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00.Prologue





 薄暗い夜の帳。

 遠くに見える幾つもの光源。

 あの光の中ひとつひとつに人々の営みや生活があるのだろう。

 白い。

 純白の淡雪が天から舞い降り。

 微風に乗り中空に舞い踊る。

 

 舞台は学校の屋上。


 静寂。

 無音。

 しんしん。

 しんしん、と。

 降り落ちる雪だけが妙に神秘的だった。


 どの位、経っただろうか。


 動かない彼女。

 降り落ちる無数の雪。

 時間の流れが遅く感じる。


 しかしその静寂を打ち破ったのは彼女だった。



「ーーーーねぇ」



 と、彼女。



「……きっとシロトには解らないよね」



 声。

 震えた声。

 泣いている。

 声を震わせて、独りで泣いていた。



「この世界は壊れて、人々は狂っている」



 少女の独白に、僕は応えられない。

 言葉の意味が、

 言葉の意図が、

 僕には解らなかった。

 何と言えばいいのか、僕には解らない。

 励ませばいいのか。

 慰めればいいのか。

 或いは一緒に泣けばいいのか。

 それすら僕には解らない。



「……私はウサギだから。ウサギはね寂しいと………死んじゃうから」



 無意識に、彼女へと手を伸ばす。


 けれど、届かない。

 手を伸ばせば届きそうな距離なのに、余りにも遠かった。


 今、僕は一体どんな顔をしているのだろう。

 泣いているのか。

 微笑んでいるのか。

 それとも怒っているのか。


 あるいはそれ以外の表情なのか、僕には解らない。


 けれど彼女はそんな僕を観て。


 クスリ、と。笑った。




「ーーーーサヨナラ」




 そして。

 彼女。

 少女は、屋上から飛び降りた。



「……ぁ、………っぁああッ!」



 叫び。消えて行った彼女を追いかけて覗き込むグラウンドの片隅。

 街灯が照らす光の中。


 少女が。

 力無く倒れていた。


 ゆっくり。

 ゆっくり、と。

 どこからともなく溢れる赤い液体。


 赤い。

 朱い華が、咲いていた。





「……ぁ。………ぁあああああああァァアアアッッ!!」





 その日。十二月十五日。

 僕は。

 僕と彼女は。

 僕達の世界は、音を立てて軋みを上げ壊れた。







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