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118話:弱肉強食の世界へようこそ

 外からはギィギィと響く謎の鳥の鳴き声に、俺は目を覚ました。

 地べたに直に横になっていたせいで痛む体を起こすと、フェルルさんがノートに何やら書き物をしていた。


「おはようございます。いてて」


「コウジさん、おはようございます!」


 フェルルさんが、にこっと可愛らしく微笑む。

 ピンクの髪がややボサボサだが、元気そうだ。


「何を書いてるんです?」


「日記です。毎日書くのが日課になっていて」


 フェルルさんが、ぱたん、とノートを閉じた。


「さてと。これからどうしましょうか?」


「とりあえず、ノルンちゃんたちを探さないと。俺たちだけじゃ、このままだと飢え死にしちゃいますし」


「ですね……コウジさんは、何か食料は持っていますか?」


「エネルギーバーを4箱だけです。後は、キャンプ用具の鍋、コンロ、折り畳みのイスくらいですね」


「私は、干し肉が少し、塩の小瓶、水筒、お鍋、食器、あとは化石の採掘用具だけです」


 そう言って、フェルルさんが水筒を差し出してくれる。

 1リットルくらい入りそうな大きめの水筒だけれど、昨日の夕食時にふたりで半分くらい飲んでしまった。

 今まで水はチキちゃんが魔法で出してくれていたので、水筒やペットボトルの類は1つも持っていない。

 まさかこんなことになるとは、心底困った。


「むう。水と食べ物を探さないとですね」


「はい。付近を散策してみましょう」


 フェルルさんと一緒に洞穴を出て、周囲を見渡す。

 見たところ恐竜はいないみたいだけど、油断はできない。


「見たことがない植物ばかり……私たちはどこにいるんでしょうか」


 生い茂るシダ植物をかき分け、フェルルさんが俺の前を進む。


「これって、古代世界に迷い込んだんじゃないですかね? 昨日みたアレ、どう見ても恐竜でしたよ」


「だとしたら、すごいことですね! 化石でしか目にできなかったものの実物が、今目の前にあるってことなんですから!」


「はは、確かに。でも、もしそうだとしても、元の世界に戻れなかったら俺たちも化石の仲間入りですよ」


「バグというものをどうにかすれば、戻れたりするのではないでしょうか? 今の状態も、きっとバグのせいですよね?」


「おそらくは。だけど、印が付いてる地図はカルバンさんが持ってるし、バグが何なのかも分からないからなぁ」


「そうですか……手探りで探していくしかないですね。頑張りましょう!」


 やたらと前向きなフェルルさん。

 まあ、悲観してもどうにかなるわけでもないので、彼女の明るさは本当に救いだ。

 とりあえずは生き延びなければ話にならないと、水と食べ物を求めて周囲を散策することになった。




 どすん、どすん、という音とともに、地面が振動する。

 俺とフェルルさんは地面に這いつくばって、脂汗を流しながら息を殺していた。


「あわわわ、ティラノサウルスまでいるのかよ。勘弁してくれよ……」


「み、見つかったら一瞬で食べられちゃいそうですね……」


 数時間うろうろした挙句に、ようやく見つけた大きな池。

 やったやったと駆け寄ろうとしたのだけれど、木々の間からティラノサウルスが現れて、俺たちは身動きが取れなくなっていた。

 ティラノサウルスは昔俺が本で見たとおりの見た目で、トカゲの肌のような表皮と小さな2つの腕、とんでもなく大きな足と尻尾と顔を備えていた。

 ティラノサウルスは全身が羽毛に覆われていた、という学説を見たことがあったけど、この世界のティラノはトカゲっぽい見た目らしい。


「池に近づいていきますね……」


 フェルルさんの囁きに、こくりと頷く。

 そりゃあ、恐竜も生き物だし、水を飲みに水辺には来るよなと今さら気が付いた。

 ティラノサウルスが頭を下げ、水を飲み始める。

 俺たちがその様子を見守っていると、突如として水面が波打った。


「ガアアアッ!」


「グオオオッ!」


「うわ!」


「ひい!?」


 池の中から飛び出した巨大なワニのような生き物が、ティラノサウルスの首元に食らいつく。

 ティラノサウルスは大暴れして巨大ワニの噛みつき攻撃を振りほどいて後ずさりする。

 巨大ワニはすさまじい勢いで池から這い出し、ティラノサウルスの足目掛けて追撃をかけた。

 ティラノサウルスも負けじと、巨大ワニの背に大口を開けて食らいつこうとする。

 一瞬にして修羅場と化した池の傍で、俺とフェルルさんはガタガタと震えながらその光景を見守る。


「なんじゃありゃあ……ワニがいるの、まったくわからなかったぞ」


「あっ! ワニの腕が!」


 ティラノサウルスが巨大ワニの背中を足で踏みつけ、右前足に食らいついてそのまま食いちぎった。

 動きの鈍った巨大ワニの体に手の爪をかけて引っ繰り返し、腹に食らいつく。

 巨大ワニは暴れていたが、ひっくり返ってしまっては抵抗もできず、そのまま絶命してしまった。

 ティラノサウルスが勝利の雄叫びを上げ、バリバリと音を立てて巨大ワニを食べ始める。


「ティラノ強すぎる……」


「あの恐竜が水辺に来ていなかったら、私たちがワニに食べられてましたね……」


「ですね……あいつが食事を終えていなくなったら、水を汲みに行けますかね?」


「う、うーん……もう水筒はカラですし、水は欲しいですよね。やるしかないですよね……」


 ティラノサウルスがいるせいか、周囲に他の恐竜は見当たらない。

 しばらくするとティラノサウルスは食事を終え、水をがぶがぶと飲んで悠々と去って行った。

 俺たちは恐る恐る、池に歩み寄る。


「うへ、ワニがぐちゃぐちゃだ」


「この食べ残し、食べられませんかね?」


「ワニの肉って鳥肉みたいな味だっていうし、食べれるかも。持って帰りましょうか。水も、汲めるだけ汲んじゃいましょう」


 フェルルさんがナイフを取り出し、巨大ワニの死骸から肉を切り取った。

 肉を血塗れのまま、2人のリュックに入るだけ押し込む。

 さらに、他のワニがいないか注意しながら、持参した鍋と水筒に水を汲む。


「よし、これだけ汲めば今日と明日くらいは……ん?」


「あっ!」


 茂みの奥から、昨日見たラプトルが1匹顔を覗かせた。

 フェルルさんとラプトルの目が合い、お互い硬直する。


「ひ、ひい……」


「あわわわ……」


 ふたりしてガクガクと震えている間に、さらに2匹のラプトルが茂みから顔を覗かせた。

 ラプトルは数秒こちらを窺っていたが、ぴょん、と茂みを飛び出してこちらに近寄って来た。


「どどど、どうしましょう!?」


「お、おおお俺が囮になるから、その間に逃げろ!」


「ええ!? 何を言ってるんですか!?」


「俺は死んでも大丈夫だから言うとおりにして!」


「大丈夫なわけないでしょ!? 囮になんかできませんよ!」


 フェルルさんが叫ぶように言う。

 死んでも転生できることをフェルルさんには伝えていなかったとはいえ、この状況でそんなことを言ってくれるとは。

 そうこうしている間にもラプトルたちは近寄って来る。

 走って逃げようにも、あっという間に追いつかれてしまうだろう。

 やはり俺が囮になるしかない。


「うおおお!」


「コウジさん!?」


 俺は勇気を振り絞り、ラプトルたちに突進した。


「フシャアア!」


 ラプトルたちが大きくジャンプし、巨大ワニの死骸に飛び乗る。

 そして、3匹揃って、「フシャア、フシャア」と俺たちに威嚇をし始めた。


「えっ!? あっ、そうか! ワニの肉を狙ってるのか!」


「こ、コウジさん、今のうちに!」


 威嚇するラプトルたちに向き合ったまま、そろりそろりと後ずさりする。

 ラプトルたちはしばらく俺たちを睨みつけたまま威嚇していたが、十分離れたと判断したのか、ワニ肉を食べ始めた。

 それと同時に、俺たちは全速力で逃げ出した。

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