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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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22話:即席討伐団結成

「おっ! コウジさん、楽しそうですね!」


「その人たち、誰?」


 休憩スペースで果実酒を飲みながらカルバンさんたちとマッタリしていると、ノルンちゃんたちがやってきた。

 ネイリーさん以外、俺も含めた全員が浴衣姿だ。

 ちなみに、酒はカルバンさんたちからの奢りである。


「おやおやぁ? ツレってのはその嬢ちゃんたちか? 楽しそうな旅してるねぇ」


「はは……」


 カルバンさんがにやけ顔で、肘で俺を小突いてくる。

 他のおじさん連中も、「よっ、色男!」「若いって素晴らしいな!」などと声を上げている。

 完全に酔っ払いだ。


「ん? あんた、ここの用心棒だろ? あんたもコウジのツレなのかい?」


 カルバンさんがネイリーさんに声をかける。


「んーん。私は違うよ。この子たちと一緒にお風呂入ってただけ」


「そうなのか。用心棒さんは、ストーンドラゴン退治に一緒に行くのかい?」


「行かないよ。コウジくんたちに雇われてるわけでもないし、この宿との契約期間もまだ残ってるからね」


「何だ、そうなのか。魔法使いが一緒だったら心強いと思ったんだけどな」


 残念そうな顔をするカルバンさん。


「コウジさん、その方たちも一緒に、ストーンドラゴン退治に行くんですか?」


 おじさんたちを見渡し、ノルンちゃんが小首を傾げる。


「うん。話の流れでそうなっちゃったんだけど、いいかな?」


「私は構いませんよ! 大勢で行ったほうが楽しそうですし!」


 ノルンちゃんがにっこり笑う。

 おじさんたちから歓声が上がった。


「緑の嬢ちゃん、ノリがいいな!」


「こりゃあ、俺たちも張り切って行かないとな!」


「嬢ちゃんたちも一緒に飲まないか? ツマミも好きなの頼んでいいぞ! おっちゃんたちが奢ってやる!」


「えっ、いいんですか!? ごちそうになりますね!」


「コウジ、メニュー表ちょうだい」


 俺の両隣に、ノルンちゃんとチキちゃんが座った。


「用心棒さんも座りなよ。皆で飲もうぜ」


「んー、一応まだ仕事中だからお酒の席は……あ、そうだ。ちょっと待ってね」


 ネイリーさんはそう言うと、何やら呪文を唱え始めた。

 ふわりと彼女のマントが浮き上がり、杖の水晶玉が虹色に光り輝く。


「――重なる身は虚ろにあらず。ひと時の息吹を世に現わさん。えんりこげれげれらんぱっぱ!」


 呪文が終わると同時に、ネイリーさんの身体がブレた。

 えっ、と皆で目を剥いていると、ネイリーさんの身体から滲み出るようにして、もう1人のネイリーさんが現れた。

 皆、唖然として口を半開きにしている。

 滲み出たネイリーさんは、無言でホールの隅へと歩いて行った。

 靴音が一切しないのが、かなり不気味だ。


「これでよし! がっつり食べさせてもらうね!」


 ててっと小走りでネイリーさんがチキちゃんの隣に行き、腰を下ろした。 


「ネ、ネイリーさんが2人!?」


 チキちゃんの隣に座るネイリーさんと、ホールの隅にいるネイリーさんを交互に見る。

 ホールの隅にいるネイリーさんは俺と目が合うと、にこっと微笑んで手を振ってきた。


「うん。少しだけ本物がまじった偽物を作ったの。すごいでしょ」


 ふふん、と鼻を鳴らして、ネイリーさんが胸を張る。


「少しだけ本物って、何がどうなってるんですか?」


「代償に使う精神力と体力を、魔力の渦を作って拡散しないようにしたの。それに生命力と記憶を加えて、その記憶から外見をかたどらせたってわけ。もちろん、私とは細い魔力の糸で繋がってるけどね!」


「何を言ってるのかさっぱり分からねぇ……」


「んとね、あれは私の記憶をもとに作った複製品なの。魔術を使ったりしゃべったりはできないけど、見張りくらいならできるんだ」


「ネイリーさん、質問です!」


 ノルンちゃんが手を上げて質問する。


「はい、ノルンさんどうぞ」


「見張りをするにしても、しゃべれないんじゃ何かあっても伝えられなくないですか?」


「その時は、魔力の糸を伝って私の意識に合図が来るの。合図と同時にどうしても安定化が崩れちゃうから、消えちゃうんだけどね」


「なるほどー。荷物運びとかはできるんですか?」


「あ、それは無理。魔力で身体を形作ってるだけだから、物を持ったり掴んだりはできないの。あまり遠くにも行けないから、見張りがせいぜいなんだ」


「そうなんですね。でも、すごく便利ですね! さすがネイリーさんなのです!」


 まさか、分身まで作れるとは思わなかった。

 さすが『天才』を自称するだけのことはある。 


「しかし、用心棒さんがツレじゃないってなると、とんでもなく強いツレってのは誰なんだ?」


「ああ、彼女ですよ」


 隣を見る俺につられて、カルバンさんたちが一斉にノルンちゃんを見た。


「はい、とんでもなく強いですよ!」


 にぱっとノルンちゃんが笑顔になる。

 ぱっと見、ただの女の子だし、とても強そうには見えないよな。


「もしかして、この娘って魔法使いなのか?」


「いえ、魔法使いじゃなくて……えーと」


「私は栽培の女神なのですよ」


 どう答えようかと口ごもる俺に代わって、ノルンちゃんがさらりと言ってのけた。

 今さらだが、女神だということは特に秘密にしなくてもいいようだ。


「め、女神?」


 カルバンさんがいぶかしげな目になる。

 他のおじさんたちも困惑顔だ。


「あ、その目は信じていませんね?」


 ノルンちゃんはそう言うと、右手の人差し指をぴんと立てた。

 ぐにゅりと指がうねり、一瞬にして緑色の蔓へと変化した。


「「「「えっ!?」」」」


 おじさん連中だけでなくネイリーさんまでもが、それを見て驚いた声を上げる。

 蔓が一気に頭上に伸び、大きな網目状に広がっていく。

 皆、あんぐりと口を開けてその光景を眺めている。

 他の席にいたお客さんたちも、なんだなんだと慌てふためいていた。


「ノルンちゃん、それなに?」


「見てのとおり、網なのですよ。これを使って、鳥を捕まえてみようと思います」


「おお、なるほど。上手いこと使えば、捕まえられるかもしれないね」


「今度試してみましょうね!」


 しゅるしゅると蔓が引っ込み、元どおり人間の指に変異した。


「す、すごいな。確かに魔法じゃないみたいだし……本当に女神様なのか?」


 恐る恐る、カルバンさんがノルンちゃんに声をかける。


「はい! 正真正銘の女神なのです! 栽培を司っていますよ!」


「そ、そうか。それじゃあ、女神様。あんたのことは、ノルンさんって呼んでもいいかい?」


「はい、大丈夫ですよ!」


「それじゃあ、ノルンさん、退治する時はよろしく頼むよ。俺たちも、手伝いくらいはするからさ」


「分かりました。皆で楽しく、ドラゴン退治に行きましょうね!」


 その後、休憩スペースの営業時間が終わるまで、俺たちは飲めや歌えと宴会を続けた。

 ノルンちゃんのパフォーマンスを見て他にも人が集まってきて、何だかんだと話しているうちにかなりの大人数が討伐隊に加わることになってしまった。

 合計80人近い大所帯になってしまったが、数が多いに越したことはないだろう。




 翌朝。

 部屋で泥のように眠った俺たちは、朝食ビュッフェで腹を満たしてから宿の前に集合した。

 討伐隊に加わった人たちは、種族も年齢も性別もばらばらだ。

 とはいえ、皆が冒険者か旅商人であり、戦闘技術やサバイバル能力には自信がある人たちが多いようだ。

 皆、大きなズダ袋やリュックを背負っている。

 ほぼ全員、マントかローブを付けていた。


「それじゃ、行きましょうか。皆さん、忘れ物はありませんか?」


 俺の声に、皆が「はーい」と返事をする。


「退治して帰ったら、また宿で宴会しようぜ!」


「だな。これだけいれば、もう数の暴力でいけるだろ」


「ストーンドラゴンかぁ。どんな姿をしてるのか、今から楽しみだ」


 まるで遠足にでも行くような雰囲気で、ぞろぞろと北を目指して歩き始める。

 ネイリーさんに聞いた話だと、歩いて1日半の距離にドワーフの里はあるらしい。


「それ、珍しいリュックだな。どこで買ったんだ?」


 俺と並んで先頭を歩きながら、カルバンさんが俺のリュックを見る。

 カラフルなポリエステル製のリュックサックは、明らかに他の人より目立っていた。

 ノルンちゃんもおそろいの物を背負っていて、後ろで同じようにあれこれ聞かれているみたいだ。


「えーと……埼玉っていう土地の街で買いました」


「サイタマ? 聞いたことがない場所だな。どこにあるんだ?」


「あー、なんて言ったらいいんだろ。すごく遠くにあるような、近くにあるような」


「なんじゃそりゃ。買い物した場所も覚えてないのかよ」


 カルバンさんが呆れた声を漏らす。

 そう言われても、説明のしようがないんだよなぁ。


「そうなんです。忘れっぽくって……はは」


「おいおい……てことは、全部嬢ちゃんたち任せってことか。せっかくいい女連れてるんだから、もっといいところ見せるように頑張んないとだぞ」


「そ、そうですね」


「っと、悪い! 会ったばっかだってのに説教臭い真似しちまった。年取ると、何でこうなっちまうんだろうな」


 ぽりぽりと、カルバンさんが頭を掻く。

 茶化しているふうでもなかったので、俺も別に腹が立ったりはしない。

 何というか、父親に説教を受けている感覚だ。


「コウジたちは、こういった討伐は慣れてるのか?」


「いえ、退治したのは、グリードテラスだけですね」


「そうなのか。まあ、あれを倒せたなら、ドラゴンくらいどうってことないだろ」


 うんうんと、カルバンさんが頷く。


「俺もあちこち旅してきたけど、ドラゴンなんて20年ぶりだな。いやぁ、楽しみだ」


「えっ、ドラゴン退治したことあるんですか?」


「退治っていうか、脱皮した皮を拾いに行っただけだけどな。若い頃は専業冒険者しててさ、報酬に釣られて、仲間と一緒に引き受けたことがあるんだ」


 あれこれと、カルバンさんが若い頃の思い出話をする。

 行商人を始めたのは10年ほど前で、それまではずっと仲間と共に専業冒険者をしていたそうだ。

 街にあるギルドに登録し、畑を荒らす害獣の討伐案件から迷子になったペットの捜索まで、何でもやっていたらしい。


「東の火山地帯にいる、『溶岩竜』っていうドラゴンの皮が欲しいって依頼がギルドに出ててさ。報酬がよかったから、皆で取りに行ったんだよ」


「溶岩竜ですか。名前からして恐ろしいですね」


「恐ろしいなんてもんじゃないぞ。溶岩を食べるドラゴンで、縄張り意識がすごく強くてな。侵入者には口からは超高温のガスを吐き出して襲い掛かるんだ。ガスに触れたら、全身あっという間に炭化しちまう」


「そ、それはヤバイっすね……皮は採れたんですか?」


「おう、何とか拾ってこれた。夜中に皆で地面に這いつくばってさ。いびきかいて寝てる溶岩竜の脇を通って、寝床に落ちてた皮をナイフで必死になって削り集めたよ。見つかったらまず死ぬから、生きた心地がしなかったな」


「冒険者って大変なんですね……」


「刺激があって楽しいけどな。まあ、死んだり大怪我する奴も多いし、収入も安定しないし、あんまりお勧めできる職業じゃないかな」


 そんな話をしながら、俺たちは歩き続けた。

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