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einige  作者: ちあき
2/12

1. 長い夢だと思っていた時期が私にもありました

 einigeというゲームは中世風の世界が舞台となっている。

 魔法、亜人、魔物が存在するファンタジー作品。主人公は数名用意されており、自分の選んだキャラに応じて物語が進む。

 特筆すべきなのはそのゲームの多様性。領地拡大戦略ゲーム、冒険者になり栄光を掴むRPG、ドロドロしたシナリオゲームに成人指定18禁ゲーム。と、大まかな設定が統一されているだけで、ゲームの進め方も内容も舞台により全く異なっている。

 執筆者は当初3人だったとのことだが、人気に応じて年々主人公とそれに伴うルートも増えてきており、今では10を超えるシナリオライターが関わっているとのことだ。


 なぜこんな事を思い出すのか、それは今現在自分の置かれている状況を把握するために必要な情報だからだ。



「イリスを婚約者に推薦しようと思う」

「・・・早いですね。もうそんな時期ですか」

「王の考えだ。幼い時より絆を育んで欲しいと・・・。アロイスが優秀だから後継の心配は不要だろう」



 父と秘書官の会話が聞こえる。オトマール国王子の話、だと思う。

それにしても7歳で婚約とか、人生の墓場に一直線ルートとは恐れ入る。・・・違うか。これはシンプルに死亡フラグだ。

 主に(イリス)、トラムメリー家長女の。


 話はeinigeに戻る。シナリオゲームの舞台は貴族社会だ。主人公は4人。その中にアロイス・トラムメリー、リート・オトマールが含まれる。

 ・・・そう。アロイスやらトラムメリーやらオトマールやら・・・先程の会話に出てきたキャラクターが。


(夢にしては長いなと思ってたけど、これってさ。もし夢じゃなかったらとか考えてもいいぐらいの案件じゃないだろうか)


 イリス・トラムメリー7歳。()は元々OLだ。20歳+α迄仕事とゲームの世界を行ったり来たり。今回はやけに長い明晰夢だなと思ったのが0歳で乳母の乳を吸ってる時。

なんやかんやで賢く過ごした赤ちゃん時代。そのうちイケメンになるからと煩わしい兄の相手をしたりしなかったりしつつ、どうせならイケメンときゃっきゃうふふする夢が見たいと思って早数年。

 この、夢なのかなんなのかわからない空間でもう7年の月日が経ってしまった。


(夢じゃなくて・・・異世界転生とかトリップとかそんな系統で捉えた方がいいの・・・か?)


 気付くのが遅すぎた。einigeのキャラクター、イリス・トラムメリーは稀代の魔女だ。彼女が辿る運命は・・・。




case:1野心家 アロイス・トラムメリーの場合。


 妹が王子と婚約するよう父に言われショックを受けている事を知ったアロイス。大丈夫お兄ちゃんが可愛い妹の事を守るから!その為には権力を手に入れないと!何、妹は闇魔法が使えるのか!じゃあ邪魔な貴族を消してもらおう!領地も潤って万々歳!第一王子は妹が消したし次は第二王子だ!でも、自分が怪しまれている。どうすれば・・・え、なんだって?何を言ってるんだイリス!全部の罪を被るだなんて!何だそのナイフ!やめ、やめなさ、やめ・・・

 数年後、最愛の妹を断罪し玉座を手に入れるまでになったアロイス。しかし、その側に守るべき妹の姿はない。


 イリス、兄の罪を被るために自死エンド。



case:2第一王子に嫉妬しまくり第二王子リート・オトマールの場合。


 兄がムカつく。けど自分は第二王子なのでしょうがない。今日も奴隷を甚振りストレス発散だヒャッハー。あれ?最近なんか声を掛けてくる女・・・まさか、俺に気があるんじゃね?初恋ズキュゥンしてた、ら・・・

『リートは騙せたようだね。見事な偽装魔法だよイリス』

 兄の婚約者に嵌められた。なんてアバズレだー!よくわからないが罪人だ!罰だ!殺さず痛めつけてやる!

 数年後、イリスが死んだ。四肢切断と抜歯で身体が弱っていたらしい。どうしよう、まだ虐めたりないいい!え、兄上?奴隷制度を無くす?そんな・・・え、兄上が?その責任を取って表舞台から居なくなると?ピコーン。委細承知。第二王子から王太子に出世だ!こっそり軟禁した兄上は身体丈夫だしイリスより持ってくれるよな!


 イリス、怒れる第二王子によって一年かけての拷問監禁エンド。



case:3平凡少女モニカ・ノダックの場合。


 あたしモニカ!愛と勇気がお友達!私にはなんと魔法の素質があるんですって!貴族の令嬢、イリスお嬢様が街を歩いてた私に声を掛けてくれたの!それから始まる魔法の修行・・・やっと師匠、イリスお嬢様も認めてくれたと思ったのに・・・酷いわ師匠!私の力を奪い取る事が目的で声を掛けたなんて!・・・て、あら?思ったより私強くなりすぎちゃってた?それとも仲間がフォローしてくれたから?師匠重傷じゃない。え、魔女を倒した私は聖女?いい響き!え、教会で不自由なく暮らしていけるの?わーい。ああでも教会に蔓延る不正と流行病に大忙し。やっと聖女として暮らせるわー。え、師匠死んでたの?いつのまに!


 弟子に返り討ちに遭ったイリス、治療を続けるも一年で衰弱死エンド。


case:4獣国の捕虜、ミサ・ゲーテの場合。


 一応姫なのに石造りの牢とかないわー。ひでーわー。え、なにあなたどこから来たの?『こんな国ぶっ壊しちゃいましょう』え、なにさんせーい。イリスが来たお陰で脱獄出来たー!よし野郎ども戦争じゃああ!第二王子の首とったどー!綺麗な顔だから家に飾るぞー!ぎゃ!なにするのイリス急に押し・・・え、何その血!私を庇ったの?しかも光魔法で私たちを祝福してくれるなんて・・・この死は無駄にしない!

 数年後、戦争は終わりオトマールはゲーテに吸収された。オトマールの王室にいるミサは涙を拭い防腐処理したイリスの遺体に戦争の終わりを告げる。王室の元主人、防腐加工された第一王子、第二王子の生首が憎々しげに見つめる中で。


 親友を庇ってのイリス戦死エンド。



 そう・・・貴族ルートにおけるイリスはものの見事にデッドエンドを辿る。

彼女の設定が稀代の魔女、ということで使い勝手がいいのか、他のゲームにも出没することが多い。さすがに死亡することは少ないが悲惨な目にあう事は言わずもがな。亜人・魔物ルートでは見事なアヘ顔ダブルピースだったとか。

 魔女、キングメイカー、黒髪金目、リョナという設定から一定のファンもいたため最近ではイリスルートも執筆されているとのことだが、それにしても・・・と、自分の行く末を想像してしまう。


(あ、これあかんやつ。確実に若い歳で死ぬやつ)


 父の部屋の前で私を見かけた兄は、見事な白目にドン引きしていた。




「イリス、大丈夫か?」


 自分の将来を想像し、現実逃避をしたくなった所で声が聞こえた。ハッとして現実に焦点を合わせれば黒髪、金目。間違えることなんてない。兄であるアロイス・トラムメリーが・・・そう、einige主人公の一人。下剋上のために私を滅し、玉座に座った時には何も残っていない残念人間がこちらを見ていた。何故か引き攣った顔で。不思議だ。

 しかし同時に、父や秘書官も扉越しのやり取りが聞こえたらしい。


「・・・イリス?今の話・・・聞いていたのか」


ゆっくりと扉を開けた父親と目が合う直前に目を逸らしてしまう。それだけで、私が扉の外で聞き耳を立てていたことに気付いたらしい。

 父は穏やかで優しい。豊かな領地を持ち、領民の声を真摯に聞き、王家にも顔が聞く権力の持ち主だが私や母には優しい。


「お父さま。私、婚約なんて嫌ですわ」


 その先入観があったからかも知れない。近づいてくる父を見て、咄嗟に言葉が出てしまった。周りは勿論、私自身も驚いている。


「・・・でもねイリス。トラムメリーには必要なことなんだよ」

「・・・今のままでじゅうぶん・・・トラムメリーは豊かです・・・」


 思わず出た言葉なので、父に対する言い訳は用意していない。口ごもる私に、父はため息を吐いた。


「分からないね。現状維持なんて・・・そんな甘い考えがどこから来たんだ」

「・・・!」


 その言葉は冷たい。

 父は・・・寛大で、同時に厳しい人だ。知っていた。

 母や私に優しいのは厳しくする必要がない、なかったからだと言うこと。淑女として十分な教養がある母や、甘やかされるだけでいい私と違って、兄には猛烈に厳しい事をすっかり失念していた。心の中で歯噛みする。


 けれど、この婚約の話を受け取ってしまえば第一王子は必ず私を捨て駒にするだろう。いずれは第二王子の拷問エンドが待っているかもしれない。と言って、父を説得するのは難しい。


(どうしよう。稀代の魔女としてのイリスならともかく、今の私にできることってないんじゃ・・・)


 考えて、考えて。それでも考えがまとまらない。父を制す言葉もなければ、一人で何かをできる力もない。


「アロイス。お前からもイリスを説得しなさい」

「第一王子の・・・婚姻の話ですか」

「あ・・・」


(ちょっと待って!)


 確かアロイスルートは・・・婚約を嫌がるイリスに、王子と結婚しなくていい方法を見つけるとアロイスが約束した事から始まる。邪魔者をイリスの力で呪殺させ、領地改善にも尽力し、有権者として着々と力をつけていく。そうしてアロイスは権力に溺れるのだ。当初の目的を忘れて。

 アロイスルート終盤にイリスは『お兄さまはもう、私のわがままに振り回されなくていいの』と言う。そのまま短剣を持つ兄の手を自分の腹に押し込む、あのスチルは涙腺崩壊レベルだった。とにかく。


(この流れは駄目。あれ、この流れも、か。とにかく違う。や、私が自殺考えなければ、というかそもそもアロイスが約束を・・・え? 婚約喜べばいいの? ・・・いやそれ駄目だって!)


考え過ぎて思考がパンクしそうだった。


「部屋でしばらく・・・考えさせて下さい」

「・・・イリス」

「申し訳ありませんお父さま。ですが大事な・・・ことなので」


 どうにかその言葉を口にして、父が頷いた事を確認し、退室した。くらくらしそうだと思いながら、それでも部屋に着くまでの我慢とやや早足で自室に向かう。その途中。


「イリス」


付き添う兄が伺うように顔を覗き込んで来た。


「もしイリスが望むのなら・・・」

(マジでやめてほしい)


 その言葉を遮るように「お兄さま」と。思ったより硬い声が出てしまったが、それでも譲る気は無い。


「私、一人になりたい。本当に、後悔しないように考えますから一人にさせてください」

(言い切った!流石私!そこに痺れる憧れるぅー)


 そのまま兄の言葉を聞かず、逃げるように自室へ走った。

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