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第10話 異世界チートは程々に

 10話です。2度目の投稿になった10話です。


 10話の再投稿と、他9話の題名を変更しました。急な変更ですいません。


 それと、ステータスに魔力という項目を追加しました。元から考えていたものから抜けていたようです。

 場面は変わる。


 朝をギルドの書庫で過ごし、昼下がりの午後、俺は街の北東にあるハインの森に来ていた。


 かのゴブリン戦で背景となったあの森である。


 ちなみに、ハインの森という名はユーナから教わった。それと、南西にはロウンの森というところがあることも。


 で、今の俺は魔物との戦闘の真っ只中であった。


 「グルルルルルル」


 目の前には1匹の狼にも似た4足歩行で動く獣の姿。


 ハインの森のウルフ。ハインウルフという魔物らしい。なんとも安直な名である。


 「魔物っていう生き物にも、プライドってものはあるんだな」


 目の前のハインウルフに語りかける。無論、相手が人語を解することはない。だから、返答なんてものはなく、ただこちらを唸りながら睨んでくるだけだ。


 両者間に起きる睨み合い。


 だが、所詮は魔物と人間。どちらが先に痺れを切らすかなど、論ずるまでもない。


 「グルルルァァァア!!」


 吠えながら、ハインウルフは疾走。それもただ走るのではなく、ジグザグと、こちらの狙いが定まらないように。


 どうやら、俺が思っていた以上に魔物というのは知恵が回るようだ。


 疾走するハインウルフとの距離が詰まる。両者間の距離は最早、ハインウルフの飛びかかりによる攻撃圏内だ。


 無論、俺も無策に距離を詰めさせた訳ではない。だが、このハインウルフの知恵が回っていたのもここまで距離を詰めさせた理由の1つと言えた。


 知恵が無ければ、この魔物は距離を詰める前に死んでいたはずだ。


 「【土壁(ランドウォール)】」


 そう小さく唱え、地を足で踏みつける。


 結果、俺の前方に地面が弧状に隆起し、壁のように現れる。


 だが、流石は4足歩行の獣といったところだろう。ハインウルフはそんな壁はものともせず、跳躍し壁を飛び越えて来る。


 そこに、回避だけではなく明確な攻撃の意志が存在していたのは明白だった。


 だからこそ、この魔物の攻撃は俺には当たらない。


 先のゴブリン戦、ゴブリンは跳躍をしながら自らの持つ棍棒で相手を攻撃しようとしていた。


 それを行うことで、距離を一瞬で詰め、攻撃の威力を上げることが目的にあったのだろう。そりゃあ、自分の体重が全てかかった一撃だ。威力はかなりのものになる。


 だが、あの時もそうだったがこれには弱点がある。


 地を歩き回る生き物には、空中で自由に動き回る能力はないという点だ。


 だから、あの時のゴブリンは俺のカウンターを食らった。


 そして、現在の状況もそれと同じだった。


 俺は、元々前方向に構えていた手の人差し指をハインウルフに向け、ただ一言。


 「【雷射(ボルトショット)】」


 その瞬間、銃のような形に曲げた俺の手の人差し指から、線状に電撃が迸る。


 跳躍状態、ましてや攻撃を仕掛ける手前俺の眼前にいたハインウルフにこれを避ける手立ては無く、


 「グルォォォォオ!?」


 と断末魔を上げ地に倒れ伏すだけであった。


 「ふう、まぁ、大体は片付いたか」


 息を吐き、そう言いながら、俺は当たりを見渡す。


 そこにあるのは、ハインウルフの死体死体死体死体死体死体死体。


 「これだけの惨状を見て立ち向かって来るんだから、魔物ってのは凄いな」


 呟き、先程倒したハインウルフに目を向ける。


 【雷射(ボルトショット)】によって胸には穴が開いており、その死は明らかだ。


 「なかなか知恵の回る奴だったが、それだけだな」


 仲間のハインウルフが俺の魔法で死んでいったことから、直線上に動くと危険だと判断したこいつは、俺の元へ向かうための縦移動に、フェイントとして横移動を組み込んだ。


 そこまではよかった。


 いや、まぁ別によくはなかったけど。


 俺なら、あの程度のフェイントはものともせずに当てられるし。


 だが、それをせず、ハインウルフに距離を詰めさせた。


 いくらフェイントを組み込もうが、攻撃の前には隙が生まれる。これは最早仕方がないことだ。


 更に俺は【土壁(ランドウォール)】を使い、ハインウルフの攻撃に更なる指向性を持たせた。ハインウルフの目の前にただの壁を作れば、その壁を横に躱すこともあっただろうが、弧状に出来た壁は跳躍するしかない。ましてや、最早攻撃の圏内であったのだからその跳躍には攻撃の意志も含まれて当然な訳だ。


 要は、追い詰めたと思ったら追い詰められていたという話だ。


 それが、他者に踊らされるのは嫌いだが、他者を踊らすのは大の得意の俺らしい戦い方であった。


 「ま、一通り魔法の使い方は覚えた。いい練習になったな」


 なんてことを言ってはいるが、その結果が現在のこのハインウルフの虐殺の現場である。


 「ハインウルフの討伐依頼、明らかに数超過してるけど報酬ってどれくらい増えるのかね?」


 わからないなぁ。


 そう思いながら、ハインウルフの死体群を眺める。


 さて、どうやって魔石を取ろうかな?


 かなり面倒な作業になるのは容易に理解出来た。


────────────────────


 【ステータス】

 Name:ユウ・アザミ  Age:17


 LV:8


 力:S

 魔力:S

 耐久:S

 敏捷:S

 器用:S

 生命:S

 精神:S

 運:S


 《保有属性》【炎】【水】【風】【土】【雷】【氷】【光】【闇】

 

 《魔法》

【属性魔法】

【固有魔法】:『思うがままの世界(パーフェクトワールド)


 《スキル》【────】


────────────────────


 ◇◆◇


 「うお!?なんだこりゃあ!」


 1人でちまちまとハインウルフの剥ぎ取り作業に勤しんでると、冒険者パーティーがやって来た。


 見ているのは俺が魔石を剥ぎ取ったハインウルフの死体の山、積み上げた結果高さは約2メートル。


 まだまだいるし、これもっと高くなるよな。


 傍らでせっせと魔石を剥ぐ俺を見た冒険者は俺を見るなり問いかけてくる。


 「これ、お前がやったのか?」


 「他に誰がいるんだよ」


 こちらを恐れを持って見てくる冒険者達。生憎とこの状況の異常さをこの冒険者達ほど理解してない俺には、あ、結構やっちゃったんだなぁ、としか考えられない。


 俺も別に殺そうと思って殺した訳じゃない。ただ、1体倒したらまた現れてが繰り返されて結果こうなった。


 「なぁ、暇なら手伝ってくれないか?この数は割とキツイ。お礼はするから」


 そう言うと、冒険者パーティーは恐る恐るという風にそれを承諾する。


 え、なに?今の俺ってそんなにヤバイ奴に見えるの?


 「別にやらなきゃ殺すとか言ってないんだけどな……」


 ここまで恐れられると傷付くよね。


 異世界チートは程々に、とそんな言葉が頭に浮かんだ。


 ◇◆◇


 「やっと終わった。いやー、助かったよ。ありがとう」


 「いや、気にしないでくれ。俺達も引き上げるところだったからちょうどよかったしな」


 剥ぎ取り作業が終わって、仲良く言葉を交わす俺と冒険者パーティー。


 あんなに恐れられた状況からこんなフレンドリーな態度になったのは、ひとえに俺のコミュニケーション能力のお陰だろう。


 単調な作業の中にちょっとした会話を織り交ぜて場を盛り上げたり和ませたりする。元いた世界でもよくやったことだ。


 「にしても、例のゼルバさんのとこの冒険者がまさかこんなにやる奴だとは思ってなかった。これは、先走ってお前にちょっかいなんてかけてみようものなら俺達もこうなっちまうな」


 積み重ねられたハインウルフの死体の山に目をやりながら、若年の冒険者はそう言った。


 「別に殺しはしないって。……状況が状況でない限りな」


 最後はボソリと言ったが、どうやら聞こえていたらしい。ゴクリ、という音が聞こえた気がする。


 別にそんなことする気なんてさらさらない。ないが、……親衛隊の人にはリーチかかってっからな。まぁ、和解は一応したが。


 「で、報酬の話だけど」


 「ああ、俺達も今日は結構調子が良かったからな。報酬はいい。やったことなんて、ただの剥ぎ取りだしな」


 まぁ、いらないというなら無理強いする気はない。


 このパーティーの人曰く、今日はいつもより魔物の遭遇率が良かったらしい。


 街の人々には悩みの種の魔物も、冒険者からしてみれば飯の種だからな。魔物が多ければ多いほど稼ぎは多くなる。


 遭遇率が高かったのが運が良かったからかはわからないが、それでも森の比較的浅い部分にいたのは確かなのだから、農家の人なんかからすればそれなりの脅威だ。だからそんなことを運が良かった、なんて言うのはいささか不謹慎かもしれない。


 「さてと、じゃあ街に戻りますか」


 「ああ、そうだ────」


 ズシン


 そんな会話を地響きのような足音が遮った。


 「な、あ、ぁ」


 「あいつは……!」


 「やべえ!みんな、早く逃げるぞ!」


 突如慌てだす冒険者パーティー。


 地響きがした方に目をやる。


 「はーん、なるほど。オークって奴か」


 そこにいたのは、2メートルはあるであろう身長に肥え太った身体。醜悪な顔を持った魔物。オークがいた。


 手には大きな棍棒。あれは普通の人間じゃあ、防ぎようないな。


 「おい!お前も早く逃げろ!」


 駆け出しながら、こちらに振り向き大声で俺に声をかけるパーティーのリーダー。


 だが、悪いが俺にはこいつのどこが危険かまったくわからないんだが?


 「【雷射(ボルトショット)】」


 こちらを見ているオークに向かって一撃。


 指先から弾丸のように放たれた雷撃は、一瞬でオークの胸を貫く。


 「グ、ォォ、オ」


 呻き倒れるオーク。


 おそらく心臓を貫いただろうが、まぁ魔物の身体構造については俺も知らないし、もっと念入りにやった方がいいか。


 「【炎球(ファイアボール)】」


 放たれた炎の球体は、オークにぶつかった瞬間に爆発。以前ゴブリンを消し去った時とは違って、今度はきちんと周りに被害が出ないように調整されている。


 「断末魔をあげることすら出来ないか」


 爆発による魔力の炎が消えると、辺りは静寂に包まれた。


 振り返り、逃げていった冒険者を見やる。


 もう行ってしまったかと思ったが、こちらを見ながらあんぐりと口を開いている。


 「今のが、【雷射(ボルトショット)】?【炎球(ファイアボール)】?なんの冗談だよ……。初級魔法の威力じゃねぇだろ……。これ」


 「ハインウルフの死体見て思ったが、やっぱり只者じゃねぇ……」


 あ、俺こういう雰囲気好きです。


 ◇◆◇


 「こういう雰囲気好きです、じゃないですよ〜」


 この世のどこでもない場所、おっとり声が呆れの感情を含みながら響く。


 「なんで(わたし)を1回も使わないんですか〜?本当におかしいですよ〜。というか、今日の朝だけで属性魔法をほぼ全属性コンプリートして、なおかつ初級魔法も覚えちゃうとか、人間ってこんな化物みたいな種族でしたっけ〜?」


 最早、ただの愚痴とユウへの恐れしか言っていない。


 「そもそも、(わたし)を使ってくれないと魔力がたまらないじゃないですか〜。魔物を殺して魔力を吸う魔剣なのに、このままじゃ本当にカラカラになっちゃいます〜」


 おっとりしてはいるが、そこには焦りが見え隠れしていた。


 「昨日の夜、なんとかこの人間との魔力パスを繋げたと思ったら、一瞬で弾かれましたし、これじゃあ本当にヤバイですよ〜」


 ただ、とおっとり声は続いた。


 「そういえば、繋げたときに一瞬見えたアレ(・・)、一体なんだったんでしょ〜。アレ(・・)は明らかに普通の人間の持つものじゃありませんよ〜」


 また、声に恐れが滲んだ。


 魔剣が見た光景は、ユウ・アザミという人間の起源(ルーツ)、それを可視化したものだった。


 それは、人間という種族が持つにはあまりにも矛盾したものであった。


 「『思うがままの世界(パーフェクトワールド)』ですか。私の保有者はもしかしたらとんでもない人なのかもしれませんね〜」


 繋がりかけた魔力パス。弾かれたとはいえ、そこから情報を得るのは魔剣にとっては出来ないことではなかった。


 事実、その繋がりかけた魔力パスのお陰で今、魔剣にはユウの心が若干読めるようになってしたし、ステータスについても、固有魔法の名前くらいなら盗み見れた。


 そしてそこから見えるユウの異常性は、着実に魔剣に恐れを抱かせていた。数多の国を滅ぼし、災厄を振り撒いた伝説の魔剣にだ。


 だが、魔剣は誤解した。あの夜に見た光景が、ユウの起源(ルーツ)の全てだと。


 いや、誤解というか、信じられなかったのだ。許容範囲を超えていた、という言い方もできるだろう。


 そして、その誤解のしっぺ返しもまた、着実に迫っている。


 その日まで、残り4日。


 主人公のステータスを見せたかった回。相変わらず剣は使わず。


 再投稿に乗じて若干話が伸びたのと、露骨なカウントダウンが入りました。


 明日は必ず11話を投稿します。それでは。

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