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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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119話:むりむりのむり

 あれから俺たちは洞穴に戻り、回収してきた巨大ワニ肉と水で食いつないでいた。

 本日で遭難4日目だ。

 毎日外に出ては周囲を散策しているのだけど、ノルンちゃんたちは一向に見つからない。

 しかも、この付近には肉食恐竜が多数生息しているようで、子供の頃に図鑑で見た奴らを何匹も目撃した。

 昨日は水を得ようと池に向かった時に、体長6メートルほどもある奴に追いかけられてしまって洞穴に逃げ戻った。

 今、俺たちの頭上では、その恐竜が鼻息を鳴らしながらうろついている。


「まいったな、あいつ諦めないぞ……」


 狭い洞穴の中、フェルルさんと座り込んで息を殺す。

 丸一日経っているというのに、外の恐竜は諦める様子がない。

 フェルルさんは俺に背を向けて、ガリガリと鉛筆で日記を書いている。


「フェルルさん、大丈夫ですか? 熱があるんだから、休んでいないと」


 フェルルさんは昨夜までは元気だったのだが、今朝から熱が出たようで、顔が赤く息も荒い。

 食糧は燻製にしたワニ肉とエネルギーバーがあるからいいけど、水がもう底をつきそうだ。

 熱があるのに水がないというのは、かなりまずい。


「ふう、ふう」


「あの、フェルルさん?」


 俺がフェルルさんの肩に触れると、彼女はびくっと体を跳ねさせた。


「ささ、触らないでっ!」


 地面にノートと鉛筆を落とし、頭を抱えてフェルルさんがガタガタと震える。


「えっ、ちょ、大丈夫ですか!?」


「ううう! うー! うー!」


 フェルルさんが頭を掻きむしり、歯を食いしばりながら唸る。

 どう見ても異常な様子の彼女に、俺はたじろいだ。

 そして、彼女の傍に落ちているノートが目に入った。


----------------------------------------------------


〇月×日

コウジさんたちと出会う。世界のバグ取りというものに参加させてもらえることになった。

この世界は、彼らが作った創造物らしい。

ノルンさんは女神様らしいのだけど、本物の神様に会えるなんてびっくりした。

楽しそうな話をしていたので、冒険に参加したいと申し出たら快諾してくれた!

ずっと憧れてた冒険に加われるなんて、どんなことが起こるのか明日からがすごく楽しみ!


----------------------------------------------------


 つい書かれていた内容を読んでしまい、マナー違反だとはっとして、俺は目を逸らしかけた。

 だけど、書かれていた日記の下の方に、異常な文面を見つけて俺は顔が強張った。


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〇月▽日

発情してしまった。

ウサンチュミントがない。

明日正気でいられる自信がない。コウジさんから、すごくいい匂いがする。


〇月△日

どうにか乗り切れそう。コウジさんにも気づかれていないみたい。

コウジさんの寝息を聞いていると頭がおかしくなりそう。

明日を乗り越えれば収まるはずだ。


○月□日

むりだ。こんなの耐えられるわけがない。

むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり

むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむ


----------------------------------------------------


「フェ、フェルルさん……」


「はあ、はあ」


 フェルルさんが血走った目で俺を見る。


「ふ、ふふふ。ふふふふ!」


「うおあっ!?」


 がばっとフェルルさんが俺に飛び掛かってきた。

 両肩を掴まれて地べたに押し付けられ、すごい力で押さえつけられる。


「どうせもうここには私たちしかいないんだから! 我慢する必要なんてないよねぇ!? つがいになっちゃっていいよねぇ!?」


「ちょっ、何を言っんん!?」


 勢いよくフェルルさんに唇を押し付けられ、上着を掴まれ押し上げられる。

 フェルルさんは荒い息を吐きながら、もう片方の手でズボンを下ろしにかかってきた。

 俺は慌てて彼女を引き剥がそうとしたが、ビクともしない。

 何という怪力だ。


「フェルルさん! ダメですって!」


「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」


「何がどうちょっとなんですか!?」


「グオオオッ!」


 大騒ぎする俺たちに気付いたのか、穴の外にいる恐竜が恐ろしい咆哮を上げた。

 ガリガリと爪で縦穴の入口をひっかく音が響き、ボロボロと土が俺たちの傍に崩れ落ちてくる。


「げえっ!? フェルルさん! 恐竜が穴を広げようとしてますよ!?」


「そんなことよりこっちのほうが大事だから!」


「あっちのほうが大事だっつうの!」


「ちぇーすとおおおーッ!」


 突然頭上で叫び声とザクッという音が響き、ズズン、と地響きが起こった。

 俺は驚いて硬直したが、フェルルさんは相変わらず「いいから、いいから!」と俺のズボンを引き下ろしにかかっている。


「フェルルさん! 上に誰か来たみたいです!」


「はあはあはあ」


「話を聞いてくれえええ!」


「コウジ君! そこにいるの!?」


 縦穴の上から女性の声が響く。

 この声はネイリーさんだ。


「助けてえええ!」


「ええ!? ちょ、ちょっと待って! 大地の精霊よ、立ち上がれ!」


 俺たちの周囲の土が揺れ動き、バカッ、と音を立てて頭上の土が引き裂かれた。

 ネイリーさんがその隙間から、こちらを覗き込む。

 ズボンを下ろされかけている俺と、よだれを垂らしながら俺に迫るフェルルさんの姿を見て、ぎょっとした顔になる。


「うわ!? ごめん! 取り込み中だった!?」


「襲われてるんです! 助けて!」


「ええ!?」


「はあはあはあ!」


 フェルルさんが自分のズボンに手をかけて引き下ろす。

 そのお尻が半分見えたところで、飛び込んで来たネイリーさんが彼女を羽交い絞めにした。


「ちょっと! ダメだって!」


「別に何にもしないから!」


「ズボンを下ろしながら言っても説得力皆無でしょーが!」


 ネイリーさんが怒鳴りながら、フェルルさんの頭を左手で鷲掴みにする。

 ぐわん、とフェルルさんの頭周辺の空気が歪んだように見えた次の瞬間、彼女は白目を剥いて俺の隣に倒れ込んだ。

 気絶したらしい。


「うう、危なかった……食われるところだった……」


「え、ええと……コウジ君、ご無事?」


 ネイリーさんが、下げられかけた俺のズボンを見る。

 俺はそそくさと、ズボンを上げた。


「おかげさまで……ネイリーさん、会えてよかったです。助かりました」


「ほんと、参ったよ。砂嵐が収まったと思ったら、周りに誰もいなくてさ。でっかい怪物はあちこちにいるし、ここがどこなのかも分からないし」


 ネイリーさんと一緒にフェルルさんのズボンを上げ、地面に横たえる。


「風の精霊さんにあちこち聞き回って、ようやくコウジ君たちを見つけたんだよ。ものすごく跳び回っちゃった」


「そうだったんですか。ノルンちゃんたちとは、一緒じゃなかったんですね」


「うん。きっとどこかにいると思うんだけど。とりあえず、外に出よっか。掴まって」


 差し出された手を俺が握ると、ふわっと周囲の空気が動き、俺たちの体が浮き上がった。

 そのまま、ふわりと穴の外にまで浮かび、地面に降り立つ。

 そこには、首を切断された恐竜が倒れ伏していた。


「うお。これ、ネイリーさんがやったんですか」


「うん。久しぶりに肉弾戦しちゃったよ。足に風の刃物を纏って、上からズドンッてね」


「そんな魔法もあるんですね。しかし、彼女はどうしましょうか」


 穴の底では、フェルルさんが白目を剥いている。

 目が覚めたら、きっとまた襲い掛かって来るだろうな。

 正直なところ、男として悪い気はしないというかむしろ光栄なんだけれど、チキちゃんやノルンちゃんのことを考えると受けるわけにはいかない。


「彼女、どうしたの?」


「それが、発情期に入っちゃったらしくて。発情を抑える薬を無くしちゃって、理性が吹っ飛んだみたいです」


「あー、なるほど。ウサンチュって発情中はものすごいらしいからね。でも、せっかくだしお相手すればよかったんじゃないの?」


「付き合ってる彼女が2人もいるのにダメでしょ……それに、襲われる側とはいえ、気持ちを無視したことになっちゃいますし」


「あはは。コウジ君は真面目だねぇ」


 ネイリーさんがケラケラと笑う。


「とりあえず、ここから離れよっか。この辺、でっかいのからこんなちっこいのまで、肉食獣だらけだよ」


 ちっこいの、と言いながら、膝下くらいの高さに手を下げるネイリーさん。


「そんな小さいのがいるんですか」


「うん。数十匹で群れを作っててさ。でっかい牛みたいなやつに群がって、ギャアギャア言いながら襲い掛かってたよ。あっという間に殺してたし」


「うえ……そいつらに洞穴を見つかってたら、今頃俺たち骨になってましたね……」


「だね……うん、ありがと。今のところ、近くに危険な連中はいないみたい」


 ネイリーさんが空中を見つめて礼を言う。

 精霊さんと話しているのだろう。


「コウジ君、フェルルさんを背負ってくれる? で、私の左手に掴まって」


 ネイリーさんはそう言うと、右手に持った杖で地面を叩いた。

 ボコッ、と地面が盛り上がり、フェルルさんが横たわっている地面が俺たちのいる高さにまで盛り上がる。

 俺はフェルルさんを背負うと、左手にリュックを2つ握った。

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