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栽培女神! ~理想郷を修復しよう~  作者: すずの木くろ


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100話:発展と幸福について

 夜の8時頃になって、俺たちはアパートへと帰ってきた。

 コ〇トコで買ったのは食料品ばかりで、寿司、鶏の丸焼き、サラダ、巨大ケーキ、マフィンなど、とてもではないが食べきれそうにないほどの量だ。

 極めつけは会計後に目に入ってしまったフードコーナーで、ノルンちゃんの強い希望でホットドッグを人数分買ってしまった。

 ホットドッグはザワークラウトやピクルスのトッピングが入れ放題だったため、それならたくさん入れなければ損だ、と全員がすごい量のトッピングをしてしまった。

 その場で食べてしまうと夕食に差し支えるので、持ち帰りにした。


「こ、コウジさん、もう無理です……お腹が空きすぎて、吐き気がしてきました……」


 部屋に入るなり、ノルンちゃんがチキちゃんの腕の中から死にそうな声を上げた。

 何日も飲まず食わずみたいな顔になっていて、頬がこけて唇がしわしわになっている。

 女神って、何も食べなくても問題ないんじゃなかったっけ?


「なんて顔してるんだよ。あれこれ試食してたのにさ」


「うう、あの程度じゃ、全然足りないのですよ。それに、車の中にホットドッグのいい香りが充満していて、生殺しだったのです……」


「コウジ、私もお腹空いた……」


「俺もハラペコだ。さっさと飯にしようや」


「おっにくっ! おっにくっ!」


 チキちゃん、カルバンさん、ネイリーさんが部屋に上がり、ガサガサとビニール袋を漁って料理を取り出す。

 マイアコットさんとミントさんも、靴を脱いで部屋に上がった。


「あー、楽しかった。観光なんて初めてしたけど、すんごく面白いんだね!」


 マイアコットさんが明るい声で言う。

 楽しんでもらえたみたいで、何よりだ。


「コウジ君たち、あっちに戻ったら世界中を旅して回るんでしょ? バグを全部取り除くんだっけ?」


「はい。といっても、俺はあのままの世界でも満足なんですけどね。ノルンちゃんとしては、そうもいかないようでして」


「きゅ、救済担当官として……不良品のままコウジさんに永住してもらうわけにはいかないのです……ソフィア様にも叱られましたし……」


 ノルンちゃんがテーブルの上でぐったりと横になりながら言う。


「救済担当官? 女神さまにも、役職があるの?」


「あ、あります……は、早く食事にしましょう……お腹と背中がくっつきそうです……」


「とりあえず、食事しながら話そうか」


 皆で畳に座り、ちゃぶ台を囲む。

 料理を並べていただきますをし、チキちゃんはノルンちゃん用の取り皿に小エビのシュリンプやピザを取り分けた。

 自分の頭ほどの大きさもある小エビに、ノルンちゃんが飛びついて齧りつく。

 一心不乱といった様子でエビを貪る姿は、まるで極限まで腹を空かせて獲物に食らいついた野獣のようだ。


「皆、飲み物はお酒でいい? お茶とジュースもあるよ」


 一斉に食べ始める皆とは違い、チキちゃんは冷蔵庫から冷えたビールやお茶のペットボトルを出してくれている。

 相変わらず、マメな子だ。


「私はお酒! 何でもいいからちょうだい!」


 ホットドッグにかぶりつきながら、マイアコットさんが手を上げる。


「俺はビール! 女神さんも酒にするかい?」


「おふぁふぇへほへあひいあふ!」


「何言ってんだか分かんねぇ……酒でいいのか?」


「ふぁい!」


 頬をパンパンにしたノルンちゃんが、カルバンさんに答える。

 食べてるんだか飲んでるんだか分からないほどの勢いで、すでに小エビの半分を平らげていた。


「ネイリーさんとミントさんは?」


「私もお酒で。ウイスキーあるかな?」


「私はお茶でお願いします。アルコールを飲んでも、酔うことはできないので」


「コウジはビールにする? それともチューハイ?」


「俺は梅チューハイにしようかな」 


 チキちゃんからチューハイを受け取り、プシュッとプルタブを空けて口を付ける。

 チキちゃんも俺の隣に座り、ガツガツと料理を食べ始めた。

 相変わらず、気持ちのいい食いっぷりだ。


「んー! どれもすっごく美味しいね! イーギリも、こっちの世界みたいにできたらなぁ」


 ピザを片手に、マイアコットさんがしみじみと言う。

 並べられた料理は3分の1ほどなくなっているのだが、俺以外の皆の手はいまだに止まらない。

 ネイリーさんなんて、ひとりで鶏の丸焼きを半分平らげてしまっている。

 寿司は好き嫌いが分かれるかと思ったが、全員が美味い美味いと食べてくれた。

 生魚も平気で食べられるとは、ちょっと意外だ。


「お店はたくさんあるし、車は乗り心地よくて燃費もいいし、そのうえ街並みは綺麗だしさ。イーギリをこんなふうにするのに、どれくらい時間がかかるかなぁ」


「そうですねぇ……まずは資金繰りから考えないとですし、けっこう気の長い話になりますよね」


「んぐ、んぐ……ふひゅう……マイアコットさん、街を発展させるのも重要ですけど、そこに暮らす人たちの幸せを第一に考えるのですよ」


 ぽっこりとお腹を膨らませたノルンちゃんが、抱えていたおちょこを置いて言う。

 俺がお裾分けした梅チューハイを一気飲みしたようだ。

 お腹もある程度満たされてお酒も入り、かなり気分がよさそうだ。

 頬から胸元にかけてほんのり桜色になっており、その白い肌によく映えている。


「街を発展させることは素晴らしいことですが、人は便利さの追求に限度がありません。それに応えようとすれば税金も上げないとですし、そうするとお仕事にはさらなる効率化が求められます。一見、街が発展して便利で豊かになったように見えても、それを維持するためにあくせく働かないといけなくなって、心が貧しくなるのですよ」


「ノルンちゃん、ずいぶんと小難しいこと言うね。そういうのも、天界で勉強したの?」


 俺が少し驚いて言うと、ノルンちゃんはにぱっと微笑んだ。


「いえ。研修時代に、天界からこの世界をあちこち見ていた時の率直な感想なのです。日本で暮らしている人たちよりも、アマゾンの奥地で全裸で生活しているような少数部族の人たちのほうが、なんだか幸せそうに見えたのですよ」


「そうなんだ……あ、でも、ルールンの街の人魚さんたち、畑と海しかないようなところだったけど、すごく幸せそうだったよね」


 理想郷に行って最初に訪れた人魚さんの街の人々は、誰もが朗らかでとても幸せそうだった。

 巨大クジラ、もとい、グリードテラスのせいで街が半壊してしまった後も、特に気にした様子も見せずに和気あいあいとしていた。

 便利な乗り物や綺麗な洋服、いろいろなお店がなくても、彼らは十分に満たされているのだ。


「はい。人魚さんたちも、アマゾンの奥地で暮らしている部族も、その生活に満足してそれ以上を望まないからこそ幸せなのだと思います。部族の人たちは、病気になった時にお医者さんがいないことを不安に思っているようでしたけど」


「なるほどなぁ」


「なんでも発展させればいいってわけじゃないんだね」


 俺とチキちゃんが、感心して頷く。

 ノルンちゃん、普段はほんわかしているけど、時々こういう話をしてくれるととても勉強になるな。

 さすがは女神様だ。


「むむ。そしたら、あれもこれもって手を出すのはよくないのかな」


 マイアコットさんが難しい顔になる。


「全部を成し遂げようとすると、きっとリソースが足りなくなるのですよ。とりあえず、大型店舗を作ってカゾの観光客を取り込んで、その収益を老朽化した街の家々を改修する補助金に充ててみてはいかがでしょうか?」


「なるほど、それいいね!」


 マイアコットさんが納得して頷く。


「ノルンさん、あっちに戻ったら、臨時の議員やってみない?」


「う……私はあまり頭を使う作業は苦手なのですよ」


「またまた、そんなこと言って! 今の話、すっごく参考になったしさ! お願いできない?」


「うー……そういったことは、ミントさんにお願いしたほうがいいのですよ。2000年前のトールの街の運営手法を教えてもらってみては?」


「ん、それもいいね。ミントさん、どう?」


 マイアコットさんがミントさんに話を振る。

 彼女は、にっこりと微笑んだ。


「はい。ペンネルの棺を見つけるまでの間でしたら」


「よかった。それじゃあ、よろしくお願いね!」


「もぐもぐ……コウジ、飛空艇に乗ってた時に話してたアニメ、今見れる?」


 チキちゃんがマグロのお寿司を頬張りながら、俺に言う。


「あ、そういえば見せるって言ってたっけ。つけようか」


 俺は部屋の隅の机へと向かい、パソコンの電源を入れた。

 皆が見れるように、画面をちゃぶ台の方へと向ける。

 有料の動画配信サービスに加入しているので、アニメや映画はある程度見放題だ。


「ふう、食った食った。そろそろ風呂に入りたいな」


 カルバンさんが腹を摩りながら言う。


「あ、そうですね。チキちゃん、お風呂沸かしてきてくれる?」


「うん」


 そうして、俺たちは交代で風呂に入りながら、しばらくの間アニメを見て過ごしたのだった。

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