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放課後の雑談  作者: 暇人
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放課後の雑談

妄想と不審者と喧嘩と


 とある学校の昼下がり、誰もが夢うつつの世界に引き込まれる五時限目。

 社会の先生のゆったりとした声にクラスの大半の男子、そして数人の女を捨てている女子が夢の世界に誘われていく光景を、俺は横目で見ながら微笑み、(日常)という大切なものを再確認する。  

 なんとしてもこのかけがえのない日常を悪の手から守り切らねばと改めて決意する。  

 いつ消えるともわからない微かな幸せを味わっていると、教室のドアが勢いよく開き、入ってきた男は、静かに眠りについている生徒をたたき起こすように、開口一番

 「ヒャッハー! 皆殺しだぜ!」 といかにもな、いかにもすぎて寧ろ今となっては全くと言ってもいいほど聞かなくなったセリフを口にした。

なんて脳内では余裕そうな口ぶりだが、事態は相当深刻だ。

 いきなり入ってきたこの不審者は、拳銃を所持しているし、なにより明らかに精神状態が正常ではなく、目も泳ぎ、いつ発砲してもおかしくないような精神状態のため、話し合いなどできそうではない。

 今人質に取られている長谷は、人質の価値なんてないからいいものの、長谷が撃たれた後に人質に取られてしまうであろう、神奈月さんは、クラス一の美人、更に調理部に入っており、家事まで出来る上に、性格まで天使のような清らかさだ。 長谷なんかとは人としての価値が違う。 あ、長谷撃たれた。

「キャー!!」

「ホントに撃ったぞ!!」

発砲音の残響と、鼻につく火薬のにおいが、みんなの精神を揺さぶる。

まずい、このままでは教室内がパニックになってしまい、それによってパニックになった不審者に新たに人質に取られてしまった神無月さんが打たれてしまう!!

「あれ、でも今撃たれたのって長谷じゃね?」

「え? あ、撃たれたのながたにえん? なんだよ、ビビッて損したわ!」

しかしどうやら撃たれたのが長谷(ながたにえんは渾名)だとみんな気づいたようで、次第にみんな落ち着きを取り戻していく。

しかしながら、クラスのマドンナ神無月さんは依然として不審者に人質に取られたままだ、これは不審者がクラスのみんなの行動に混乱しているうちに、一子相伝の奥義で……「ちょっと待った!!」



 長谷の無駄にに大きな声で舞台が五時限目の教室から放課後の雑談部に移される。


今俺達は雑談部、通称「雑部」の部室で5時限目に俺が見た夢の話をテーマに部活動……まあつまり「雑談」を行っていた。


「なんだよ長谷、今から俺が一子相伝の奥義で神無月さんを助け出してハッピーエンドに持っていくところだったのに、トイレか?」


全く……トイレぐらいなら我慢してくれよ、ホントに空気読めないやつだな……。

「いやいや、え? おかしくない? 明らかにクラスの皆の反応可笑しいよね!?」


この執拗に俺の5時限目に見てた夢の話にケチを付けてくる男は長谷俊哉、手先の器用な事以外特に特徴の無いところが特徴の男だ。


「いや、クラスの皆の心情は確かに的を射ていた、しかし、今の話には少しばかり要らない情報が多く、必要な情報が少なく感じたな……」


コイツは氷室 翔太 変態だ。 それ以外には特に特徴はない。


「いや、全然的を射てないよね? なに? 俺みんなにそんなふうに思われてたの?」


「というと?」


「あぁ、まず最初のクラスの風景の描写が要らない」


「ふむふむ」


確かに、話しているのは同じクラスの奴らだから教室、だけで事足りただろう。


「おい! 何無視してんだよ!え? マジでか俺そんなふうに思われてたの? 」


「次に、お前の思考のシーンと、不審者が入ってくるシーンが要らないな」


「ふむふ……む?」


ん?そのシーン抜けたら不審者入ってこないぞ?


「そして最後に長谷のシーンが最も要らない」


「なるほど、そこは確かに要らないな」


「おい! 散々な扱いしておいて要らないはないだろ! 要らないは! いい加減泣くぞコラ!」

長谷は血の涙でも流しそうな勢いで抗議してくる。


「いや、まずお前が男という時点で価値はない、生まれ変わってやり直せ」


しかし、男に対しては血も涙もない氷室にはそんな口論は暖簾に腕押し、もとい、氷室に男だ。


「なるほど、しかし、それらを取り除くとなると後は一体何が残るんだ?」


クラスの描写も不審者の描写も長谷の描写も……いや、これは要らないか。

しかし、不審者が入ってこないとなると俺も一子相伝の奥義が打てないんだが……。


「神無月さんが残るじゃないか」


「なるほど、死ね」


ノータイムの死ね、日本語訳で「消えろクズが」だ。


「なんでだ! 明らかに今のお前の話神無月さん以外存在価値なかっただろ!」


「何を言うか! 確かに長谷は要らなかったのは認めるけど、俺の覚醒からの奥義で神無月さんとのハッピーエンドは必須だろ!」


「おい、お前! 今俺の下りじゃなくて、俺を要らないって言っただろ! 俺の存在そのものを否定しただろ!」


「てゆうか、そもそもなんでお前が神無月さんとくっつくんだよ! 俺がくっつくべきだろ!」


「なんで、何もしてないお前と神無月さんがくっつくんだよ!」


「おいこら、なにシカト決めてんだコラ、あぁん?」


「「うるさいぞ、ながたにえん! 今真剣な話してるんだから邪魔するな」」


「なんでお前らそういう時だけ息ぴったりなんだよ! ムカつくな!」


「とにかく、お前の話は無駄が多過ぎる!

俺が推敲してやるから聞いとけ」


「最低限不審者はだせよ」


「わかってるって」


「いやおい! 俺はまだ納得してないぞ!」


という訳で氷室の男子高校生定番の妄想ネタである、「もしもいきなり教室に不審者が入ってきたら」の話が始まった。


昼下がりの5時限目、カーテンの隙間から差し込む仄かな暖かみのある光が神無月さんを照らす。


社会のセンコーの無駄に長く眠くなる話にも真剣に向き合いノートをとる慈悲深き姿はまさに女神そのもの。


常に前を向き、光のみを映すその眼にはダイアモンドでさえ、輝く事を躊躇ってしまう。

黒くあでやかな髪は何人の目線をも逃さずブラックホールのように一度捉えたら逸らす事は出来ない。


その髪の下から時折除く真冬の新雪のように白く輝くうなじはあまりの美しさ故に道行く人たちを凍らせ、動きを止めてしまう。


少し高めの鼻に、シミ一つない柔肌、その中で紅く煌めく唇はまるで白百合の中に咲く一輪の薔薇のような儚さを醸し出している。


綺麗に着こなされた制服とセーターは、この人のためだけにこの世にあるのだろう。


先程からうるさく喚いているむさくるしい不審者や、その人質として今にも撃たれそうな、長谷なんかとは生き物としてのレベルが違う。

あ、長谷が撃たれた。


まあその事は置いておいて、不審者に捕まり、涙目になった神無月さんも愛おしい。


目尻から流れ落ちる天使の蜜は、世界中のどんな液体より高価で貴重だ。

強盗が脇の下から神無月さんの90cmのバストを支えるように腕を回している。

畜生、なんて羨ましいんだ。


と、ここで冷静沈着な俺は重大な事に気付いた、神無月さんの身長は159cm、不審者は恐らく170超えだ、そんな身長差で脇の下から腕を通されて持ち上げられてしまったので、無理な体制にシャツとセーターが持ち上がりなんと、58cmのウエストに控えめに凹んでいる可愛いへそが見えてしまっているではないか!


いや、まてよ……それだけじゃない!

無理やり後ろに引っ張られることにより、92cmのヒップをこちら側に突き出すような形になってしまっている。

つまり、スカートの中身が見えそうだ!


ま、マズイですよこれは!


スパァン!

これ以上はそろそろ色々なのもの引っかかる気がしたのでそこら辺にあった学校案内の時のパンフレットで引っぱたいておく。


「オメーの方が不味いわ! なんで、入学してまだ一ヶ月経ってないのに女子のスリーサイズ知ってるんだよ!」


「てか、俺が死ぬシーン適当過ぎだろ! なんで二人とも、「あ、長谷が撃たれた」しか描写がないんだよ! おかしいだろ! 」


二人のツッコミに氷室は全く何を言っているんだというふうに溜息を吐きながら答える。

「いいか? スリーサイズを知っているのなんて健康診断の資料を盗み見たに決まってるし、ながたにえんの死亡シーンなんて需要がないだろ? この世は需要と供給で成り立っているんだ、いい加減学べ、ながたにえん」


「盗み見たに決まっているのか……なんて言うか……最高に最低だなお前……」


「需要ないなら殺す必要ないだろ! なんで執拗に俺を殺すんだ!」


「てか、そもそも神無月さんの描写が多い上に細過ぎて不審者がいつ入ってきたのかすら分からなかったぞ、いきなり不審者が現れていきなり長谷が死んだぞ」


「そうだよ! 何お前神無月さんの描写の所だけ微妙にかっこよくしようとしちゃってるの? 全然カッコよくないから! 売れないミュージシャン並にダサかったから!」


「オラぁ!」


「グフぇっ!」

氷室の飛び蹴りが座っていた長谷の顔面にクリーンヒットする。


「な、なんだテメェいきなり!」


いきなり蹴られて怒り心頭の長谷。


「うるせーな!テメーが恥ずかしいとこ突いてくるからだろ!」


逆ギレする氷室。


「だったら、テメーそんなに俺を雑に扱うなや!」


あ〜あ、喧嘩の始まりだ……。

さて、じゃあ俺は我慢一つ出来ない猿共の醜い喧嘩でも見学しま「ふがっ!?」


長谷の投げた椅子が俺の顔面に激突する。


「ふざけやがって!今投げたヤツ、マジ覚悟しろよ!!」


「上等だオラ! 元はといえばテメーのアホみたいな夢の話から始まったんだ! 落とし前つけろやゴラァ!」


「アホみたいとはなんだ、アホみたいとは!」


「うるせぇ! アホみたいだからアホみたいななんだよ!」


「アホ!ボケ!カス!」


「クズ! ゴミ! か……クズが!」


「なに詰まってんだよ! クズ2回言ってるぞカスが!」


「うるせぇ、お前が先にカス使うからだろうが! カスが!」


「まあまあ、落ち着けカスの二人」


「「なんだとコラ?」」


氷室の火に油を注ぐ一言で益々喧嘩はエスカレートする。


このまま喧嘩は永遠に続くと思われた。

しかしそんな喧嘩を止めたのはドアに響くノックの音だった。


「「「あぁ? 誰だ空気読まないキチガイ野郎は?」」」


三人揃ってメンチ切りながら勢い良く雑部のドアを開け放つ。


果たしてそこにいたのは……。


「「「か、神無月さん?」」」


そこにいたのは、男子3人の剣幕に押されて少し涙目になった神無月さんだった。


「あ、あの……今、調理部の活動で……他の部活にクッキー配ってるんですけど……お邪魔してすいませんでした!」


まるで肉食獣から、逃げる兎のように宝物(手作りクッキー)を持って逃げ去ってしまった。


「「「…………」」」


「なぁ、もう喧嘩は辞めにしないか?」


誰からともなくそんな案が出た。


天使からの手作りクッキーをそれが原因で逃した3人に、それを断る者など、いようはずも無く。


ホワイトボードに書かれている部員名、変態の氷室翔太ひむろしょうた、そしてツッコミ役の長谷俊哉ながたにしゅんや、最後にこの俺、部長の塚本智則つかもととしのりの名前の下に大きく、新ルール!喧嘩禁止!! と書かれたのであった。


今回の一件で学んだ事は笑う門には福来るが、喧嘩の声には福も帰る。

という事だ。


設立してから二週間、今日という日は雑部の活動である雑談が初めて一つ、世の中の真理を見つけ出した記念すべき日となった。


……まあ、代償は大き過ぎたけど……食べたかったなぁ手作りクッキー……。





「昆虫達と、氷室の変態と」


「なあお前ら、突然だが、女性のストライクゾーンは何処から何処までだ?」


いつも通り雑部の部室で下らない雑談に華を咲かせていると、突然氷室が真剣な表情で問いかけてくる。


スライムが現実にいたらどれくらい気持ち悪いかの、話からなぜそこに飛ぶのかは全く意味のわからないところではあるが、手持ちのスライムネタも尽きてきたし、それなりに興味のそそられる話題だ。


果たしてこいつら二人の女性の好みというのはどうなっているのか……氷室はまぁ、女性ならOKとかだろう、長谷は……まあ普通そうだな……。


まずは話の始まり手である、氷室が自身のストライクゾーンを話し始める。


「まずまあ、俺は女ならなんでもいいな」


よし、的中!

所詮氷室と言えどもその程度の変態か……フッ、想定内だぜ!!

ロリもババァも行ける奴なんてこの世の中にはいくらでもいる、所詮お前は大量生産された中の1変態でしかないという事だ!!


俺は内心ほくそ笑んでいた、しかし俺はまだまだ甘かった、この氷室翔太という男の変態性を何処かで甘く見ていた。

そんな、俺の甘さはこの後の会話で氷室の名の元に、正しく凍りつかされていくことになる。


「ヒャー、流石氷室だな、なに? お前ロリもババァも行けるの?」


長谷が普通の返しをする、全くこの男はこれしか出来ないのか……。


「あぁ、もちろんだ、ロリもババァも等しく女性だ」


流石変態もとい、フェミニストだ。

しかし、その程度なら、いくらでもいる、堕ちたな氷室!


「二次元も、動物も、昆虫でも、それが女性ならば、全てストライクゾーンド真ん中だ」


なん……だと?

二次元動物はまだ分からなくもない、二次オタや、ケモナーというジャンルが存在するという事は風の噂に聞いたことがある……。


しかし、虫? なんだそれは? この氷室という男は虫でさえも興奮出来るというのか?

そうか! いつか聞いた虫をご飯のお供にする人がいるという話。 あれはそういう意味だったのか……。

※違います


「いや、それストライクゾーン以外無くね?そのキャッチャー一人で外野まで守ってない? 」


長谷の言う通りだ、そんなの何処に投げてもストライクじゃないか……。


なんと恐ろしい男氷室翔太……、あんなのが等身大になって出て来たら俺だったらションベンチビって逃げ出す自信があるというのに……この男はそれに興奮するのか。


「まあまて、そう恐れるな虫というのは実にいい物だぞ?」


氷室は教えを広める宣教師のような優しい目と口振りで力強く話を続ける。


「何故なら昆虫の世界はハーレム形態が多いんだ!」


「「……は?」」


俺と長谷の声が重なった。

恐らく考えている事も同じだろう二人とも考えている事は「何言ってるんだコイツは……?」だろう。


「二人とも、何言ってるんだコイツは? って顔だな」


どうやら俺達の顔から察した様だ。

しかし、聞いてればわかるとでも言いたげな目線をこちらに向けて、続きを話だした。


「いいか、例えばお前ら、蚊って知ってるか?」


「蚊ってあの血を吸ってくる夏に出るあれ?」


蚊といえばある意味夏の風物詩、水場に多くいるあの蚊だ。


「あぁ、あのウザったらしいやつな」


長谷も同じ認識の様で俺の意見に同調してくる。


「いいか、お前らの言ってる血を吸う蚊って言うのはな、全てメスなんだよ!」


「えぇ!? あの沢山いる蚊の全てがメス!?」


「嘘つけ! それに、それじゃあ子孫を残せないじゃないか!」


確かにその通りだ、メスとメスでは子孫は残せない。

俺らをそちら側の世界に引き込むために嘘をついたのだろうか?


「いや、嘘じゃない! 蚊はメスの産卵準備のためにしか血を吸わないのだ! だからオスがいないという訳では無い! 普段俺らの周りにいる蚊はメスだという事だ!」


「なるほど……」


長谷が腕を組んで感心している、正直そこまで感心する程でもないと思うが、確かに知らなかった……。


「それは知らなかったなぁ…………で?」


確かに知らなかった、だがしかし、だからなに?


「フフフ……まだ分からんか二人とも……いいか、つまり、俺達は夏の間蚊のメス達に囲まれている……つまり、ハーレム条件だという事だ!」


「なん……だと?」


なんという発見だろう、これは今世紀のノーベル賞は間違いなくコイツが受賞するだろう。


「な、なるほど……確かにそれは一理ある、というかそれが全てまであるな」


長谷も同じく氷室の圧倒的な才能により感心を深くしているようだ。


「しかも!」


「しかも? まだ続きがあるのか!?」


もう既にノーベル賞クラスなのに、これ以上付け足されたら人間国宝レベルだぞ!?


「う、嘘だろ? さ、流石にこれ以上は……」


そう言う長谷の膝は震え、畏れおののいていた、しかし同時に好奇心ゆえか、口元のニヤケを隠せていない。

好奇心は猫を殺すが、時に好奇心は人をも殺しうる。

もし、この後これまで以上のインパクトが来たなら耐えられない……。


氷室の口が重々しく開く。


「しかも、働き蟻も働き蜂も、全てメスしかいない!」


「ゴフゥ……」


長谷は耐えきれずに倒れ込んでしまった。


仕方ないだろう、俺でさえなんとかギリギリの状態だ、膝は震え、息も荒く、なんとか立っているという感じだ。


それにしても、なんて破壊力だ……氷室翔太……恐ろしい奴。


「つまり、地面を見ればいつでもそこに女の子が居る、つまり、俺達は常にハーレム状態という訳だ……」


「あばばばば……」


残念ながら長谷はもう脱落してしまったようだ、彼女いない歴=年齢の奴にはキツかったか……、友達のノリで告白して、なんかOKでちゃって交際経験のある俺でさえギリギリの戦いだった……。

だがまぁ、よく頑張った……仇はとってやるぞ!

ここからはこっちのターンだ。


「なぁ、氷室……その蜂達についてだが、お前は知っているか?」


「なんだ?」


「例えば、スズメバチとミツバチ、お前ならどちらが好みだ? もちろん両方メスだ」


「……スズメバチだ、多少荒々しい性格の方がエロさを感じる」


かかった! よし、これまでのコイツと過ごしてきた経験上コイツはどちらかと言えばコイツはMより、よってここでスズメバチを選ぶのは自明だ!


「ふっふっふ……それは甘いな」


「なに?」


俺の反応にどういうことかと、疑問を顕にする。


「いいか、ミツバチよりスズメバチの方がエロい、この考えが間違い、ミスセレクションだ!」


「なんだと? どういうことだ!」


「確かにミツバチよりも、スズメバチの方が大きいしあの色もなんとなくエロっぽく感じる、しかし、そんなあやふやなものではなく、ミツバチとスズメバチの間には決定的なエロさの違いが存在する!」


「なん……だと?」


氷室は先程の俺達の反応と同じ反応をする。


「その違いはズバリ針だ!」


「針?」


「あぁ、スズメバチの針は毒針として、特化しているゆえに針を排卵管として使わない、しかしミツバチは針がそのまま排卵管になっている、もう……お前ならこの意味がわかるな?」


「まさか……」


徐々に氷室の顔色が悪くなっていく。


長谷……もうすぐお前の仇を打つからな……。


「そう、つまりスズメバチはただの武器を外に出して周りを威嚇しているだけだ、それに比べ、ミツバチは、常に女性器を外に出しているようなもの! つまり、常日頃から露出プレイをしているんだ!※違います」


「ごばべしゃぁ!」


「長谷……仇はとったぞ……」


「うん、まあ別に死んでないんだけどね」


寝転がっていた長谷と、一度倒れた氷室が頃合を見て起き上がってきた。


「あぁ、それにしても塚本、お前なかなかやるじゃねぇか、流石部長だぜ、まさかミツバチがあんなに淫乱だったなんて……※違います」


「なに、紙一重の差だったよ、次はどうなるかわからない」


「俺なんか今回はやられっぱなしだったしな、二人とも凄かったぜ、まさか虫がここまで魅力的なものだったなんて……」


戦い終わった部室でお互いの健闘を称え合う。

それにしてもまさか虫という生き物がここまで魅力的なものだったなんて……、本当に驚いた。


そんな、一段落ついた部室に来訪者。

コンコン……。

新しい世界への扉を開いた俺達にはそのノック音すら心地よく聞こえる。


「はい、どうぞ~」


ついつい、返事の声も高くなってしまう。

果して、そこにいたのは。


「あ、池田先生ですか、こんにちは」


社会のおじいちゃん先生、池田先生だった、授業は年ゆえの滑舌とリズムで皆を睡眠へと誘ってしまうが、滅多に怒らず、いつもニコニコしている事から生徒達に人気の高い先生だ。


「チッ、男かよ……」


まあたまにこんな奴も居るけど。


「で、池田先生、私達に何のようですか?」


「あぁ、それがねぇ、うちの社会科準備室すにねぇ、シロアリが出ちゃったのよ」


「「「しろ『アリ』!?」」」


噂をすれば影とはまさにこの事だ。


「う、うん、で、退治したいんだけど私も年でねぇ、一人じゃ難しいって事で、先生に聞いてみたら、みんな口を揃えてここの3人はいつも暇だ、なんて言うもんですから、来てみたというわけなんですよぉ……という訳で……手伝ってもらえませんかぁ?」


手伝ってもらえませんか? だと? そんなもの答えは決まっている。


「「「是非!」」」


喜んでやらせてもらいますよ!





「という訳で、やって来ましたハーレム……もとい、シロアリ駆除に社会科準備室!」


氷室も珍しくやる気満々だ、それもそうだろうこれから行くのはなんと言ってもシロ「アリ」だ、メスしかいないハーレムに飛び込んでいくようなもんだ。


俺もなんだかテンション上がってきたぜ!


「はえー、俺社会科準備室初めて来たな~」


そういや俺も初めてだな、校内見学の時以来か来たのは。


「まあ、私達職員も殆ど入らない場所ですしねぇ……それゆえにシロアリも湧いたんでしょう…………ほら、鍵開きましたよ、これがシロアリ駆除セットです、シロアリは右前方の柱にいるのでよろしくお願いします」


「あれ? 池田先生はやらないんですか?」


「すいません、私はまだ仕事がありますので……ちょくちょく見に来ますのでよろしくお願いします……」


そう言うと池田先生は足早に、といってもご老体に響かない程度に足早に行ってしまった。

しかし、これは千載一遇のチャンス!

先生がいないという事は人の目を気にせずハーレムを作れる!!


「「「ひゃっっほーい!」」」


三人はシロアリ駆除セットを無視して走り出した、愛しのシロアリがいる右前方の柱へと!


「あぁ、いるいる! 愛しのアリ達……こっちへおいで……」


柱に群がる白い大群、これら全てがメスだ、この指をつたって登ってくるアリたち全てがメスなのだ。

なんというハーレム、なんという酒池肉林。

ラノベやアニメの主人公だって、これ程までの女性を相手にした事は無いだろう。


「ちょい、ちょい、」


長谷はおっかなびっくりアリたちをつついているだけの様だ。 やはり女慣れしていないな、まあ、数分もすれば慣れるだろう。


「フー………………」


氷室に至ってはもう悟りの境地にいる様だ、座禅を組んで両の掌を床に付け、その腕から腕への道をシロアリたちがとめどなく流れるように歩いていく。

あやつこそ正にハーレムマスターよ……。


シロアリ駆除を頼まれてから三十分後、もう既に三人とも悟りの境地に達していた。

その中でも氷室の悟りはダントツで深く、チラリと横目で座禅を組んだままで視線をやると、顔以外の全てが真っ白に染まっている、ちなみにうちの制服は下が紺の長ズボンに、上は白いシャツと、黒いブレザーという至って良くある制服だ。

俺の記憶が確かならば氷室も今日はブレザーを着ていたと思うのだが全身真っ白だ。

もう柱には一匹たりともシロアリはいない、恐らく全て氷室にくっついているのだろう。


さすがハーレムマスターだ、ここら一帯のシロアリを全て虜にしてしまうとは……。


そんな三人が悟りを開いている準備室のドアが叩かれる。


「おーい、シロアリ駆除、進んでるかー? っておい、駆除セット置きっぱなしじゃねぇか……なんだ? あいつらサボってどっか遊びに行っちまったのか?」


この声は、生物の若手教師大西先生!

そのルックスと、授業中のちょっとした豆知識が受けて女子達から人気な生徒だ。


「先生! サボってませんよ! 中にいます」


「おおっ、そうか! 手伝いに来たぞ! 」


そして、準備室のドアを開けながら大西先生はこう言った。


「いやー、てっきり気持ち悪くなって逃げ出したのかと思ったぞ~、なんたって、シロアリは『ゴキブリ』の仲間なんだからな~」


瞬間、その言葉は殺虫剤よりも力強く、俺達の心を壊した。


「って、うおおっ、何してんだお前ら! その白いの……もしかして……」


「「「う、うわぁァァ!!」」」


「おい、氷室が余りの気持ち悪さにぶっ倒れたぞ!」


「「人に構ってる暇ありません!!」」


大西先生の言葉ももう、俺達には届かない、自分達の事でもう精一杯だ!

長谷と俺は、跳んで跳ねて転がって、一心不乱に暴れ回る。


「フゥ、フゥ、フゥ……なんとか取れた……」


腕と肩にしかシロアリが居なかった俺達はなんとか振り払う事が出来たが、氷室はもう……クッ……何故そんな姿に……。


「見ろよコイツ……顔から色が抜け過ぎてどれがシロアリかすら分からねぇ……」



結局あの後、氷室の身体中に殺虫剤をかけまくり、泡を食って倒れていた氷室を保健室に運び、その後残ったシロアリ達は先程の恐怖に怯えつつもすべて駆除した。


次の日から部室に異常に増えた据え置き殺虫剤と、ホワイトボードに大きく荒れた字で「虫は死ね!」と書かれている事に触れるものは誰もいなかった。


この事から雑部の皆が学んだ事は、人は見かけによらず、虫は名前によらないって事だ。


今考えれば何故あの話からあんな行動になってしまったのか全く持って意味不明だ。


放課後の雑談というのは、人を楽しくする上に誰でも出来るものだが、雑談によって上がったテンションとムードは誰にも止める事は出来ないのだ、この事からホワイトボードに書いてある「喧嘩禁止」のルールの下に「取り扱い注意」が付け足されたのであった。


読んでいただきありがとうございます。

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