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7人の罪  作者: 芦高未結
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一人目

初めての執筆。

暖かい目で見ていただけると嬉しいです。

一人目


高梨悠人は売れない芸術家だった。

彼が芸術家になったのは、中学生のときに描いたポスターが県の小さなコンクールで最優秀賞を貰ったのがきっかけだった。そのコンクールは少し丁寧に描けば簡単に入賞できるほどの小規模なものだったが、それまで勉強でも運動でもあまり活躍することのなかった彼にとっては初めて、周りからちやほやされた出来事だった。


彼はそのコンクールの規模がどれほどのものなのか知らなかった。だが、どんな規模のものであれ、県でトップになったのだ。勿論彼に芸術の才能などというものは無かった。それでもその功績は、彼を自惚れさせるのに十分だった。その日から彼は、毎日ひたすら絵を描くようになった。勉強はほとんどしていなかった。なんとか地元の底辺校に入れるレベルだった。しかし、親も教師も、誰も彼を止めなかった。今まで何をするにしても適当に済ませ、サボることばかり考えていた彼が初めて、自分の意志で何かを始めたのだ。今、彼を失望させたところで彼がその情熱を勉強に向けるとは思えなかった。それにどうせ彼のことだ、きっと暫くすれば飽きるに違いないと誰もが思っていた。


彼はその予想を見事に裏切った。高校に入ってからも彼は留年ギリギリのラインを保ちながら絵を描くことに没頭していた。中学のときの入賞以降、彼の作品が表に出たことは一度もなかったが、彼の頭の中には画家になるという選択肢以外無かった。自分のセンスがわかるような優秀な審査員はこの県にはいないのだとまで思っていた。


高校を何とか卒業し、彼はとうとう本格的に芸術家としての活動を始めた。誰に渡すわけでもない名刺を大量に作り、肩書きには芸術家と書いていた。そして毎日のように絵を描き続けた。

同じ企業に何度も作品を投稿したこともあった。しかし、彼の作品が認められることは無かった。

君には才能が無いのだという趣旨の手紙が送られてきたこともあったが、このセンスがわからない貴方のほうが審査員を辞めた方が良いと返事を出す始末だった。

両親は高校を卒業して少しして他界した。友人は皆就職や進学を果たし、いつまでも現実を見ない彼とは自然と距離を置いていった。最早彼を止める者は誰もいなかった。少しの借金を抱えながらも、いつか自分の才能をわかってくれる人が現れると信じて絵を描き続けた。最も、その努力が報われることは絶対に無かったのだが。


ある日、彼は題材を探しに散歩に出た。お気に入りの工場のある通りから一本逸れた道を通ることにした。閑静な住宅街で、暖かい雰囲気の通りだった。たまには違う道も良いな、と思いながら角を曲がったところで、彼は今までに見たことのないような女と出逢った。その女は庭の花に水をやっていた。白いワンピースが長く伸びた黒髪を際立たせていた。彼女は彼と目が合うと、軽く会釈して、真っ白な壁の、庭に芝生の生い茂る家に入っていった。


芸術だ、と思った。


彼女を自分の手でもっと美しくしたいと思った。


11月の外はコートを着なければ体が震えるほどに寒かった。

家の中でストーブにかけた鍋の湯が沸く音が聞こえた。

彼女のことをもっと知りたいと思いながらも、家でもそろそろストーブを出そうと思い、早足で家に帰った。


その日彼は、彼女の絵を描いた。しかし、どんなに沢山の色を使っても、どれだけ描き直しても、彼女を見たときの感動を表現することができなかった。彼にはその理由がわからなかった。きっと今日は気持ちが高ぶりすぎているせいだと自分に言い聞かせ、その日は眠りについた。

次の日、彼は彼女の彫刻を作った。結果は昨日と同じだった。あの胸が踊るような感情を、彼の力ではどうしても形にすることができなかった。

次の日も、その次の日も彼はあらゆる形で感動を表現しようとした。が、結局できなかった。いつからか、彼女の存在は彼を苦しめるようになっていった。

しかし、"芸術家"としての彼のプライドは、一度作ろうとした作品を諦めるのを許さなかった。

ストーブの上のやかんが湯を沸かす音を聞きながら、彼なりに考えに考えて、ある結論にたどり着いた。



もう一度彼女を見れば、最高傑作を創ることができるかもしれない。



その日の夜、彼はストーブのための灯油を買いに行き、その帰りに車でもう一度彼女の家を訪れた。

そこで彼は、ベランダに出て恋人と楽しそうに話している彼女を見つけた。

二人の息はその家の壁のように白かった。


その光景をぼんやり見ていた彼の中に、ふと最高のアイデアが生まれた。

彼は車に戻り、灯油を持って庭に戻ると、丁寧に芝生に巻いた。

冬ならではの匂いが鼻をついた。

その独特な匂いから逃れようと顔を上げると、彼女と目が合った。


彼女の目は見開かれていた。


その目に映る彼の右手にはライターが握られていた。


彼は彼女を見たまま静かに微笑んで、そして、青く生い茂る芝生に火を付けた。


芝生の青が、壁の白が、みるみる赤に変わっていった。


闇の中、その赤だけが輝いていた。

一瞬の出来事だった。

ベランダの男女も、逃げる間も無く赤に染まった。

ただ、美しかった。

周囲から出てきた野次馬も、一歩も動くことができずにその真っ赤なオブジェを見つめていた。

これまで見てきた芸術作品と比べても、最高傑作だった。


最高傑作を目の当たりにした瞬間、別の感情が湧き上がってきた。


迷う必要なんて無かった。


まっすぐに自分の作品を見て、そしてゆっくりと足を踏み出した。






そして、彼は彼の最高傑作の一部となった。


いかがでしたか。

拙い文章で申し訳ないです。

意見、批判等ありましたらお気軽にお申し付けください。

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