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26話:対決、ストーンドラゴン!

 野営地から離れ、俺たちはストーンドラゴンが空けたという大穴の口へとやってきた。

 夜の闇も相まって、大穴はまるで奈落のようだ。


「ったく、何もあんな目で見なくてもいいじゃねえか。なあ?」


 カルバンさんがズボンのボタンに手をかける。


「いや、さすがにあれはカルバンさんが悪かったですよ。冗談言うにしても選ばないと」


 俺もズボンに手をやり、2人して大穴へと用を足し始めた。

 ちょろちょろと、水音が辺りに響く。


「そこまで気を使わなきゃいけないのか? 俺の地元の女どもだったら、一度乗ってから引っ叩くくらいしてくれるぞ」


「そ、そうなんですか。でも、若い女性にはもう少し気を使って……ん?」


 その時、カルバンさんが用を足している先から、『カチン』と何かが岩にぶつかるような音が聞こえた。


「うお! 今、ションベンと一緒に何か出た感触があったぞ!?」


「あ、尿路結石ってやつじゃないですか? お腹が痛くなる原因って、たぶん石が原因だったんですよ」


「マジか! 俺の体の中に石が入ってたのか!?」


「ええ。そういう病気が――」


 俺がそう言いかけた時、足元の地面が突然激しく揺れ出した。


「グオオオオオオ!!」


「「ぎゃああああ!?」」


 次の瞬間、大穴の中から、巨大な黒い塊が轟音とともに飛び出してきた。




「ひいいい! 助けてえええ!!」


「尿路結石出したらドラゴンも出てきたぞおおお!」


 激しくのたうつような動きで地面を這いながら、巨大な黒いヘビ、もとい、ストーンドラゴンが逃げる俺たちに迫る。

 口からめちゃくちゃに石つぶてを吐き出していて、ひゅんひゅんと俺たちの身体をかすめていくつも飛んでいく。

 どれもこぶし大の大きさはあり、当たったらタダでは済まなそうだ。


「ちょっ、何で追われてるんですか!?」


 大慌てで逃げる俺たちの頭上を、ノルンちゃんの腕から伸びた蔓が飛び越えていく。

 ぎゅるん、と蔓がストーンドラゴンの全身に巻き付いた。

 長さ20メートル、高さ3メートルほどの大きさの、石のヘビのような見た目だ。


「おわっ!? なんだありゃ!? ストーンドラゴンか!?」


「こっちだ、急げ!!」


「おーい! ストーンドラゴンが出たぞー!」


 野営地にいた皆が、騒ぎに気付いて武器を手に集まってきた。

 ノルンちゃんは顔を真っ赤にして、必死でストーンドラゴンを押さえつけている。


「ぐぎぎ……皆さん、私が動きを止めている間にやっちゃってください!」


「よっしゃ! 行くぜお前ら!」


「思ったほどでかくないぞ! やっちまえ!」


 剣や斧を手にした討伐団の面々が、一斉にストーンドラゴンへと飛び掛かった。

 ガキン、という金属音が、振り下ろされた剣や斧から響く。

 当たった瞬間火花が散り、攻撃がはじき返された。


「ダメだ、全然歯が立たないぞ!」


「硬すぎる! こんなのどうやって倒せばいいんだ!?」


 攻撃を弾かれながらも、皆が必死にストーンドラゴンに切りかかる。

 だが、外皮があまりにも硬すぎて、まったく効いている様子が見られない。


「うぎゃあ!? 私の蔓を切らないでくださいませ!」


「うわっ!? す、すまん!」


「皆、蔓に当てるんじゃないぞ! 嬢ちゃんの身体の一部だ!」


 蔓でがんじがらめのストーンドラゴンを取り囲み、討伐団の皆が騒ぎ立てながら攻撃を続ける。

 蔓のせいでストーンドラゴンはほとんど身動きが取れず、地鳴りのような咆哮を上げながら、うねうねもがいている。


「コウジ、大丈夫!?」


 転げるようにして逃げ戻った俺に、チキちゃんが駆け寄ってきた。


「な、何とか。それより、ストーンドラゴンは――」 


「んぎぎぎ! すんごいバカ力ですよこれ! はやくー!」


 ノルンちゃんが歯を食いしばって、ストーンドラゴンを押さえつけている。

 胴体を樹木に、足も木の根に変異させ、地面に根を張り巡らせて身体を固定させていた。

 どうやらフルパワーのようだが、押さえつけるので精一杯の様子だ。

 皆がひたすら攻撃を続けているが、ストーンドラゴンはびくともしない。


「チキちゃん、水の魔法で攻撃してみて! 思いっきり浴びせかける感じで!」


「うん!」


 チキちゃんは頷くと、ストーンドラゴンに向かって両手を向けた。


「精霊さんたち、お願い!」


 チキちゃんの手のひらから、猛烈な勢いで水が飛び出した。

 水はストーンドラゴンの顔面に直撃し、盛大な悲鳴が響き渡る。

 それと同時に、ぶちぶちと蔓から音が聞こえだした。


「いだだだ!? 腕がちぎれちゃいますううう!」


「千切れるの!? 蔓引っ込めて!!」


 俺が言うと、ノルンちゃんの蔓がしゅるしゅると彼女の腕に戻って行った。

 ストーンドラゴンは叫び声を上げながら、元来た道をすごい勢いで逃げ戻って行った。


「うえーん、痛いですよお……」


 人間のそれに戻ったノルンちゃんの腕はズタボロで、腕やら指やらが千切れかかって酷い有様になっていた。

 どくどくと大量の血が、傷口からあふれだしている。

 チキちゃんがそれを見て、「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

 戦っていた人たちも、ノルンちゃんを心配して集まってきた。


「あわわ、ど、どうしようそれ!?」


「いたた……コウジさんに引っ付いていれば、すぐ治るのですよ。ぎゅってしてください」


「う、うん」


 なるべく傷に触れないようにしながら、ノルンちゃんを抱きしめる。

 とはいえ、相当痛いらしく、ノルンちゃんは「いたいー」と繰り返していた。


「おい、大丈夫か!? ……って、何やってんだお前ら?」


 痛いと連呼している傷だらけのノルンちゃんを抱きしめている俺を見て、カルバンさんが怪訝な顔になる。


「いや、彼女の場合、こうしていると治るんですよ」


「何をバカなこと言ってんだ。さっさと止血しないと失血死するぞ?」


「本当ですって。ほら、血が止まり始めたでしょう?」


 俺がノルンちゃんの腕に目を向ける。

 だくだくと流れるように出ていた血は、徐々に収まってきていた。

 よく見てみると、傷口がゆっくりとうねって修復されている。

 すさまじい回復力だ。


「うお、本当だ。すげえな、コウジって回復魔法が使えるのか?」


「いえ、これはノルンちゃん限定です。俺と引っ付いてると、俺から神力とかいうのを補充できるらしくって、それで回復するんだとか」


「そうなのか。でも、それを吸い取られてるコウジは何ともないのか?」


「特に何もないですよ。吸われたからって、何がどうなるって話も聞いてないですし。ね、ノルンちゃん?」


「はい! 魂への影響は微々たるものですので、理想郷への移住が決まっているコウジさんには問題ないのですよ!」


「……ん?」


 何やら不穏な言葉が聞こえた気がしたので、ノルンちゃんから少し身体を話して彼女の顔を見る。

 ノルンちゃんは、きょとんとした顔つきだ。


「どうかしましたか?」


「いや、今、魂への影響は微々たるものとかなんとかって聞こえたんだけど」


「はい。言いましたが?」


「それって、何か代償が存在するってこと?」


「それはもちろん……あ、すみませんが、カルバンさんたちはいったん離れていていただけませんか?」


「お、おう」


 ノルンちゃんにうながされ、カルバンさんたちがぞろぞろと離れていく。

 残ったのは、俺、ノルンちゃん、チキちゃんだ。

 皆が十分離れたことを確認し、ノルンちゃんが俺に顔を向けた。


「えっとですね、私がコウジさんから神力を急激に供給させてもらう際は、魂のエネルギーを変換して吸わせていただいているのですよ。魂を燃料源にして、神の奇跡を行使しているのです」


「魂を燃料って……本当に大丈夫なの? 魂のエネルギーって、無限じゃないんでしょ?」


「はい。使い切ると、その人は現世で言うところの『死んだ状態』になります。寿命を使い切ったことになりますね」


「いや、それって全然大丈夫じゃなくない?」


「そんなことはないですよ。理想郷に移住しする際は転生扱いになって、その後は何度死んでも記憶を保持したまま輪廻することができる特異な存在になります。転生すれば魂のエネルギーはリセットされるので、現時点でのコウジさんの寿命は関係なくなるのですよ」


 どうやら、理想郷の修復が終わったらどのみち今の人生は終了するのだから、魂が削れようがどうしようが関係ないだろうということらしい。

 言い分としては分かるのだが、使い慣れた今の身体が『死』に近づいていくというのは正直怖い。

 というか、かなり乱暴な話に感じるのは俺だけだろうか。

 すると、チキちゃんが俺の裾を掴んだ。


「コウジ、死んじゃうの? もう会えなくなっちゃうの?」


 泣きそうな顔で俺を見上げている。

 この娘にとって、身寄りは俺とノルンちゃんしかいないのだ。

 死ぬだの何だのと言われて、不安になってしまったのだろう。

 そんなチキちゃんに、ノルンちゃんがにっこりと微笑んだ。


「チキさん、それは大丈夫なのです。コウジさんが希望すれば、チキさんには天界で研修を受けていただくことができるのです。カルマが規定値に達したら、コウジさんの下へ送り届けて差し上げますので」


「カルマ……? それを何とかすれば、コウジと一緒にいられるの?」


「はい! たとえ死んでも一緒にいることができるように、手配させていただきますよ!」


「私、そうしたい。コウジ、お願い」


 縋るような目で見てくるチキちゃん。

 俺は即座に頷いた。


「うん、もちろんいいよ。あと、その研修を天界で受けてる間、俺も一緒にいることはできるかな?」


「できますよ。チキさんの隣で見学というかたちになると思いますが」


「じゃあ、そうさせてもらうよ。チキちゃん、大丈夫だから、安心してね」


「うん! ありがとう!」


 チキちゃんが満面の笑みで、引っ付いている俺たちに抱き着いてきた。


「いだだだ!? 傷口があああ!?」


「うわっ、また血が出た!?」


「あっ!? ご、ごめんなさい!!」


 その後 騒ぎを聞きつけたドワーフの皆さんが心配して集まってきてくれて、薬やら寝床やらの提供を申し出てくれた。

 カルバンさんに説明したことをもう一度彼らにも話し、礼を言って帰ってもらった。

 明日の朝にはノルンちゃんの体力は全快するとのことなので、今日のところは休むことになったのだった。

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