第17話 謎の卵
いつもと15時間遅れだけど間に合った?間に合ったよね?そんなわけで17話です。
2日以内、なんて言っちゃいましたしね。頑張りました。
息を切らし、肩を揺らすメユ。
疑問符を浮かべる俺。
そんな状況を動かしたのはユーナだった。
「メユさん、落ち着いてください。詳しく話してもらってもいいですか?」
ユーナはメユのもとに寄り、そう声を掛けた。
流石は冒険者ギルドの職員と言うべきか、それともユーナの完璧さ故か。
メユも少しは落ち着いたようだ。
「まず、いつはぐれたのですか?」
ん?
違和感。
「あ、えと、今から20分くらい前、です」
「いや、そもそもどこではぐれたんだ?」
そう、感じた違和感の正体はこれだ。
まず聞くなら『どこで』じゃないか?
「ああ、ユウさんは知りませんよね。この街の子供達の遊び場は近くの森なんですよ」
「え」
何それ危なくない?
「森の入口周辺はそれなりに安全ですから。それに、遊びに行くとするならメユさんのような年長者の方がついて行きますし」
うーん、これがカルチャーショックってやつか……。
魔物の住んでいる森に遊びに行くとは、この街の子供達は元いた世界の子供達とは違って、随分とワイルドな遊びをしてるなぁ……。
まぁ、俺やユーナと同い年のメユなんかの付き添いがあれば安全、なのか?
ただ事実、シユがいなくなったわけだけど。
「シユちゃんはなんというか、自由奔放なな子ですから」
俺の表情からそんな疑問を読み取ったのか、ユーナがそう答えた。
そういや、初めてシユと出会った異世界生活1日目のあの日も、シユはセユナさんとはぐれていたっけか。
「シユは自由すぎるのよ……」
「でも、シユちゃんはしっかりした子ですから、大丈夫ですよ」
「それは、そうね」
納得するのかよ。
「はぁ、メユ、はぐれた場所まで案内してくれ」
「え?」
「探しに行くって言ってるんだよ」
「でも……」
あ、メユは知らないのか?俺が冒険者だって。
「これでも俺、Aランクの冒険者だから。任せろって」
というわけで、Aランクになって最初の依頼、迷子の女の子を探しに行こう。
◇◆◇
結論から言うと、シユはすぐに見つかった。
ただ、これは別に俺がチート人間だから、とかそういう理由は一切ない。いや、あればあるでカッコつくんだが。
カッコつける気とかないけどね、別にナルシストってわけじゃないし、俺。
話は、森の入口に着いた時に遡る。
「────で、この辺りではぐれたんだけど……」
「………………」
「……聞いてる?」
「ん、ああ」
メユは訝しむようにこちらを見ていた。
「まぁ、あとは俺がなんとかするから、メユは帰って大丈夫だぞ」
「そうはいかないわよ。シユがいなくなっちゃったのは、元はと言えば私の責任なんだから」
「いや、別にいいんだがな……」
俺が全速力で森を駆け回ったら間違いなく置いてくぞ?
「いいから、なんだったら他の冒険者にでも声を掛けたらどうだ?シユを探して、なんて言ったらほとんどの冒険者は間違いなく全力を賭すと思うぞ」
「うーん……」
悩むなよ。ただの戯言なんだから。
本当にたくさんの冒険者が来ると思うぞ……?
「はぁ、任せろって。絶対に見つけてくるから」
ポン、と頭に手をのせる。
するとメユは顔を真っ赤にして、
「なっ、ななな、なにするのよ!?」
「うぉ、そこまで怒るか」
一瞬で後ろに飛んだと思えば、シャー!と猫のようにこちらを威嚇するメユ。
うーん、ユーナと俺への態度の差が酷い。結構ショック受けた。
「ふ、ふん!じゃあ1人で行けばいいじゃない!怪我したって知らないからね!」
「するか」
そう言って、俺はある物を見ながら森の方へと身体を翻す。
そもそも、俺はこの世界に来てから怪我なんて1度もしてない。怪我の心配は無用だろう。
俺が怪我するとか、多分普通の冒険者なら怪我じゃ済まないだろうし。
「………………」
森の中に入り、振り返ってもメユの姿は見えなくなった。
で、
「メユには見えなかったみたいだが、この光の粒子みたいなのは一体なんだ?」
森の奥へと繋がる白い光の粒子。
これは、ただの直感だ。直感でしかないが、確信を持って言える。
この先に、シユはいるだろう。
「奇妙な感覚だな。知らないはずなのに知ったような感覚」
何なんだ、これ。訳が分からん。
だが、あてなく探すよりはマシだろう。
「【身体強化魔法:速度特化】」
魔法を発動。その言った内容から分かるように、昨日ガレスから真似したものとは色々違う【身体強化魔法】だ。
いや、技術としてはこの世界にあるらしいんだけどな?
【身体強化魔法】はそもそも全身に無属性の魔力を通して発動するものだ。
だが、漫画でもよくあるだろ?
俺は、その魔力を足にのみ通した。
やったことは、それだけだ。
この世界の魔力は、どうやら血管なんかの決まった通り道を通らないらしい。いや、一応は通っているらしいのだが。
とりあえず、それだけで【身体強化魔法】は効率化され、魔力消費量や強化係数が変わるようだ。
ちなみに、これを覚えたのは昨日のギルドからの帰り道で、これをやった時、ユーナは少し驚いた顔をした後、
「もう、慣れてきました」
と、呆れ顔で言っていた。
どうやら、結構レベルの高い技術らしい。
「とりあえず、何かあっても困るしさっさと行くか」
そう言って、俺は白い光の粒子を追って、森の奥へと向かったのだ。
で、話は戻る。
シユはすぐに見つかった。
シユが見つかったのは森の結構奥の方だったが、俺のあのアホみたいな速さならすぐだった。
「………………」
いや、見つかったんだ。見つかったんだがな……。
あ、怪我とかはないよ?
ただ……
「スー……スー……」
俺の目の前にはある物を抱え、寝息をたてるシユの姿。
「……普通寝るか?ここで」
苦笑する俺。
ここ、昨日俺がハインウルフを狩った場所よりも深いんだけど……。
そんな場所で静かに寝息をたてる少女とか、どうなんですかね?
それと、もう1つ。
「卵、か?」
シユの抱える『それ』についてだ。
それなりに大きい、人の頭1個分はある卵。そして、その卵から漏れ出す白い光の粒子。
どうやら、この卵が俺をここに誘ったらしい。
それと、俺がここに着くやいなや、その粒子は俺の周囲を取り巻いていた。
「何の卵だ、これ?」
魔物の卵とかだったら洒落にならんぞ。まぁ、魔物が胎生か卵生かとかは知らないが。
溢れ出て、俺を取り巻く光の粒子が気になり、卵に右手を伸ばす。
それは、知的好奇心から来る何気ないことだったのだが、
「────────!!??」
パクリ、と『ナニカ』が俺の指を咥えた。
勿論、咥えたのはシユではない。
その『ナニカ』は俺の指を一瞬パクリと咥えた後、そのまま卵へと戻っていった。
驚きのあまり、俺も卵から距離を取る。
右手を見るが、別段変わったことはない。
「……なんだ、今の?」
俺の指を咥えた『ナニカ』。一瞬しか見えなかったが、それは、俺を取り巻いていた光の粒子でかたどられた、蛇のような生き物だった。
「そういや、光の粒子も消えてるな……」
気づけば、俺を取り巻いていた光の粒子も消えている。
「……何がどうなっているのやら」
異世界に来て3日目、まだまだ知らないこてが多いとはいえ、このような珍妙な出来事に遭遇するとは……。
「とりあえず、シユを起こして帰るか」
そう呟き、地面に寝そべるシユの肩を揺らす。
「おーい、シユ、起きろー」
「ん、んぅ」
そう間を開けず、シユは小さく目を開ける。
「黒いお兄ちゃん?」
「ああ。早く帰るぞ、皆心配してる」
寝ぼけてるのか、シユはぼーっとしていたが、いきなり目を見開くと、シユは抱えてた卵を俺に見せつけてきた。
「卵見つけたの!」
「ああ、うん」
その卵から出てきた『ナニカ』に指を咥えられたよ、とは言わない。
すると、シユは唐突に顔を小さく顰める。
「なんか、臭い」
「だな」
やっぱり気付くよな。
俺も着いたときは顔を顰めた。
別に、理由もなく顔を顰めたりはしない。
顔を顰めたのは、周囲に魔物の死骸が散らばっていたからだ。
シユの寝ていた所は綺麗だが、シユが寝ていた所を中心とした円より外には死骸が散乱している。
死骸はほとんどが原型を留めておらず、何か重量のある武器を力強くぶつけられたと推測される。
文面からわかるだろうが、やったのは俺ではない。
誰か、先客がいたようだ。
まぁ、シユのいる位置からなら見えないから、匂いがするだけですんでいるわけだが。
子供の健全教育上、見せられるモノじゃないしな。
「ユーナやメユも心配してるし、そろそろ帰るぞ」
「うん!」
卵を見つけたという喜びからか上機嫌なシユは力強く頷く。
「あ、黒いお兄ちゃん?」
「ん?」
「この卵、あげる」
「は?」
いきなりすぎることに、俺は戸惑う。
どうしてまた急に。
「いいのか?シユが見つけた卵じゃないか」
「黒いお兄ちゃんに持ってて欲しいの」
へぇ、俺に、ね。
なんというか、本当に不思議な子だ。
「わかった。お言葉に甘えて貰うとしよう」
これで魔物の卵だったらどうすればいいのだろう?
というか、魔物に親の刷り込みとかあるのか?
「はい!」
卵を両手で持ち、こちらへ突き出すシユ。
「……どうも」
先程の事もあって、卵に触れるのに若干の抵抗を覚えつつも、卵を受け取る。
だが、そんな抵抗も杞憂にはならなかった。
「………………っ!」
卵に触れた瞬間、魔力を吸われた。というか、現在俺は卵を両の手で持ち続けているわけで。
現在進行形で魔力が吸われているんだが。
「あの、シユ?」
「うん?」
「この卵持っても、なんともなかったのか?」
この卵、割とえげつない勢いで魔力を吸ってくるんだけど。いや、マジで。
このままだと宿に戻るまでに魔力尽きてもおかしくないんだが?
「うん、なんともなかった」
「じゃあ、帰るまで持っててくれ」
「……?わかった」
疑問符を浮かべながら、シユは卵を受け取る。
卵を受け取ると、ニヘラーと笑みを浮かべ卵を撫で始める。
そんな様子を見るに、魔力が吸われているということはなさそうだ。
……何なんだ?この卵。
「後でユーナに聞いてみるか」
そう小さく呟き、辺りを見渡した。
散らばる魔物の死骸。これ、全部処理しといた方がいいよな。
とはいえ、今燃やせば匂いがな……。
「いや、それなら風属性の魔法でどうにか出来るか」
自己解決。
辺りを見渡し、燃やす位置を確定する。木を燃やせばギルドから起こられそうだしな。それと、俺とシユがいる位置に匂いが来ないよう風属性魔法、【風昇】を発動する。
「シユ、ちょっと驚くかもしれんが卵は離すなよ」
「ん?」
瞬間、周囲に炎が走った。
俺の足元から放たれた炎は、木々の合間を縫い的確に魔物を焼き尽くしていく。
【炎線】
俺が発動したこの魔法は、炎を自分の思い描いた線上に走らせるという魔法だ。
なんとも地味だが、イメージさえ確立出来ていればそれなりに強力な魔法である。
……俺にとってはな。
サラッと無詠唱なわけだが、ゴブリン戦でもそうだったわけで、実際今更感があるよな。
「ふう、こんなもんか」
3分もしないうちに辺りに魔物の死骸は見えなくなった。ただ、焼け焦げた地面に関しては……知らね。一々責任とかとってられるか。
ん?
「………………」
「どこ見てるの、黒いお兄ちゃん?」
「ん、ああ、いや。なんでもない」
チラリと人影を見たような気がするが、気にするほどでもないか。
「じゃあ、帰るか」
「うん!」
そんなこんなで、俺とシユは卵を携え、街へと帰っていったのだった。
◇◆◇
「もう、シユ!勝手にいなくならないでって言ったじゃない!」
「ごめんなさい」
帰ると、まず待っていたのはメユのお怒りだった。
「メユさん、ずっとシユちゃんのこと心配していたんですよ?」
ユーナも優しく諭すようにそう言った。
チラリと厨房の方を見遣ると、ゼルバさんもセユナさんも、あらあら仕方ないなぁ、といった様子だった。
あんたら、自分の娘が行方不明だったのに全然動じないのな……。
「ユウ」
不意にメユから呼びかけられる。
「その、ありがとう。シユを見つけてくれて」
「どういたしまして」
小さく笑いながらそう返す。
「……っ」
返すやいなや、メユはプイッと顔を背けてしまった。
やっぱり、嫌われてんなぁ。
「ああ、そうだ。ユーナに聞きたい事があったんだ」
「聞きたい事、ですか?」
無論、卵のことだ。
「シユが見つけたそうなんだが、これ何の卵かわかるか?」
テーブルの上に置かれていた卵を指さす。
「随分、大きな卵ですね」
そう言って、卵に触れた時だった。
「────!」
卵に触れた瞬間、ユーナは一瞬で手を引いた。
「ユウさん」
「言いたいことはわかった」
「この卵に触った瞬間、魔力が吸われたんですが……」
「俺もだよ」
どうやら、ユーナも魔力を吸われたようだ。
「魔力が吸われた?」
メユが寄って来て、卵に触れる。
「……別になんともないけど」
「「え?」」
俺とユーナの声が被った。
「お父さん、お母さん、この卵に触ってみてくれない?」
その後、ゼルバさんとセユナさんが卵に触れても魔力が吸われるという事は無かった。
だが、俺とユーナが触れば魔力を吸う。
「なんなんだろうな、この卵」
「なんなんでしょう……?」
俺達の間には、疑問だけが残った。
◇◆◇
場所は変わり、冒険者ギルドの前。
そこには、金髪の青年と赤髪の少女の姿があった。
「はぁ、やっと着いた。もう馬車はこりごりよ」
「そうかい?僕はあまりなんともないけど」
「あんたはそうでしょうね、あんたは!」
赤髪の少女は金髪の青年にそう言うと、ギルドの方へと視線を移した。
「久しぶりにあのバカ親父の顔を見るわね。あのバカ、会ったら1発ぶん殴ってやるわ」
「やめときなよ」
青年は宥めるが、どこか諦めた風だった。
そんな様子でギルドに入る。
ギルドの中の人気は、現在の時間もあって少なかった。
そこで、少女はギルドの掲示板に張り出されたあるものを見た。
「なによこれ?」
そこには、『異例の2日でAランク』と大きく書かれており、その下には内容が事細かに書かれている。
「ユウ・アザミ?」
そこに書かれた名前と、ガレスによる賞賛のコメントを見て、少女は怒りを顕にする。
「あのバカ親父、とうとう目が腐ったのかしら?」
少女の周囲がチリチリと音を立て始める。
それを見ていた青年は、あーあといった感じでその様子をただ見続ける。
これは一波乱ありそうだな、と。青年は小さくため息をついた。
やっとペットのペの字が出た感じ。謎の卵、一体何が生まれるのか……。
次回は一波乱ありそう!
次話投稿はいつ?わかんない!早めに投稿出来れば幸いです!
あと、感想随時お待ちしてます。評価も、付けてもらえると嬉しいです。ではでは。