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einige  作者: ちあき
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3. 口から先に産まれてきました

 ノックの音と共に「失礼します」と言って入って来たのは私の仕度をしてくれるメイドさんだった。


(もうそんな時間か)


  昨日あのまま魔法の練習に疲れて眠ってしまった。色々な事を考え過ぎたのも原因だ。

 朝からまた父親や兄に会わないといけない。そう思うと若干ブルーだが仕方ないだろう。多少考える時間が出来たので昨日よりは余裕もある。


 メイドさんに準備を手伝ってもらい、朝ごはんへ。


「おはようございます」


 にっこりと微笑んで自席に着くと、父は少し驚いていた。

 昨日の私の嫌そうな態度。あれに対しての父の冷たい目。小さな女の子だから多少は気に病んでもおかしくない。が、私だって精神年齢はもう少し上。朝からテンション低めで朝食を取りたくない。そっちのが気分が悪い。


 アロイスは私の笑顔に呆気に取られたようだったが、子供は素直なので「おはようイリス」と笑顔には笑顔を返してくれる。それでもその後の言葉を続けようか迷っている様子が見て取れた。

 父の顔色と私を伺うように見て、結局は何も言わない辺り、やはりアロイスは賢い。


「・・・おはようイリス。昨日は考えをまとめられたかな」


 父もアロイスの我慢強さを見習えばいいのに。しみじみ思ったが、辟易した態度は表に出さず「ええ」と答えた。


「自分なりに考えました。婚約のお話」


「ほう」


 探るように父が兄を見ている。昨日の今日で、私がこれだけ前向きになっているのだ。大方あの後兄が何を私に吹き込んだのか、興味があるのだろう。兄は兄でそんな父親の目に居心地が悪そうだが。


「私、本当に思いましたの。トラムメリーは今のままで十分豊か、王族との結婚なんてそんな恐れ多い事は嫌だと」


 父の眼光が険しくなる。兄に心の中で謝った。


「ですが・・・私は反省しました。今の私の眼に映るのはトラムメリーの豊かさと我が家の居心地の良さだけ。私の考えはとても浅いのだという事。真にこの領地の為を思っているお父様が薦めるのですもの。私以上のお考えがあるという事。知らない、ではトラムメリーの一員として恥ずかしいという事」


 父の険が取れていってるのを見て、ホッとする兄。


(ふっ、甘いな小僧。話はまだおわっていない)



「なるほど。考え直してくれたか・・・では、婚約の件も了承してくれるな?」

「申し訳ありませんがお断りします」


 間髪入れず言った私に兄は口をあんぐり開けていた。はしたない。


「・・・・・・」

 

 どうやら父も困惑しているようだ。こんな父は中々見ないのでこれはこれで面白い。


「失礼しました。お断り、というのは言葉の綾です。正確には現在の領地の現状を教えて欲しいのです。それから自分なりの考えを得て、婚約の話を考える事にしたいのです」


 要するに昨日の考えさせて下さい大人バージョンだ。昨日と違って、笑顔で、それでいて話している内容が多少屁理屈じみていても間違った事は何一つ言っていない。


(・・・完璧・・・完璧だよ私。さすがだよ)


 自分の頭脳に自画自賛。


「ふむ・・・」


 父は何事かを考えるように押し黙った。しばらくして、顔を上げる。


「お前の考えは分かった。だが婚約の推薦は早ければ早いほど良い。王子にお前の顔を覚えてもらうためにな。

 一週間やろう。3日後リカントの訪問に行く。そこにお前と、アロイスも。付いて来なさい。今日は午後にハーディに着いて簡単な領地の説明。明日はリカント訪問の準備だ。それでいいな」


(みっ、みじかっ!ケチ過ぎでしょうが・・・)


 とは思っても言わない。「ありがとうございます」と笑顔で返すことにした。




(さて。ハーディさんの話が午後からなら時間があるな・・・どうせなら魔法の練習・・・はちょっと疲れるし、お勉強・・・するかぁ)



 面倒だが、父親の提示した期間まで日にちもないのでなるべく時間は有効に使いたい。それならと、屋敷内を探索。目当ての書庫には誰もいない。自由だ。


 適当に本の表紙を確認していくと、魔法概論、魔法基礎単語辞典、魔法技術入門、オトマールの魔素に関する調査、ゲーテの土地から獣人の身体強化術の発展に迫る・・・etc。

 ちょっとした参考書のようなものから報告書、エッセイみたいなものまでいくつかの本が目に付く。公立図書館まで行かずともこれだけの品揃えなら、しばらくは手持ち無沙汰にならずに済むだろう。ひとまず魔法概論と書かれた分厚い本を取って、ゆっくりとページをめくりながら内容を確認する。


(なになに・・・魔法発動の条件。

 魔術師が一流でもその環境によっては十全の力を・・・なんつー難しい本だ)


 書かれた内容の難しさに少々心が折れそうだが、そんな事ばかりも言ってられないかと読み進める。


 曰く、魔法に必要なものは主に3つある。

 まずは魔素。この世のあらゆるもの、たとえば人の体内にも微弱に含まれているこれは全ての魔法の源と呼ばれている。環境によってその量が左右されるのが特徴で、要するにオトマールのような人間の土地では魔素が少ない。オトマールに魔法使い・魔術師が希少なのも、魔素が少ないことによる人材発掘の機会不足が原因の一つだ。逆に魔獣や精霊の住む土地・・・einige冒険者ルートの舞台となったようなファンタジー色の強い土地は魔素が多く魔法・魔術の発動も容易で、魔法を使える者も多い。

 次に大事なのが魔素を貯蔵する核。これは魔術師と魔法使いそれぞれで詳細が異なる。魔術師は魔石と呼ばれる魔素を取り込んだ塊を核とし、魔法使いは身体の一部にその機能が備わっているとされる。この核における魔素の貯蔵量が魔法使いの力量に直結する。

 そして、最後に力の循環を行う機能。魔法使いは核同様に身体に魔素を取り込み、魔法として循環させる機能が備わっている。魔術師は魔石から魔素を循環させるために術式を用いる者が多い。術式の使用条件について・・・は長くなりそうなので説明を省く。


 しかし、魔素、核、力の循環機能があるだけでは魔術の施行は出来ない。バランスが大事なのだそうだ。

 自然魔法とも呼ばれる火、水、土、風、雷魔法は多量の魔素を必要とする。また、氷魔法に関しては火、水、雷の3つの魔法適正がないと使用することすら出来ない。錬金術は自然魔法全てを修めて初めて行えるもの。

 闇魔法は主に精神支配や呪いを主としており魔素、それとこれは闇魔法唯一の特性だが、かける相手への相性が大事だ。因みに従属魔法も闇魔法の一つとされているが、召喚術のみ大量の魔素を必要としており、闇魔法を使える者の中でも限られた人種しか扱えない。

 光魔法は錬金術や氷魔法を含む全ての自然魔法、それだけでなく身体強化術や闇魔法まで使えないと習得されないとしている。

 最後に身体強化術。これに関しては肉体に魔素が通りやすいかどうかが最重要視される。


 einigeにおいてイリスは稀代の魔女とされていた。これはイリスの核が通常の魔法使いと比べて桁違いの魔素の貯蔵量を持っていたこと。普通魔素の少ないオトマールの地では魔石を用いた魔術師が一般的だ。魔法使い、魔女も一定数は存在する。しかし体内魔素が尽きた場合に取り込むべき周囲の魔素が少なければ補充がままならない。

 この点イリスの核が普段の生活から取り込む魔素の量にはキリがない。また・・・普通の人間でも生きている以上、少なからず魔素を発生させる。呼吸すれば二酸化炭素が出る、というのと似たような原理だ。この肉体から発生する魔素・・・すなわち魔力の量は基本的に周囲の自然発生した魔素の量を上回ることはないとされる。それが例え、魔素の少ないオトマールの土地であってもだ。

 人間の土地で身体強化術が重宝されるのは魔素の使用量・・・コストが少ないことが一つの要因でもある。

 しかし、イリスの魔力は明らかに通常のそれを超えている。流石に冒険者ルートで出てきた土地より多いなんてことはないだろうが。


 魔素の貯蔵量、魔女に適した肉体、魔力の発生量。この全てがイリスが稀代の魔女とされた所以だ。

 つまり、魔素の少ないこの土地で普通なら身体強化、あるいは闇魔法から習得を始めるべきだという事。イリスなら自然魔法や光魔法の発動も出来るのだろう。しかし初心者がいきなり上級者向けの魔法を練習したところで、自分の手に負えなければ危険だ。

 そういえば、と今現在練習している浮遊の魔法について改めて考える。


(あれって何の魔法扱いになるんだ・・・?)


 そうこう考えているうちに父の執事より声がかかったため、一旦手を止める事にした。

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