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27話:石だらけ

 次の日の朝。

 ノルンちゃんの作った蔓のベッドで眠っていた俺は、朝日のまぶしさに目を覚ました。

 隣のベッドを見ると、ノルンちゃんがよだれを垂らして寝こけている。 

 楽しい夢でも見ているのか、何だかニヤニヤしていた。


「コウジ、おはよう」


「おはよう。チキちゃん早起きだね」


「日の光が当たると目が覚めちゃうの。キノコの頃も、そうだったから」


 チキちゃんはそう言いながら、紙コップに粉末コーンスープを入れた。

 手鍋で沸かしていたお湯を注ぎ、スプーンでかき混ぜて俺に手渡してくれる。


「はい。熱いから気を付けて」


「お、ありがと」


 熱々のコーンスープを、ふうふうと冷ましながらいただく。

 そうしていると、ノルンちゃんがむくりと身体を起こした。


「いい匂いがするのです……」


「うお、寝てても気付くのか」


「ノルン様、はい。熱いから気を付けて」


「ふわああ。ありがとうございますぅ」


 ノルンちゃんもコーンスープをもらい、瞼を擦る。

 腕も指も完璧に治っていて、元の綺麗なぴちぴちの肌だ。


「寝ながらニヤニヤしてたけど、何か楽しい夢でも見てたの?」


「はい。ストーンドラゴンから金銀財宝が出て、そのお金で『グン・マー』で豪遊する夢を見ました。休憩所のメニューをすべて注文して、食べようとしたところで目が覚めたのですよ」


 はあ、とノルンちゃんが残念そうにため息をつく。 

 夢という物は、たいていはいいところで終わるものだ。


「そりゃすごい夢を見たね……ところでさ、ストーンドラゴンの倒しかたを考えたんだけどさ」


「あ、コウジさん、何か閃いたんですか?」


「うん。もしかしたら、ストーンドラゴンって水じゃなくてお湯に弱いんじゃないかなって思って」


「えっ、そうなんですか? どうしてそう思うんです?」


「チキちゃんが昨日、ストーンドラゴンにかけた水って、冷水じゃなくて温かい温泉水なんだよ。かけた途端に大暴れし始めたから、ひょっとしたらと思ってさ」


「確かに、昨日水をかけられた時は温かかったです。ネイリーさんは水の魔法を使っても効かなかったって言ってましたし、ひょっとしたらコウジさんの推測が正しいのかもしれないですね!」


 うんうん、とノルンちゃんが嬉しそうに頷く。


「チキちゃん、魔法で熱湯を出すことってできる?」


「ね、熱湯? うーん……」


 チキちゃんは唸りながら、指先を地面に向けた。


「精霊さん、熱いお湯をお願い」


 チキちゃんが言うと、指先からちょろちょろと水が出始めた。

 もくもくと湯気が立っており、どうやらお湯のようだ。


「あ、出せた」


「おおー! チキさんすごいのですよ! これでストーンドラゴンを倒せますね!」


 ノルンちゃんがにっこりと微笑む。

 口の端によだれが光っているのは、先ほどまで見ていた夢を思い出しているからだろう。


「よし。それじゃあ、ノルンちゃんはまたストーンドラゴンを縛り上げてくれる? 俺が引っ付いてれば、何とかなるかな?」


「はい! コウジさんから力を貰えれば、問題ないと思うのですよ!」


「それじゃ、さっそく……あ、しまった」


「どうしたんです?」


 ノルンちゃんが小首を傾げる。


「ストーンドラゴンをおびき寄せる宝石が無いんだよ。カルバンさんは尿路結石出しちゃったし、他に結石の人いないかな」


「カルバンは、もっと出せたりしないの?」


 チキちゃんがお湯を止め、俺に問いかける。


「一度に何個も石ができることもあるって聞いたことはあるけど……うーん」


 そんな話をしていると、件のカルバンさんが歩いて来た。


「よう、おはようさん。女神さん、身体の具合はどうだい?」


「はい。おかげさまで全回復しました」


 ノルンちゃんが両手をカルバンさんに見せる。


「おお、傷ひとつないのか。よかったな、綺麗に治って」


「ありがとうございます。ご心配おかけしたのですよ」


「あの、カルバンさん。相談があるんですが」


 俺が話を振ると、カルバンさんが小首を傾げた。


「ん、何だ?」


「ストーンドラゴンを倒す算段が付いたんで、またおびき出したいんです。もう一回、尿路結石を出してもらえませんか?」


「人を尿路結石製造機みたいに言うな。出せって言われて、すぐに出せるわけがないだろうが」


 呆れ顔で答えるカルバンさんに、俺も「ですよね」と苦笑する。


「他に、同じような症状を訴えてる人っていませんか?」


「いや、俺だけだな。痔と関節痛と四十肩の奴ならいるぞ」


「うーん……結石じゃないとダメなんですよねぇ……」


「カルバンさん、ほうれん草とタケノコはお好きですか?」


 はい、とノルンちゃんが手を挙げてカルバンさんに質問する。


「おう、大好きだぞ。ほうれん草はお浸しを宿屋で毎日食ってたし、タケノコは春先になると山に入ってどっさり取ってくるんだ。若いやつを刺身にして食べると最高だな!」


「それはよかったです! コウジさん、ここでしばらく生活して、カルバンさんにほうれん草とタケノコをたくさん食べてもらいましょう! 私が毎日育てますので!」


 ノルンちゃんの台詞に、カルバンさんが小首を傾げる。


「なんだそりゃ。何の意味があるんだ?」


「ほうれん草とタケノコにはシュウ酸が含まれているのですよ。身体に蓄積すると、結石ができるのです。たくさん食べて、また結石を作っちゃいましょう!」


「マジで!? 結石の原因ってそれだったのか!? っていうか、せっかく治ったのにまた石を作らせようとすんなよ!」


「でも、カルバンさんが結石を作ってくれないと、ストーンドラゴンをおびき出せないのですよ」


「それなら、いったん街にでも行って宝石を買ってこようや。ほうれん草とタケノコ食って石作るより、よっぽど手っ取り早いだろ」


 やれやれ、とカルバンさんがため息をつく。

 いつできるかも分からない結石をカルバンさんに作ってもらうより、そのほうが早いし健全だ。


「それじゃ、今から街に向かいますか? 他の皆にはここで待っててもらうってことでどうですかね」


「おう、そうしようか。宝石代は俺が出してやるから、ストーンドラゴンを退治した後の分け前を少し多めにしてくれ。あと、ついでにギルドにも討伐申請してこようぜ」


「分かりました。行きましょう」


「決まりだな。その前にションベンしてくるわ。ちょっと待っててくれ」


「あ、俺も行きます。もしかしたら、また結石が出るかもしれないですし」


「そう何度も出てたまるか。女神さんたち、ちょっと待っててくれな」


「はい! 片付けを済ませておきますね!」


「私、他の人たちに伝えに行ってくる」


 ノルンちゃんたちを残し、俺とカルバンさんは昨日と同じ場所へと用を足しに向かった。




「そういえば、倒す算段ができたって言ってたが、どうやって倒すつもりなんだ?」


 もぞもぞとズボンのボタンを外しながら、カルバンさんが聞いてくる。

 場所は昨日と同じ、ストーンドラゴンが空けた大穴だ。


「チキちゃんの魔法で熱湯をかけてみようってことになったんです。たぶん、ストーンドラゴンは熱湯に弱いんですよ」


「ほう、熱湯か。昨日水をかけた時にも暴れてたが、あれはお湯だったのか?」


「はい、温泉水でした。ネイリーさんの水の魔法は効かなかったらしいですけど、あれは効いたんで、いけるんじゃないかなって」


「なるほどなぁ。確かに、水に弱いんじゃ地下なんて潜ってられないもんな。納得だ」


 そうして用を足していると、『カチン』と用を足している先から音が響いた。


「うわ!? 今のって結石が出た音じゃないですか!?」


「何個出てくるんだこれ!?」


「グオオオオオオ!!」


「「ぎゃああああ!?」」


 次の瞬間、大穴の中からストーンドラゴンが飛び出してきた。

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