火星
「その通りよ。今は無理だけど、昔は水があり木が生い茂り、川も海も……」
サラは昔を懐かしむように云った。
「ほんとに?」
「本当よ」
「それなら住めるじゃない」
私は驚いた。
「そうよ。遥か昔、火星の大地には木が生い茂り、河がとうとうと流れ、海があり、たくさんの動植物が生きていたの。でもある日突然重力が無くなってしまったの。
原因は判らないの。そのせいで大気は火星から離れてしまい、大地に固定されていないものは宇宙へと飛んでいってしまったの。その結果温度が急激に下がり、地上にあったものは一瞬で氷ついてしまったの。宇宙へ飛び出さなかったモノは、ちょっとぶつかっただけで、粉々に砕け散り、その連鎖反応で次々に砕け、砕けたモノはその時の勢いで宇宙へ飛び出したり、地上に散乱したの。暫くして重力は元に戻ったけど、もう生物の住める状態ではなくなり、その後幾度かの小惑星の衝突で地表は完全に砂の大地とかして、海は氷の固まりとなり地面の下に埋もれてしまったの。その衝突の時に2つの衛星ができて、今の火星になったの」
「すっ! ごい! 火星って、そ舞い上がってういうふうに出来たんだ。じゃあ空気を入れて、植物を植えれば、氷が溶けて海になって、地球と同じになるのね! 住めるのね!」
私は一人でまいあがっていた。
「まあ、そういう事になるわね。地球と同じにするには百年位かかると想うとけど」
「でも、人間なら、何百年もかかっても、絶対、やると想うわ」
私は一人で興奮して納得していた。
「そろそろ、行きましまょうか」
「ハイ!」
私達は火星を離れた。
後を見ると太陽が小さく光っていた。
ここから見える太陽は地球上とは全く違って見えた。
地球上では燦燦と大地を照らしていた太陽も宇宙では単なる恒星にすぎず、宇宙を照らすことは出来ない。
でも私には、そこに行けば安心できる、宇宙の中に光輝く後光にも見えた。