表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
einige  作者: ちあき
10/12

9. 親子とはなんぞや

 真っ直ぐに前を見つめて姿勢は正しく。顔の笑顔も曇らせてはいけない。

 これは大事な取り引きだから。


「第一王子の婚約者に推薦して頂けると言う話。喜んでお受け致します」


 がしゃんという音がして一瞬そちらに目を向ければ兄がフォークを皿に落としていた。

 父は一瞬それに対して厳しい目を向ける。しかし兄への叱責は後回しにするようだ。こちらに向き直る。


「随分と・・・急な話だな。期限には時間があったと思うが」


「期限・・・期限ですか・・・」


 小さく肩を落とし、表情を曇らせる。今のところ完璧だ。


「嬉しい・・・お父様は、時間稼ぎの私のつたない言い訳を、私の意見を汲んでくださっているのですね」


「いや、それは当然だろう。可愛い娘なのだから」


「本当に? 嬉しいです・・・でも、でも聞きましたわ。お父様の愛情は私とは違うのでしょう・・・?」


 きっと睨みつけるようにアロイスを見れば、アロイスはギョッとした顔をしている。父は父で「アロイス、イリスに何を吹き込んだ」と咎めていた。


「な、何って何を・・・?」


「私は聞きました!」


 兄の声に被せるように声を張る。



「お父様と私は結婚出来ないのだという事を!!」


 がしゃんという音が再度聞こえた。またかと呆れれば、よく見ると今度は父親がフォークを落としている。


(あ、掴み良しかなこれ)


「い、イリス? お前は何を言っているんだ・・・」


「私お父様と結婚したかったのに!」


「イリス!?」


 今度は兄が声を出している。はしたない。


「分かっているんです。どれだけ私がお父様を愛していても、お父様は私の事なんか・・・でも、でも酷いわ! お父様は私を早く嫁がせようとするし、お兄様は『親子は結婚出来ない』とか意味のわからない事をおっしゃる!!」


 父が同情するような目をアロイスに向けていた。いや、作り話なのだからそんな可哀想に思う必要はこれっぽっちも無いのだけど。


「領地について学びたいと言ったのは・・・?」


「お父様の治める領地について見聞を深めるため。それにお父様と少しでも一緒に居たかったし、ま、時間稼ぎです。それが何か?」


 あざとく、を心がけてこてんと首を傾げれば、父は頭を抱えていた。


「良いんです・・・私これ以上、お父様を困らせたく無い・・・」


 顔を上げた父は、私の顔に水滴が伝っているのを見て目を見開いている。

 ちなみにアロイスは、父の視線が逸れた瞬間にグラスの水で小細工した妹から秒で視線を逸らしていた。


「わたっ、私はただ、おと、お父様とっ・・・」


 そして大きな声で泣き出した(フリをした)。

 そう、これでも自分は7歳の小娘なのだ。何を不安に思う事があったのだろう。

 この年齢なら多少話が破綻していても子どもだからと許されるのに。


「い、イリス落ち着きなさい! アロイスは別にお前が憎くて私と結婚出来ないなんて・・・」


「でっ、ではお父様はっ、私と結婚してっくださいますのっ」


「いやそれは出来ないが」


「やっぱりお父様は私の事が嫌いなんですわ!」


「ご、誤解だイリス!」


 そうして父が、法律や親子の婚姻について懇々と、どこか丁寧すぎる程に説明を始める。

 話が終わった時には兄は口から魂が出た様な状態になっていた。


「わ、分かりました・・・お父様と結婚出来ない事は・・・ですが、ですが私をこんな早く嫁がせるのは・・・お父様は本当は私の事がお嫌いなんじゃ・・・」


「違う! 違うから! 私はイリスを愛しているから!」


 あの厳格な父が切羽詰まったように否定する。その光景に、心の中でほくそ笑んだ。


「では・・・では、証を下さい。お父様が私を愛している証を・・・」


「う、うむ。何がいい? 宝石か? 菓子でも・・・」


「お父様は私を宝石か菓子程度にしか愛して下さらないの?」


「違う! いや・・・す、すまんがイリスは何が良いと思う・・・?」


 あの父が。

 領民には優しく家族にも慈しみを持ち、それでも必要に応じてどこまでも厳しくなる父が。手のひらで踊っている事に内心の高笑いが止まらない。


「今日お兄様と市街散策の予定ですね。

 その時に私が欲しいと思ったものを下さい」


 思ったより静かな声が出た。

 それでも、それに納得したのは他でも無い父だ。愛娘(イリス)が、普通のものを欲する訳が無いのに。



「・・・何だったんだあれ」


「あらお兄様。もう支度出来たんですか?」


 父との話が終わり、自室で一息ついていれば兄が訪ねてきた。


「今日は比較的危ない地域に行く事にしていますから、何か身を守れるものを用意しておいた方がいいですよ」


「いやさっきの話を・・・危ない?」


「ああ! さっきのお父様の顔見ました? 傑作過ぎて、私あのお馬鹿なやり取りで今日は熟睡できそう!」


「いや待て! 危険って・・・」


「ああ、今日はリカントでも・・・多分ですが比較的治安の悪い場所に行きます。私も早く準備しないと」


 父はあれでも賢いから、娘に押された今でなければあそこに行くのは難しいだろう。


「ベルトハルト、兄を頼みますよ」


「かしこまりました・・・お嬢様」


 あそこに行くという事は、魔法が使えないという事。

 自分も、気を引き締めなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ