第5話 動き出す歯車
第5話です。
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「それでは、この用紙に必要事項の記入をお願いします」
「はいはい」
ユーナさん────いや、心の中でも俺らしくもなくさん付けしちゃうんだ、仕方ない────は用紙を持って来て1本の羽ペンと一緒に俺に手渡した。
えー、なになに?名前、年齢、属性魔法適性……意外と記入要項少ないんだな。
……適性は今ある2つだけでいいか。
俺はスラスラと知りもしないはずの文字を書き込み、それをユーナさんに手渡す。
「これでいいかな?」
「……ユウ・アザミさん。……はい、大丈夫です」
すると、ユーナさんは俺の書いた用紙をじっと見て、
「字、綺麗ですね」
そう言った。
「あー、どうも」
元いた世界でも字は人並み遥かに超えて字が綺麗だったのは自負してるが、いかんせん俺の知り得ない文字だからね。喜べないよね。
「冒険者に志望される方では珍しいですね」
あー、そこら辺はきっとあれだ。そういう人達は脳筋だからじゃないかな。
この世界の一般教養レベルの高さはわからないが、少なくとも元いた世界のものと比べれば天と地の差だろう。
異世界テンプレ風に考えれば、代筆を求める人だって少なくないだろうし、そう考えると字が綺麗なことには多少の違和感を覚えるのも頷ける。
「失礼。踏み込んだ話をし過ぎました」
こちらとしてはもっと踏み込んできてくれると嬉しいんだけどね!美少女とは仲良くしたいし!
「では、登録費用として1000エルム必要になります」
「あー、これを見せればいいって言われたんだけど」
俺がそう言った時だった。
「ユーナ、そいつはバリスの奴の紹介だから費用はいい。それから、そいつのギルドランクは、BかC位が妥当だろうな」
俺を案内したおっさん冒険者がやって来た。
「そうですか、バリスさんの。では、念のためギルドランクはCからとさせてもらいます」
あの戦闘を見られてギルドランクA位なら軽々行くだろうと言われた身としては少々不満もあるが、そこら辺はギルド側の思惑もあるだろうな。
いくら実力があろうと死ねば終わりだ。そういう点では、無理にでばらせず、ゆっくりと力を付けてもらった方がいいのだろう。そうしないで、さっさと高ランクから始めさせればみすみす拾った逸材を失うことになるしな。
なんて自分をさらっと逸材扱いしたが、まぁ、事実だしね。
それとあとは、周りからの批判もあるんだろうな。
「で、ユーナ。お前から見てこの男はどうだ?大成しそうか?」
「一介の職員としてはわかりません。……でも、物腰や教養に関しては他の冒険者の方とは違うとは思います」
「ま、見込みはありそうだわな」
そう言って俺を見るおっさん冒険者。
安心しろ、見込みありまくりだ。
「それでは、2時間後にもう1度ここを訪れてください。その際、ギルドについての説明をして、ギルドカードをお渡し致しますので」
「わかりました」
好青年然とした笑みを浮かべて返答する。下心しかない。
「んじゃ、新入り。俺が冒険者のイロハを教えてやろう」
「いや、いいよ。どうせ2時間後に職員の方から教わるんだし」
むさいおっさんからのレクチャーなんていらん。
「いいから来い」
そしてガッチリと腕を掴まれた俺はそのまま引きずられるようにして連れてかれる。
その際、ユーナさんが小さく儀礼的にお辞儀をしたのを見た俺は引きずられながらもお辞儀を返しておいた。
◇◆◇
「……ユウ・アザミさん」
小さく呟いた私の呟き。
きっとあの人は…………。
私は、歯車が回り出すような感覚を感じた。
◇◆◇
「で、どうだった?あいつは」
1階に下りるなりニヤついた顔でそう訊ねてきたおっさん冒険者。
「綺麗だったな」
率直な感想。
正直な話をすればもう少し話したかった。俺と彼女の会話の邪魔をしたおっさんには然るべき罰があたればいいと思う。
「そりゃそうだ。うちのギルドの看板だぞ。そうじゃなくて、なんか話したりしなかったのかよ?」
「初対面で何を話すんだよ。するのなんて、事務的な話だけだろう。したことなんて、せいぜいお互いの名前を言ったことと、」
そう言ってふと思い出した。
「あー、何故かお互い顔を合わせたときに黙って見つめ合うことにはなったな」
理由はわからないが。
まぁ、俺の場合は柄にも合わず見とれていた訳だが、あちらに関してはよくわからない。
こちらが黙ったから、という風に考えるのが妥当だろうが、あの時のユーナさんからはどこか懐かしさを感じているような様子だった。
するとおっさん冒険者は俺の話を聞くやいなや、ワナワナと身体を震わせると、
「……お前、ぶっちぎりの新記録じゃねぇか」
そう告げた。
「新記録?」
「ああ、そうだ」
そう言うとおっさん冒険者は続けて語り始める。
「ユーナはなぁ、俺達冒険者のアイドルの訳よ。だってそうだろ?ありゃ、他人とは一線を画した美しさだ」
「まぁ、たしかにな」
美しい白銀の髪、整った顔、白い肌、スタイルも何もかもが綺麗だったね。うん。
「だがなぁ、話してわかっただろうがあいつはあまり表情を変えてくれないんだよ」
「あー、まぁたしかにそうだったな」
驚いたような様子をとったときも、表情の変化は割と小さかった。
「そんな態度から、『氷の人形』なんてあだ名がついてな。冒険者は皆必死にあいつに振り向いてもらうよう頑張ったが、駄目だったわけだ」
「まぁ、簡単に誰かに靡きそうにはないよな」
「ああ、だから、俺達は考えた訳だ。俺達の悲しみを他の奴らにも味合わせようと」
うん?
「だから俺は、お前みたいな見込みありそうな冒険者志望の奴が来る度に、あいつの窓口を使わせている訳だ」
おい。
「それ普通にあの人の迷惑でしかないだろ」
「それくらいわかってる。だから俺だって無闇やたらにあいつの窓口を使わせる訳じゃない。見込みのありそうな奴だけだ」
何様だお前は。
「はぁ。で、新記録ってのは?」
「そう、それだ。あのな、1つ教えてやる。本来、ユーナは冒険者に対して名乗ったりはしないんだよ。少なくとも自分からはな」
へー。
「だがな、あいつは今回自分から名乗った。これは前代未聞だ」
「はあ」
「お前、これは結構重要な話なんだぞ?」
どこがだ。
少なくとも、歴戦の冒険者然としたおっさんがするような話ではないし、事実そんなおっさんがするようなことではないだろというようなことのオンパレードであった。
「挙句、見つめ合うなんてことまでしたわけだ。こりゃもう新記録だぜ」
「あほらし。他人の空似で固まっただけだろ」
別にそこまでの妄執にとらわれるほど、夢見がちじゃないんだよ、俺は。リアリストなの。
だったらいいなの気持ちはあるっちゃあるが、別に押し通す気もないし、それに、
「いい歳こいて何やってんだよ、16~7の女の子相手に」
というか、今思えば道理であの窓口の周辺が不自然に空いているわけだ。
要は、近づき難い女の子の気を引こうとしたが、結果は失敗。そのままどんどんと評判やらからユーナさんの存在は偶像化していって、もう自分達じゃ話しかけれない。だから、新米に行かせて同じ境遇の人間を作ろうとした。
いい歳こいた大人のやることじゃない。
「共感出来ないのか!?」
「出来るかボケ」
あー、無駄な時間過ごした。
「とまぁ、くだらないお話はさておき。お前、バリスのお墨付きだろ?どっから来たんだ?」
なるほど、こいつもか。
「すんげぇ遠い所」
食堂の方へ歩きながら告げる。
俺の人間観察眼はこのおっさんからバリスのおっさんと同じ雰囲気を感じ取っていた。
……明らかに一筋縄じゃいかなそうだな。
恐らくこのおっさんも俺の存在の特異さみたいなのを感じているのだろう。
そりゃそうだ、雰囲気なんかはこちらの世界の人間とは多少の差異があってもおかしくないし、容姿なんかもかなり違う。服装だって、さっきから物珍しそうな視線も感じる。
そういや、制服姿で腰に剣をぶら下げてる姿の異質さに今気づいた。こんなの元の世界ならただのイタいコスプレだ。
「気になるなら、あとでバリスのおっさんにでも聞けよ。知り合いなんだろ?」
話し方でわかる。
そう言ってるうちに食堂にたどり着く。どうやら、お昼時は過ぎたあたりらしく、席の空きから見るに人はあまり多くない。
ここは異世界な訳で、食券販売なんてないだろう。だから、注文はカウンターだろう。
「いらっしゃい!」
カウンターの前に立つやいなや、快活そうな女の子に声をかけられる。
「見ない顔だね。新人さん?」
「ああ、そうだよ」
「そうかい。なら、これから顔を合わせる機会もあるだろうから名乗っておくよ。私はテリア・リー。よろしくね」
「俺はユウ・アザミだ。よろしく」
自己紹介は返すのが礼儀。
「へー、見た目もそうだが珍しい名前だね」
それが面倒事を運んでもだ。
「よく言われる」
好奇心からか爛々と目を輝かせるテリアに苦笑しながら告げる。
どうやら、俺の見た目は思ったよりも悪目立ちしているらしい。これはさっさと服装もこちら風にした方が良さそうだ。
「それより、まだ昼を食べてないからお腹が空いててな。注文は受け付けてるか?」
「うん、大丈夫だよ。注文なら、これを見て決めてね」
そう言って、テリアはファストフード店なんかに特有のカウンターに貼られたメニュー表を指差す。
どれどれ……。
フレイムボアのステーキ、グリアダックの丸焼き、アンゲル魚の……ラトリア鳥の…………………。
なるほどよくわからん。
「オススメとかあるか?」
「ん?うーん、今日はフレイムボアのステーキかな?今日1番人気だった」
まぁ、ステーキならハズレはないか。
にしても、炎の猪なのに、それがステーキとは、異世界料理は結構パンチが効いてるな。
「じゃあ、それで」
「はいよ。じゃあ、960エルムだよ」
「えと、これで大丈夫か?」
そう言って、バリスから渡された紙を見せる。
「これって、バリスさんの!?うわー、じゃあ期待の新人ってことかぁ」
テリアは驚く素振りを見せる。
やっぱり結構な有名人なんだな。あのおっさん。
「ちなみに、ランクCからスタートのスーパールーキーだぜ。テリアちゃん」
すると、おっさん冒険者が混ざり込んできた。
「Cから?え、本当、ガレスさん!?」
どうやら、このおっさん冒険者、ガレスという名前らしい。初めて知ったわ。
「ああ、本当。DEFGすっ飛ばしてCスタートだ。公になったらだいぶ荒れるだろうな」
え、何それ聞いてない。
「そこらのやさぐれどもがこぞって絡んでくるだろうね」
うわぁ、異世界テンプレの匂いだ!
いいぞ、かかって来い!それでこそ冒険者ギルドだ!
初っ端の、『お前みたいなやつが冒険者だとワハハ』みたいな絡みがなかった分、期待してるぞ。そういうのも割と楽しみなんだ。
「あ、費用は大丈夫だよ。頑張ってね、期待の新人さん」
「ああ」
さて、
「いつまでついてくるんだ?」
「別にいいだろ。暇なんだ」
それでいいのか、冒険者。
「はぁ、じゃあ暇つぶしがてら教えてくれ。だいぶ荒れるって言ってたけど、今回のことは珍しいことなのか?」
「そりゃあ珍しいさ。あのバリスの目にかなう奴なんざ早々いない。それこそ、片手で事足りるくらいにな」
割と少ないんだな。
「まぁ、俺もお前が強いことはわかる。どうせ軽くAランクは行くだろう」
「バリスのおっさんにも言われたよ」
だろうな、と言ってガレスは続ける。
「だからまぁ、Gランクの雑用みたいな仕事から始まるのをスキップしてCランクからのスタートになったわけだが、それでもCランクってのはお前が思うよりもかなりなるまでに時間がかかる」
それなりの評判、実績、実力、それからギルド側による試験。そういうのひっくるめてこなして、やっとなれる。それがB、Cランクらしい。
割合で言えば、S以上で1割を遥かに下回り、Aで1割弱、B、Cランクで2~3割といったところらしい。
だとすればたしかに、
「まぁ、反感は買うだろうな」
ただでさえ周りを見るに歳上が多そうな場所なんだ。ことが公になれば、そりゃあ荒れるだろうな。
だがそれにしても、
「随分とすんなりCランクになれたよな」
これに関しては、バリスの推薦状が凄いのだろうが、それでもだ。
「ギルドの上の人間に報告も何も無しにいきなり出来るものなのか?このギルドにもいるんだろ?ギルド長みたいな奴が」
そう言うとガレスはニヤッと笑って、
「だから今頃ユーナがギルド長に報告でもしてんじゃねぇか?」
と言った。
「ふーん。あ、そうだ。ちなみに、あんたのギルドランクはどれくらいなんだ?」
なんとなく気になった。雰囲気からは強者って感じがするし、ユーナさんとの会話の態度やその内容。また、バリスのおっさんとも知り合いみたいだし、果たしてどうなのだろう。
「俺のギルドランクはSだ」
「ふーん」
「……か、軽いな」
「そりゃ、わかりきってたし」
今更驚くことでもあるまい。
すると、ジューという音とともにテリアがやって来た。
「お待ちどおさま。フレイムボアのステーキだよ」
「へー、美味しそうだな」
猪のステーキは、そのまま元いた世界でもありそうなものだった。
そういや、これが異世界での最初の食事かとふと思った。
「さてと、じゃあ冒険者のイロハについて教えてやろう」
「いや、いいって。どうせ後で教えてもらえるんだし」
「ああ?ユーナが教える手間を少しでも省略するために決まってんだろ」
もうやだわー。これで世界に1割もいないSランクとか信じたくないわー。
そして俺は、おっさんのレクチャーを聞きながら、異世界で初めての食事をとった。
食事の味は良かったが、状況が最悪だったのは言うまでもあるまい。
説明回。そして謎のままの主人公とユーナの接点。回収はいつになるのか。
冒険者として活躍するとか書いといて活躍はまだ当分先な件。具体的にはあと2話くらい。
オリジナリティは家出しました。ここら辺はどうしてもテンプレになっちゃいますね。
次話投稿も変わらず明日の午前7時です。