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第20話 ざわめき

 いやはや皆様お久しぶりです。だいぶ間をあけてしまい、申し訳ありません。

 「……嘘、でしょ?」


 「生憎、嘘ではありませんよ」


 観客席で交わされた会話。


 「賭けは、私の勝ちでしょうか?」


 私は小さく笑みを浮かべて、ダリアさんにそう告げました。


 「ま、まだよ!まだ、シュバルツは負けてない……!」


 『賭け』のこともあってか、ダリアさんはまだ諦めていない様子。


 というか、そんなに強く否定されたら私も傷付くのですが……。


 それに、確かにシュバルツさんは負けてはいません。ですが、会場に溢れる歓声からも、その何もかもがユウさんの優勢へと傾いています。


 そして、対峙する2人の雰囲気もまた、ユウさんの優勢のように見えます。というか、シュバルツさんは完全にユウさんに呑まれてますからね。


 言葉は悪いですが、負けるのは時間の問題でしょう。


 「ユウさんが勝ったら、あの約束は守ってもらいますよ?」


 「わ、わかってるわよ……!」


 ニッコリと、確認を取るように言った言葉に、ダリアさんは渋々といった様子で返答。


 「シュバルツ、勝ちなさいよ……」


 意識してか、それとも無意識か、小さく呟いたその言葉はきちんと私の耳に届いています。


 まぁ、悪いですが賭けは私の勝ちですよ。


 そんな柄にもない悪どい考えをしながら、私は再び2人の決闘に目を向けました。


 ◇◆◇


 「剣術って、意外と奥が深いんだな」


 こちらを警戒するシュバルツに、俺は不敵に笑いながら、そう投げかけた。


 「………………」


 「そう警戒するなよ。無視されたら傷つくだろ」


 「……警戒は、すると思うけどね」


 お、反応してくれた。


 先程までは息の1つも切れていなかったシュバルツだったが、今では玉の汗が見えている。


 「………………」


 会話が途切れ、こちらを警戒するシュバルツの表情を見るに、俺は今のあいつの中じゃ、相当な強者として扱われているらしいね。やったー。


 その結果、試合開始時とは全く真逆の立場へと、立場の逆転が起こっていた。


 「正直、降参したいんだけどね……」


 「そうもいかないよな」


 今の会場の盛り上がり方からして、降参なんてしたら大ブーイングが起こる。


 それじゃあ、この試合を行った意味がない。むしろ真逆の成果をあげてしまう。


 「じゃあ、さっさと終わらせるしかないよな」


 「そうしたいのも山々なんだけどさ……」


 シュバルツは自嘲地味た笑みを浮かべ続ける。


 「今の君からは、師匠と同じ雰囲気がするんだよね……」


 「……へぇ」


 師匠とは、勿論『剣聖』とやらのことだろう。


 どうやら、俺はシュバルツが剣聖から学んだ剣術を模倣することで、『剣聖』と同じレベルまで至ってしまったらしい。


 わー、すげーなおれ。


 「まぁ、本気の師匠を知らないからなんとも言えないんだけどね。恥ずかしい話、僕程度じゃああの人に本気を出させることは出来ないからさ」


 どうやら、師匠はかなりの強者(つわもの)らしい。Aランク冒険者、それも限りなくSランクに近いというシュバルツがこう言うのだから、SSランク冒険者というのは凄そうだ。


 一体、どんな化物みたいな奴なのか、多少興味が湧いてきた。


 「さて、まぁお話はこれくらいにして、さっさと終わらせるか」


 「はぁ、参ったな……」


 シュバルツは顔を引き攣らせるが、まぁ、仕方ないよね。勝負なんだから、勝ち負け付けなきゃね。


 そして生憎、俺は勝ち負けなら『勝ち』しか取る気はない。


 「ただまぁ、あまり早く負けたりしないでくれよ?」


 「え?」


 「やられた分は、やり返さないと気が済まない質なんだ」


 俺は、低い声でそう告げる。


 さて、始めようか。こっから先は、一方的になるだろうが。


 心の中でそう呟いて、俺は鉄刀の鋒をシュバルツへと向けた。


 「行くぜ?『剣聖』の弟子」


 ◇◆◇


 得体が知れない。


 僕は今の彼、ユウ・アザミを見てそう感じていた。


 少なくとも試合開始時にはこんな雰囲気は放っていなかったのだから、尚更。


 それに、得体が知れないと感じた理由はこれだけじゃない。


 彼は、先程まで息を荒らげていた筈なのに、今では全くそんな様子がなかったのだ。まるで、先程までの辛そうな表情も、何もかもが演技だったみたいに。


 底なしの体力とか、ますますもって師匠を思わせる。


 鋒が向けられ、彼の漆黒の双眸が僕を見据える。蛇に睨まれた蛙とは、こういうことを言うのかもしれない。


 得体が知れない、底が知れない。これでAランク?冗談じゃない。


 しかも、これで魔法戦闘の方が得意だなんて、彼とダリアが闘ってたら、一体どうなっていたんだ?


 疑問やらなんやらが、頭をグルグルと回る。足からどんどんと崩れていくんじゃないかという錯覚が、身体を支配していく。


 間違いなく、これは『恐怖』だ。自分よりも遥か高みに存在する人間への『畏れ』だ。


 「行くぜ?『剣聖』の弟子」


 僕がそんな思考の底なし沼から抜け出せたのは、彼が告げたそんな言葉だった。


 「────────!!」


 崩れた身体が再構築される感覚。人形に魂を入れたりしたら、それはきっと今の僕のような感じだろう。


 そうだ、僕は『剣聖』の、あの人の弟子なのだ。


 こんな醜態、少なくともあの人()には見せられないよな。


 魂の再燃。


 怖気づいては、いられない。


 「あぁ、……来い」


 鉄刀を構え、相手を見据える。


 彼は少し驚いた顔をすると、「へぇ……」と言って、先程までと同じくニヤリと笑みを浮かべる。


 構える僕と、構えのない、無形の彼。


 互いに睨み合い、僕の集中は研ぎ澄まされる。気づけば、周囲の音すら聞こえなくなっていった。


 いや、聞こえなくなってるんじゃなくて、音自体が無くなっているのだろう。


 観客すらも息を呑む緊張感が、場を支配しているのだ。


 完全にシン、と静まったその時、


 「……やるか」


 彼の身体が、ぶれた。


 「────────!!??」


 ガキン!!と一際鋭い金属音が鳴り響く。同時に、僕の腕に衝撃が伝わる。


 一瞬遅れて、グググ、と受けた鉄刀が僕の方へと沈む。


 「ぉおぉおおおおおおお!!」


 自らに発破を掛け、沈む僕の鉄刀で飛来した彼の鉄刀を押し返す。


 目で置いきれないレベルの移動。そして、鋭い一撃。気付けば目の前には彼の鉄刀を振り下ろす姿があったのだ。もし気付いてなければと考え、ぶわりと冷や汗が湧く。


 彼は振り下ろした鉄刀を引き戻し、薙の一閃を放つ。


 その動作に隙は無く、結果として僕には身を守る事しか出来ない。


 迫る剣閃をなんとか防ぐが、その怒涛の剣戟は留まる事を知らないようだ。


 「……くっ」


 「………………」


 いや、『怒涛』と言うには彼の表情はそのような様子は見せてはいないか。


 苦悶の表情を浮かべる僕に対する彼は、まるでなんでもないような顔で剣を振るう。


 カキンッ、カキンッ、と剣を防ぐが、これも時間の問題だ。攻めの手が無いし、ここからの勝利は見込めない。


 化物だ。


 うぬぼれていた。本当に。


 自分の目の前の人間がこんな実力を持っていたなんて気付かなかった。


 いや、気付かなかったのは当たり前か。


 彼は、ユウ・アザミは、曰くこの僅か数分で、剣術をものにしたというのだから。


 始め、打ち合っている最中の彼は本当に剣術が不得手だった。いや、そもそも剣術自体まともに知らなかったのだろう。


 それでも、僕の剣を防ぎ続けたわけだけど。


 だが、今の彼は違う。


 今の彼の剣は、師匠の、『剣聖』のそれに匹敵するやもしれないレベルだ。


 別に、実力を隠していたわけではないだろう。それは、最初の打ち合いで剣を交えて理解している。


 ただ、それがこのレベルの剣に昇華したことが、理解出来なかった。


 「案外粘るな。流石は『剣聖』の弟子ってとこか?」


 剣閃を放ち続けながら、彼はそう言った。


 「まぁ、っ、ね」


 「じゃあ、もう少し粘れ」


 その一言を皮切りに、彼の振るう鉄刀の速さが増した。


 「な────」


 最早思考する余裕なんてない。


 縦、横、斜め。斬り上げ、斬り下し。上下左右から飛来し続ける剣閃をただ受け止め続ける。


 だが、それも、もう限界だった。


 一体、どれほどの時間粘れたかはわからない。最早、まともな時間の感覚なんてない。


 そして僕は知る。


 「お前から剣を学べたのは、いい経験になった」


 彼には、まだまだ上があることに。


 身体が敗北を受け入れるかのように脱力する。


 これが僕から学んだ剣?冗談だろ?


 こんなの、技術の昇華なんていうレベルじゃないじゃないか。


 スローモーションのように飛来する鉄刀を眺め、この一撃をこの身で受け止めるのか、痛そうだな、そう思考した時だった。


 「シュバルツ!!」


 聞き慣れたある声が、僕の耳に届いた。


 「────!!」


 身体は自然に動いていた。


 「……へぇ!」


 彼の表情に変化があったが、そんなの気にしてはいられない。


 彼の振り下ろした鉄刀の刃を、僕の鉄刀の刃で滑らせるように地面に落とす。


 結果として、彼は鉄刀を振り下ろした力の余波で前のめりになる。


 この好機、逃すわけにはいかない!!


 「うおおおおおおおお!!」


 咆哮しながら剣を振り上げる。


 彼はまだ前のめりになった反動で下を向いたままだ。


 いける!


 そう思った時だった。


 「ま、流石とだけ言っとく」


 そう言ったのと、彼が動いたのはほぼ同時だった。


 そして、僕の鉄刀が振り下ろされたのも。


 彼は振り下ろされた鉄刀を見もせずに、鉄刀を振り────


 ────キーン


 遠くで金属音が響いた。いや、これは錯覚か。


 フォンフォン、と風を切り、空中で回転する鉄刀。それはやがて、僕と彼の間に突き刺さった。


 鉄刀が、吹き飛ばされた?


 状況が理解出来ない。


 僕は、何をされたんだ?


 「巻き上げ、成功かな?」


 混乱する頭が理解出来たのは、彼がそう言ったことと、


 ────ワァァァアアア!!


 という観客の歓声だけで、理解が追いつかない僕は、ストンと地面に座り込んだ。


 ◇◆◇


 まさか、あそこから反撃出来るとは思わなかった。


 いや、マジで。


 完全に戦意が失われたと思ったんだが、まさかあの声援で息を吹き返すとは……。


 あの声援とは、言わずもがな、ダリアのものだ。これが、ラブパワーって奴なのかね?


 なんて、くだらん戯言はここまでにして、目の前のシュバルツを見遣る。が、駄目だな。完全に呆けてやがる。


 最後、咄嗟のカウンターにより、鉄刀の振り下ろし攻撃をくらいそうになった俺だが、きちんとカウンターの一撃をカウンターで返したわけだ。


 どうやら、彼は何をされたのかあまり理解出来ていないようだ。


 技名は『巻き上げ』、剣道にもある技の1つだ。


 要は、相手の刀に自分の刀の鋒を巻き付けるように振り上げて相手の刀を弾く技なんだが。


 「………………」


 如何せん、異世界剣術を覚えた俺の、そして元からあった剣道の能力も相まって、相手がされたことすら理解出来ないレベルの技になったらしい。


 以上、やる気なし、適当な解説でした。


 まぁ、出来るのは今回使った鉄刀とか、実際の刀くらいなものだし、魔剣の形状なんかの都合もあって、これから使うことはない気がするけど。


 「はぁ、立てるか?」


 未だに呆けているシュバルツに手を差しのべる。


 「あ、ああ」


 そしてやっと、シュバルツの顔に正気が戻る。


 いやはや、あれはイケメンのする顔じゃないって。馬鹿みたいに口をあんぐりと開けやがって、地面の砂でも詰めてやろうかと思ったわ。


 ……まぁ、嘘だけどね?そんな下道じゃないよ。


 シュバルツの手を引っ張って立ち上がらせ、観客席の観客をずらーっと見ながら、一礼。


 まぁ、どこか演武のような意味合いもあったこの決闘を見に来てくれたお客様にお礼を、という理由で。


 シュバルツも、それに習う形でにこやかに一礼。まぁ、にこやかというかにごやがというか、どこか自嘲が含まれる笑いであった気もしないでは無かったが。


 「さて……」


 どうしたものか。


 まず第1に、どう外に出よう?


 今から外に出ようとすれば、まず間違いなく観客の襲撃にあう。いや、襲撃なんて言ったらまるでどっかの世紀末みたいだから正しくはないが。


 まぁ要は、興奮した観客が間違いなく俺達に寄ってくるだろうということだ。


 ユーナ達と合流しなきゃならないんだがなぁ……。


 が、そんな悩みはすぐに消えた。


 「おう、ナイスファイトだったな」


 ユーナとダリアを引き連れて、ガレスが手を振りながらやって来る。


 ダリアの方は、なんか凄い顔してない?羞恥とか、悔しさとかがごった返したみたいな顔だけど。


 「おめでとうございます。ユウさん」


 「ああ、ありがとな」


 ユーナは、いつにも増して機嫌が良さそうだな……。


 あんまり大きく表情が変わるわけじゃないから判別しにくいが、アザミアイによる観察能力はその様子を見逃しません。


 これは、ユーナとダリアの間でなにかがありましたね。間違いない。


 「とりあえず、談話室に戻るか」


 ガレスがそう言うが、どうやって戻る気だ?


 外に出れば、まず間違いなく観客が道を塞ぐだろう。だって、もう観客席から飛び降りてでもこっちに来そうな奴もいるし。


 そもそも、歓声がまだまだ鳴り止んではいない。


 なんとも血の気の多い奴らだと思う。


 「…………?」


 そういや、ユーナ達はどうやってここまで来れたんだ?


 まぁ、訓練場の中に入るのは3人の身分やらを考慮しても楽勝だとは思うが、人混みはどう抜けてきたんだ?


 「おいユウ、置いてくぞ」


 そんな考えに耽っていたから気付かなかったが、皆いつの間にか歩を進めていたようだ。


 その前には、先頭からユーナ、ダリアと歩いている。


 「…………ああ」


 どうやって来たかわかったわ。


 ◇◆◇


 モーセの滝割りのような、という表現が理解出来るだろうか。


 あぁ、この時表しているモーセは旧約聖書にも登場するあのモーセのことだ。


 紅海に追い詰められて絶体絶命となったモーセが、手に持っていた杖を振り上げると海が割れ、ファラオに追われるモーセとヘブライ人達を逃がすように渡らせたというあの話から持って来た表現だが、いやはや、これほどまでに適切な表現はないだろう。


 まぁ、何が言いたいかは理解出来ると思う。


 結論、ユーナは凄い。


 ユーナを先頭にして進むと、誰1人としてその道を妨げる者はいなかった。


 ユーナの常人離れした美しさ。そしてそれに直接関わりに行けないヘタレ共。加えて、ユーナの背後で殺気を放ち続ける俺とガレス。


 何故かダリアも殺気を放っていた気もするが。


 とりあえず、人はあんなにも団結力を持って行動出来るんだなぁ、と感慨深い気持ちになりました。はい。


 「で、まず何の話をしてくれるんだ?」


 場所は談話室。


 ユーナの滝割りのお陰で俺達は無事に目的地に到着していたわけだが、さて……。


 「あぁ……、お前がどこまで理解しているかにもよるな」


 「いや、全部話せよ」


 なんで俺次第みたいになってんの?


 そもそも、俺のはあくまでも予測の範疇に過ぎないのだが?


 「とは言っても、お前の状況把握能力が高すぎるからなぁ」


 それはあるかも。


 まぁ、相手がわかっているだろう話をするのは、確かに俺も苦痛に感じるしな。


 「というか、時間がない」


 時間?


 その疑問を口に出す前に、赤色が吠え始めた。


 「ちょっと待ちなさいよ!なんでバカ親父といい、そこの黒髪といい、決闘の話をスルーしてるわけ!?」


 「は?」


 何を言い出すデスカ、このチビは?


 「そもそも、シュバルツが剣で負けたこと自体がおかしいと思わないの?」


 やめてやれよ。その発言は死体蹴りになっちゃうから。


 「まぁ、こいつが負けたことに疑念を挟むなんてことはする気はないけど……」


 ああ、なんだよかった。


 いきなり、「こんなのズルをしたに決まってるわ!」とか、「私とも戦いなさい!」とか言われたらどうしようかとヒヤヒヤしたぜ。


 まぁ、そこら辺は父親譲りなのか、勝負事には正直なのだろう。


 それでも、


 「ねぇ、あんた何者なの?」


 俺という存在には、疑問を抱いているようだ。


 「ただの、素チートだよ」


 なんか、決まり文句みたいになってきたなぁ、これ。


 「それに、聞いてなかったのか?お前のバカ親父も言ったろ、時間がない、って」


 俺は冷ややかな目でそう言うが、どうやらこのチビはそれで更に火がついたようで、


 「っ!るっさいわね!」


 と怒鳴り、その激情に呼応するかのように周りの空気がチリチリと音を立て始めた。


 「な、バカ……!」


 「ダリア!?」


 ガレスとシュバルツはそれを見て焦る様子を見せる。2人共ダリアを止めようとするが、顔を真っ赤して激情に身を任せるダリアに彼らの言葉は届かないようだ。


 チリ、チリ、と空気が音を立てる。加えて焦げ臭い匂いを鼻が感知する。


 魔法の暴走、みたいな感じか?


 2人の焦り方を見る限り、どうやら相当やばい状況なのはわかった。さて、どう対処したもんか、と考え出したその時だ。


 「ダリアちゃん(・・・・・・)、落ち着いてください」


 ユーナが冷静に、だがはっきりとした声でそう言った。


 すると、


 ─────ボシュン!


 と音を立て、ダリアの周囲を白い煙が覆った。


 水蒸気か?


 「な、な、ななな!?」


 ダリアはこの動揺。


 というか、ユーナのさっきの呼び方……。


 なぁるほどぉ。シュバルツとの決闘の最中に何かあったな?おそらくは賭け的な何かと見た。


 激情で顔を赤くしていたダリアだったが、今度は違う理由で顔を赤くしている。髪の色やらも相まって、林檎みたいな奴だな、こいつ。


 「まずは、ガレスさんの話を聞いてもいいんじゃないですか?ユウさんについては、その後でも」


 「でも……」


 「大丈夫ですよ。ユウさんも、話してくれますよね?」


 「まぁ、気になってんのは赤チビだけじゃないだろうしな」


 能力についての話も、こいつらにしておいた方がいいだろうし。


 というか、俺が言いたかったことも要はそういうことだしな。


 俺についての話なんて、優先順位低過ぎだからな。まずは、大切な話を聞いておかないとさ。


 「ダリアちゃんも、それでいいでしょうか?」


 「わかったわよ……」


 小さく拗ねたダリアを見て、ユーナは微笑を浮かべた。


 やべぇな、ユーナの年上力的な、お姉さん力的なのが凄い。


 「ああ……、じゃあ話してもいいか?」


 ダリアは頷いたり、反応したりはいないが、沈黙は肯定と受け取ったのだろう、ガレスは語り始める。


 「まぁ、最初から話すことにしよう。まずは、10年前に起きた『侵攻の夜』という最悪の出来事についてだ」


 ◇◆◇


 そこは、ハインの森の中心。街から数キロは離れた場所。


 「………………」


 そこに、ソレはいた。


 無骨な大剣を地面に突き刺し、ソレは静かに佇んでいた。


 「ギィィ!」


 1体のゴブリンが、ソレの下に駆けてくる。


 だが、ゴブリンの数はその1体には収まらない。その他にも、数十は優に超えるゴブリンの群れが、その場所にはいた。


 いや、ゴブリンだけではない。


 オークや、トロールなど他にも様々な魔物が存在していた。それもゴブリン同様、1体ではなかった


 ソレは、その群れを見遣り、眼前のゴブリンと向き合う。


 「ギキィ」


 人では到底理解出来ない言語、人からすれば鳴き声のようなものを聞き、ソレは再度魔物の群れを見遣り、


 「あぁ、いよいよ明日だ」


 明確な人間の言語をもって、そう告げた。


 駆け寄って来たゴブリンも、その言葉を理解してか、どこか興奮した様子を見せる。


 そして、ソレは続けた。


 「間もなくして、侵攻を始めよう」


 ────キシャァァァア!!

 ────グオォォォオオ!!

 ────ガアァァァアア!!


 その言葉を火種に、興奮が魔物の群れを伝播する。そこには、まさに歓声のような魔物達の鳴き声が響き渡っていた。


 「………………」


 ソレはその様子を静かに見続ける。


 その静かに佇み続ける様、そしてソレの体長180センチを超える筋骨隆々とした肉体、その風貌からは、歴戦の武人を想起させる。


 ただ、ソレの肌は、ゴブリンと同じような浅緑色のものであったが。


 ────ァァァァアア


 魔物達の興奮は伝播し続け、いつしかそれは森の中心からは遠くにいるであろう魔物にも届いていた。


 その遠くから響く声はざわめきとなり、森はその魔物達の咆哮に怯えるかのように木々を揺らし、更なるざわめきが生み出される。


 太陽が雲に覆い隠され、森の中の闇が深まる。


 グリエラの街をかつて恐怖の底に陥れた魔物による侵攻が、再び起きようとしていた。



 剣術を覚えて相手をビビりまくらせるユウさんと、露骨なテンプレフラグが建った20話でした。


 題名の『ざわめき』は、決闘終わりの観客の『ざわめき』と、最後の森の『ざわめき』ととの2つなんじゃないですかね?と、他人事のように書いておきます。


 次回、『侵攻の夜』


 次話投稿は早めだと思われます。明後日、もしくは早ければ明日にでも。


 感想、評価、随時お待ちしております。

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