第13話 ユウVSガレス 決着
もうこれ以上延ばすわけにはいかねぇ!というわけで大幅に遅れました13話です。
毎日投稿とか言ってたのに、本当にすいません。
ドォォォオッ、と爆発によって起こった土煙が舞いあがり、風が髪を揺らす。遅れて、ガレスが爆砕した【水撃】による水滴がポツポツと顔を濡らした。
【風刃】【水撃】によるフェイント。【土壁】による目隠し。そして、本命の【炎球】の指向性爆発。
4つの属性を使った初級魔法による攻撃は、間違いなくガレスにダメージを与えただろう。
事実、前方は土煙で見えないが、爆発が発生してから数秒、爆風の音以外に響くものはない。
「やりすぎたってことはないよな」
確認を取るつもりはない。誰に向かってという宛もなく、ポツリと呟いたその言葉。
反応はないと思っていたその言葉に、
「あぁ、まだだ」
返答があった。
「……しぶとすぎだよ、あんた」
確実に一撃ぶち込んだと思ったんだがな。
土煙が晴れていく。
「…………へぇ」
土煙の晴れた先、俺の目の前にはほぼ無傷のガレスが立っていた。まぁ、ほぼ無傷というだけで、身体や装備の所々は少し焦げていたが。
ただ、大剣の側面には爆発を防いだような跡があり、つまりはまぁ、そういうことなのだろう。
「【身体強化魔法】って、そこまで速く動けるのか?」
「どうだろうな」
話す気はない、と。
だが、どう考えてもあの不意を打った【炎球】による一撃は入っていなければおかしい。
そもそも、大剣を振り下ろした状態から一瞬で剣を持ち直して側面でガードとか、そんなのどんな技術力があっても無理だろう。
それでも、ガレスはそれをこなした。
つまりは、先程までとは強化の桁が違う【身体強化魔法】を使った上での高速移動が行われたと見るのが妥当だろう。
ついでに言えば、その魔法を使用した状態で最初から打ち合っていれば俺は負けていただろうわけで。
「最初から手加減してたってことか」
「いいや、それは違う」
返ってきたのは俺の予想とは違った回答。
「あー、さっきのお前の一撃を防いだ時に使ったのは、確かに俺の切り札だ。だが、普通の強化系の魔法とは訳が違ってな……。色々発動条件があるんだよ。まぁ、実際分類も強化魔法じゃないしな」
「なるほど」
煮えきらない言い方だが、ガレスの言うことに嘘偽りはないように見えた。
「というか、俺が加減をしていたとしても、それはお前も一緒だろう」
「ま、それもそうだ」
俺の場合はガレスのいう切り札とは違って、簡単な発動条件さえ満たせばすぐに使えるからな。
まぁ、その発動条件を満たしていなければただの【幻覚魔法】を使うだけの能力だが。
俺の固有魔法は段階式に効果が分かれていて、相手に幻覚や幻影を見せる【幻覚魔法】を使用することには特に条件はないが、最大まで効果を引き出すならある条件を満たさなければならないのだ。
まぁ、さっきも話したようにとてつもなく簡単な条件なのだが。
「で、続けるのか?試験」
もういいんじゃないかな。
爆砕した水塊による雨が降り注いでいて、寒いんだけど。雨の日はあんまり外に出ないタイプなんだよ、俺。
「当たり前だろ」
だが、返ってくる回答は生憎俺の予想通り、『続行』。
あー、ユーナは大丈夫なのかな?
結構、滅茶苦茶な戦いをしているからな。地面が隆起したり、雨が降ったり、火の玉が爆発したり。
チラリと位置的に言えばガレスの遥か後方に立っているユーナを見遣る。
「あ」
そこで俺は見てしまった。
距離的には数10メートルはあるはずの距離が一気に縮んだかのような錯覚を覚える。
ユーナはあの【水撃】による水塊が爆砕してできた雨の被害をもろに食らっていたようで、その────
「マジか……」
────水浸しになってギルドの制服が透けてらっしゃった。
あの、ちょっとこれは不味いのでは?
俺も流石に女の子を濡鼠にした状態でおっさんとやり合う気は無いぞ。
「………………!」
あ、目が合った。
俺と目が合うと同時にユーナは自らの身体を抱きしめるような姿勢になって俺を恨めしそうにジト目で睨んでくる。
いや、ホントすいません。
だが、ユーナのそういう一面が見れたのは良かった。物静かな感じだし、そんなユーナのジト目は割とありだった。
うん、可愛い。
はい、キャラがぶれてますね。
すると、こちらをジト目で睨んできているユーナの口がパクパクと動いた。
えと、なになに?
『は や く お わ ら せ て く だ さ い』
「……了〜解」
審判はユーナのはずだから、止めるのは俺じゃないはずなんだけどなぁ。
「さて、続けるぞ、ユウ」
まぁ、今のガレスを止めるのは骨が折れそうだよな。やる気満々、って顔してらっしゃるし。
となると、ユーナの要望に答えるために俺が全力を持って戦うしか無いわけだ。
「ああ、やってやる」
今度こそ、本気の本気で。固有魔法は程々に、な。
────【身体強化魔法】発動。
俺、それからガレスもほぼ同時に身体から光の粒子が溢れ出す。
そして、これまたお互い同時に駆け出し、
「「はぁぁぁああ!!」」
黒い直剣と赤い大剣が再びぶつかり合った。
だが、
「何!?」
剣と剣がぶつかり合った瞬間、俺の身体はゆらりと消えた。
「俺が真正面から挑むわけないだろ……」
その声が響いたのはガレスのいる位置とは真逆。
「あの、ユウさん。恥ずかしいので、あまり見ないで欲しいんですが」
「……ごめんなさい。とりあえずこれ着といて」
「あ、ありがとうございます。クシュン」
くしゃみ可愛いな。
俺は駆け出した瞬間、ガレスの方へ向かうのではなく、ユーナの方向へ向かっていた。
いや、びしょ濡れの状態で放置するのも可哀想だしね?幸運なことに、今は訓練場に人はいないから、ユーナのこの姿を見ているのは俺しかいない。
誰にとっての幸運かは、まぁ、察してくれ。
着ていたコートをユーナに渡す。
「あ」
渡してから気づいた。このコート、人を選ぶんだった。
「……?どうしたんですか?」
「あれ?なんともないの?」
「はい」
よく見れば、さっきまで灰色だったのに白色にシフトチェンジしていた。これ、買う時に見たのより白いんだけど。驚きの白さなんだけど。
まぁ、なんともないならいいか。
「おい、ユウ!てめぇ、何逃げてユーナと楽しくお喋りしてんだゴラァ!!」
「お前がちゃんと水の塊を消し飛ばさないからだ!!」
距離の都合上、叫ばなきゃ聞こえないんだよな。
「あんなの初級魔法の威力じゃねぇんだよ!下手すれば上級の威力を超えるわ!」
え。
「そうなの?」
「はい。ユウさんの魔法、一応全て初級魔法のようですけど、威力はどれも上級魔法のそれ以上ですよ?」
魔法の力はイメージの力。
本に書いてたそれを実行していただけなのだが。
「へぇ。ま、いいか。ユーナに風邪ひかれたら困るし、次でケリをつけよう」
いや、風邪ひかれても同じ宿のよしみで看病……。
やめよう。これ以上は本当に俺のキャラを見失ってしまう。
「ふぅー」
息を吐き出し、再び【身体強化魔法】を身体に張り巡らせ、地面を踏み鳴らす。
そして、
「いくぞ」
その言葉を呟くと同時に俺とガレスの距離は0になった。
カキィィィン、と金属質な音は、
「チィっ!また幻影か!」
響かなかった。
「だから、お前と真正面から打ち合う気は無いって」
「上か!」
【身体強化魔法】による肉体の強化による超跳躍。それにより、俺は地面からかなり離れた場所にいた。
「【土壁】」
「ぐっ」
再びガレスの足元が隆起する。
今度はそう簡単に降りれないよう、広範囲に。
落下する俺、地面と共に上昇するガレス。相対速度的に高速で近づく距離。
「……ああ、いいぞ」
「……?」
ガレスが1人何かを呟い────
「……!?冗談だろ」
「本気だ。色んな意味でな」
ガレスの放つ光の粒子が白から赤に変わる。
それだけなら、まだわかる。
だが、その粒子は集まり形を作っていた。
「……お前の背後に何か人みたいなのが見えるんだけど?」
「ああ、だろうな」
徐々に形作られていくそれは間違いなく、やばい。命の危機とか、そんなものを本能的に感じる位にやばい。
でも、
「だからって、ここで退くのは俺の流儀に反する」
向こうが本気なら、こっちもやってやるだけだ。
思考速度が加速する。
大剣を構え、赤い粒子を纏うガレス。片や、【身体強化魔法】を使用し、魔剣を構える俺。
このままぶつかり合えば、間違いなく俺がやられる。
だがそれは、このままぶつかり合えばの話だ。
見せてやる。俺の固有魔法の力の片鱗を。
「【幻影創造】」
俺がそう唱えた瞬間、
「なっ!?」
総数20を超える剣が、ガレスの周囲に発生した。
俺を起源として生まれたこの固有魔法、『思うがままの世界』。
今出来ることは、幻覚、幻影を見せること。だが、それだけじゃない。
俺の起源はその程度の生易しいものじゃない。
この【幻影創造】だって、本気ではないのだから。
「全て、思うがままに」
剣が全方向から一斉にガレスへと向かう。
「はっ、これも幻覚だろうが!」
「ああ、幻覚だ」
カキィィィン!!
剣と剣がぶつかり合う。
こっちは落下速度、【身体強化魔法】による強化が入っているというのに、ただ受けるだけのガレスはビクともしない。
やはり、あの赤色の粒子か……。
だが、まだだ。
「グッ!?」
ガレスの足に【幻影創造】による剣が突き刺さる。
まず1本。そしてもう1本。
3本目でガレスは膝をついた。
「耐えろよ。残りは17本だ」
「ちっ、なんだ、この魔法!」
膝をついても未だに剣では押しきれない。
「次は、腕だ」
大剣を持つガレスの腕に剣が飛来する。
腕を潰せば、後は容易い。
「まさか、ここまでやるとはな。仕方ねぇ。やれ、『赤鬼』」
「な────」
赤い粒子が今、明確な形を持った。
その姿は文字通りの鬼。
オイオイ、それは卑怯だろ……。
「っ!?」
赤色の鬼の拳が、俺に向かって放たれる。
身体を捻り、剣を構え、それを防御────
「うわ!」
────しきれない。
衝撃により俺の身体はいとも簡単に吹き飛ぶ。
隆起した地面から落下、数メートルの高さを落ちる。
「今度はこっちから行くぞ!ユウぅぅぅぅう!!」
落下のダメージは【身体強化魔法】のお陰でおそらくないだろうが、その高さ、その威力の一撃を食らったら洒落にならないんだけど。
「【風刃】」
「効かねぇよ」
だろうな。
でも、俺は無駄なことはしないんだ。
「詠唱はしなくても、魔法は使える」
左手を突き出す。そこには煌々と輝く炎の球。
「無詠唱かよ!?」
────ズドォォォン!!
爆発。
指向性を持った爆発がガレスに向かい、俺はその反動で加速し地面に。
「痛っ!!」
受身を取るとかの話じゃねぇよこれ……。
「うぉぉぉぉお、らぁ!」
大剣が振り下ろされる。が、その威力は先程の爆発もあってかなり落ちていた。
これなら、
「……オイオイ、冗談キツすぎだ。なんだそれ……」
引き攣るガレスの顔。もう何回も見た。
「大剣を手で挟んで受け止めるとか、冗談キツイぜ……」
俺も、寝そべりながらこんなことするとは、思わなかったよ。
「白羽取り。成功だな」
【風刃】も【炎球】もこれをするための手だ。
そして、
「はぁ、参った。負けだ。たく、何手先を読んでんだよ、お前」
ガレスが半ば呆れたようにそう告げる。
地面から槍状に伸びる【土壁】その槍の先はガレスの首を狙っていた。
「じゃあ、俺の勝ち、か」
そうして、俺のAランクの認定試験は、俺がSランク冒険者に勝利するという結果で終わったのだった。
なんか、ユウのチートっぷりを発揮させようとして思いっきり迷走したという。
次回からはバトルからはちょっと離れた日常パートみたいなことを。
それでは、また明日。(願望)