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悠久のカルテット‐quartet of eternity‐  作者: 四星
第1小節:アメとムチ、蝶と試練!?
3/12

009‐010




 009


――――――――――


『やってほしい家事リスト』

・掃除

・洗濯

・炊事

・コニーとナタリーにお昼ごはんを食べさせる


☆おやつは台所の白い棚、上から三番目の引き出しにあるビスケット(一緒に食べてよい)


――――――――――


 オレはおっちゃんから受け取ったメモを読み返していた。

 昼飯、ねぇ。


「うん、卵もある。他の材料もそろってるし、オムライス作ろうよ」


 冷蔵庫の中を見ていたミランが、提案と共に振り返った。


「オムライス!? いいじゃん。賛成!」

「アーセル、オムライス大好きだもんね。これなら僕も作り方がわかるし」

「もちのろん! ミラン、やっぱお前天才だわ!」


 そんなこんなで、ミランに作り方を教わりながらオムライスを作ることになった。


 まずは、オレが素早くたまねぎの皮を剥いて、ミランがそれを切る。

 そして、オレが手早くにんじんの皮を剥いて、ミランがそれを切る。

 さらに、オレが華麗にグンピースと肉を冷蔵庫から取り出して、ミランがそれを……って、待てえぇえいっ!!


「なんでオレばっかショボいのなんだよ!! もっとかっこいい仕事させろよ!!」

「かっこいい仕事?」

「ほら、切ったり! 焼いたり! ……いろいろあるだろ、とにかくオムライス作るのに重要そうな仕事!」

「もー、しょうがないなぁ。それじゃあ……かっこいいかどうかわからないけど、アーセルは卵を割って、かき混ぜておいてくれる?」


 卵!?

 キターー!

 オムライスの主役!

 めちゃくちゃ重要な仕事キタ!


 さっそく冷蔵庫から卵を出す。

 いつも片手で割るオロンを思い出して、真似てみるけど、握った卵はこれっぽっちも割れそうにない。

 しょうがないから、普通に卵を割っていく。

 これを軽々やってのけるなんて、さすがオロン兄貴だぜ!

 ――あ、やべ、殼入った。


「マネリアも、オロンも、スワンナも……レナも。」

「ん?」


 オレが卵を割るのに奮闘していると、ミランがぽつりぽつりと話始める。


「みんな、毎日こんなに大変な事をしてくれてるんだね」


 ……ミランも、同じような事を考えてたらしい。


「僕、食器洗いも洗濯物も、こんなに大変だなんて知らなかったよ」

「……オレも。コニーたちは可愛いけどさ、やっぱちょっと大変だよな」

「レナは……特にずっと面倒をみてくれてるけど、僕たちのことどう思ってるんだろう。嫌だったりしないのかな……」


 レナとは小さい頃から一緒にいる。

 キュライとレナはめちゃくちゃ頭がいいらしくて、大学院まである国立学院を10才で、しかも主席で卒業してるんだとか、なんとか。

 特にキュライなんて生粋の変態だし、全然そんな風に見えないんだけど。

 で、レナの方はオレたちが生まれた直後から教育係に任命されたらしく、以来ずっと世話をしてくれている。

 思い返してみれば、お父さんやお母さんより一緒に居る時間が長いと思う。

 そんなレナは、オレたちをどう思ってるんだろう。煩わしいって、思ったりしたかな……。


「いやいやいやいや! よく考えてみろって。嫌な奴の近くになんて好き好んでいないだろ普通! レナ、ずっとウザいくらい側に来るじゃん! 大丈夫だって!」

「そう、かなぁ」

「絶対そうだって!」


 絶対そうだ。

 でも……帰ったら聞いてみよう。

 せっせと卵をかき混ぜていると、突然ミランが大声をあげた。


「……あぁぁあーーっ!!!!!!」

「ばっ、ばっか! コニーたちが起きちまうだろっ! 今度は何だよ!?」


 オレに言われて、慌てて口をおさえるミラン。


「アーセル、何やってるの!?」


 今度はちゃんと小声だ。


「なにって? 卵混ぜてるだけだけど?」

「だって、卵!! こんなにどうするの!?」

「オムライス作るんだろ? 卵なめんな! 卵主役なんだぞ!」

「だからって、冷蔵庫にあった三パック全部使っちゃうことないじゃんか……!」

「いいっていいって、絶対うまいからオレに任せろ」


 三パック分の、三十個の卵がなみなみ入ったボウルは既に溢れそうで、慎重にかき混ぜていく。


「よしよし、オレの卵たち。しっかりうまくなるんだぞ」

「……もう……」


 ミランはそこかしこに散らばった卵の殼を拾いながら、キッチンに盛大なため息を響かせた。




 010


「いっただきまっす!」

「いただきますっ」

「いただきまーす」

「いたまっちゅ」


 オレの隣に座ったコニーと、向かいに座ったミランとナタリー。

 四人そろって手を合わせたのに、同時に言った挨拶はどことなぁくバラバラだ。


 目の前には、特大皿から飛び出そうな程の、というか若干飛び出した巨大オムライスが、テーブルの真ん中にどっしりと一つ居座っている。

 ミランのおかげでなんとか形にはなったけど、想像していたものとは程遠い、かなりいびつな仕上がりになっちまった。


「きゃーっ! おむらいしゅー!」

「でっけぇぇ!!」


 ただ、どういうわけかコニーとナタリーには大好評だ。

 見た目はともかく、ほくほく美味しそうな匂いを漂わせてるし、味も……かなりそれっぽい。

 二人の反応を見る限り、成功って事でいい、んだよな?


「こんなでっかいオムライス、母ちゃんだって作れないぜ! アーセルゾンビまじすげーっ」

「だろ? つーかゾンビ言うな。ほら、口にいっぱい飯ついてんぞ」

「あはは……。作れないんじゃなくて、作らないんだと思うけどな」


 ミランがこっそりと余計なツッコみを入れるが、幸いコニーは聞いちゃいない。

 そのぐらい夢中でオムライスを頬張っていた。


「アーセルったら、ちょっと目を離した隙に卵ぜーんぶ焼いちゃってるんだから……」


 ぶつぶつぼやくミランの隣では、ナタリーがスプーンを片手に演奏を始める。


「どっきゃん! どっきゃん!」


「だめだよ、ナタリー。テーブルさん痛いって」

「痛くないもん!!」

「ははは! ミランも大変だなっ」

「誰のせいだろうね?」


 ミランが頬をふくらませた。


 ……にしても、コニーもナタリーもテンション高すぎだろ。

 正直、こんなに喜んでもらえるとは思わなかった。


 ――ピンポーン。

 一悶着、二悶着あってちょうど食事を終えたところに、ドアホンが鳴る。


「あ、母ちゃん!」

「かーちゃーん!」


 まだ確信なんてないのに、二人は一斉に駆け出した。

 ああ見えて、実は寂しかったのかもしれない。


 オレたちも玄関に向かうと、そこには元気そうなヘンゼリューさんと、レスターおっちゃんの姿があった。


「おばさん、もう具合は良いのか?」

「ええ、もうすっかり。貴方たちが留守番してくれて助かったわ。どうもありがとう」


 そう言ったおばさんはいつもの、というかいつも以上に覇気があって、……本当に具合が悪かったのか疑いたくなるほどに、元気そのものだ。


「かーちゃん! ナタリーはおむらいしゅー!」

「あらあら、オムライスを食べたのね。よかったわね」

「……それじゃあ、僕たちはこれで失礼しますね。コニーくんたち、おやつがまだなのと、オムライスに材料を使いすぎてしまって……ごめんなさい。それから――」


 後の説明はミランに任せて、オレはひと足先に玄関を出る。


「アーセル! ご苦労だったな。ヘンゼリューさんはただの貧血らしい。簡単な治療で済んだよ」

「そっか」


 よくやった、と頭を撫でてくる手を避けると、おっちゃんがムキになって追い掛けてくる。

 いつの間にか鬼ごっこになって走り回っていると、話しを終えたミランたちも出てきた。


「コニー、ナタリー。もうお兄ちゃんたち帰るのよ。ご挨拶は?」


 ヘンゼリューさんに背中を押されて一歩進む二人は、まだ手にスプーンを持ったままだ。


「にいちゃ、ありがとーっ!」

「僕たちこそ。ナタリーもコニーも、ありがとう」

「アーセル! また今度一緒に守護レンジャーごっむぐぐっ」

「おまっ…しーっ!」


 近くに来たコニーの口を慌てて塞ぐ。

 てっきりお礼を言うのかと思いきや、禁断の話題を持ち出してきやがった!


「なんでだよ! やんないのかよ守護レンジャーごっこ!」

「だから、守護レンジャーは男と男の秘密だってあれほど言っただろ! 兄ちゃんたちの年で戦隊モノ見てるってバレるの、恥ずかしいんだよ察してくれよコニー!」


 目が合う高さまで腰を落としてコソコソ話し込んでいると、みんなもう挨拶が終わったようで、静かにこちらに注目していた。


「……アーセル、何してるの。もう行くよ。蝶探さなくていーの?」

「あっ!」


 完全に忘れてた!


「そうだ、おっちゃん。今日ラッキー見なかった?」

「ラッキー? 今日はまだ見てないが、その辺で散歩してるんじゃないか? 大通りを見れば間違いないだろう」

「まァ、そうだよな。サンキュ!」


 見回りをしていたおっちゃんなら、ラッキーについて有力な情報を持っているかと思ったんだけど……やっぱり大通りを地道に探すしかなさそうだ。


「それじゃ、オレたち行くな。またな!」

「「またなっ!」」


 おばさんに抱かれながら、おばさん譲りのキリッとした返事で、ナタリーが片手を挙げる。

 コニーも両手を振って見送ってくれた。

 それに負けないくらい大きく手を振り返して、オレ達はヘンゼリュー家を後にしたのだった。

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