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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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36話:宿で一息

「ひい、ひい……つ、疲れた……」


「コウジ、大丈夫? 代わるよ?」


 荷車を引きながらヘロヘロになっている俺に、チキちゃんが心配そうに声をかけてくる。


「あ、平気平気! もう少しだし!」


「無理しないでね。お水飲む?」


「うん、もらおうかな」


 チキちゃんは頷くと、俺の口に指を近づけた。


「はい。咥えて」


「えっ」


「お水出すから」


 少し戸惑ったが、止まって飲むと後続がつかえてしまう。

 ぱくっとチキちゃんの指を咥えると、ちょろちょろと冷たい温泉水が口に流れてきた。

 気を利かせて、冷水にしてくれたようだ。

 相変わらず温泉特有の酸味があるが、文句なしに美味い。

 美味いが、やはり絵面がヤバイ気がする。

 俺が目で合図すると、チキちゃんは水を出すのを止めて指を抜いた。


「ごちそうさま。美味しかったよ」


「よかった。また飲みたくなったら言って」


 コーヒーや鉱石が載せられた荷車を引いて進み、今日で2日目。

 後ろからは、ノルンちゃんとカルバンさんが押してくれている。

 他の面々も、それぞれの戦利品を積んで荷車を引いていた。


「コウジ、大丈夫か? やっぱり俺が引いたほうがいいんじゃねえか?」


 カルバンさんの声に、俺は振り返って作り笑いを浮かべた。


「いや、もう少しなんで大丈夫です!」


「でもよ、お前汗だくだぞ。無理しないほうがいいって」


 荷車はタイヤが木製なうえに、ベアリングもついていない。

 そのうえ山道はデコボコなので、引くのにかなり労力が要るのだ。

 カルバンさんはかなり力持ちで、すいすいと軽く引いていた。

 ノルンちゃんも何度か交代して引いていたのだが、その時は足を複数の植物の根に変異させて、まるでタコのように歩いていた。

 引くだけでヘロヘロになっているのは、俺だけだ。

 チキちゃんは見た目どおり非力なので、給水&応援係である。

 

「いやいや、俺がやりたくてやってるだけですから、気にしないでください。それにほら、宿もだいぶ近づいてきましたし」


 前方に、旅人の宿『グン・マー』ののぼりが風に揺られてはためいている。

 距離にして、あと500メートルといったところだろう。


「まあ、あんまり気張らないでゆっくり進めよ」


「コウジさん、ファイトですよー!」


「おうよ、任せとけ!」


 それから10分近くかかって、ようやく宿の前に到着した。

 皆、荷車を適当に停めて、やれやれと一息ついている。


「カルバンさん、この鉱石とか溶けた硬貨とか、換金はどうすればいいんですかね?」


 荷車はどれも山のように荷物を載せており、かなりの量だ。

 ドワーフさんからもらった木箱に入れてあるのだが、1人あたりの分け前は20キロ近くになってしまった。

 それに加えてコーヒーやキャンプ道具といった荷物も俺たちは運んでいるので、荷車の積載重量は軽く100キロを超えている。

 ちなみに、ストーンドラゴンの残骸は重すぎるという理由で、9割方ドワーフさんたちにプレゼントしてしまった。


「街に行けば、鍛冶屋とか宝石職人が買い取ってくれるはずだ。量があるから、大きな街に行きたいところだな」


「大きな街ですか。というと、次の目的地の天空都市で売ればいいですかね?」


「そうだな。ちょいと大変だが、頑張って運ぶしかないな」


「ふむ……あ! グランドホーク便を使うっていうのはどうですか?」


 グランドホーク便は宿にも来ているはずなので、何とか交渉して輸送を頼めれば手間が省ける。


「そうだな。宿の従業員に掛け合ってみるか」


「コウジさん、早く宿に入るですよ!」


「お風呂入りたい」


「おっと、ごめんごめん」


 ノルンちゃんとチキちゃんに急かされ、俺たちは宿へと入った。




「申し訳ございません。当宿に来ているグランドホーク便は、天空都市カゾとは行き来していないんです」


 受付の翼人のお姉さんが、申し訳なさそうに頭を下げる。

 この宿に来ているグランドホーク便は、食材を仕入れるための定期便しかないらしい。

 3日に1度来るそうで、どれも専属契約をして食材を仕入れているそうだ。


「そうですか……グランドホークを借りるってことはできませんか?」


「申し訳ございません。こちらは定期便専用のものなので、お客様にお貸出しするということは……」


「うーん、そうですか……」


 グランドホーク便が使えればかなり楽だったのだが、無理なものは仕方がない。

 1泊分の宿泊代(カルバンさんに出してもらった)を払って手荷物と外にある荷物の預かりを頼み、休憩スペースへと移動した。


「まあ、仕方ないか。ちょっと大変だけど、天空都市まで荷車で運ぼう」


「コウジさん、大丈夫ですよ! のんびりキャンプを楽しみながら行くのですよ!」


 ため息をつく俺の肩を、ノルンちゃんがぽんぽんと叩く。

 チキちゃんも、俺の手を握って心配そうに見上げてきた。


「コウジ、私も手伝うから、元気出して」


「うん、そうだね。のんびり行こうか」


「おっ、コウジくんたち、戻ってきたんだ」


 俺が2人に慰められていると、ネイリーさんがとてとてと駆け寄ってきた。

 

「あ、ネイリーさん。まだ用心棒してたんですね」


「うん、今日までの契約なんだ。それで、ストーンドラゴンはどうだった?」


「手こずりましたけど、何とか退治できましたよ」


 俺が答えると、ネイリーさんが少し驚いた顔になった。


「えっ、すごいじゃん! どうやって倒したの?」


「チキちゃんの魔法で、熱湯をぶっかけたんです。そしたら、バラバラになっちゃいました」


「熱湯? ……そっか、ストーンドラゴンって、水じゃなくて熱湯が弱点だったんだ。気づかなかったなぁ」


 感心したように頷くネイリーさん。

 倒せたのはチキちゃんが魔法を使ったおかげなので、教えてくれたネイリーさんのおかげでもある。

 物知りだし、ノリはいいし、魔法はすごいし、彼女も旅の仲間に加わってくれたら心強いんだけどな。


「お宝は出た?」


「はい、結構出ました。でも、どれも消化されかかってて、金貨なんかは表面がツルツルになっちゃってましたけど」


「へえ、そうなんだ。でも、お宝が出るっていう伝説は本当だったんだね」


「はい。それで、その鉱石とか宝石とかを換金しに、天空都市カゾに行こうと思うんです。明日出発するんですけど、もしよかったらネイリーさんも一緒に行きませんか?」


「あー……ごめん。明日はルールンの街にグリードテラスのお肉を調達しに行く予定なんだ。あと、エルフの里の様子を見に行くのと、ドワーフの里にも行ってストーンドラゴンの死体を見に行こうと思うの」


「そうですか……残念です」


「ごめんね。それが終わったら、カゾにも寄ってみるよ。もしかしたら会えるかもね」


「おーい、コウジ! 酒は何を飲むんだ?」


 俺とネイリーさんが話していると、いつの間にか休憩スペースに向かっていたカルバンさんが呼びかけてきた。

 すでに酒を飲み始めている人もおり、宴会が始まっているようだ。


「あ、じゃあ何かお勧めの果実酒で。あと、俺は先に風呂に行ってきます」


「私も先にお風呂にします!」


「私もお風呂」


 俺に続いて、ノルンちゃんとチキちゃんも答える。


「あいよ。酒はどうする?」


「コウジさんと同じのでお願いします!」


「私も同じやつがいい」


「おう。用心棒さんは何を飲むんだい?」


 カルバンさんがネイリーさんにも声をかける。


「えっ、私?」


「ああ。好きなの頼んでいいぞ。奢ってやるからさ。ほら、こっち来な」


「わあ、ありがと! メニュー見せて!」


 嬉しそうに、皆の輪に混ざっていくネイリーさん。

 俺たちは長旅の疲れと垢を落とすべく、露天風呂へと向かった。

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