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第7話 グレーのフード付きロングコート

 6話について、若干書き直しました。まぁ、内容はあまり変わっていないですが。

 冒険者ギルドから出る。その際開いた扉が閉まったのを確認すると、俺は大きくため息を吐きながら、辺りの様子を見渡す。


 「はぁ。やっぱり人目を引くな」


 冒険者ギルドの前を通る人々は、俺の存在を見るやいなや、奇異的な視線を向けてくる。お陰で居心地の悪いことこの上ない。


 「とりあえず、服を買って、宿をとって、着替えてしまわないとな。いくらなんでも、こんな視線に晒された状態はごめんこうむる」


 自分でも、制服姿で剣を腰にさしているのはいささかどうかと思っているんだ。


 だが、服を買うにしろ、宿を探すにしろ、店や宿の評判なんかについて調べるのがベストな訳で、


 「憂鬱だ」


 どうやら、まだこの状況は続くらしい。


 ◇◆◇


 「………………」


 「すまない。旅のお方。この宿は結構前から満室が続いていてね」


 「……ああ、はい」


 そう言って、俺は今いた宿を後にする。


 外に出て、空を仰ぐ。そして、今日何度目かわからないため息を吐いた。


 「……はぁぁぁぁ。まったく、」


 予想外にも程がある。


 冒険者ギルドから出た俺は、街をゆく人に声をかけ店を聞くよりも、宿をとり、宿の従業員に聞いた方が良いだろうと考え、宿をとるのを第1優先とした。


 とりあえず、目に見える宿に片っ端から入っていった訳だが、どこも空いていない。


 それも、全ての宿が『結構前から満室』だという。その発言から、異邦人チックな姿の俺に対する拒絶の心でもあるのかと、半ば疑いを持ったが、どうやら本当にどこの宿も満室らしい。


 それも、果ては数年前から部屋を借りている人間がおり、しかもそれに対し何の負の感情も抱いていないところを見るに、どうやら俺の宿に対する見方が誤っていたようだった。


 つまり、この世界の宿とは人が入りは出るを繰り返す元の世界の宿とは違い、果ては永住まで有り得る、貸部屋、下宿、またはマンションの1室めいた意味合いが強いらしかった。


 よく考えればわかったことだったかもしれない。だが、どうやら俺はこの異世界を甘く見すぎていたらしい。


 その結果が、宿に入っては出るを繰り返す現在の状況である。


 「……探すか」


 突っ立っていても始まらない。こうしている間にも宿の部屋は埋まっているかもしれない。


 空を仰ぐのをやめ、視線を前方に戻すと、視界の左端に小さな女の子が立ってこちらを見ているのに気がついた。


 じー、っとこちらを不思議そうに見てくる少女に視線を持っていく。


 「………………」


 目が合って、だが尚も不思議そうな顔の少女。


 ここから現在考えられるのは1つ。


 不思議なお服を着てるのね、という感受性豊かな子供に特有の、歯に衣着せぬ直球な感想抱いており、それを俺に投げようとしているのかもしれない、ということだ。


 まぁ、もう慣れたから別に構わないんだけどね。


 じーっと俺を見上げる少女、それを見返す俺。なんだこの状況。


 だが、そこで気づいた。この少女が見ているのは服ではなく、俺自身であると。


 となると、異邦人めいた俺の顔の作りに感想を抱いたのかとも思う。だが、街を歩いてわかったが、どうやら人の顔の作りに関しては人によってかなりの差異があるため、違和感はあまり感じないようだ。


 そりゃそうだ。人によっては赤なり青なり緑なりと、髪の毛の色からして違う。それに、あのギルドのユーナさんも明らかに周りとは違う顔の作りだった。美人補正かもしれないが。


 となると、黒髪黒目が珍しかったかな。


 生憎、歩いていて黒髪黒目は1度も見ていない。


 「……宿」


 「ん?」


 そこで初めて少女は声を発した。


 「お宿を探してるの?」


 「うん、そうだよ」


 柔和な笑みを浮かべて答える。


 少女の年齢は7歳くらいだろうか、そんな小さな姿が妹と被り、自然とそんな優しげな態度に変わる。それに、俺は小さな子供は嫌いではなかった。


 だからって、ロリコンってわけではないからな。


 「ああ、シユ。やっと見つけた。お母さんから離れないでってあれほど言ったのに、もう」


 お母さんの登場らしい。


 シユ、と呼ばれた少女はその声に反応して母親の方をチラリと見るが、すぐに視線はこちらに戻った。


 「シユ?その方は……?」


 母親は少女の視線の先に存在する男。つまりは俺に目を向けると、こちらに小さくお辞儀をした。


 見た感じ、年齢は20代といった感じのお若い優しそうな母親だ。それも結構綺麗な方でいらっしゃる。


 「ねぇ、お母さん」


 少女は母親に呼びかけるようにして言った。


 「この黒色のお兄ちゃん。お宿を探してるんだって」


 「あら、そうなんですか?」


 母親はこちらに確認するように言ってくる。


 「ああ、はい。お恥ずかしながら、先程から宿に行っては満室だと断られ続けてまして」


 苦笑を浮かべながら、母親にそう告げる。


 まったく、素チートな人間と言わしめた俺が情けない話である。


 「では、うちの宿にいらっしゃいますか?」


 「……!空きがあるんですか?」


 願ってもない僥倖だ。


 「はい、うちの宿はこの子と私、それから夫とこの子の姉の4人で切り盛りしてまして。で、お恥ずかしながらうちの上の子も年頃で宿に人を入れるのを嫌がっていまして、それも冒険者の方となるとそれが顕著で。ですから現在使ってらっしゃるのは1人の女性の方だけなんです」


 母親も俺と同じく苦笑混じりにそう答えた。


 「冒険者というと俺もそれに該当するのですが?」


 「ああ、それなら大丈夫だと思います。うちの上の子とは年齢的にはほぼ一緒でしょうから、あの子も馴染み安いでしょうし。それに、今宿を利用していらっしゃる方も娘と同年齢の方で、今ではすっかりこの子共々懐いてらっしゃいますし」


 それは同年齢というよりも、同性だからじゃないでしょうか。


 上の娘さんが俺と同じ歳なのだとすれば、その冒険者嫌いは冒険者が嫌いなのではなく、単におっさんどもが我がもの顔で家を使うのが気に食わないだけだろう。


 あれだ、思春期や年頃の女子に有りがちな、お父さんと自分の洗濯物は別に洗うのを要求するあの心境に通ずるものがあるだろうな。


 それが知らないおっさんと毎日顔を合わせるなんてことに変われば、そりゃ宿に人を入れたがらないだろう。


 俺も、割とグレーゾーンじゃないか?


 「シユはお兄ちゃんともっとお話したい」


 少女、シユは俺を見上げながらそう言った。その様子に母親も微笑む。勿論俺も微笑む。


 俺はシスコンの気があるのは自負してたが、ロリコンの気もあるのやもしれない、と本気で考えた瞬間だった。


 「この子が初対面の方にこんなに懐くのは珍しいですね。どうでしょう、良ければうちの宿にいらっしゃいませんか?」


 再度俺を誘ってくれるシユの母親。


 この世界の優しさというものに初めて触れた気がする。


 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 「わかりました。では、ちょうどうちへの帰り道でしたので、宿までご案内しますね」


 こちらです、母親はそう言って、先導するように歩き始める。


 シユは俺の隣に立つと、ん、という風に手を出してくる。えーと、何かな?手を繋げということかな?


 俺は苦笑しながらその手を握ると、シユはニパーッと笑う。そして、俺達は母親の後について行った。


 「………………?」


 というか待てよ?俺と同年齢位の娘がいると言ったよな、この人。


 つまり上の娘は16~7歳ってことだよな?


 「………………」


 となると、それは20代位に見えるこの母親は実は30代後半であるだろうわけで。


 「……異世界にも美魔女はいるんだな」


 半ば感心した俺であった。


 ◇◆◇


 「こちらです」


 冒険者ギルドから徒歩十数分の所にその宿はあった。


 街の大きな道に沿うのではなく、少しズレた位置に存在する宿は、こぢんまりとして、だが、どこか趣深さがあった。


 中に入ると、テーブルと椅子が並んでいた。現在は休憩時間なのか人はいない。昼飯時は過ぎたしな。


 「うちは宿とお食事処を兼業してるんです」


 まぁ、誰も泊めない宿だけじゃ食いっぱぐれるだろう。


 「おお、帰ったか」


 おそらくは厨房があるだろう先から大柄な男性が現れる。


 30代位の外見、だがどこか爽やかさの残る人だなぁと思った。いや、だから何この人達。若すぎんだろ。


 「こちら、うちの主人です」


 でしょうね。


 「ん?そちらの方は?」

 

 旦那さんはこちらを見ながらそう言った。


 「こちらは新しくこの宿を使うことになったユウ・アザミさん。シユが気に入ったみたいなの」


 「ユウ・アザミです。これからお世話になります」


 なんか、宿の部屋借りるのにこの言い方はどうなのか。


 「そうかそうか。シユが気に入った方ならきっと、いい方なのだろう。メユも文句は言うまい」


 メユというのはシユの姉のことだ。ここまでの道中で聞いた。


 どうやら現在不在のようだ。


 「部屋は2階で、鍵はこちらです」


 そう言って、奥さんが鍵を渡してくれる。


 「シユ、案内してあげて?」


 「わかった」


 そして俺はトコトコ歩くシユについて階段を昇って行く。


 「ここ」


 「ありがとう」


 頭を撫でながらお礼を言う。幼女の扱いなら妹で慣れたものだ。


 「あっちは白色のお姉ちゃんの部屋」


 「へー。白色の……って白色?」


 ふと、ユーナさんのことが頭によぎったが。ユーナさんならおそらくギルド側の用意した寮なんかを使っているだろうし、まさかだろう。


 「まさか、な?」


 それでも偶然を望む俺がいた。仕方ないよね。


 ◇◆◇


 「じゃあ、ちょっと買い物に出掛けてきます」


 「はい、わかりました」


 荷物、はほとんど無かったが、部屋の内装を見て俺は再び1階に訪れた。


 「シユも行きたい」


 おふ、それはちょっと。


 「ダメよ、シユ。すみません、ユウさん」


 「いえいえ」


 まぁ、子供らしい行動だろう。それに、俺も懐かれてるとわかって悪い気はしない。


 ただ、すげなく断わるのも良くないので、


 「帰ってきたら一緒に遊ぼうな?」


 と、フォローも忘れない。


 「わかった」


 と言ってニパーッと笑ったシユの頭を撫で、俺は奥さんに問いかけた。


 「ああ、そうだ。この街で質のいい服やなんかを買うにはどこがいいですかね?」


 バリスのおっさんの店を紹介されるのかと思ったが、返ってきた回答は違うものだった。


 「だとすれば、ナセルのとこの服屋がいいだろうな。あそこなら、冒険者でもよく使う」


 旦那さんがそう答える。


 「夫は元冒険者なんです」


 「ああ、道理で」


 体格がいいとは思ったが、やはり冒険者だったか。


 「それに、ナセルさんの所の服屋さんは色んな服を取り揃えてますから、我が家もよくお世話になります」


 「場所はどのへんですかね?」


 「ここから右に向かったらすぐに見えると思います」


 じゃあ、まずはそこに向かうか。


 そして俺は、ナセルという人物の服屋へと向かった。


 ◇◆◇


 カランカランカラン、という元の世界でもあった、扉に鈴を付け、客が訪れたことを知らせるシステムに若干の感動を覚える。率直な感想を言えば懐かしかった。


 こちらの世界に来てまだ1日と経っていないのに。


 「いらっしゃいませー」


 そう言って現れたのはこれまた20代位の女性だった。


 この人がナセルか?


 「防具にも使える革製やなんかの服とか売ってないか?」


 近づき、俺がそう言うと、


 「ああ、お兄さん冒険者なの?」


 「まあな」


 腰にぶら下げた剣がその証拠だな。


 「なるほど、で、鎧なんかじゃなくて革製の軽めの防具をご所望だと」


 「まぁ、そうだな。あと、普通に服も買いたい」


 流石にその革製の防具だけで着まわせとか無理。


 「んー、じゃあ予算によるかな。下は革製のものから上はかなり高級なそういった防具まで、うちは服だけならグリエールの商店にも負けないから」


 「へえ」


 それはまた宣戦布告地味た発言だな。


 後に知った話だが、この街の名前はグリエラというらしく、その由来はこの街を盛り上げた商業一族のグリエール家から取られたらしい。


 「じゃあ、逆に聞かせてもらうが、いくらならまともな装備が買える?」


 正直、革製の防具なんてグリエールの店でも買えるだろう。だが、この店はその店よりも服ならば勝るらしいからな、良い物があるのだろう。


 「うーん、防具になってとなると最低でも5万エルムは必要かな」


 なら大丈夫だろう。


 「予算なら大丈夫だ。良ければ商品を見せてもらっていいか?」


 「うん、いいよ。見て、着て、決める。服屋ってそういうものだしね」


 そう言いながら、ナセルは俺を案内する。


 「お兄さんが気に入るとすればこの辺かな」


 奥に行くと、まぁ日常生活では着なさそうだなという服のオンパレードだった。どうやらこの辺りが防具となる衣服らしい。


 「防具に機能性を重視するとこの辺だよね。まぁ、元々防具なんて攻撃を防げてなんぼな訳だから、商品的には少ないんだけどね」


 まぁ、服1枚で魔物の攻撃を防げるかと言えばそれは無理だしな。それなら鉄なりのプレートをくっつけとく方がいいだろう。


 だが生憎俺は、ゲームなんかでもスペックよりもお洒落重視だったからな。プレートやら鎧やらは死んでも着たくない。


 というか、俺はこの世界を旅したいわけで、それで鎧なんて邪魔なだけだろう。


 「これなんていいんじゃないかな?」


 どこからかナセルが持ってきて見せてきたのは1枚のロングコートだった。しかもフード付き。色は白色を基調としたものだ。


 正直異世界系テンプレトップクラスの服だが、これ以上に男子の心を揺さぶる服をもなかなか無いだろう。


 だって、フード付きコートだよ?普通にカッコよく感じるよね。


 「これ、魔力を吸って治るんだよね。結構貴重なものなんだけど、如何せん着る人を選ぶんだ。簡単に言えば、魔力の波長が合わないと着心地も何も最悪になるの」


 「買った」


 「で、過去これを着た人は皆すげなくこの服に拒絶────って、え?」


 「買った」


 「え、いやまぁ、とりあえず1回着てみてよ」


 手渡され、逆にブレザーを渡すよう言ってくるナセル。魔力の伝導云々の関係らしい。


 コートを羽織る。


 生憎だが、俺が拒絶されるとか有り得ないから。


 「……!」


 一瞬何かが吸われた感じがした。


 コートの色も若干グレーっぽい色に変わってる気がする。


 「わわ!凄い凄い!今まで誰も認められなかったのに!」


 あ、これそういうのなのね。


 ……というか、よくそんな服を勧めたな。


 「これでいいのか?」


 「うんうん!いやー、感動だなぁ。だからお代は結構!……って言いたいとこだけどこっちも商売だからね」


 そう言って、苦笑するナセル。


 「まぁ、こちらも元々支払いはするつもりだからな」


 じゃあタダにしろ、なんてことを言う気は無い。


 「まぁ、でもまけてあげる。8万エルムってとこかな」


 「元は?」


 「12万エルム」


 「それは助かる」


 予算の大半が持ってかれてしまうからな。


 「あ、その、それでなんだけど」


 「ん?」


 「よかったら君の服を見せてくれないかな?縫製やらがだいぶ珍しくて、ちょっと見てみたいんだよね」


 なんて、落ち着いて言ってる風だが、実際は鼻息をめちゃくちゃに荒くして近づいてきているという始末である。


 「……ああ、構わないから。とりあえず、他の服も買わせてくれ」


 どうやらこの人、かなりの変態のようだ。


 ◇◆◇


 「ありがとうございましたー!また来てね、ユウ・アザミ君!」


 「そりゃ来るだろうけど、もう来たくないわ!」


 そう言って、半ば逃げるような形で店を出る。


 服を買い、異世界風の服装に着替え終えた後、俺の制服を店員に渡すとナセルはその縫製について語り始めた。


 俺の婆さんの趣味で服飾関係の知識があった俺はなんとなく試しに、といった感じでナセルと意見を交えた。


 すると、そんな俺の服飾知識にナセルは大興奮。


 約束の2時間後まで時間がほとんど無いことに気づいた俺は、俺の制服を一時的に貸し出すことを条件に店から逃げたのであった。


 本当に、変態はダメだわ。うん。


 ◇◆◇


 で、色々あってギルドの前に戻ってきた。


 当初の目的であった、宿をとることと、服を買い、着替えることは出来た。まぁ、そこら辺はシユのお陰という点が大きいかもしれない。


 ギルドの扉を開け、中に入る。


 時間は夕方。魔物を狩りに行った冒険者達も次々と帰ってきているようで、食堂にはもう人が溜まり始めている。


 きっとあのまま夜までどんちゃん騒ぎだろう。


 俺の元いた位置にバリスとガレスの姿は残っておらず、場所を変えたか、話が終わったかのどちらかだろう。


 入って右手の階段を昇る。


 どうやらこちらもクエストの終了報告なんかの為に混んでいるらしい。


 ただ、ユーナさんの所を除いて。


 なんか、あそこだけ列の作りがおかしいんだけど。他と比べて圧倒的に短いんだけど。


 とりあえず、列に並ぶ。瞬間、周りからの強烈な殺気!


 なるほど、これがガレスのおっさんと同じような奴らか。


 全員ここでやっちまおうかとも思ったが、流石にそれは後々面倒になるから却下だ。俺も、実際はあまり面倒には関わりたくない。


 でも、向こうから関わってくるなら仕方ないよね?


 あまり時間も経たずに俺の順が回ってきた。


 「ああ、アザミさん。お待ちしておりまし────」


 唐突にユーナさんの表情に驚きの色が浮かんだ。


 俺に何か付いてるのだろうか。それとも服装が変だったか。


 目線は明らかに服に向いているし、やはり服装についてか。


 「ああ、すいません。服装が変わっていらしたので、少々驚きました。似合っていますよ」


 なんだかんだで結果オーライ!


 服装褒められて喜ぶとか女子かな?


 だが、心の中でガッツポーズを決めるのを忘れない。


 「では、ユウさん。こちらがギルドカードです。ランクは見ての通りですので、一応ご確認ください」


 ギルドカードが手渡される。


 ランクについて口で言わなかったのは、ユーナさんなりの配慮だろう。ここでギルドカードを貰ったばかりの新米の俺がCランクなんて知れれば面倒になるに違いない。


 だが、今俺が気にしているのはそこじゃない。


 「ユウさん?」


 下の名前、こちらなら上の名前か。とにかく、ユウという名で呼ばれたことだ。


 「あ、ああ、その。すいません、急に名前で呼んでしまって。昔の知り合いと被ってしまいまして、その」


 さっきまで淡々とした様子だったユーナさんが急にしどろもどろになる。そのギャップに俺のハートは鷲掴みである。


 「いや、構わないよ。じゃあ、こちらもユーナさんと呼ばせてもらうかな」


 そう言うと、ユーナさんは何か引っかかった顔をして、


 「はい、構いませんよ」


 そう言った。


 「それで、ギルドについての説明なのですが、私現在ギルドマスターに呼ばれていまして、明日になってしまうのですが」


 「まぁ、そこについては急ぎの用じゃないし、構いませんよ」


 一応、ガレスのおっさんから聞いているわけだし。


 「そうですか、申し訳ありません。それと、ありがとうございます」


 「いえいえ、あ、あと」


 俺が1番気になっていた質問をする。


 「シユちゃんって子知ってます?」


 「はい。私の利用してる宿の娘さんの名前ですね。それがどうかなさいましたか?」


 「いや、これから俺もその宿に泊まることになってね。ユーナさんらしい人が泊まっているって聞いて気になってね」


 「そうでしたか。なら、話す機会も多くなるかも知れませんね」


 「そうですね」


 いよっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!


 まさか本当にユーナさんだとは思わなかったけど、偶然って素晴らしい。


 いや、ここまで来ると運命……?


 なんて。生憎、リアリストな俺にはそこまでの考えは出来そうはない。


 でも、仲良く出来るなら仲良くしたいものだ。


 ただ、こう話していて思ったが、ユーナさんは『氷の人形』なんてあだ名がつく位に感情が出ていないだろうか?


 さっきのしどろもどろとした様子といい、割と普通のめちゃくちゃ綺麗な女の子だと思うけどな。あ、めちゃくちゃ綺麗だから普通じゃねぇわ。


 「じゃあ、また」


 「はい、後ほど」


 そう言って、俺は窓口を離れる。


 そして、背中に突き刺さるような殺意を感じながら、宿へと帰っていく。


 その時、夕日を浴びた腰の魔剣が、キラリと妖しく光った。


 ◇◆◇


 ここはこの世のどこでもない場所。


 「おかしいですね〜。どうしてこの人に対しては私の魔力が通じないんですかね〜?」


 そんな場所で、発するもの以外誰にも聞こえない声が響く。


 その声は、どこかおっとりとした様な声であり、そしてどこか、濃厚な悪意を孕んでいた。


 「此度の所有者は、初めて見るタイプの人間ですね〜。まぁ、せいぜい────」


 ────楽しませてくださいね


 そう言って、この世のどこでもない場所で、1つの悪意が動き出した。


 自身が一体何に相対しているかも、理解しないまま。


 ナチュラルに装備を揃える主人公。そして、主人公に懐く幼女。幼女に導かれるままになっているとユーナと宿が同じに。わお、すげえな幼女。


 ユーナさんの唐突なギャップ萌え。そして、急に出てきた謎の場所と謎の声。一体何『物』なんだ……。


 てなわけで、勢いで突っ走る第7話でした。


 では、また明日。

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