第12話 ユウVSガレス
どうも、明日からは毎日投稿、とか言って数日間を開けた馬鹿です。
12話です。今回は戦闘回ですが、作者の能力上あまり上手くない模様。暖かく見てくれると幸いです。
「始め」
その言葉を聞き、先に動き出したのはガレスだった。
ドンッ、と地面が弾ける音が響く。
「……!」
いつの間にか目の前に出現したガレス。
10メートル弱あった距離を一瞬で……。
一瞬の間に距離を詰められたことにただ驚く。流石はSランク冒険者だ。
だが、ガレスの行動は距離を詰めるだけでは終わらない。
「おらぁ!」
ガレスは大きく声を上げ、背の大剣を抜き、
────ズドォォォォン!!
それを俺の真横スレスレの位置に叩きつけた。
「オイオイ、試験はもう始まってるんだぞ?」
とてつもない威力の一撃。
結果として、俺の左の地面には小さなクレーターが出来上がった。
あの威力、当たってたらガードも何も関係なくぶっ潰れると思うんですケド……。
「なんだ?ただ突っ立って。『じゃあ、攻撃してきていいぞ』とでも言うと思ったのか?」
俺の目の前、片手で大剣を振り下ろしたままの体勢のガレスは、言葉を続ける。
「もう1度言う。試験はもう始まってんだ。────本気でこい」
明らかに今までとは違う雰囲気。
いや、今までとは言っても、知り合って1日しか経っていないんだけどね?
「………………」
ただ、まるで俺がガレスに舐めてかかっているみたいな言い方は、気に食わないな。
こっちだって、戦う気満々だよ。
「……ああ、本気でいくさ」
その声は、ガレスの後ろで響いた。
「……っ!?」
声が響いたときには、ガレスの目の前にいたはずの俺の姿はゆらりと消えてしまっていて。
「とりあえず、こっちも言わせてもらう。────本気でこいよ、Sランク」
俺は、魔剣を鞘から引き抜きながらそう告げた。
唐突に始まった試験だが、これほどありがたいものはない。なにせ、この世界での俺の実力を測るためのいい機会だからな。
こっちも本気でやってやるさ。
◇◆◇
予想外にも程があるってもんだ。
「今のは、お前の固有魔法か?」
「おいおい、試験官が質問とかありえないだろ」
ごもっともだな。
にしても、Sランクの俺に本気でこいとご所望か。
「ユウ」
「なんだ?」
「後悔すんなよ?」
俺は、全身に魔力を循環させながらそう告げる。
そして、手に持つ大剣で思いきり周囲を薙ぎ払った。
◇◆◇
「うおっ、危ねぇ!」
ガレスの薙ぎ払いを後方へ跳躍して回避する。
ガレスは体勢を立て直すと、再び大剣を構えてこちらを見据えた。
「ふぅー……」
先程の初撃といい、このおっさんの攻撃は速いし重い。
ガレスの、赤褐色の髪、いい体格で大剣を振るうおっさんという、どう見ても強そうなオーラを感じる風貌に俺も流石に身構える。
ついさっきまでやってた、狼を魔法で倒すゲームとは比べ物にならない緊張感だ。
俺も剣を構えるが、いかんせん慣れない。そもそもこの世界で剣を使ったのは、かのゴブリン戦だけだし、それも投げただけなんだよな。だから、正直剣は身を守る盾代わりにしか使えないだろう。
だって、この魔剣死んでるでしょう?
◇◆◇
「死んでませんよ〜。ま、聞こえないでしょうけど」
◇◆◇
それに、国をいくつも滅ぼしたと言われる魔剣だ。ちょっと乱暴な扱いしても砕けないだろ。というかむしろ、砕けた方がこの世界のためなのでは?
あと、戦力として換算出来るのは、覚えたての属性魔法くらいか。まぁ、まだ雷と炎と土くらいしかまともに使っていないが。
で、最後にこっちの切り札。
────『思うがままの世界』
さっきの幻影といい、完全に幻覚寄りのこの魔法だが、使えるのは確かだ。少なくとも、神を欺くこの魔法を本気で使えば間違いなく勝てる。
ただ、それじゃあこの試合の意味が無い。
そもそもの話、俺がこの固有魔法を使って負けるビジョンが全く浮かばない。それも、方が一瞬でつくだろう。
『思うがままの世界』はそういう魔法なんだよな。だって、思うがままだし。
だから今回は、固有魔法控えめで、属性魔法を主としていく。
「………………」
俺とガレスは睨み合い、互いに牽制しあう。
その睨み合いの状態はガレスがまた先に動き出し、崩れた。
「おらぁぁぁあああ!!」
「……マジかよ」
またも爆発的な推進力をもって一瞬で距離を詰められる。そして、それは接近するというだけに留まらず、ガレスはまたも攻撃を仕掛ける。
だが、それは先程距離を詰められた時の攻撃とは違い、大剣を振り下ろすのではなく、薙ぎ払う攻撃だった。
────くそったれ!
縦に攻撃する振り下ろしなら躱しようがあるが、横に攻撃する薙ぎ払いだとそうはいかない。
なにせ、範囲が広過ぎるのだ。
ただでさえ馬鹿みたいな大きさの剣を馬鹿みたいな速さで振るっているのだ。咄嗟に後ろに下がって躱すのは難しい。
となると、どうにかこちらも剣なりを使って防ぐしかない。
「くっ!?」
剣を用いた咄嗟の防御。
俺が構えた剣は、大剣と十字を作るように交わる。結果、魔剣はその攻撃を折れずに防ぎ、大剣が俺を傷つけることはなかった。
なかった、が、
「な……に……っ!?」
接触したことによる衝撃で俺の身体は、文字通り『吹っ飛んだ』。
「ぐっお、あ!?」
とてつもない空気による抵抗を身体に感じながら吹っ飛ぶ俺。だが、いつまでも吹っ飛んで行く訳もなく、その運動は終わりを迎える。
────壁
そう、俺の吹っ飛ぶ先に存在する訓練場の壁に激突することで。
ズドォォォォン、と轟音を響かせながら、俺は壁に激突した。
「おいおい、これで終わりじゃねぇだろ?」
パラパラと俺に砕けた壁の残骸が降り注ぐ。
「……当たり前だろ」
俺は身体から魔力を迸らせながら、無傷でそう返答した。
「へえ、お前も使えたのか。身体強化」
────【身体強化魔法】
ガレスが身体強化と称したものの正式名称である。
この魔法、属性は【無】。無属性とはすなわち、魔力さえあれば誰にでも扱える魔法である。と、俺が読んだ本には書いてあった。
ただ1つ。この場には1つ勘違いが発生している。
「使えたんじゃなくて、今使えるようになったんだ」
「…………なに?」
「おっさんのあの攻撃、とんでもない威力だったよ」
最早あれは運動エネルギーの暴力だった。
1発目もそうだったが、あんなのは人間の身体能力じゃ到底不可能だ。少なくとも、10メートル弱あった距離を一瞬で詰め、挙句大剣で地面に小さなクレーターを作るくらいに破壊せしめるなんてのは、俺の常識がおかしくない限りまず有り得ない。
この世界に来てまだ1日しか経っていないが、それでもそれなりにこの世界の常識は理解している。
正直、元いた世界のものとの差異はほとんどないだろうし、少なくとも俺の見る限り街の人間が俺の知る人間という生物よりも力が強いということもない。
無論、ガレスの力が俺と同等レベルなんて言う気はさらさらない。なにせ、この世界にはステータスなんていう概念があるのだから、明らかな熟練の冒険者たるガレスとのステータスの差はあって当然だ。
だが、その差をもってして人を膂力のみで吹き飛ばすことは可能なのか?
そこで、魔法の存在だ。
元いた世界でも、そういった強化系の魔法はゲームなり本なりでよく見たものだ。
最初の振り下ろし、牽制の薙ぎ払い、そして、俺を吹き飛ばした薙ぎ払い。俺は、その全てに同じ光景を見ている。
ガレスの身体から溢れる光の粒子を。
判断材料はこれだけで十分だった。これだけで、俺はその魔法の存在を理解出来た。
そして俺は、吹き飛ばされた段階でこの魔法を3回も見た。
「確かにとんでもない威力だった。だがな、3回も同じ芸を見せられたら俺は嫌でも覚えられる」
【身体強化魔法】を3回も見た。
だから俺は、全く使い方の知らなかったこの魔法を使えるようになった。
「昔から俺は、見ただけで物事を理解し、こなすことが出来た。それは、この世界でも例外ではないらしい」
俺には不可能は存在しない。出来ないことは、存在しない。
「次はこっちから行かせてもらうぞ、ガレス」
瞬間、俺の身体は風になった。
いや、これはあまりにポエマー過ぎるか。
「………………ッ!」
キィィィイイン、と金属同士が打ち合う甲高い音が響いた。
「お前、これで身体強化を使ったことがなかったとか、嘘こくのは、やめろよ……」
ガレスの顔は心なしか引き攣っている様に見えた。
黒い直剣と無骨な赤色の大剣が交差し、迫り合う。
「悪いが嘘じゃないんでな」
刃をぶつけ合って拮抗なんて、明らかにこっちの方がレベル差的に不利だ。だから、いつまでもこの体勢ではいられない。
「ふっ!!」
刃と刃をぶつけ合った状態から、ガレスの脇腹に蹴りを叩き込む。
ちっ、岩を蹴ってるみたいだ。
ダメージがあるかはわからないが、よろめくガレス。その隙を見て、俺は後方へと下がった。
「下がっていいのか?」
「悪いが、あんたと剣を交え続ける余裕は無いね。出来れば近づきたくもない」
俺がこの直剣を扱いこなせるならまだわからなかったが、生粋の戦士であるおっさんに近距離戦闘を仕掛けるのは悪手だろう。
それに、剣は現在あくまで俺の防衛手段ではあるが、攻撃手段ではない。
俺の今出来るまともな攻撃は、
「【雷射】」
魔法による距離を置いた攻撃くらいだろう。
【身体強化魔法】を解除し、雷属性初級魔法【雷射】を発動。
直線状の雷撃が、ガレスに向かって奔る。
「うお、なんだそりゃ!?」
ガレスは咄嗟に大剣でガード。直線状の雷は大剣に当たると同時に霧散してしまった。
……あの大剣、魔法に対抗する能力があるな。
相手はSランクの冒険者。魔法に対してなんの対策もしていないわけがない。それに、ガレスが強力な魔法を使える可能性だってある。
だから、やるべきは────速攻。
「【土壁】」
そう唱え、地面を踏み付ける。
そうすることで、俺の足元を媒介に魔力が伝播し、
「うおっ」
地面が大きく揺れ、ガレスの足元が大きく隆起した。
いや、確かに俺のイメージ通りだけど、これは壁じゃねぇよなぁ……。
ポツリと頭にそんな考えが浮かぶ。
ゴゴゴゴ、と大地を揺らしガレスの足元が隆起するが、ガレスもされるがままでい続けるわけがない。
「お前、これはどう考えても【土壁】の威力じゃねえぞ!?」
地上から3メートル程離れたところで、ガレスは隆起した地面から飛び降りる。
────狙い通りだ。
ガレスが飛び降りた瞬間、再び俺の身体に魔力が迸った。
【身体強化魔法】、発動。
「行くぜ」
俺は確かに剣術に覚えはない。だが、その他戦闘術なら話は別なんだよ。
ゴブリンを蹴りやらで沈黙させたように、俺は格闘術なら使えるんだ。
旅好きの爺さんに、仕込まれたからな。
「ふっ!」
跳躍し、ガレスとの距離を詰める。
「!?」
驚くガレス。
「空中では身動き取れないだろ?」
3メートルでも、空中に浮いてるんだ。動けまい。
「吹っ飛べ」
最早、瞬速とも言える俺の蹴りがガレスに突き刺さった。
「がっ……ふ!?」
受け流しようのない蹴りによる衝撃は、ガレスを貫き、ガレスの身体は垂直に下降した状態から軌道を変えて俺が蹴った方向へと吹っ飛んだ。
「こりゃ、期待以上だ……」
ガレスが吹っ飛びながらポツリと呟く。
あっそ。無視だ、無視。
「【炎球】」
間も入れず、吹っ飛ぶガレスに向かって空中から炎属性初級魔法【炎球】を発動する。
放たれた炎球がガレスに向かう。
「この野郎っ」
だが、ガレスは炎球と接する前に着地し、体勢を立て直す。そして、そのまま大剣で炎球を薙ぎ払った。
またも大剣に触れて、俺の魔法は霧散する。
「便利な大剣だなぁ、おい」
だが、次は防がせない。
俺も着地し、体勢を立て直す。またも始まる睨み合い。
「これでしまいか?」
「いや、こっからだ」
こっからは、使ったことのない属性魔法を使わせてもらう。
どうなるかは、俺もわからんけどな。
「【水撃】」
その魔法が発動した瞬間、ガレスの頭上に、質量の暴力とも言うべき水塊が発生した。
「おいおい、冗談だろ……」
「いや、冗談じゃ済まさないし、まだ終わらないぞ」
まだまだ使ってない属性があるからな。
ガレスは水塊を大剣によって消すのではなく、回避しそのままこちらへと向かって来る。
「【風刃】」
風属性初級魔法【風刃】がガレスに向かう。
それはまさしく斬撃とも呼ぶべき魔法だったが、
「無駄だな!」
ガレスの大剣に触れた瞬間、またも霧散する。
だが、無駄撃ちはしない主義なんだよ、俺は。
今のガレスの大剣は、【風刃】を防ぐために刃ではなく面を向けている状態だ。
「【土壁】」
再び地面を踏み付ける。
すると、俺の前方の地面が今度はまさしく壁の如くガレスとの間に出来上がる。
まだだ。まだ終わらない。
「【水撃】」
ガレスの頭上にまたも水塊が現れる。
「ちぃっ、一々面倒な!!」
こちらを視認出来ず、なおかつ【水撃】による危機が迫る以上、ガレスはこちらではなく、【水撃】に意識を割かざるを得ない。
上空の水が、消えるのではなく爆散する。
どうやら、あの剣では水属性魔法は消せないらしいな。
だが、今それはどうでもいい。そんなこと、もう知っている。
今はただ、この一撃を叩き込むだけだ。
俺の右手の炎が煌々と光を放つ。
「食らえ、【炎球】」
発動と同時に、土の壁がガレスによって破壊される。
「!?」
振りかざす右手、驚愕の情を浮かべるガレス。
終わりだ。
瞬間、指向性を持った爆炎がガレスを襲った。
見たら覚えるスーパーラーニング系主人公でした。固有魔法を使えって?HAHAHA、固有魔法はまだまだ使われません。少なくとも本気では。
さて、ユウとガレスの戦闘に決着は着いたのか?それと、審判を務めるユーナは無事なのか?(実際、割と危なさそう)
次話は明日投稿!(頑張る)
評価や感想をもらえると、投稿確率がグンと上がります。それでは。