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25話:天空島って?

「はー、食った食った。悪いな、ご馳走になってばっかりで」


 カルバンさんが、ぽっこりと膨れたお腹を擦る。

 先ほどまで、俺たち3人と一緒に夕食を食べていたのだ。

 今日の夕飯はグリードテラスの生肉と、缶詰のクラムチャウダーだった。

 カルバンさんは俺の持って来た食べ物、特にグリードテラスの肉がいたく気に入ったようで、自分の携行食料そっちのけでがっついていた。

 カルバンさんの手持ちの食料は、数種類の穀物と木の実が混ざったオートミールとのことだ。

 味よりも、栄養価と携行性優先で作られた一般的な携行食料らしい。


「いやいや、こっちこそ食事代貰っちゃってすみません。ちょっともらい過ぎな気もしますけど」


 食事のお礼にと、カルバンさんは大銅貨3枚も払ってくれた。

 金欠気味な俺たちとしては、かなりありがたい。


「そんだけ美味けりゃ、大銅貨3枚でも安いくらいだよ。ルールンの街に行けば、食べ放題なんだっけ?」


「はい。もしかしたら人魚さんたちが商売始めてるかもしれませんけど、行けば確実に食べられますよ」


「そうか。ストーンドラゴン退治が終わったら、一度行ってみるかな」


「カルバン、コーヒー飲む?」


 チキちゃんが紙コップにコーヒーを淹れて、カルバンさんに差し出した。

 黙っていてもせっせと動いてくれて、本当に気の利くいい娘だ。


「お、悪いな。ありがとよ」


「チキさん、私にも!」


「うん、ちょっと待ってて」


 4人でコーヒーを飲みながら、食後のマッタリした時間を過ごす。

 せっかくなので、行商人をしているカルバンさんならこの世界のことにも詳しかろうと、あれこれ話を聞いてみた。

 それによると、今俺たちがいる地域には都市国家というものが複数存在していて、明確な国境というものは無いらしい。

 都市国家はいわゆる巨大な街で、『代表』と呼ばれる人々によって運営されている。

 それぞれの街には様々な種類のギルドがあって、そこに行けばいろいろと情報を得られるとのことだ。

 ここから一番近いのは、天空都市カゾという場所らしい。


「なるほど。名前のとおり、カゾは空飛ぶ島に造られた都市なんですか」


「ああ。島に渡るのがちょいと面倒だが、行ってみる価値はあるぞ」


「この間、露天風呂に入ってる時に話してた天空島っていうのも、そこにあるんですか?」


「そうだ。カゾの観光組合で渡航チケットを買えば渡れるよ。確か、1人大金貨3枚だったかな」


「か、かなり高いっすね……」


「だよな。俺も行く前は、正直二の足を踏んだよ」


 この世界のバグの情報集めのためにも、天空都市カゾには行く必要がありそうだ。

 この世界にバグがどれだけあるのかも把握できていない状態なので、すべての大都市には立ち寄って情報収集をせざるをえない。

 渡航チケットの高さに俺が苦笑いしていると、ノルンちゃんが、はい、と手を上げた。


「その天空島って、観光地なんですか?」


「そうだよ。景色やら生き物やら建物やらが、とにかくとんでもなく美しい島なんだ。あそこは生きてるうちに一度は行ったほうがいいぞ」


「そうなんですか! コウジさん、行ってみましょう!」


「そうだね。ストーンドラゴンから、たくさんお宝が出るといいんだけど」


 ノルンちゃんに俺が頷いていると、カルバンさんが「ところで」と身を乗り出した。


「お前らの持ってるコーヒーだけどさ、それってどこで手に入れたんだ? 情報料は出すから、何とか教えてくれないか?」


 昨日、皆にコーヒーを振舞った時、ほぼ全員から「どこで手に入れた?」と質問攻めにあった。

 別の世界から来たと言っても信じてもらえない、というより説明が面倒くさいことになるのは確実だったので、秘密のルートから手に入れたということにして誤魔化したのだ。


「うーん、そうは言ってもですね……」


「入手先を教えるのが無理なら、俺にいくらか卸してくれないか? 作るのは簡単だし、香りはいいし、街で売り出したらバカ売れすると思うんだよ」


「あー、なるほど。カルバンさん、行商人ですもんね」


「ああ。情報くれるなら、小金貨10枚出すぞ。どうだ?」


「うーん……」


「コウジさん、ちょっとこっちに来るですよ」


 俺が困った顔をしていると、ノルンちゃんが俺に手招きをした。

 カルバンさんに断りを入れ、2人で席を立つ。

 チキちゃんも気になったのか、一緒に付いてきた。

 10メートルほど離れ、3人で背中を丸めて内緒話をする。


「コウジさん、お金儲けのチャンスですよ! 私がコーヒーの木を育てるので、コーヒー豆をカルバンさんに売りつけるですよ!」


「作るって、まさかコーヒー農家をやるってこと?」


「はい! カルバンさんにコーヒー豆を売ってぼろ儲けなのです!」


 ノルンちゃんが目を$マークにして言い切る。

 いい案だとは思うけど、いくつか問題もあるような。


「でもさ、コーヒー豆の収穫時期とか分からないし、加工方法も全然知らないよ。ノルンちゃんは知ってるの?」


「う……し、知らないです……」


 ノルンちゃんががっくりと肩を落とす。


「そしたら、今度元の世界に戻った時に調べてからにしようよ。今すぐには無理だよ」


「コウジ、それよりも、インスタントコーヒーをたくさん買ってきて、それをカルバンに売った方が早いよ」


 豆から作ろうとしている俺たちに、チキちゃんが提案する。


「インスタントコーヒーをカルバンに売って、手に入った金貨を今度は日本で売って、そのお金でまたインスタントコーヒー買えばいいんだよ。無限に増やせるよ」


「ああ、それいいね! インスタントコーヒーならパッケージされてるし、保存も利くもんね!」


「おおう……確かに、それなら加工や収穫の手間もかからないですし、お手軽なのです。まさに錬金術なのですよ……」


 よし、そうしよう、と話は纏まり、俺たちはカルバンさんの下へ戻った。


「話は纏まったかい?」


「はい。仕入先は教えられませんけど、カルバンさんにコーヒーを売ることはできますよ」


「おお、本当か! じゃあ、ストーンドラゴン退治が終わったらすぐにでも――」


「あ、いや、それがいつになったら手に入るのかはまだ分からなくて。手に入ったら売りますんで、それまで一緒にいてもらってもいいですかね?」


 俺が提案すると、カルバンさんが怪訝な顔になった。


「いつになるかって……取引先に聞いたりはできないのか?」


「えーと……それがちょっと訳ありでして」


「カルバンさん、細かいことは言いっこ無しなのです! 私たちはコーヒーを売る。カルバンさんは何も聞かずに買う。それでいいではないですか!」


 ノルンちゃんが勢い込んで言う。

 カルバンさんは納得がいかないのか、心配そうだ。


「そりゃ構わねえけどよ……盗品だったり、犯罪行為して手に入れてたりはしないよな? こちとら、危ない橋渡ってまで商売する気はねえぞ?」


「いえいえ、悪いことなんて一切していないのですよ。ご安心くださいませ!」


「ふむ……まあ、女神様が犯罪に加担するような真似をするわけないか。よし、その条件でいいぞ。代金については、現物が手に入ってから相談しようや」


「かしこまりました! コウジさん、やりましたね! これでお金の心配はしなくてもよくなりそうです!」


 ノルンちゃんが満面の笑みを俺に向ける。

 すぐにとはいかないが、これで金銭面での苦労はしなくても済みそうだ。

 前回、前々回と、グリードテラスを退治したり感染症事件を解決したりした後で日本に戻ることができたので、ストーンドラゴンを退治したら現世に戻ることができるかもしれない。


「よし、交渉成立だな! よかったよかった」


 カルバンさんはニッと笑うと、どっこいしょと立ち上がった。


「さてと。ちょいと催してきたんで、ションベンしてくるわ」


「あ、俺も行きます。コーヒー飲むと、おしっこが近くなるんですよね」


「何、コーヒーにはそんな効果があるのか? 身体に悪いもん入ってたりはしないだろうな?」


「それは大丈夫です。利尿作用と眠気覚ましの作用があって、身体にもいい飲み物なんですよ」


「へえ、そうなのか。そっちのお二人さんも一緒に行くかい?」


 カルバンさんがノルンちゃんとチキちゃんに冗談めかして言う。


「女神は排泄しないのですよ。エネルギー変換効率100%なのです。あと、そういうことを女性に言うものではないのですよ」


「カルバン、最低」


 2人が生ゴミでも見るような目をカルバンさんに向ける。


「じょ、冗談だって! ほら、行こうぜ!」 


 カルバンさんに腕を掴まれ、俺は苦笑しながら立ち上がった。

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