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第15話 疲労の恐ろしさ

 遅ればせながら15話です。


 もう少し話が展開出来てたら昨日はバレンタインの話とか投稿してたんですかね。無念。

 「Aランクになったぁぁぁぁああ!?」


 「はい」


 宿に帰って今日起きた事を報告する。


 結果、爽やかな雰囲気からは想像出来ないゼルバさんの絶叫が響いた。


 ちなみに、俺もユーナも濡れた状態からはもう着替えている。俺はコート姿ではなく、部屋着のような格好だ。ユーナも同じく。


 「お、お前、冒険者になったのは昨日だったよな?」


 「ええ、昨日から冒険者になりました」


 「Cランクから?」


 「はい、Cランクから」


 はぁー、とゼルバさんは息を吐く。すると、破顔し声を上げて笑い始めた。


 「そうかAランクか!はっはっは、いや、凄いな!僅か2日で全盛期の俺に追い付いたなんてなぁ!」


 笑いながらバシバシと俺の背中を叩いてくる。


 筋肉が、筋肉が凄い。痛いよ、凄く。


 ゼルバさんが元冒険者なのは知っていたが、Aランクだったのか。となると、それなりの実力者だったのだろう。


 確かに、この体格なら有り得るなぁと思う。


 「ユウさん、凄いんですねぇ」


 奥さんもありがとうございます。


 ここで「実はSランクのガレスと戦ったんですよ。しかも勝ちました」とか言ったらどうなるんだろうか。


 無論、言う気はないし、近くのテーブルに座っているユーナにも黙っていてもらうよう言ってある。


 まぁ、そもそもあの試験の内容については秘匿するらしいから、話すのは駄目なのだが。


 意味のないif。意味のないことはしない性格なんだがな。


 だが、こんな様子を見るとそんな考えが頭をよぎるというものだ。


 「でも、少し問題がありますね」


 ユーナのいつも通りの淡々とした口調。


 「今日のことはギルド側としてもまだ公にはしていませんが、色々な噂が飛び交っているのが予想できます。なので、今日はお客さんの入りが多いかもしれません」


 「あー」


 確かに。


 そもそも、昨日の熱が冷めやらないというのもあるだろう。


 昨日店に来て俺を知った客、冒険者が彼らの情報網なりを使って、俺の噂を広めている可能性は非常に高い。というか、低い理由(ワケ)がない。


 それに加えて、今日。おそらく俺とガレスが試験のために訓練場に向かった姿をみた冒険者は少なくない。結構大きな人払いもギルド側で行われていたらしいしな。


 そんな理由(ワケ)で、きっと今日もこの宿混みます。


 「はっはっは!そりゃあいい!うちも儲かるというものだ!なぁ、セユナ」


 「はい、今日は忙しくなりそうですね」


 豪快に笑うゼルバさんと、にこやかに笑う奥さん。


 奥さんはセユナという名前のようだ。


 ゼルバ、セユナ、メユ、シユ


 なるほど、名前は把握した。


 ……娘さんの名前は奥さんから来てるのだろうか?なんとなく似ている気がする。


 まぁ、娘2人はともかくセユナさんは『ユ』繋がりなだけだが。


 とはいえ、俺の名前といい、ユーナといい、この宿には『ユ』の字の名前が多い気がする。というか、多い。


 「今日は私もお手伝いしますね」


 「昨日に引き続きですが、俺も」


 ユーナと俺が助っ人として入るなら、大丈夫だろう。


 そもそもユーナは人間としてスペック高いだろうし、俺もそうだ。昨日の今日だしな。


 まぁ、大丈夫だろ。そう結論付けた時、扉が開いた。


 「ただいまー。……あ、ユーナさん!」


 シユとメユが帰って来たようだ。


 メユはユーナを見るなり素早い動作で近くに寄っていく。俺を一瞥するが、本当に一瞬だけだ。


 というか、メユはユーナに懐き過ぎじゃない?凄いな、俺との応対の差が。


 あれか?男と女だから?


 いや、ユーナも俺と同じくらい拒絶されたみたいだし、となると……。


 「おかえりなさい、メユさん。顔を合わせるのは久しぶりな気がしますね。いつもは私の仕事も相まって顔を合わせていませんでしたから」


 まるで姉のような、いや何だろう、姉じゃないなこれ。母性的な何かを感じる。いや、カリスマ?


 綺麗な銀髪、顔立ちもあって、


 「……神様だな、これ」


 信者と神様の絵が出来上がっていた。


 つまるところ、メユは女版ユーナ親衛隊みたいな感じだ。


 そんな様子を観察してると、ツンツンと腰をつつかれる。


 「黒色のお兄ちゃん、ただいま」


 「おかえり、シユ」


 後ろを振り返る。そこにあったのは、ユーナを取られてか、若干不機嫌そうなシユの姿だった。


 だが俺が返答すると、ニパーと笑う。


 なるほど、構って欲しかったのな。


 「シユちゃんもおかえりなさい」


 「うん。ただいま、白色のお姉ちゃん」


 黒色のお兄ちゃんに白色のお姉ちゃんか。


 俺としては、ユーナは銀色のお姉ちゃんって感じだけどな。


 まぁ、俺がユーナを白色と称さないのは、妹のことがあるからかもしれないが。


 髪が白く、眼が紅い。俺の妹はアルビノというやつだったからな。


 ────『お兄ちゃん』


 「………………」


 妹の姿が頭をよぎり、シユの姿と被る。


 まぁ、俺の妹とシユの共通点なんて年齢と体躯くらいだが、それでも、被るものは被る。


 「ユウさん?」


 「……どうした?」


 「いえ、何か暗い顔をなさっていたので」


 表情に出てたか。


 まぁ、俺は結構妹好きだったしね。元いた世界じゃ、爺さんと妹は俺の中では割と大切な位置にいたから。


 この世界に来て2日経った今でも、俺は妹を1人にしてしまったという罪悪感に若干苛まれているのかもしれない。


 ただまぁ、あの女神曰く、俺に関する記憶は全て消されたらしいしな。それに、俺の妹は俺に似て賢いから、大丈夫だろう。


 「なんでもない」


 「そうですか……」


 心配そうな顔のユーナ。いい人だよ、まったく。


 「そうだよ」


 柄にもないことをしたなと猛省。


 本当になんでもない。


 俺が生きてるのはこの世界で、もう元いた世界に生きてはいないのだから、この考えも無駄でしかないだろう。


 でもなぁ、妹に会いたい気持ちもあるよなぁ。


 「よし!」


 スイッチを切り替えようか。


 弱音を吐くなんて俺らしくない。


 「ゼルバさん、仕込みとか手伝うことあります?」


 「おう、じゃあ────」


 とりあえず、目の前のことをなすことだけを考えよう。


 ただ、この時の俺はこれから起こる出来事について、予想すらしていなかったのだった。


 ◇◆◇


 「ありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」


 ユーナが最後の客を見送り、扉を閉じる。


 宿の1階は、最早死屍累々といった感じだった。主にゼルバさんと俺が。


 セユナさんとユーナも疲れているだろうが、厨房で料理を作っていたゼルバさんや俺は疲労で完全にノックアウトされていた。


 いや、あの、この世界に来て1番疲れたんですが。


 ゴブリンに襲われたときよりも


 ハインウルフを狩りまくったときよりも


 ガレスと戦ったときよりも


 今回が1番疲れた。


 いや、わかってはいたんだよ?昨日より人が来るということは。


 ただね?


 「ユーナを見るために来る人があそこまでいたのは予想外だった……」


 そう、この点。この点に尽きる。


 俺の噂を聞いて来た奴、早めに仕事を終えて宿を手伝っているユーナを見に来た奴。いやはや、けたたましい数だった。


 ゼルバさん曰く、この街の冒険者の4分の1は来たんじゃないか、とのこと。


 具体的な数で表したいのは山々だが、俺は100を超えたあたりから数えるのをやめた。しかも、割と早い段階で。


 現在時間は深夜0時。日も跨いでしまった。


 11時の段階で客の入りも少なくなったから、途中からは夫妻、ユーナ、俺の4人で切り盛りしていた。途中まで手伝っていたメユはもう寝ているだろう。


 「ユウさん、本当に料理上手ですね」


 「あー、ありがとー」

 

 ユーナからの賞賛にまともに返す気力もない。


 「いやぁ、本当、このままここで働いて欲しいくらいだ」


 ゼルバさんは俺と同じで疲れた顔をしているが、それでも、爽やかさが消えない。


 爽やか40代スゲェ。


 「ユーナさんも、お仕事もあってか接客に慣れてますし、2人共うちで働いて欲しいです」


 セユナさんがユーナを褒める。


 確かに、ギルドで窓口業務やってるユーナの接客は物腰もしっかりしていた。


 「……ありがとうございます」


 それでも、今は若干疲れが見て取れるが……。


 「うふふ」


 でも、なんで奥さんそんな元気なの?


 余裕綽々といった感じなんだけど?え、何者なのこの人。


 「ユウ、うちの嫁さんは凄いだろう」


 そんな俺の様子を見てか、ゼルバさんが話しかけてくる。


 「ええ、本当に顔色1つ変わってませんよ」


 「うちの嫁さん、ベッドでも凄いんだわ」


 「知るか、疲れてるなら寝てろ」


 いきなり何言い出すんだこの人。敬語抜けたわ。


 「………………」


 「うふふふふふ」


 「ほらもぉ、カオスな雰囲気になってるじゃねぇか!」


 このふざけた話は女性陣にも聞こえていたようで、ユーナは若干顔を赤らめ(うつむ)き沈黙、セユナさんはただ怪しく笑っていた。


 セユナさんの背後に黒いオーラを幻視したぞ。


 「ユウさんは、ユーナさんとはどんな感じなんですか?」


 おいいいいい!?セユナさん俺に攻撃仕掛けてきたんだけど!?


 「……っ」


 ユーナが更に顔を俯かせたじゃねぇか!!


 どんな仲でも男女関係に関する質問はこういう感じになっちゃうんだよ!


 さっきのといい、わかってはいたがユーナは男性に対する免疫が無い。特に恋愛なんかはそれが顕著だ。


 そりゃそうだ、あのふざけた親衛隊(アホども)が男を近づけないしな。自分からも近づかないし。


 「え、ええと、まだ会って2日ですから」


 誤魔化そう。率直な感想言って変な状況になっても困るし。


 いや、もう充分(カオス)だけどね?


 「でももっと仲を深めたい、ですよね?」


 「セユナさん!?」


 どうしちゃったの、この人!?


 助けを求めるために旦那(ゼルバ)の方を見遣るが、


 「zzz……」


 「ゼルバァァァ!!」


 確かに寝てろって言ったけどはええよ!


 「ユウさん?」


 こうなりゃ、やけだ。


 「まぁ、仲良くはしたいですね」


 疲れた身体に鞭打って、紳士な応対をする。


 よかろう、やってやる。


 ユーナさんを真っ赤にするまで俺は止まらないぜ?


 「へぇ、じゃあさっき旦那が言ったようなこともしたい、と?」


 言わずもがな、ベッド云々のことだな、これ。


 「あの、ちょっと、セユナさん?」


 これは、ユーナも流石に黙っていられない。


 「でもユウさんも男の方ですし、ユーナさんも美人ですから、きっと────」


 「はいストップ、止まってください」


 これ以上はいけない。


 いや、あの、やってやるとか言った割にヘタレたことだが、駄目だこれは。勝てない。


 今まで色んな人を見てきたが、このタイプの人は苦手だ。勝てる気がしない。


 なんだろう、言ってしまえば『暗黒面を持つ奥さん属性』というのか。


 これ、俺が知る限りはセユナさんしか当てはまらないが。


 「うふふ、冗談ですよ」


 「重すぎですから」


 固有魔法の使用も辞さないってとこまで来てたよー?


 「またまた。なんだかんだで、わかっていたじゃないですか」


 「………………」


 ……だから苦手なんだよ。掴みどころのないタイプ。


 「うふふ。それでは、夜も遅いですし、早く寝る準備をして寝てしまいましょう」


 私も、疲れてしまったみたいですから。


 そう言って、セユナさんは旦那(ゼルバ)を起こして、1階奥へと向かう。


 いやはや、わかってはいたがとんでもない人だったなぁ……。


 「ユーナ」


 「は、はい」


 俺が呼びかけると、ユーナは身体を少しビクッと震わせる。


 あの、そんな身構えられると傷つくよ?


 まぁ、あんな話の後だし無理もないけど。


 「……何も無かったよな?」


 「え?」


 「俺達は、働きに対する賞賛を受けただけで、他は何も無かったよな?」


 要するに、今あった出来事を無かったことにしようという提案である。


 これから顔を合わせる度に気まずくなるのは困るからな。


 「はい、何もありませんでした……」


 ユーナは疲れた顔でそう言った。


 俺も疲れ顔で、そうか、と返す。


 疲労は人を狂わせる。


 疲労は判断能力を低下させるし、判断能力の低下は思わぬことに繋がる。それは、いきなりの爆弾発言だったり、まぁ色々だ。


 思いがけない発言には人は戸惑うものだし、それは素チートな俺も、冷静(クール)なユーナも変わらない。


 そして、戸惑いは状況に応じて加速する。


 何が言いたいかというと。


 要は、ゼルバ絶対許さない、ってことだし、セユナさんマジ怖い、ってことでもある。


 いけない、何も無かったんだった。


 「とりあえず、おやすみ、ユーナ」


 「おやすみなさい、ユウさん」


 まぁ、本当に色々あった1日だったが、なんだかんだでユーナとの距離が縮まった気がする1日だった。


 はぁ、さっさと風呂入って寝よ。



 ユーナの特大のデレを書くために私は必死に頑張ります。


 もう数話したら話が動き始めるので、投稿もそれなりの頻度で行えればいいなぁ、なんて考えてます。


 ブックマークも思ってた以上についてて、なんだかんだでやる気は十二分に湧いたので。


 あ、評価もつけてくれていいんですよ?(チラチラ

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