第14話 規格外
ブクマ数が100件を超えてる!?笹食ってる場合じゃねぇ!!
というわけで14話です。遅れましたすいません。
「あー、背中痛い」
地面に大の字に寝そべりながら、俺は気の抜けた声でそう言った。
先程までの戦いでは有り得なかった、完全な脱力。
はぁ、このまま寝てしまいたい。
とは言っても、実際のところ地面は濡れており、寝心地は最悪だったが。
「はぁー」
ガレスとの戦い、Aランク認定試験はCランク冒険者である俺が、Sランク冒険者であるガレスに勝利するという結果で終わった。
まぁ、どちらも本気では無かったんだけど。
「おい、ユウ。お前、俺に勝ったんだからもっとシャキッとしろよ。負けたこっちが馬鹿みたいだろ」
「いや、実際馬鹿だろ」
どちらも本気では無かった、というのは別に俺の憶測という訳ではない。
まず俺に関して言えば、今回の戦いでは固有魔法の能力の一部しか使ってなかったという点だ。
使ったのは主に幻覚を見せることだけ。
ちなみに、さっきの【幻影創造】による剣も全部幻覚だ。だから、剣が何本かガレスに刺さったのも、肉体的なダメージは0である。血すら流れていない。
それでもガレスが膝をついたのは、ひとえに『思うがままの世界』を幻覚以外の用途で使ったからなのだが。
詳しい説明は割愛。来るべき時にということで。
んで、ガレスについてだが。
「白羽取りされた後でも、『赤鬼』だかで攻撃していればあんたの勝ちだっただろうに」
そう、『赤鬼』。この点に尽きる。
俺が『思うがままの世界』を出し渋るのと同じように、ガレスもあの赤い粒子による攻撃はほとんどしてこなかった。
それが、俺の『どちらも本気では無かった』という判断の1番の理由だ。
「あぁ、だからあれは発動条件、というか……。まぁ、お前なら話してもいいか」
そう言って、ガレスは少し真剣な顔になる。
俺も寝そべった状態から身体を起こした。
寝ながら人の話を聞くのは失礼である。爺さんがよく言ってたことだ。常識でもある。
「俺にはな、『赤鬼』っていう……なんて言えばいいか……そうだな、守護精霊みたいなのがいるんだよ」
守護精霊、守護霊と同義に捉えていいかな?
「で、そいつと俺は心の中で一応のコミュニケーションをとっている訳だが、どうもこいつは自分勝手な奴でな、自分の気乗りする戦いにしか手を出さないんだ」
「で、今回は気乗りしなかったと」
「ああ。まぁ、ただの試験だったってのもあったし、1番はやっぱお前が本気じゃなかったからだな」
「……そんなにわかりやすく手を抜いてたか?」
それなりに本気だったんだけど。属性魔法の使用にもそれなりに頭働かせてたんだけど。
「いや、そんなことはない。俺からすれば十分に脅威だった。初級魔法であんな威力を出してきたのには、度肝を抜かれたぞ」
「俺は自分の魔法の威力が初級どころじゃないと言われて度肝を抜かれたよ」
そう、これ。
わかってはいたが、どうやら俺の属性魔法の威力は一般とは程遠いものらしい。
ユーナ曰く、俺の初級魔法はそこらの上級魔法よりも威力が高いとか。
「お前が上級以上の魔法を使う姿とか考えたくねぇよ」
「ああ、うん」
初級魔法以降はまだ覚えるなって、ユーナも言ってたな。
「にしても、すげぇ威力だったとはいえ、なんで各属性1種類の初級魔法しか使わなかったんだ?雷属性も、【雷射】だけだったし、初級でももっと種類あるだろ。【雷曲】とかよ」
「まだ覚えてない」
「は?」
「いや、各属性で1つの種類の初級魔法しか覚えてないんだよ」
何を言ってるんだこいつ、という風な目でこちらを見てくるガレス。
だが、事実なのだから仕方がない。
この世界での魔法、つまりは一般的な属性魔法のことだが、これには様々な種類がある。
その種類は、まず『属性』で分けられ、そして次に『規模』や『威力』によって細分化されていく。
初級、中級、上級、最上級とか、そういう風に。あと、最上級以降は規格外、エラーと呼ばれる。
基本、規格外級の魔法を使える奴はいないらしい。いたとしたら、そいつはSSランク以上は確定だとか。
で、そんな規格外を除いた区分についてだが、どの属性、どの級にも1種類より圧倒的に多い種類の魔法が存在するのだ。
雷属性初級魔法だったら、例えば俺が多用していた【雷射】。それから、先程ガレスが言っていた【雷曲】。これらが雷属性初級魔法にあたる。もちろん、雷属性初級魔法はこの2種類だけではないが。
他の属性についてもそれは同じだ。
で、俺は各属性で1種類の魔法しか使わなかったわけだ。理由は簡単、覚えてなかったから。
いや、『初級魔法のススメ』ではそれしか読まなかったんだ。仕方ないよ。
「お前、魔法を覚えたのはいつからだ?」
「本格的に覚え始めたのは今日からだな」
信じられない、ガレスの顔がそう言っていた。
ですよねー。
だが、事実なのだから仕方がない。
「帰って他の魔法も覚えようとしてたのに、いきなり試験だなんだと言われたんだから、1種類しか覚えてないのは仕方ないだろ」
本当は朝の内に地下書庫の本全てを読み終えるつもりだったんだがな。
【雷射】を覚えて、めちゃくちゃ使いたくなったんだよね。
だから大量ハインウルフが【雷射】で仕留められていたのだ。
好奇心には勝てなかった。
そして、半分好奇心のままに虐殺されたハインウルフよ南無……。
「はぁ。本当、何者なんだよ、お前」
呆れたようなガレスからの質問。
返す言葉は決まってる。
「ただの素チートだよ」
ちょっとばかし最強な、ね。
「で、話を変えるけどさ」
そう言いながら立ち上がり、ガレスを見据える。
「この試験の目的は、何だ?」
さっきまでの勝負終わりの緩んだ空気が一気に消え失せる。
休憩は終了だ。
◇◆◇
「やっぱり、勝ってしまいましたか」
目の前の光景、ユウさんがガレスさんを下す瞬間を見た私は、その光景を意外ともなんとも思わなかった。
最初からユウさんが勝つと思っていたから。
ただ別に、お互いが本当に全力で戦っていたかというと、そうではなかったとは思う。
でも、『赤鬼』を使わなかった、いや使えなかっただけで、ガレスさん自身は途中から本気だったことも事実でしょう。
私自身、あそこまで【身体強化魔法】を全力で使うガレスさんは久しぶりに見ました。
それに、途中途中で『赤鬼』が手を貸したのも見えました。
それをユウさんは、どの属性も1種類の初級魔法しか使えない【属性魔法】と戦っている最中に覚えたという【身体強化魔法】、そしておそらくは幻覚能力を持った魔法のみで戦い抜いていた。
それだけで、ユウさんの実力はSランクを優に超えているのは瞭然です。
あそこまでの魔法戦闘が出来る人間はそういないしょう。
でも、同時に違和感も。
それは、ユウさんがあまり剣を使わなかったこと。
私の知るユウさんは、魔法戦闘を主体とする魔法師ではなく、剣術を主体とした剣士だったはずなのですが……。
「クシュンッ」
とりあえずユウさんからコートを借りているとはいえ、身体が濡れて寒いので、早く話が終わって欲しいですね……。
◇◆◇
「………………」
沈黙が場を包む。
俺とガレス、お互いがお互いを見据えるような状況。
「はぁ、やっぱり気付かれるよな」
ガレスは諦めるようにそう言うと、再び息を吐いた。
「お前、どこまで気付いてるんだ?」
「近々、この街に何かが起こるってことまで。主に、魔物による被害が」
「……じゃあ、この試験の目的についてはどう見てるんだ?」
「俺をこの街の戦力として加えるため、ってところだろ?」
俺は淡々と答えを返した。
ガレスは顔を引きつらせているが、正直その表情は見飽きた。もうほとんど何の感想も抱かない。
俺がこの事実に気づいたのはガレスが俺に試験をすると言ったときだ。
元から、森に異変が起こっているということは森の比較的浅い場所であの大量のハインウルフ、そして、変異体のオークと戦ったときに気付いていた。
あの数の魔物がいつも森の浅い場所で出るのなら、この街はもっと殺伐とした街になっているだろう。
だが、街の冒険者のお陰で街は至って平穏、魔物による被害はなかなかなさそうだ。
それでも、俺はあの数の魔物と遭遇した。また、他の冒険者パーティーの魔物との遭遇率も高かったらしいことから、現在近辺の森の魔物の動きが活発化している。俺はそう考えたわけだ。
察した、と言ってもいい。
これは元いた世界の参考書のお陰だろう。
で、この試験を行った理由について。
これはギルド職員であるユーナから教えてもらった話だが、冒険者ランクがA以上の冒険者にはギルド側からの強制依頼というものが存在するらしい。
主にその人が現在使用している街の防衛などがこれにあたる。
要は力ある者の義務。ルビをふるなら、『力ある者の義務』といったところか。
それで、この街の冒険者ギルドとしては俺を戦力として加えたかったのだろう。
何せ、バリスお墨付きの期待の新人だし。あの数の魔物を仕留めたわけだし。
それ以外にも色々思惑はあるのだろうが。
そんな理由で、ギルドは俺をAランク以上に上げてしまいたかったと。
たださあ、俺はまだこの世界に来たのも冒険者ギルドに所属したのもまだ2日目な訳だよ。
依頼に関してはまだ1回しか受けてない。
そんな俺にここまでの期待をするギルドには、違和感のような感情を覚えるなぁ。
「……化物だな」
「失礼な」
あながち間違ってはいないけど。
「この街に何が起こるのかは知らないが、俺はもうAランクに、あれ?Aランクになったのか?」
「ああ、お前はAランクだよ。というか、Sランク以上にしたいくらいだ」
それは周りの冒険者から反感買いそうだな。やめてほしい。
「で、Aランクになってしまったわけだし、俺に拒否権はないだろ?まぁ、逃げる気はさらさらないけど」
「それがギルド側の目的だったからな」
状況としては、まんまと引っかかったと言うとまるで俺がギルド側の思惑を見抜けなかったみたいだから、思惑に引っかかってやったといった感じだ。
俺も冒険者やるならSSSランクまでいきたいと思ったわけで。一気にスキップでAランクになれるなら拒否する理由はなかったし。
「じゃあ、聞かせろよ。この街に、何が起こるかを」
「ああ、教えてやる」
真剣な表情のガレス。だが、
「あ、今じゃなくていいから。むしろ後にしろ」
「………………は?」
真剣な表情はどこへやら。ガレスは間の抜けた声を上げる。
いや、今話させるわけないだろ。ユーナが風邪ひいたらどうすんだよ。てか、俺もびしょ濡れなんだよ。
「聞くのは今度でいい。風邪ひきたくないし、ひかせたくもない」
そこでガレスも察したようだ。
「ああ、じゃあ今日はユーナともう帰れ。あと、ギルドカードを寄越せ。更新しといてやる」
異例の進歩だろうな、とガレスは笑った。
それを無視してユーナの元へ歩いて行く。
さて、用が済んだし、さっさと帰ることにしますかね。
◇◆◇
ユウとユーナが帰った訓練場。
そこには、ガレスが1人残っていた。
「ユウ・アザミ、ありゃとんだ化物だ。あいつがあれだけ言うことはある」
恐れをも孕んだ物言い。ガレスの顔に汗が浮かぶ。
「あいつ、戦い慣れしすぎだ。じゃなきゃ、戦ってる最中にあんな顔はしねぇよ」
あいつ、途中から感情が動いてなかったぞ。
ガレスはそう言い、少し笑った。
「これなら『侵攻の夜』もなんとかなるかもしれねぇな」
あまり話が進まなかった14話でした。
毎日投稿すると言ってたものの、リアルとの都合上難しいと判断。これからは1週間に3~4話を目処にしたいな、と。
出来れば毎日投稿したいんで、あくまでも目処です。もしかしたら毎日投稿するかもしれません。可能性は微粒子レベルですが。