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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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110話:ウサンチュ

「この農園の川に生えてる植物は、全部ワサビなはずなんだが……あんなでかいワサビ、見たことねえな」


「なら、おばけワサビですね! すごく食べ出がありそうなのですよ!」


 ノルンちゃんがうきうき顔で言う。

 空から見た感じだと、木なんだかワサビなんだかの判別は付かないな。


「ベラドンナさん、あの大きな植物のあたりに降りてもらえますか?」


「分かりました!」


 グランドホークが旋回しながら、川べりへと降り立った。

 安全バーを上げ、荷物と馬車を連れて外へと出る。


「おお。これは立派なさわワサビですね!」


 目の前にそびえる巨大植物、もとい、巨大沢ワサビをノルンちゃんが見上げる。

 川から出ている部分だけで、高さが2メートル以上はありそうだ。


「マジか。ワサビって、こんなにでかくなるのか?」


「いえ、普通はこれくらいですよ」


 ノルンちゃんがカルバンさんに、これくらい、と片手をコの字にする。


「場合によってはもっと大きくなりますけど、こんなに大きくなるのは不思議ですね」


「コウジ、あっちにも大きなワサビがあるよ」


 チキちゃんが指差す方を見ると、川のあちこちに点々と巨大ワサビが生えていた。

 どれも1メートルから2メートルはある巨大なものだ。


「うわ、ほんとだ。品種改良にでも成功したのかな?」


「すごいね。たくさん食べられるね」


「おたくら、観光客かい?」


 俺たちが感心していると、麦わら帽子を被ったトカゲ顔の人が歩いて来た。

 竜人族のようだ。

 外見だと男なんだか女なんだかさっぱり分からないが、声からして年配の男の人のようだ。


「はい。有名なワサビ農園だって聞いて、見学に来ました」


「そうかい。これ、驚いただろ?」


 川の中の巨大ワサビに、おじさんが目を向ける。


「ええ。ずいぶんと大きなワサビですよね。どうやって育てたんですか?」


「いや、俺たちが育てわけじゃないんだよ。何カ月か前から、急にでかいのが生えてきてさ」


「えっ、じゃあ、これって自生してるんですか?」


「ああ。普通はあっちのワサビみたいに、綺麗に列にして植えるんだ。このでかいのは、いつの間にか生えてどんどんでかくなったんだ」


 おじさんはそう言うと、バシャバシャと足首くらいまで水に浸かって、川へと入って行った。

 腰に付けていたナイフを手に取り、手慣れた様子でワサビの表面を削り取る。


「ほれ、齧ってみな」


「おっと!」


 ぽい、と投げられたワサビの皮をキャッチし、鼻に近づける。

 ツンとしたワサビの香りに、俺は思わず「おお」と声を漏らした。


「いい香りですね!」


「ああ。それに、表面も柔らかくて食えるんだ。少し噛んでみるといい」


「はい! ……ん、辛い!」


 ピリッ、としたワサビ特有の辛さが、口いっぱいに広がった。

 味もよくて巨大だなんて、いいことずくめだな。


「これらのワサビも出荷しているのですか?」


 ベラドンナさんが、はえー、と巨大ワサビを見上げる。


「してるよ。と言っても、このままじゃでかすぎて運べないから、漬物とかに使う用だけど」


「ベラドンナさん、カゾにお土産にしてみてはどうでしょうか?」


 ノルンちゃんが言うと、ベラドンナさんは「ですね!」と懐から財布を取り出した。


「せっかくなので、少し頂いていきます。いくらか削っていただけませんか?」


「ん? ベラドンナって、あんた、カゾの代表かい?」


「はい。代表をさせていただいています」


「おお、そうか。カゾにはいつもたくさん買ってもらってるからな。お礼も兼ねて、タダでこれを丸ごと持っていってもいいぞ」


「い、いえ、さすがにこんな巨大なものは使いきれないですよ」


 苦笑するベラドンナさんに、おじさんが笑う。


「冗談だって。ちょいと待ってな。お土産用の木箱を用意してくるから。あと、漬物も持っていってくれ。代金はいらんよ」


「えっ、いいんですか!?」


「もちろんだとも。これからも、よろしく頼むよ」


「ありがとうございます!」


 頭を下げるベラドンナさん。

 おじさんは「その辺でも見物しながら待っててくれ」と言うと、遠目に見える大きな建物へと去って行った。


「ノルンちゃん。もしかして、これがバグなのかな?」


「どうでしょう? でも、地図にはこの場所に印はなかったのですよ。カルバンさん、地図を見せてくださいませ」


「あいよ」


 カルバンさんが広げた地図を、皆でのぞき込む。

 今いる場所には印はなく、少し離れた空白地帯に赤丸が付いていた。


「んー、違うのか。ワサビは突然変異か何かなのかな?」


「理想郷を作った時に野菜が良く育つ土を使ったので、その影響かもしれないのですよ」


「ああ、なるほど。まあ、誰も困ってないし、気にしないでもいいのかな」


「コウジ、水車を見に行きたい」


 チキちゃんが少し離れた場所にある水車を指差す。


「じゃあ、おじさんが戻って来るまで、近場を散策してよっか」


 そうして、水車を眺めたり川で育てられているワサビを見たりと歩き回っていると、少し離れた場所で地面からウサギの耳が伸びているのが目に入った。

 耳はぴょこぴょこと動いており、どうやらそこは窪地のようだ。

 何やらブツブツ言っている声が、微かに聞こえてくる。


「おっ。ウサンチュみたいだね。この辺だと珍しいね」


 ネイリーさんがウサギ耳を眺めながら言う。


「ウサンチュ? 種族名ですか?」


「そだよ。すっごく愛想がよくて、素直な人しかいない種族なの」


 ずいぶんと変わった種族名だ。

 海人と書いてうみんちゅと読んだりするけれど、同じように「兎人」と書くのかもしれない。


「しかいないって、例外なしですか?」


「うん、全員そうみたい。あと、女の人ばっかりの種族でさ。『嫁にするならウサンチュにしろ』って格言があるくらいモテるよ」


 種族で性格が固定されているとは、なかなかに面白い話だ。

 格言ができるほどなら、本当にいい性格の人しかいないのだろう。


「あっ、立ち上がった」


 頭にウサギ耳を生やした、ピンク色の髪の女の子の顔が見えた。

 ゴーグルを付けた顔はやや童顔で、とても可愛らしい人だ。

 彼女は俺たちに気付くと、ぱっと表情を綻ばせて大きく手を振ってきた。


「うわ、めっちゃ可愛い」


「でしょ? みーんな美形なんだよ。スタイルもいいし、結構働き者だって話だし。すごい種族だよね」


 ネイリーさんの話に頷いていると、隣にいるチキちゃんから強い視線を感じた。


「コウジ、浮気したらダメだからね」


「し、しないよ。それに、これ以上なんて、体が持たないって」


「チキさん、コウジさんが他の人に目を向けないように、毎日交代でしっかり搾り取ればいいのですよ!」


 いひひ、とノルンちゃんが卑猥なことを言う。


「うん。毎晩カラカラになるまで搾るね」


「俺を早死にさせる気か」


 そんな話をしていると、ウサンチュの女の子が窪地を出て駆け寄って来た。

 俺たちの前で立ち止まり、ゴーグルをおでこに上げて、にぱっと笑顔になる。

 出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでおり、かなりスタイルがいい。

 服装はポケットがいくつも付いたベージュの上着と厚手のズボン、革のブーツだ。

 手にはハンマーとノミを持っている。


「こんにちは! 観光ですか?」


「はい。お姉さんは?」


「私は化石掘りをしてたところで……あ! 申し遅れました。フェルルと申します!」


 ぺこりと頭を下げるフェルルさん。

 彼女に倣って俺たちも頭を下げ、自己紹介をするのだった。

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