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標なき英雄  作者: 厳萬飯
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2. 『怪力』の日常

またやってしまった。カッとなり、つい手を出してしまった。


最後尾あたりで居眠りする学生をみると叩き起こしたくなり、丁度手元にあったチョークを投げつけたのだ。

投げる感触が癖になる、人体に炸裂した瞬間が堪らな―――


外壁を頭突く、外壁に大きな罅が出来た。ヤバイ、またやった。

足早に立ち去る、新学期に入って学内の備品を損壊した回数が増加した。それもこれも入学してきた平和ボケ世代の所為だ。どいつもこいつも人の講義に限って居眠りしやがって、連中には単位はやらん―――


手摺りを握りつぶしそうになった、危ないところだった。指の跡が残っているが、全壊は免れた。


常軌を逸した怪力。教鞭を振るうに必要のない能力だ。少なくとも気が短い性分の成人男性が持ってはいけない力ではないだろうか。

他人との相違を知ったのは中学の頃だ。教師になる以前の俺は怪力について、今のところ誰にも迷惑かけていないし問題ない、と自分に言い聞かせていた。むしろ体育でヒーローを演じるために重宝していた。

今は違う。昔と違って社会の立場が出来た。理由はもうひとつある。

力が際限なく強くなり続けている。更に力加減が出来なくなってきた。何かの本で自分と似た能力を持つ男が書かれていたが、いずれ自分もまた自壊しかねない為に本気で握りこぶしを作れなくなるのではないだろうか。


俺は力を持て余している。これ以上の力は日常生活に支障をきたすし、教師だって続けていられなくなるだろう。

額の汗を拭う、考え過ぎだろうか。いずれにせよ看過していられない問題だ。


いっそ見世物になるか、瓦なら20枚まで小指で割れる自身がある。寧ろヒーローになれるか。数世紀前の創作物に青いタイツの怪力男が悪漢を叩きのめす描写があった、俺なら直ぐに楽にしてやれる。

やめよう、不毛な考えだ。いつか力は衰えてくるだろう、多分。それに、この平和なご時世に法を犯す輩は殆どいない。そもそもヒーローなんてテレビでしか見れないじゃないか。


溜息がでる、結局は何とか上手くやっていくしかないのだ。

願うことなら俺と同じような、力を持て余した知り合いが欲しいところだ。未だ俺のような境遇の人間と会ったことがない、30歳になる前に出会いたい。何か能力にありがちな悩みを共有したい。どうせなら気の済むままに拳を交わして滅茶苦茶にしてや―――


つい辞書を毟ってしまった、厚手のハードカバーが鼠に齧られたチーズみたいに歪になってしまった。

ヤバイ、またやってしまった。ここは図書館の最奥、辞書の書架だ。辺りに人目はないだろうか。

ふと、額に白毫をもった青年と目があった。

こちらと広辞苑だった物をみて青くなっている。余程恐怖したのか、肩にふけが積っていて白くなっている。

見られた、絶対に見られた。どうする?よし、消そう。

咄嗟だった、俺は本気で握りこぶしを作った。

憐れ新入生A、人生で二度の気絶(物理)を体験することになります。

あと怪力教師は本気で拳を作れる強靭な肉体を持っているので、セルフ握撃は出来ません。

怪力と迷いのない攻撃、彼の天職は格闘家かもしれません。

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