兄と不審者
痛てぇ。
俺は今、痛む頭を抑えつつ雅と一緒に昇降口に向かっている。
部室でメールを見てからまた自分の世界にトリップしていた俺は、雅に怒られ慌てた拍子にロッカーの角で頭を強打していた。後頭部に巨大なこぶが出来ている。ほんとに今日は朝から碌なことがねぇ。その後職員室により保健室を空にしたことを告げ今に至る。
昇降口に入ったところで雅と別れそれぞれのクラスの下駄箱に向かう。自分のクラスの下駄箱に着いたところで俺は不審な影を見つけた。俺のクラスの下駄箱を盾にして一年のクラスの下駄箱のほうを伺う見慣れた茶髪。
「翔…お前、なにやってんだ?」
そう声をかけるとびくっと揺れる肩。ギギギっと音がしそうなぎこちない動きでこっちを振り向いた翔は慌てた様子で迫ってきた。
「総司!こっこれはっ…!違うんだ。べっ別に雅がまだ学校にいるみたいだから待ってたとか、一緒に帰りたいなとか思ったわけじゃなくて!てかお前部活は!?」
うん。落ち着こうか。そしてちょっと俺から離れてくれ。顔が近い!キモイ!興奮すると近寄ってきて顔を寄せる癖はいい加減直してくれ。要するに雅と一緒に帰りたくて待ってたんだな。とりあえず。
「翔。ストーカーは犯罪だぞ。」
こいつ昨日も雅をつけてたしな。(※2作目『ヒロインな兄の事情』参照)深みにはまる前にやめさせないと…ストーカーの相手は一人で十分です。
「ちげーし!つけようとか思ってねぇし。ただタイミングがだなぁ。」
再び迫る翔。そしてそこに響く第三者の声。
「お兄。靴履き替えるだけにどれだけ時間かけてる…の?」
下駄箱の陰からひょっこり顔を出した雅は俺たちの様子を見ると、大きく目を見開き次いで目に剣呑な光を浮かべた。
「城戸さん!お兄に何してんですか!?」
そう言ってつかつかと歩み寄ってきた雅はベリッと音がしそうな勢いで俺と翔を引き剥がした。まるで俺をかばうように俺と翔の間に体を滑り込ませると小声で俺を叱責する。
「お兄はもう少し危機感もって!」
危機感持てっていったい何に危機感持てばいいんだよ。こいつの考えてることはたまによくわからん。そもそも俺としてはお前にだけは言われたくない。この変態ほいほいが!と言ってやりたいところだが、言うとまたうるさそうなのでぐっとこらえてはいはいとおざなりに返事をする。
「まぁ。もう帰るぞ。」
まだ何か言い足りなそうな雅を遮りそう声をかけると、さっさと靴を履き替えて歩き出す。昇降口の出口に近づいたところで翔に声をかけた。
「翔。お前ももう帰るなら一緒に帰るか?」
雅が嫌そうな顔で俺を見てくる。お前…そんなに嫌がってやるなよ。翔が可哀相だろ。翔はといえば嬉しそうな微妙な表情を浮かべている。
「そっそんなに言うなら一緒に帰ってやってもいいぞ。」
なぜここでツンデレ。昼休みの冷静なお前はどこにいった?雅は嫌そうな表情を浮かべたまま冷たく言い放つ。
「別に無理して一緒に帰らなくていいですよ。」
翔は精神に100のダメージ。そんなアナウンスがどこからか聞こえた気がした。
あれ?終わらない?すみませんでした。
というわけで次回もよろしくお付き合いください。