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04.お茶会(2)





 喫茶店『不思議の国』の地下室にて、僕と三人の少女達は雑談に興じていた。

 部屋の中央に置かれた円卓には七つの席があり、その内四つは既に埋まっている。


 お茶会(クラブ)


 そう言われる集まりが何時から存在していたのか、その起源を僕は知らない。

 僕がこのお茶会(クラブ)に在籍して早一年が経つが知っていることは少ない。


 毎週金曜日の午後六時に集合。

 在籍人数は七人。

 在籍者には役名キャラクターと呼ばれる徒名が与えられる。


 【チェシャ猫】

 【眠りネズミ】(ヤマネ)

 【灰かぶり】(シンデレラ)


 今いる少女達の徒名を思い浮かべる。

 本名や年齢は知らない。

 知らないことだらけだが、僕は此処を割と気に入っていた。


 何故なら少女達も僕と同じく異端なヒトなのだから。



「………先輩。紅茶」



 抑揚のない声。

 ヤマネの声だ。

 いつの間にいたのか、僕の隣にティーポットを持ったヤマネが立っていた。

 無表情でとろんっと開かれた赤い瞳が僕を見詰めていた。

 どうやら紅茶を注ぎに来てくれたらしい。


「ん。悪いなヤマネ」



 空になったティーカップに黄金色の液体が満たされていく。

 立ち上がる湯気に薫りがもれる。

 黄金色に輝く液体を一口含めば、口内に広がる瑞々しい甘味と深いコク。

 漂う香りは甘い。

 彼の高名なマスカットフレーバーを味わいながら、隣りに座ったヤマネの頭を撫でる。



「美味いよ、ありがとう」



 どこか気持ち良さげに瞳を細めたヤマネがコクンと頷く。



「おーいネズミー。私にもお代わりー」


「………口を開けてください。カップではなく直接貴女の口に注ぎますから」


「うわーぁっ、贔屓だ贔屓!ツンデレラー、ネズミがイジメるー」


「誰がツンデレラですかっ、人をツンデレのように言わないでください!」



 三人よれば姦しい、とは良く言うが本当だな。

 ………まぁ、大概騒いでいるのはチェシャ猫だが。

 チェシャ猫が僕の方へと歩いてくる。

 どうやら今度の標的は僕らしい。



「………んぅ?そういえばキミは何を読んでいるんだい?」


 

 言葉と同時に背中に押し掛かる重力。

 背中から両手が伸ばされ、僕の肩を緩く抱く。



「グラビア、否エロ本かいっ」



 囁かれた言葉は耳許で響いた。



「………チェシャ」



 先程まで騒いでいたチェシャ猫が背後から抱き付いてきているのだ。

 背中に感じる体温と柔らかい感触と、………隣で不機嫌になったヤマネを感じ取った。



「………キミも男の子だったんだねー、おねーさんは安心したさ」



 よしよし、と何故か僕の頭を撫でる。

 というか何を勘違いしているんだ、このゴスロリ少女は。

 僕が読んでいるのはただの雑誌なのに。



「チェシャだって知っているだろ?最近市内で発生している殺人事件を」


「え? That's 人事権?」



 違う。

 まるで違う。

 しかも何だThat's人事権って、意味が解らない。



「case of murderのほうですよ?」


「あぁ成程。市内で起きてる殺人事件かい」


 英語なら通じるのかっ。



「確か被害者は十二人だっけ?うぅん、怖い怖いねー」



 全然怖そうもなくニヤニヤと笑うチェシャ猫が僕の後ろから雑誌を覗き込む。

 雑誌のページにデカデカと踊る文字。


 『天鈴市内連続殺人事件』


 書かれた記事を纏めると最初の事件が発生したのは先月十五日。

 被害者は市内の工場に勤める男性だった。

 公園のトイレ内から発見された遺体は鋭利な刃物により刺殺。

 夜だったこともあり目撃者もおらず捜査は難航している間に二件目三件目と連続で続いて行き、今月で既に十二件目が発生してしまった。

 僅か1ヶ月で十二件。

 その異常性からかテレビや新聞などのマスメディアを連日のように騒がしている。


 その事件の渦中である天鈴市、この喫茶店がある場所であり僕が暮らす街でもある。


 正直に言って気にならないわけがない。


 もしかしたら狂った殺人鬼がすぐ傍にいっるかもしれないのだから。



「よし決めた!」



 チェシャ猫が言う。

 ………どうせ禄でもないことをいうのだろう。



「今日はキミと帰るとしよう。で、どうだい?私の家でエロいことでもしようじゃないか」



 ………本当に禄でもないことだった。


 その後。

 僕に抱きついているチェシャ猫の頭部へと無言で中身の入ったティーポットを振り上げたヤマネを慌ててシンデレラが止め、また雑談をし今日のお茶会(クラブ)はお開きになった。






 




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