第11話 唐突な試験
11話です。昨日は投稿出来ずすいませんでした。それと、今話も投稿が遅れました。
これからは、第1章が終わるまでは毎日投稿する予定です。一応。
「えーと、ハインウルフが35、オークが1体で、45000エルン。それから、依頼の達成報酬で10000エルンになります」
眼鏡をかけた換金所の職員は、若干顔を引き攣らせて、報酬を渡してきた。
「はい、どうも」
「それから、今回の依頼の終了報告書です」
それを受け取り、俺は身を翻す。
「おい、あいつ……」
「……マジかよ」
周りからの視線がここまで心地よく感じたことはないね。
ハインウルフを虐殺し、オークを瞬殺した後、俺と3人の冒険者パーティーは街に戻っていた。
あ、もちろん死体は処理したよ?
とりあえず、終了報告書を貰わなきゃな、と思った俺は換金所へ向かう。で、換金してもらうために麻袋に入った魔石をジャラジャラとカウンターにぶちまけた。
思えば、これが周りからの目を惹いた理由だろう。まぁ、正直な話、これは俺が意図して行ったことなのだが。
まず、換金所に行って先に換金をしたのはあの冒険者パーティーだった。
別に隣の列は空いていたが、曰く『調子が良かった』冒険者3人の報酬がどのようなものか、興味があった。
結果は達成報酬抜きで9千エルン。俺の報酬の5分の1であった。
そりゃあ、あの虐殺現場を見てビビる訳だ。正直、これでこのパーティーのメンバーのギルドランクがD 1人のE 2人だというのだから、この街の冒険者のレベルも知れるというものだった。
まぁ、聞くところによればDランク成り立てまでは初級者で、Cランクは中級者の区分らしいし、力の差はあって当然だろうけど。それでも力の差があり過ぎた。
だって、俺があの森に行ったのは魔法の試し撃ちのためだからね?
試し撃ち程度の気で行って、仕事として魔物を狩ってる人達に勝ってしまったんだから、そりゃあねぇ……。
「さてと、とりあえずユーナのところにこれ渡しに行かなきゃな」
ヒラヒラと終了報告書を振りながら、階段を昇っていく。
「いつも通りだな……」
ユーナの列は生憎いつも通りの空き様。
それでも人がいない訳ではないから、まだいいだろうが……これ、同じ職場の人間からなんか言われるだろ……。
他の窓口の職員は冒険者ににこやかに応答しているが、仕事が終わればどんな顔になるのやら。
「終了報告書を持って来たんだけど」
「はい。お疲れ様です。ユウさん」
そう言って俺が渡した報告書を見るなり、ユーナの表情が少し変わった。流石はクール系だと1人関心する。
「ユウさん、私が紹介した依頼の内容は覚えてますか?」
「ハインウルフ5体の狩猟だったな」
「はい、そうです。ではなんで、その7倍も狩って、挙句の果てには適正ランクがCランク以上であるオークの変異体まで倒しているんでしょう」
「襲われたからな。別段、逃げる必要も無かったし、返り討ちにしただけだ」
「はぁ、ですよね。わかっていましたよ、ユウさんがそういう人なのは……」
呆れたような口調のユーナ。
えー、俺も別にやりたくてやったわけじゃないんだけど……。
ハインウルフだって、最初は【雷射】の試し撃ちで1体を仕留めたら、そっからわらわらと、敵討ちのつもりかは知らないけど、連続で他のハインウルフが挑んで来たってだけだし。
言ってはいないが、実際倒したハインウルフの数はもっと多い。生憎と【雷射】によって魔石が消えてしまった死体も結構あったからな。
それと、オークに関してはまず変異体だったってことすら知らなかったから。だって、ほぼ一撃死だったし。
つまりは、俺は悪くないってことよ。
尊敬されこそすれ、呆れられる言われはないと思うんです。
「そもそも、ユウさんは魔法の練習をしに依頼を受けてハインの森に行ったんですよね?」
「そうだな」
「その上で、まず1つ聞きたいのですが、ユウさんが覚えたのは全てが初級魔法ではありませんでしたか?」
「ああ、俺が読んだのは『初級魔法のススメ』っていう本だったから、全部初級魔法なんじゃないか?」
『初級魔法のススメ』なんて題名の本に中級魔法は載せないだろうしな。載せてたとしたら、筆者は相当なひねくれ者だ。
しかも、読んだとはいえ使ったのは【雷射】【土壁】【炎球】の3つだけなんだよな。
それをユーナに伝えると、
「その魔法でどうやってハインウルフを35体も仕留めることが出来るんですか……」
「え、【雷射】で一撃だったけど」
胸を貫いてたんだけど。
「【雷射】には殺傷能力はありません。普通なら麻痺して終わりです」
「えぇ」
そんなに威力に差があるの?
いや、確かにヤバイ威力の魔法だとは思ったけどさ。だって、あんなのちょっと弱体化したレールガンだからね?
そんな魔法が使える種族が魔物が怖いなんて言ってるわけないとは確かに思った。
「私でもそんな威力になりませんよ」
「……ユーナも魔法使えるんだな」
「ええ、一応」
「へぇ」
ユーナの僅かな表情の変化を、俺は見逃さなかった。
ま、隠し事なんて誰にでもあるよな。わざわざ聞く気もない。嫌われたくないしね。
「まぁ、とりあえずあまりやり過ぎないでください」
「了解しましたよ」
む、待てよ?初級魔法で威力が桁違いなら、俺が中級魔法を撃ったらどうなるんだ?
「………………」
「ユウさん?」
「なぁ、中級魔法に関する本って────」
「駄目です」
「中きゅ────」
「駄目です」
「……ですよね」
どうやら、俺が中級以上の魔法を覚えるのは当分先のようです。
まぁ、困りはしないだろうけどね。
でも、魔法自体にはとても興味あるから、少し残念ではある。
まぁ、威力の調整も簡単に出来るんですけどね。
「じゃあ、今日は帰るかな。まだ昼頃だけど」
時刻で言えば、3時過ぎ。少々早い気がするが、今日の仕事はここまでにしていいだろう。
なにせ今日は、俺の冒険者として初めての仕事だったわけだしな。
初めてで5万以上の稼ぎを上げたんだ、上出来だ。
そこで、声をかけられた。
「おい、ユウ」
ガレスの声だった。ただし、そこにはいつものような雰囲気は無く、ただ重々しい威厳のある声だった。
「今からSランクの俺と模擬戦をしてもらう。異論は認めない」
「は?」
「加えて言うが、これはギルドからのAランク認定試験だ。だから、本気でこい」
A、ランク……?
あの、俺まだCランクなんですが……。
これから起こるであろうことを想像する。それはきっと、ハインウルフを馬鹿みたいな数狩って来た俺への罰なのかもしれない。
つまりは────やりすぎた。
他の冒険者にいちゃもん付けられるどころか、初めに突っかかってきたのは他ならぬ冒険者ギルドの方だったという話で。
異世界チートは程々に。
これはマジで守るべきかもしれない。
◇◆◇
場面は変わり、ここは人間国王都にある冒険者ギルド。
そこにある個室に、2人の男女がいた。
1人は人柄の良さそうな金髪の青年。
1人は、不機嫌そうな顔をした身長低めの赤髪の少女であった。
「たく、あの馬鹿親、人をなんだと思っているのよ」
「まぁまぁ、いいじゃないか。僕達冒険者が依頼をされるのは当然のことなんだし」
「それでも普通、娘を魔物の反乱が起こりそうな場所には呼ばないでしょ」
「まぁ、それはね」
苦笑する金髪の青年。
彼らが向かい合うように座るソファと、その間にあるテーブル。
そのテーブルの上には、1枚の紙が置いてあった。
その紙にある、指名依頼の文字。
内容は、魔物の反乱が起こる可能性を考慮した上で街に滞在すること。
その紙の下には、2つの名前。
ダリア・ギルバート Sランク
シュバルツ・フロード Aランク
という2つの名前が書かれている。
「あの馬鹿親、あったらぶん殴ってやる」
ダリア・ギルバートは、怒りに震えながらそう言った。
◇◆◇
また場所は変わり、ここはギルドの訓練場。
「で、いきなり過ぎて話が見えないから、話くらいはしてくれない?」
「だから言ってるだろ。試験だ」
それはわかってるっつーの、とユウは心の中で毒づく。
いつもは訓練などで賑やかだという訓練場も、今では静寂に包まれていた。
訓練場の形は、コロッセオなんかを想像してもらえばいいだろう。あそこまで大きくはないが、観客席のような場所もあり、それなりには広い。
「お前には、早急にAランク以上になってもらう必要が出来たんだよ」
ガレスが静かにそう告げた。
ユウはそれを聞くと、少し驚き、そして、
「じゃあ、いい機会だ。先輩冒険者に胸を借りるとしよう」
そう言った。
冒険者2日目の人間の発言じゃあないよな、とユウは自嘲地味た笑いを浮かべる。
「それでは、準備はよろしいですか?」
睨み合う2人の間にいたユーナが確認をとる。
問いかけられた2人は頷く。
「ルールは特にありません。が、相手を殺した場合、ギルド側から厳しいペナルティがあります」
つまりはそれ以外なんでもしていいし、何を使ってもいいということだ。
「………………」
睨み合う2人。
ガレスは背の大剣に手をかけ、ユウも腰の魔剣に手をおく。
「それでは、Cランク冒険者ユウ・アザミさんのSランク冒険者ガレス・ギルバートさんによるAランク認定試験を行います」
場内の緊張はピークに達し、そして、
「始め」
始まりが告げられた。
唐突な試験開始。
明日は戦闘パートですね。最近話が短めなので、次話は長めだと思います。
では、明日投稿のユウVSガレス、お楽しみに。