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悠久のカルテット‐quartet of eternity‐  作者: 四星
第1小節:アメとムチ、蝶と試練!?
2/12

006‐008




 006


 オレたちはピーマンとの闘いから生還し、レナに見送られて裏口から城を出た。

 ポケットに入れておいたグローブを取り出し、気合いをいれて指を通す。


 今探してる蝶っていうのは、クリップ式のヘアーアクセサリーのことだ。

 たまたま立ち寄ったアンティークショップで一目惚れしたものなんだけど、その時貯めていたお小遣いを全額叩いて買っただけに、あとから女物だって判明した時はすげぇショックで……。

 けど、マネリアがかっこよく改造してくれたおかげで、それ以来大事に使ってる。


 とまあ、オレにとっては特別なアイテムだから、自分のかどうかなんて一目見れば直ぐにわかるんだ。

 まずはラッキーを見つけねぇと。


 城から歩くこと十数分、街の大通りにやって来た。

 ラッキーをよく見掛けるのは、この辺りだ。


「そういえば、ラッキーっていつもどこにいるんだろうね?」


 先を行くミランが、辺りを見回す。


 ……確かに。

 張り切って城を飛び出したのはいいけど、いざ探すとなると検討がつかねぇ。


 森に住んでる、とか。

 密かに学校で飼ってる魔犬だ、とか。

 昼間でも見える幽霊だ、とか。

 ラッキーには、いろんな噂が流れている。

 オレも、よくこの辺でガキんちょを追い回してる、たれ眉毛のアホ面ってこと以外は何も知らない。

 要するに、オレクラスじゃないにしろ、謎の多い犬に違いはないようだ。


「あぁ、はいはいはいはい! ラッキーちゃんね。あの子はベンさん家の子なのよ。そろそろこの辺を通る頃じゃないかしら」

「ありがとうございます!」


 いつの間にか聞き込みをしていたミランが、おばさんにお辞儀をしてこっちに手を振っている。


「アーセル、ラッキーについてわかったよ! ベンさんの家の犬なんだって。でね、もうすぐここに来るかもって!」

「へ、へぇー……ベンさん家の……」


 誰だよ、ベンさんって! ラッキー飼ってんじゃねーよ!

 ――まぁ、いい。ラッキーも犬だ、ベンに飼われてたって不思議じゃねぇ。


「まさか蝶が盗まれたのもベンの陰謀なんじゃ……!」

「陰謀だなんて適当なこといわないの。蝶のことは……きっとベンさんにも深い事情があったんだよ」


 そこは否定しないのかよ!


「おお、アーセル! それにミランじゃないか! ちょうどいいところにいたな。ベンの話しをしていたみたいだが、どうかしたのか?」


 ベンさんを……じゃなかった! ラッキーを探していると、レスターおっちゃんが話しかけてきた。

 アリーナには自警団があって、オレもおっちゃんもそこに所属してる。

 ってか、みんなベンさん知ってんのかよ。しかも、なんか親しげだ。


「いっいえ、なんでもないです! お勤めお疲れ様です」

「ははは! ミランはいい子だなー」

「で、おっちゃん。ちょうどいいって何が?」


 難しい顔をして咳払いをすると、胸ポケットに手を突っ込むおっちゃん。


「それなんだが、ヘンゼリューさんが倒れてな。俺はこれから様子を見に病院へ行かなきゃならん。ただ、家にはまだ小さいナタリーちゃんがいるだろう? 心配でな」


 ヘンゼリューさんというのは、いつも道行く人に大きな声で挨拶してる、パワフルなおばさんだ。

 この辺りじゃ、ちょっとした有名人だったりする。


「コニーがいんじゃん。アイツ初等部に上がったんだし、大丈夫なんじゃねーの?」

「うーむ……。そうは言っても、コニーくんは特にわんぱくだろう?」


 ……確かにコニーは悪ガキだからなぁ。

 大人しく妹のお守りをするようなタチじゃないかもしれない。


「ヘンゼリューさんがいない間に、もしもの事があっちゃ大変だ。お前たち、少しの間でいいから留守番を頼まれてくれないか?」

「オッケー。そういうことなら、任せとけって!」

「わかりました、僕たちに任せてください!」

「二人ともすまんな。ああ、それとお願いついでにこれも頼む」

「「……?」」


 ミランが受け取ったのは、おっちゃんがポケットから出したヘンゼリュー家の鍵と、メモの書かれた小さな紙だった。




 007


 ミスターオールマイティーこと、ミステリアスかっこいいオレの周りには事件がいっぱいだ!


 盗まれた蝶の捜索中だというのに、またもや事件に巻き込まれてしまった。

 なんとヘンゼリューおばさんが倒れて、病院に運ばれたらしい。

 そこで、自警団のおっちゃんが容体を確認しに行く間、おばさんの子供のコニーとナタリーの子守りを引き受けることになってしまった!


 ――平凡なレンガ作りの家々が並ぶ城下町の住宅街。その一角にあるヘンゼリュー家で、オレ達は慌ただしく動き回っていた。


「あとは洗濯と……あっ! もうこんな時間! お米も炊いておかなきゃ。アーセル、そっちはどう?」


 ミランがエプロンで手を拭きながらメモを見ている。

 どうやら洗い物は終わったらしい。


「こっちはあと一部屋片付けたら終わ……」


 返事を言い終える前にガラガラガッシャーン!! と、たった今片付けたばかりの部屋から、聞き覚えのある音が響いた。

 嫌な予感がする。

 オレの予想が正しければ、この音はおもちゃ箱を引っくり返した時のもんで、恐らく、犯人は天下のクソガキ、コニーだ。

 振り返ると、やっぱりおもちゃが散乱している。

 そこにはもちろん、なぜか誇らしげなコニーの姿……。

 許せねぇ……!


「くぉらぁぁあ! コニーてめぇ、せっかく片付けたのにまぁぁぁたぶっ散らかしやがったな!!」

「わー! アーセルゾンビがキレた! 逃げろー!」

「誰がゾンビだ! 待ちやがれ! 俺は守護レッド以外やらねぇって、言ってんだろうが!!」


 カーン! 頭の中でゴングの音が鳴り響く。サードステージの幕開けだ。

 しかし、追い掛けようと駆け出す所で、不意に小さな重みを感じて振り返った。

 見ると、ナタリーがオレの服のすそを引っ張りながら、そわそわと足踏みをしてる。


「おにちゃ、おしっこー!」

「今度はなんだよ……って、おしっこー!?」

「うんー!!」

「お、おおお落ち着けナタリー、ちょっ、ちょっ、ちょっと待てよ! いいか? 絶対だからなーっ」


 おしっこってなんだ!? おしっこって……おしっこか!

 どうすんだ、これ。トイレ連れてきゃいいんだよな!?

 そんなに広い家じゃないのに、勝手がわからない他人の家は案外大変だ。

 ナタリーを連れてトイレを探しまわる。


「兄ちゃん、便所はこっちだぜ!」


 騒ぎを聞き付けて戻って来たコニーが、バッと手を上げ、廊下の先を指差した。

 コニーがいなかったら、間違いなく大惨事になっていた。




 008


 ――受け取ったメモには、やっておいてほしい家事のリストが書いてあった。

 掃除、洗濯、洗い物、それから昼飯を作ってコニーたちに食わせること。


 二人暮らしを始めてもう一年が経つけど、そうは言っても洗濯と掃除はマネリアがやってくれるし、飯はオロンが作ってくれる。

 オレとミランはちょろっと手伝いをしたことがあるぐらいで、その手伝いすら遊び半分にやってたもんだから、メモに書いてある家事リストはなかなか進まない。


「洗い物よし、お米よし、と。僕、洗濯物を干してきちゃうね。アーセルは今度こそ片付け終わらせておいてよ?」


 ……と思ったけど、ミランの方は結構順調らしい。

 ちくしょー! オレもこうしちゃいらんねー。片付けくらい、さっさと終わらせねぇと。

 そのためにも、まずはこの二人だな。何か良いアイディアは……。


…………。


………。


……。


「あ゛ーあ゛ー我はアーセルゾンビなり。片付けの邪魔をするヤツは……ぐっふっふっふっふ」

「ぎゃあぁあぁあ~ゾンビだ! ゾンビがきたぞ! ナタリー、急げ! 隠れるぞ!」

「きゃ~っ! コニ、まってぇ~!」


 しめしめ、怖がってる怖がってる。

 コニーはおもちゃの変身ベルト、ナタリーはいくつかある中からお気に入りのテディベアをそれぞれ持って、隣の部屋のクローゼットに駆け込んで行く。

 はぁ……オレから逃げてんのに、自分達で袋のねずみ状態に陥ってどーすんだよ。


 さて、と。

 アイツらにはあそこで大人しく待っててもらうとして、今のうちにちゃっちゃと片付けちまうか!

 クレヨンで描いただけの紙のお面だけど、おもしろいくらいうまくいった。ちなみに、描いたのは《無敵戦隊☆守護レンジャー》に出てくる敵キャラ、量産型ゾンビのアレンジバージョンだ。

 さすが、ミスターオールマイティーを名乗るだけはあるな、オレ!


 片付けを再開しようとおもちゃ箱を立て直すと、ひそひそ話と共にすぅーっとクローゼットが開く。

 ちっ。ヤツら、様子を見に来やがったか。

 油断ならねェ。


「グァーッ!! ヤツら、ドコ行きやがったぁあぁあ」

「「ぎいぃやゃあぁああ~~!」」


 そんなやり取りを繰り返し、やっと片付けが終わった頃には、あれだけうるさかった二人は静かになっていた。

 こっそりクローゼットを覗いてみると、コニーとナタリーがテディベアに寄り添って気持ち良さそうに眠っている。

 ……黙ってれば可愛いヤツらなんだけどな。起きてる時は、まるで怪獣だ。

 ガキんちょを相手にしながらの掃除が、まさかこんなに疲れるなんて思わなかった。

 あー、地味に喉いてえ。


「ミラン、ようやくこっちも片付いたぜ。コニーたちは寝ちまってる」


 庭へ洗濯を手伝いに行くと、一足遅かったようでミランの抱えるカゴは既にからっぽだ。


「そっか。それじゃ、今のうちにお昼ご飯の準備しちゃおうよ」

「おーっ!」

「って……あはは! なあに、そのお面!」

「色々あったんだっつの!」

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