第9話 ギャップ萌え
9話です。投稿が少し遅れましたね。あと、若干短めです。
「ん、ふぁーあ、よく寝た」
窓から入り込む陽の光で目を覚ました。
「結局、魔剣は何もせずか」
見た感じ、1ミリも魔剣が動いたような跡はなく、俺自身にも特に異常は感じられない。
やっぱり、この魔剣もう魔力空なんだな。うん。
勝手に納得しておこう。
「さて、今は何時かな?」
元いた世界でのいつもの生活習慣さえ消えていなければ、きっと今は朝5時頃だろう。
そんな朝早くから何をしていたのかというと、まぁ家族の食事なりを作ったりしていたのだ。共働きの両親には残念なことに料理の才能はあまり無かったから、代わりに俺が作っていた。まぁ、爺さんから強制されたのも理由の1つだけど。
ただ、この世界に来る直前、俺は学校からの下校途中で、時間は夕方だった。そっからこの世界に来て、こちらの世界は朝だったのだから、時差があったわけで、多少の不安はある。
まぁ、昼寝もしたし、それに旅好きの爺さんに連れられて世界を回った俺にとっては時差ボケなんて慣れたものであるから、多分大丈夫じゃないかな?
「とりあえず、顔でも洗うかな」
そう言いながら、ナセルの店で買ったタオルを手に扉を開ける。
「……!おはようございます、ユウさん」
偶然の遭遇。
「おはよう、ユーナ。……眠そうだな」
目、ほぼ開いてないっすよ。
まぁ、これはこれで良い絵ではあるね。
なんか、こちらの世界に来てからギャップ萌えの素晴らしさに気付いた気がする。
クールビューティな雰囲気醸し出してたユーナが寝巻き姿で眠そうな顔してるのを見れるなんて、俺だけの特権じゃないですかね?
羨み死ね、冒険者共。
「朝、早いんですね。こんな時間に起きている冒険者の方は、なかなかいないと思います」
「冒険者になったのは昨日だし、それで冒険者の生活習慣がついてたら驚きだろ」
「それもそうですね。ふ、ぁー」
蹴伸びをしながら欠伸をするユーナ。
背が反り、胸が強調される。
……慎ましやかなお胸ですね。
「今、何か変なこと考えませんでした?」
「はは、まさか」
欠伸をして、だいぶ意識が覚醒したようだ。これ以上はよくない。
「さて、俺は顔を洗いに行くとするよ」
「あ、私もです」
ああ、うん。なんとなくわかってた。
「でも、顔を拭けるようなタオルは持ってこような?」
「………………」
部屋に戻っていく姿を見送る。
若干顔が赤くなっていたのは気のせいじゃあるまい。
◇◆◇
「早いな。ユウ」
「どうも」
5時半頃、ゼルバさんが起きてきた。おそらくは奥さんも起きているのだろう。
「ゼルバさんも、いつもこれくらいの時間に起きてるんですか?」
「ああ、うちは食事処としての営業が主だからな。わざわざ他の宿から朝飯食いにうちにきたりする冒険者もいるし、今のうちから仕込みをしとかなきゃな」
「へぇ」
朝からどんちゃん騒ぎとかないだろうな、昨日の雰囲気を見てるとそれもありそうだぞ。この世界の冒険者は元いた世界の労働者とはまた違った生活してるからな……。
「あら、ユウさん。おはようございます。早いんですね」
「おはようございます」
奥さんも1階にやって来た。
「冒険者でこの時間に起きてるなんて、珍しいな。この時間はまだギルドも開いてないし、朝の鍛錬でもしてるのか?」
「いや、習慣ですね。冒険者になったのは昨日ですし、鍛錬も何すればいいかわからないですから」
剣は使えないし。
剣道と同じように素振りなりは出来るだろうが、具体的に何を鍛錬すればいいかわからない。
第1、俺にとって鍛錬なんて蛇足以外の何物でもないしな。
「へぇ、意外だな。俺にはお前が随分と腕が立つように見えるが」
「腕なら十分立ちますよ。バリスさんのお墨付きですから」
2階から着替えなりを終えたユーナがそう言いながら現れた。
「へぇ、バリスのお墨付きか。なら、十分に強いんだろうな」
呼び方から察するに、ゼルバさんとバリスのおっさんは知り合いか。
「そうだ、ユウさん。良ければ今から冒険者ギルドについての説明をしましょうか?今日からもう活動するでしょうから」
「ああ、そうするかな」
とは言っても、ガレスのおっさんからもうだいぶ聞いたんだよなぁ。
「じゃ、俺も仕込みを始めるかな」
俺達の様子を見て、ゼルバさんもテーブルから立ち上がり厨房へ向かっていった。
「では、説明させてもらいますね。ですが、ユウさんの理解能力は話してわかりましたが常人の比ではないみたいですし、簡潔にで大丈夫でしょう」
「まぁね」
「それではまず────」
そうして説明が始まった。
◇◆◇
ガレスに元から聞いていたことや、元いた世界のファンタジー系の小説のお陰もあって理解に滞りは生まれなかった。
新たに知ったのは、依頼にはギルドからの依頼か、個人からの依頼かの2つのパターンがあることとかか。
前者はギルド側からノルマを出されてそれをこなすというもの。この街のギルドにある依頼の多くはこれにあたるらしい。
それと後者は薬草なりを摘んで来いとか、そういう、言わば小間使いのような依頼だ。まぁ、前者も小間使いみたいなもだが。
後者は王都とか、そういうところで多いらしい。まぁ、使いにするなら素人よりも熟練の冒険者の方がいいのは当たり前か。
だからまぁ、薬草を摘ませるなんてのは極端な話で、護衛なんかが主らしい。
それから、依頼の達成報告のこと。
やることは簡単。前者なら魔物を殺して討伐部位やら魔石やらを取ってくる。それを換金所の人間に渡して、報酬とクエストの終了報告書をもらい、それを持って窓口に報告をする。後者は報酬を依頼主からもらってギルドに報告する。それだけ。
そういや、この世界にも魔石とかってあるんですね。
ただ、曰くゴブリンなんかは豆粒程度の魔石しか持っていないため討伐部位として耳などを持ってくるらしいが。
それと、死体も処理するべきだそうだということ。
先のゴブリン戦じゃあ、死体はそのまま放置した気がするんですが……。まぁ、その半数は跡形も残らなかったのだが。
まぁ、死体を処理しなくても別にゾンビになったりするわけではないようだ。ただ、歩いてて目の前に魔物の死体が転がってたら嫌だよね、だから死体は処理しようね、と、景観を守るのが目的なのだとか。
あと、ギルドの奥には訓練場があるということ。そこでギルドランクを上げるための試験とか、ギルド職員の立ち会いの元で決闘とか、そういったことが行われるらしい。
もちろん、訓練場なので素人冒険者の訓練もやっているらしい。
俺も参加するべきか聞いたら、
「ユウさんには必要ないです。教える側の人よりユウさんの方が強いでしょうから」
との返答だった。
随分俺を買ってくれるなぁ、と思ったがユーナは俺のこと色々知っているようだし、それも当たり前かと納得した。
あと、ギルドには訓練場の他に、地下に書庫があるらしい。魔法に関する本もあるようだし、これに関しては結構嬉しかった。
「読んだだけで覚えられるようなものではないですよ?先天的な才能も関係しますから」
とのことだった。だが生憎才能なら溢れでんばかりにあります。
そういえば、女神の言ってた検定水晶についてもそのうち使ってみないとな。
ギルドにはあるらしいが貴重らしく、色々な手続きが必要だとか。
一応、炎と雷の属性はあるみたいだし、多分だが他の属性もあるだろう。そこら辺は今日試したいところである。
というのが、ギルドやなんかについての説明である。
で、今俺はそのギルドの地下書庫に来ていた。
「魔法に関する本となると、この辺りですね」
ユーナに案内してもらいながら。
曰く、ギルドマスターとやらから俺の手伝いをするように言われているらしい。こちらとしてはありがたい話だが、如何せん親衛隊の方々からの殺気が目につく。
いいから依頼をこなしに行けよ。
「そういえば、ユウさんは何属性の魔力を持っているんですか?」
「うん?炎と雷かな、今のところわかっているのは」
「今のところ……」
「検定水晶を使ったことないからね」
「いや、検定水晶を使ったことがないのに魔法が使えることがそもそもおかしいんですよ?」
そうは言ってもね。
女神がやったのを見て覚えた炎と、街までの道中で自分で覚えた雷。要はイメージだと思うんだよね。
「ちょっと待ってね」
そう言って目を瞑る。
そして、イメージ。
イメージするのは流れる水。日常生活において使われる水だ。
「雷を発現したときに、コツは掴んだから、な!」
「…………!!」
手の平の上、その上に発現する水の球体。
「まぁ、ざっとこんなものかな」
「……めちゃくちゃ、ですね」
「まあね」
自覚は、それなりにしてるよ。
「じゃあ、もっとめちゃくちゃするために本を読んで魔法を覚えるとするよ」
俺はそう言うと、近くにあった本に手を伸ばした。
魔法はイメージ!というのが主人公の考え。本当は色々なプロセスがあるのですが、それについては次回。
主人公の謎スペックが垣間見えて、魔法でぎったんばったん敵を倒す!ってところまでやりたかったんですが、それは次回にしました。
それではまた明日。