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117話:いろんな意味で食べられてしまいそう

 きょろきょろと周囲を見渡すが、俺とフェルルさん以外に誰もいない。

 俺たちを囲っていたはずのシェルターもなくなっていて、何が何やらさっぱりだ。


「他の皆さんはいったい……それに、ここはどこでしょうか……」


「俺たち、砂漠にいたはずですよね……」


 途方に暮れながら、呆然と立ち尽くす。

 生えている木とか植物、今まで見たことのないものばっかりだ。


「ん? 何の音だろ?」


 ジュクジュクバリバリと、よく分からない音が茂みの向こうから聞こえていることに気が付いた。

 フェルルさんと顔を見合わせ、そろりそろりと音へと近づく。


「な、何か血生臭くないですか?」


「ですね……」


 音を立てないように気を付けながら、茂みをかき分けてみる。


「げっ!」


「あっ!」


 茂みの先、5メートルほどの場所には、あばら骨を剥き出しにした大型動物が、別の3体の動物に食われていた。

 食っている動物、恐竜図鑑で見たヴェロキラプトルにそっくりだ。

 俺たちの声に反応し、それが動きを止め、頭を上げた。

 やばい、こっちを振り向くぞ。


「頭下げて!」


 小声でフェルルさんに言いながら、彼女の頭を押さえて地面に這いつくばる。

 フンフン、と奴らの鼻息が聞こえる。

 心臓をバクバクさせながら硬直していると、しばらくしてから再びジュクジュクバリバリと音が響き出した。

 食事を再開したようだ。


「どどど、どうしましょう!? あれ、どう見ても危ない動物ですよね!?」


「静かに! 少しずつ離れましょう!」


 地べたに四つん這いになって、ヨチヨチ歩きでその場を離れる。

 ノルンちゃんもネイリーさんもいない今、あんなものに襲われたら確実に殺される。

 昨日、恐竜の話をしてしまったのがフラグだったのだろうか。


「これだけ離れれば大丈夫でしょうか?」


 たっぷり5分はヨチヨチ歩きをしたあたりで、フェルルさんが背後を気にしながら囁いた。

 今のところ、あの恐竜が追いかけてくる気配はない。


「たぶん……ああ、マジで驚いた」


「ノルンさんたち、どこにいるのでしょうか……」


「俺たちふたりだけじゃ、かなりヤバいですよね……」


 ここがどこなのかも分からないうえに、戦える人たちがまるごと行方不明。

 もしもさっきの恐竜に襲われたら、俺たちは彼らの食料になること間違いなしだ。


「とりあえず、どこか身を隠せそうな場所を探さないとヤバイですよ」


「そうですね……ちょっと待っててください」


 フェルルさんが周囲を見渡し、一抱えほどの太さの木に目を留めた。

 リュックからロープを取り出し、木に歩み寄る。

 ロープを幹にぐるりと渡し、ロープの端をそれぞれ両手に巻き付けた。


「よっ!」


 ぴょん、と幹に両足で飛びつき、すぐさまロープをたわませて、それまでロープが当たっていた幹よりも少し上に振り上げる。

 それを繰り返し、フェルルさんはかなりの速さで木登りを始めた。


「うわ! フェルルさんすごいですね!」


「ほっ! よっ!」


 掛け声をかけながら、あっという間に木のてっぺんまで登ってしまった。

 すると、今度は木にしがみつき、辺りを見渡し始めた。


「う、うーん……あまりよく見えませんが、かなり離れたところまで森みたいです」


「砂漠は見えないですか?」


「見えません。ここはどこなのでしょうか……」


 フェルルさんが飛び降り、俺の前に着地する。

 20メートルくらいの高さがあっただろうに、飛び降りられるなんてすごいな。


「フェルルさん、地図は持ってませんか?」


「残念ながら……山に行った仲間たちに渡してしまったので」


「そっか。俺のはチキちゃんとカルバンさんが持ってるし、お手上げですね」


「またさっきの動物が出たら危ないですし、どこかに身を隠しませんか?」


「そうしたいですけど、よさげな場所が見つかるかなぁ」


 周囲を見渡してみるが、当然ながら木しか見えない。

 どこかに洞窟でもあればいいのだけれど。


「私が穴を掘りますから、ひとまずそこに身をひそめましょう」


 フェルルさんはそう言うと、両手の爪をにゅっと伸ばした。

 四つん這いになり、ざくざくと地面を掘り始める。

 まるでシャベルで掘っているかのごとく、すさまじい勢いで土を掘り返す。


「うお! そんなこともできるんですか!?」


「ウサンチュは穴掘りが得意なんです。コウジさんは、動物がこないか周りを見張っていてくれますか?」


「分かりました!」


 猛烈な勢いで地面を掘るフェルルさんを横目に、周囲の警戒に当たる。

 フェルルさんは自分のリュックの中身を全部外に出して、掘った土を中に入れては穴の外に運び出していた。

 俺も手伝おうとしたのだけれど、見張りのほうが大切とのことで見張りに徹した。

 相変わらず、あちこちからギィギィと不気味な鳴き声が響いていて、かなり怖い。

 ノルンちゃんたち、無事だといいのだけれど。


「ふう、これくらい掘れば大丈夫ですね」


 2時間くらい穴を掘ったところで、フェルルさんが穴から顔を出した。、

 近寄って覗いてみると、人がひとりがやっと通れるくらいの、細い急角度の穴が掘られていた。

 深さは3メートルくらいで、その先に横穴が掘られている。

 少し離れたところに縦穴も掘られているのだけれど、これは何に使うのだろうか。


「うへ、すごいですね。こんなに早く掘れるなんて」


「さすがに疲れました……今夜はここで過ごしましょう。薪を集めないと」


「あ、中で火を焚くんですか。縦穴は、煙を逃がす穴ですね」


「はい。すごく暖かく過ごせますよ。中は広く掘ってあるので、ふたりでも横になれます」


 枝やら枯れ葉やらをかき集め、それらを抱えてフェルルさんと穴に入る。

 彼女の言うとおり、横穴は広めに掘られていた。

 高さは座ってギリギリ頭がつかない程度だけど、膝を曲げればふたりで横になれるくらいの広さだ。

 すでに日が落ち始めていて、深い森のなかということもあって、かなり暗くなってきた。


「火を点けますね」


 フェルルさんがマッチを擦り、枯れ葉に火を点ける。

 狭い洞窟内がぽうっと明るくなり、さっきは薄暗くて気付かなかったフェルルさんの土に汚れた顔が見えた。


「はあ、ようやく一息つけます」


 彼女がそう言った時、そのお腹が、きゅー、と可愛らしい音を立てた。

 フェルルさんが顔を赤くして、お腹を押さえる。


「はは。お弁当食べましょうか。これで手とか拭いてください」


 俺がウェットティッシュを差し出すと、フェルルさんは驚いた顔になった。


「あ、これ濡れてるんですね。便利ですね!」


「外出先だと結構重宝しますよ。はい、お弁当」


「ありがとうございます!」


 フェルルさんと並んで焚火を見つめながら、農園で買ってきた焼きおにぎりを頬張る。

 朝から何も食べていなかったので、ハラペコだ。


「はあ。これで今夜はしのげそうだ……あ、そうだ」


 お疲れのフェルルさんを癒そうと、奇跡の光を背中側に出した。

 彼女は驚いた顔で背後を振り返り、おお、と声を漏らす。


「明るいですね! それに、何だか気持ちいいです」


「俺の唯一の能力ですけど、こういう時は便利ですよね。さっき穴を掘ってもらってる時にも出せばよかった」


「ふふ、うっかりさんですね」


「今さらですけど、こんなわけの分からない状況に巻き込んじゃってすみません……まさか、こんなことになるなんて」


「いえいえ! こういうのも、冒険って感じがして楽しいですよ! コウジさんが一緒なんですし、きっと大丈夫です。何とかなりますって!」


 にっこりと微笑むフェルルさん。

 パニックになってもおかしくない状況なのに、彼女は本当にしっかりしてるな。


「そういえば、フェルルさんの仲間って、皆ウサンチュなんですか?」


「はい。全員、故郷から一緒に来た友達ですよ」


「へえ。友達と一緒に採掘なんて、楽しそうでいいですね」


「ですね。でも、みーんなフリーの子なんで、発情期になるとお金がかかって大変なんですよ」


「は、発情期?」


 いきなりの刺激的な話に、ぎょっとしてしまう。

 フェルルさんはきょとんとした顔になったが、すぐに、「ああ」と頷いた。


「ウサンチュの特性なんです。年に何回か、ムラムラが収まらなくなる時期があって」


 そう言って、胸ポケットをゴソゴソと漁る。


「……あれ?」


「どうしたんです?」


「い、いえ……おかしいな、入れておいたはずなのに……」


 フェルルさんが慌てた様子で、たくさんあるポケットすべてを開いて中を調べる。

 出てくるものは、小型のハサミ、巻き尺、虫眼鏡といったの道具ばかりだ。


「ど、どうしよう。ウサンチュミントの種、どこかに落としてきちゃったみたいです……あれ、すごく高いのに」


「あの、ウサンチュミントって?」


「特殊な薬草です。種にウサンチュだけに効く鎮静作用があって、ムラムラした時に男性を襲ってしまわないように食べるんですが……どうしよう。そろそろ私、発情期なんですよ……」


「えっ」


「2、3日なら何とか我慢できると思うんですけど……コウジさん、我慢できなくなって襲ってしまったらごめんなさい……」


「ええ……」


 心底困った顔で頭を抱えるフェルルさん。

 これは早いとこノルンちゃんたちを見つけないと、フェルルさんに食べられてしまうかもしれないぞ。

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