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einige  作者: ちあき
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6. 言い忘れてましたがBLルートがあります

 私がイリスになる前の最後の記憶はテレビから流れるCMだった。


『einigeプロジェクト!』

『einigeの根本とも言える貴族編に新たなルートが加わる・・・第一段!

 稀代の魔女はいかにして生まれたのか・・・人を殺さずに済む世界を、彼女に与えてくれる人物は居なかったのか・・・稀代の魔女、イリス。待望の個別ルート、解禁!』

 これは数週間前からサイトでも発表していたので知っている。これ見よがしに『成人指定』の文字が主張していたので、一部ファンが狂気していたのも。

『第二段!・・・ルートB。今まで語られることのなかった彼の秘められた思い・・・einige発のBLルート!!』


 それに私は「ぶっ」と吹き出して、そして・・・そう、ある事に思い至った、はず。

 そのままゆっくりと眠りに落ちたのだ。その後に目覚めたのはもう、einigeの世界。何に閃いたのか、今では何故か思い出せない。

 ルートBの詳細は不明だが、CMを見るに既存キャラが対象なのはわかる。その時に私が思ったのはBは何かの頭文字では無いかと言うこと。

 流石にBLのBなんて単純な事はしないだろうけれど、その時の思考が上手く思い出せない。それでも、貴族ルートで出て来る男性で、頭文字にBが付いている名前ありのキャラは限られていた。




「ベルトハルトだ」


(ベル・・・B・・・)


 父と兄が帰ってきたと聞いて、アロイスの自室に向かうと選んだ奴隷を紹介された。悶々と考えつつもじろじろと観察。

 黒い髪はアロイスや自分と同じだが、やや癖がある。浅黒い肌はオトマールには少ないので異国の血が入っているのだろう。そして、綺麗な赤い目・・・何というか、色気がある。

 紹介内容を聞くと10歳との事だが、何というか堕天使の様な可愛さだ。

 不躾な視線を受けてもしっかりと礼儀正しく立っている姿は年不相応で・・・賢いのだろう。交換度が急上昇だ。


「お兄様の選んだ・・・失礼ですが、何を根拠に?」


「うん・・・えっと、お父様がまずは優秀なのを数人、商人に見繕ってもらったんだ。

 数人居たんだけど、正直選べなくて。それで、命令の為に死ねるか聞いたんだ。彼だけだったよ。

『死ねますが、出来ればなるべく痛くない方法を希望します』って即答したの」


「・・・」


 ドン引きだ。その言葉を言わせた兄に。


「ベルトハルト、私はイリス・トラムメリー。あなたの主人、アロイスの妹です」


「ベルトハルトです。よろしくお願いします」


「・・・喉、乾いてるでしょう?」


 一瞬瞳が揺れて「いいえ、お嬢様のお話の方が大事です」と答えた。


「・・・素晴らしい人選ですね」


 にこりと微笑んで、メイドに声をかける。


「お水を。コップは3つ」


 ギクリとベルトハルトの表情が強張った。

 気にしない事にして、兄の方に向き直る。


「お父様は、この子を捨て駒にするつもりでしょう。それを守るのはお兄様の役目ですね」


 ベルトハルト。特にアロイスルートでイリスと共に彼の野心を支えた人間だ。あまりの有能さにアロイスが直属の部下にするため、奴隷からトラムメリーの養子として引き上げた人物。イリスとはソリが合わず度々衝突していたし、アロイスに忠誠を誓う傍らイリスにはすごく冷たい表情だったのを覚えている。

 いや・・・イリスに限らず、アロイス以外の人間には、か。ルートBの主人公疑惑に悶々としてしまうが、そこでノックの音が聞こえた。

 水を持って来たメイドに「部屋の外に下がっていなさい」と命令。


「お注ぎ、します」


 ややあってベルトハルトは、震える手を抑えながら水を注ぎ始めた。


「3つ目もお願いするわ」


「・・・申し訳ありません、お嬢様。僕は何か・・・間違えましたか?」


 怯えるような目の堕天使に、内心ドキドキしながら平静を装う。


「命令よ。早く注ぎなさい」


「イリス」


 装い過ぎて思ったより冷たい声が出てしまった。アロイスに、戸惑ったような声をかけられて反省する。


「頂きます。お兄様、ベルトハルトも」


「イリス・・・だからこれは?」


「え?あのお父様相手に頑張ったんですよ?私たち。皆で一息ついてもいいでしょう?」


 それを聞いた兄が吹き出して、納得したようにコップを煽った。ややあって、ベルトハルトも。


「緊張したでしょう。まだしばらくは気が抜けないと思いますし、お父様やお母様の目がある間、あなたには正しい評価が与えられない事もあるでしょう」


 これは仕方ない。奴隷なんて、他の使用人からも下に見られ、こき使われるのだろうし。


「それでも、私やお兄様はあなたのやる事に正当な評価をします。

 ・・・今日は頑張ったのだから、冷たいお水を飲んで下さい」


 言って、微笑んだ。


 本当に、今日は疲れたのだ。兄やベルトハルトはきっと自分以上に。

 しばらくはただ、何も考えずにゆっくりしたかった。




(よし、気分転換に魔法の練習だ)


 夕食の後の自室。

 今日も今日とて枕を飛ばそうとする、が。いつもなら簡単に飛ぶはずの枕は中々思うようにいかず難しい。

 何故かを考えて、ああ、と納得。今日はいつもと違う枕だからだ。


 魔法の勉強をしていて分かった事がある。それは、一口に飛行の魔法と言っても二種類あると言うこと。

 つまり風魔法による浮遊と従属魔法による浮遊の二つ。

 最近になって、枕や手帳が飛ぶのは従属魔法・・・闇魔法の特性である掛ける相手への相性が関係しているのだと気付いた。手帳は愛用してるし、枕はカバーは毎日変えても中身ごと変えるのは稀。だからこそ相性が良かったのだろう。


(・・・あれ、て事はもしかして・・・風魔法の方をちゃんと使えば私飛べる?)


 はっ、として愛用の魔法書をめくり風魔法のページを確認。

 目を通せば確かに、自身を浮かす風魔法がある事に気付いた。


(あ、でも燃費悪そう・・・そよ風ぐらいの簡単なのから始めた方がいいっぽい・・・でも私、俗世を離れて飛びたい。空に向かって箒に乗って・・・箒?)


 従属魔法の事を思い出す。


(え、できちゃうんじゃない?でもバランス感覚が・・・ていうかそれがOKなら天女みたいな羽衣でも・・・あれ、それがOKならドレスも・・・)


 悶々と考えて、今日の服装を確認。

 ひと月前に買ったモスグリーンのドレスで、確かアロイスが選んでくれたものだが自分でも気に入っている。


(・・・飛べ)


 念じた瞬間、ぐん、と床が離れてジェットコースターに乗った時の嫌な浮遊感と共に後頭部に激痛が走った。


「っっっ!!うぅ・・・っ」


(おそるべし・・・相性・・・)


 天井に頭がぶつかったと思えば床に急落下。慌てて意識を集中し、床から数十センチ手前、何とか鼻から床にいく事は免れた。


(・・・舐めてた。相性補正・・・すげー)


 一番最初に試した時の服は、確か母親のチョイスだったか。レースのデザインが気に入らなかったのは覚えている。

 しかし、このドレスの好感触はどうだ。これなら、思うままに飛んで綿毛のように国外逃亡も出来るじゃないか。・・・いや、今は物理的に無理か。そう思い直して脱力した瞬間床に落ちた。咄嗟に両手を突き出して鼻を庇った自分を誰か褒めて欲しい。



 そして。皆が寝付いた夜中になって。



(し、しぬーっ!落ち、落ちるー!)


 私は今、空を飛んでいた。

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