兄と魔王と友人と ②
長らくお待たせしました。
近所の公園を越えたところで俺の緊張は徐々に増してきた。もうすぐ魔王もとい佐伯一馬がいつも現れるポイントであるからだ。何とか俺から気がそれますように。頼んだぞ。翔。
ちなみに並び順は雅を中心に車道側に翔、逆サイドに俺だ。魔王が現れたときのために、本当なら俺と雅の位置を逆にしたいところだが雅が頑として譲らなかった。翔のことを嫌っているくせに何故隣を歩きたがる。こいつの考えはよくわからん。
そんなことをつらつら考えながら歩いていると後ろから車のエンジン音。住宅街の狭い車道なので俺は雅を道路脇に引き寄せようと手を伸ばした。しかしその手はむなしく空を切る。後ろを見ると翔が雅を守るように民家の塀に体を寄せていた。傍からみたら抱き寄せているように見える。おい お ま え 調子にのんなよ。俺の目の前で何やってる。まぁ至極ご満悦な翔とは対照的に雅は嫌そうにぐいぐいと翔の体を押してはいるが。
俺が二人を引き剥がそうと手を伸ばしたところでポンっとたたかれる肩。不吉な予感に俺は思わず身をすくめた。恐る恐る後ろを振り返るとそこにいたのは爽やかな笑顔の魔王でした。
「昨日振リデスネ。一馬サン。」
「これはどういうことかな?」
思わずヒッとあげそうになる悲鳴を何とかのみこむ。爽やかな笑顔の裏に潜む暗黒オーラがパネェッす一馬さん。
「これはですね。」
「何であいつと一緒に帰ってるのかな?」
喰い気味なセリフが怒りの程を現しているんですね。わかります。俺が冷や汗をダラダラ流しつつ一馬さんと話していると、雅が一馬さんに気付いた。さっきまで必死に抵抗していたのが嘘のように一瞬にして翔を押し退けると一馬さんに近づいていく。
「一馬お兄ちゃん。今日もお散歩?素敵なご主人でいいねぇコタロー。」
そう言うと今まで大人しくお座りをしてその場で様子を見ていた一馬さんの愛犬コタローに触りだした。わっしゃわっしゃと首筋を雅になでられて、コタローは気持ちよさそうに目を細めてワフっと一声鳴いた。
一馬さんはその様子をほほえましげに眺めた後ドヤ顔で翔を挑発する。翔はというと普段の雅に対するMっ気はどこ行ったと聞きたくなるような表情で魔王を睨みつけている。毎度のことながらこいつの勇気には感心させられる。魔王にはむかうなんて俺には無理だ。昔から植えつけられてきたトラウマにはどうにも勝てないのだ。
さて雅に言い寄る男二人の戦いのゴングが鳴り響いたところで俺は人知れずほくそ笑む。これぞ待ちに待った展開だ。この場をこっそり離脱して家に入ればこっちのもんとばかりに俺はその場からそっと足を踏み出す。幸い家まではあと少し。ここを乗り切れば何とかなる。俺の様子に気づく様子のない一馬さんにガッツポーズをしかけたその時、突然の衝撃に俺はその場で尻餅をついた。
ベロベロと無遠慮に舐められる顔。モフモフとした毛。ハッハと荒い息遣い。この獣ぉ~!!雅はどうした!雅は!今まで嬉しそうにじゃれついてたじゃねぇか !
恐る恐る顔を上げると浴びる視線。魔王の笑顔。
俺、終了のお知らせ。
連投します。