゃんも荷台から顔を覗かせ、おー、と口を半開きにして島を眺めていた。

 チキちゃんはエルフの里周辺の記憶しかないので、見るものすべてが珍しいのだ。


「エンジェルフォール? 地球にもこういう場所があるのか?」


 カルバンさんも荷台から顔を覗かせ、頭上を見やる。


「はい。浮いてる島はないですけど、外国にああいう滝があるんです。高所すぎて、水が地面に流れ落ちる前に霧になっちゃってるところです」


「ほう、そうなのか。こっちの世界もだが、地球もあちこち見て回りたいもんだな」


「そうですねぇ……俺が眠るたびにこっちの世界に戻っちゃいますけど、今度現世に戻ったら旅行でも行きますか。国内線だったら身分証明書は必要ないから、飛行機にも乗れますよ」


 それを聞き、ノルンちゃんが勢いよく俺に顔を向けた。

 期待に瞳が輝いている。


「飛行機ですか! あの、空飛ぶ大きな鉄の塊ですよね!?」


「うん、そうだよ。って、ノルンちゃんなら見慣れてるんじゃないの?」


「天界から何度も見たことはありますが、乗れるとなったら話は別なのですよ! ぜひ乗ってみたいです!」


「それじゃ、次に帰ったらチケット取ろうか。理想郷は部屋に置きっぱなしでも大丈夫なのかな?」


「大丈夫です。たとえアパートが火事になっても、理想郷はビクともしませんので」


「そうなんだ。じゃあ帰ったら旅行雑誌でも見ながら行き先を決めようか」


「やったー!」


 大盛り上がりで万歳するノルンちゃん。

 チキちゃんは話がよく分からないのか、小首を傾げている。


「コウジ、空飛ぶ鉄の塊って?」


「飛行機っていう乗り物で、何百人も人を乗せて空を飛べる乗り物だよ。それに乗って、皆で旅行に行こうと思ってさ」


「鉄の塊が空を飛ぶの? 魔法?」


「いや、そうじゃなくて……」


「あれだろ、羽ばたき飛行機械のでっかいやつだろ?」


 カルバンさんの言葉に、俺は驚いて振り返った。


「羽ばたき飛行機械があるんですか!?」


「おう、蒸気都市イーギリで作ってる。まあ、あんまり長い間は飛べないうえに、人ひとりを運ぶ程度の力しかないらしいがな」


 羽ばたき飛行機械とは、蝶やトンボのように羽根を羽ばたかせて飛ぶ機械のことだ。

 現世でも大昔に作られたことがあったが、ことごとく失敗に終わったと記憶している。

 アニメや映画では時折見ることができる飛行機械で、スチームパンク好きとしてはたまらない乗り物だ。


「カルバン、見たことあるの?」


 チキちゃんの問いに、カルバンさんが首を振る。


「いや、行商人仲間から聞いたことがあるだけだ。すげえ煙出すわ音はやかましいわで、酷い有様だと笑ってたな」


 酷い有様とはいうが、飛行できている時点でとんでもない快挙だ。

 もしかしたら魔法的なものが関与しているのかもしれないが、ぜひとも一度お目にかかってみたい。


「ほれ、そんなことはいいから島に上がろうぜ。そっちの建物が乗り場だ」


 カルバンさんが指差す先を見ると、木造の門を備えた大きな建物があった。

 建物の中心あたりからは、ものすごく長い2本の鎖が頭上の島へと延びている。

 鎖はかなり太いようだが、よく自重で千切れないなと不思議になる。


「あの建物の中にカゴがあるんですか?」


「ああ、そうだ。中に乗り場があるぞ」


 馬車に揺られて、建物へと向かう。

 入口に着くと、翼人のお兄さんが歩み寄ってきた。


「こんにちは。リフトをご利用ですか?」


「はい、4人お願いします。馬車も一緒に上がりたいんですけど、できますかね?」


「ええ、大丈夫ですよ。4名様で大銀貨4枚、馬車はこの大きさですと小金貨3枚ですね。積み荷は島に着いてからの検査となります」


 カルバンさんからお金を貰い、お兄さんに手渡す。

『天空都市へようこそ!』と印字されたカラフルなリフト券を4枚と、『中型馬車』と記載されたチケットを1枚貰った。


「島に上がった後は、街に入る際に入島チケットが必要になります。現地で販売しておりますので、必要であればお求めください。それでは、よい空の旅を!」


 100点満点の笑顔で手を振るお兄さんに見送られ、建物の門をくぐる。

 まっすぐに延びる道の両側には飲食店と土産物屋が並び、道の上には屋根も備わっていた。

 店を眺めながら道を進むと、数十人の行列が見えてきた。

 どうやら、リフト待ちをしているようだ。


「コウジ、あれ!」


 チキちゃんが俺の肩を叩き、頭上を指差す。


「うわ、なんだありゃ!?」


「すごい大きさですねー!」


 直径15メートル四方はあろうかという巨大な四角い箱が、鎖を伝ってゆっくりと下りてきていた。

 底の中心からは鎖が突き出ており、そこに接続されて箱を上げ下ろししているようだ。

 隣の鎖を見ると、かなり高い場所をゆっくりと上がっていく箱が見えた。

 2つの箱を、代わりばんこで上げ下ろししているのだろう。

 それを見ていると、ピンポンパンポン、と日本でも聞いたことのある音が響いた。

 

『ザザッ――まもなくリフトが到着いたします。ご利用のかた――ザザッ――ご利用のかたは、リフト乗り場までお急ぎください』


「アナウンスまであるのか。これも魔法なのかな?」


 大音量で響き渡る雑音交じりのアナウンスに、発生源はどこだろうと周囲を見渡す。

 天井近くにいくつか、スピーカーのようなものが設置されているのを見つけた。


「どうでしょう。カルバンさん、ご存知ですか?」


「いや、そこまでは俺も知らん。後で誰かに聞いてみようぜ」


 馬車を降りてから案内係の翼人さんにチケットを渡し、半券を受け取ってリフトに乗り込む。

 馬車はリフトの中心部分に馬止めがあり、そこに繋いでもらった。

 リフトは四方を格子状の柵で囲まれていて、屋根も付いている。

 まるで巨大な鳥かごのようだ。

 俺たちのように馬車を連れている人も何人かいるが、リフトにはまだまだ余裕がある。

 眺めのいい場所がよかろうと、俺たちは柵の前に移動した。


「本日は天空リフトをご利用いただき、まことにありがとうございます。ただいまより約20分間、皆さまと空の旅をご一緒させていただきます。よろしくお願いいたします」


 天使のような衣装に身を包んだ翼人のお姉さんが、扉を閉めてぺこりと頭を下げる。

 がたん、とリフトが動き、ゆっくりと上昇を開始した。


「わわっ! コ、コウジ!」


 チキちゃんが怯えた様子で、俺の腕にしがみつく。

 柵からは外が丸見えなので、正直言ってかなり怖い。


「こ、これはすごいね……」


「どんどん上がっていきますよ! すごいですねー!」


 ノルンちゃんが両手で柵を掴み、下を見下ろす。

 みるみるうちに離れていく地面に、うわー、うわー、ととても楽しそうな声を上げている。

 周囲が柵なため風も通り放題なのだが、季節は夏ということもあって涼しくて気持ちいい。

 少し怖いことを除けば、かなり楽しいアトラクションだ。


「天空都市カゾは、最下部が地上約1700メートル、最高部が地上約2400メートルに位置する、巨大な浮遊島に作られております」


 翼人のお姉さんの透き通った声が、外を眺める俺たちの耳に届く。

 上に着くまで、いろいろと話して聞かせてくれるようだ。

 観光地のロープウェイのようなサービスだ。


「地上約1700メートルって、かなり高いね。というか、どうやって高さを測ったのかな? 時間も計れるみたいだしさ」


「あれですよ、きっと、頭のいい人があれこれやって測ったんですよ」


 俺とノルンちゃんがそんな話をしていると、翼人のお姉さんがくすっと笑った。


「高さの計測には、蒸気都市イーギリの技術者に協力していただきました。天空都市カゾには、蒸気都市イーギリの技術がたくさん使われているんです」


 へえ、と俺とノルンちゃん、そしてカルバンさんが同時に声を漏らす。

 チキちゃんは高いところがよほど苦手なのか、目を瞑って俺にしがみついて震えていた。

 

「そうなんですか。もしかして、このリフトもイーギリの技術者が作ったんですか?」


「はい、そのとおりです。ですが、このリフトに使われている鎖は製法が現代にまでは伝わっておらず、イーギリの技術者が作ったということ以外は何も分かりません」


「えっ!? それって、メンテナンスは大丈夫なんですか? 事故とかあったら……」


「ご安心ください。この鎖は存在が確認されてから1000年以上もの間、一度も切れたことはございません。一説には、伝説上に存在する金属であるオリリルでできているのでは、とされております」


 どうやら、今まで切れたことがないからこれからも大丈夫、とお姉さんは言いたいらしい。

 よく分からないものに命を委ねているというのは怖い気がするのだが、他のお客さんたちは「へぇー」と納得したように頷いていた。

 それからもお姉さんによるカゾの歴史やら街の紹介やらが続き、俺たちは浮遊島へと運ばれていくのだった。

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