60話 sideセレス
僕はセレス。
春を迎えて、マギラワシ町にやってきた。
カイ先生にお会いするのは、学び家でご教授していただいて以来だ。
「カイ先生お久しぶりです。また稽古を付けていただきたいです」
以前よりも増して、惹きつけられるオーラを感じる。
「僕もご一緒したいです。セレスから先生のお話はたくさん聞いているのです」
リーナ様に見向きもせず、カイ先生に尋ねる。殿下の耳にタコができるくらい忠告した成果だ。
「リリアス殿下は何属性をお持ちですか」
「水と風です」
「なら、リーナのを見た方がいいかな」
カイ先生が、リーナ様の近くにいてもいいと判断したということは、リリアス殿下は敵判定されなかったということだろう。胸をなでおろした。
「リーナ、午後から魔法の訓練に付き合ってくれるかい?」
「パンツスタイルでいい?スカートだと下着見えちゃうもん」
「!下…!シーラ、パンツスタイルだ」
「かしこまりましたわ、さ、リーナ様」
相変わらず振り回されてるな〜カイ先生。
あれ、絶対あの服がイヤなだけだったと思うよ。
「午後になったら、北山跡地が訓練に向いているからそちらに案内しよう」
「それまではこちらを案内いたしましょう」
エリーゼについて行く。確か教習所とか言っていたな。
…これ、なんですか?
馬もいないのに馬車が走っている。それもすごいスピードで。
殿下の目も口も開いている。
「こちらは自動車といいます。免許を取得すれば殿下も町中を運転できますよ。
道路がウサンクサ町まで通っていますから、そこまで行けます。王都まではしばらく無理でしょうね」
ってか、線路いる?むしろこっち広めて!って誰か言わなかったの?
王都からマギラワシ町までくる間の箱車のあの光景が…思い出したくないです。
午後になると北山跡地に自動車で向かった。
てか、滞在中に免許取ろうかな〜。いいな、これ。
まずは普通に剣を合わせる。じっくりと基本の動きを確認されてる。ただの打ち合いなのに、カイ先生の剣は重くてすぐに手が痺れてくる。
これでも王都では、結構な使い手なんだけどな、僕。
「準備運動はこの辺でいいだろう」
言うと、お互いうっすらと練習用の木刀に魔力を纏わせる。
カイ先生の本気の指導を受けたいなら、最低限このくらいはできないと危険だ。
って思ってました。
死ぬ死ぬ〜、死ぬから、それ。
練習だよね、稽古だよね、木刀だったよね。
「ごめん、ごめん。最近手加減しない仕事してたから、セレスなら大丈夫だと思って失敗しちゃった」
斬鉄飛んだかと思ったら、地面抉れてマグマってる。
「リーナ、冷やせるかな」
「ほ〜い、えい!」
…さっきまで春だったよね。春になったからマギラワシに来たはずだよね。
さ、さぶいです。
「すっごい煮たってたから、たくさん冷やした方がいいかと思ったんだけど…」
やりすぎちゃったかも?てへっ、
ってな。
ここだけ白い世界になりました。
カイ先生とリーナ様の訓練を見て思うことがあったのだろう。
「コレ、アカンヤツヤ。サカラッタラ、アカンヤツヤ」
と殿下がつぶやいた。
実力の違いに気がついて、受け入れられるってことは大事な才能だろう。身分が高くなればなるほど、自分よりも相手が優れていると認めることが難しくなるものだ。
受け入れざるを得ないともいうが。
相手の扱い方を間違えなければ、王族の危険因子を一掃することだってできるのだ。
果たして先生をリリアス殿下の味方に引き入れることができるだろうか。
殿下、正念場ですよ。




