兄と主将
ストーカーに対する恐怖で真っ白になった俺は、なぜか雅に送られ教室まで戻った…らしい。その時の記憶ははっきり言ってほとんどない。漠然と何でこいつ教室までついて来てんだろとかは思った気はするが。そもそも俺と翔は同じクラスなんだから、俺がどれだけ白くなってようが茫然としてようが雅が教室まで送る必要はないはずなんだけど…。まぁ翔にとっては雅と少しでも長く居られて良かったのかもしれない。とにかく俺は今夜行われる魔王主催の恐怖の宴が気になって気になってそれどころではなかった。
午後の授業は全く頭に入らず、気がついたら体育館にいて部活に出ていた。どうやら翔によって佐木に預けられたらしい。
とりあえずそんな事はどうでもいい。夜までにどうにか俺が助かる方法を考え出さねば。どんな目にあわされるかわかったもんじゃない。
「相澤!お前いい加減集中しろ!」
頭の中で必死に脳内一人会議を行っているとどこからか主将の怒鳴り声が聞こえる。俺呼ばれた?ふと顔を上げると視界いっぱいにバスケットボールのオレンジ色。あっこれあたるわ。のん気にそんな事を思っている間に顔面に激しい衝撃。あぁまたか…。気を失う瞬間そんな言葉が頭をよぎった。
『お兄ちゃん!大丈夫?』
涙目で保健室に駆け込んで来たのは中学生の雅で、あぁこれは夢か…と理解する。多分俺が中2の頃。雅が中学に上がって初めて脳震とうを起こした時。この頃はこんな風に心配してくれてたんだな。必死な様子に思わず笑ってしまう。
『大丈夫。心配かけたな。』
頭を撫でてやると雅もホッとしたように笑う。この頃は素直で可愛かったなぁ。
『もう!心配…な…でよね…お……』
面影が朧気になっていく。何?聞こえないぞ?雅?
「―に―――か?やめてください!」
雅の叫び声にパッと目が覚める。声が聞こえた方に視線をやるとそこには主将に壁際に追い込まれる雅。おいてめぇ。何してる?これだから主将を雅に会わせるのは嫌だったんだ!この女たらしが!兄弟揃って雅に何てことしやがる!
主将の名前は佐藤幸隆。朝、雅にセクハラをしたという生徒会長、佐藤雅隆の双子の兄だ。主将が髪を茶色に染めて見分けがつくようになったが、それまではまさにテンプレ通りの双子でまったく見分けがつかなかったらしい。この二人、学力、運動神経、行動パターン果ては好みのタイプまでほぼ一緒。そんなわけで事あるごとに衝突し、なかなかに仲がよろしくないと噂だ。雅をそんな争いのだしにしてたまるか!俺が出来る限り護ってやる!
俺は素早く半身を起こすと左手で雅の左腕をつかみ自分の方へ引き寄せる。倒れ込んできた雅を抱き止めその小さな身体を抱き込んだ。強張っていた雅の体から力が抜けるのを感じる。俺は雅を安心させる様に更に強く抱きしめ主将を睨みつけた。
「主将。うちの妹に何してるんすか?うちの子は主将がいつも相手にしてる女の子たちと違って、そういうのに慣れてないんで、ちょっかいかけるのはやめてください。」
主将は小さく両手を挙げホールドアップの体勢を作っている
「お前が噂の妹ちゃんを全然紹介してくれないから、どんな子なのかどうしても気になってさ。呼び出してみたら噂どおり可愛かったからつい…」
主将はテヘッと効果音が着きそうな表情をしてペロッと舌を出す。テヘペロじゃねぇよ。あんたがそんなことしても可愛くねぇし!キモイ事はやめろ。
「大体にしてどうやって呼び出したんすか?」
携帯の番号も知らないくせに。
「あぁ。これちょっと借りた。」
そういって取り出したのはころんとした虎ストラップのついた青い携帯。…おい。俺の携帯じゃねぇかぁぁぁ!(ちなみにストラップは雅にもらった。)あんた何してくれてんの?勝手に他人の私物あさってんじゃねぇ!いくら先輩でも、いくら主将でもやっていいことと悪いことがあんでしょうがぁぁぁ!俺は慌てて携帯をひったくる。
「お前携帯にロックかけるとかした方がいいんじゃないのか?危ないだろ?」
あ ん た が 言 う な!
鍵のかかったロッカーをあさる奴には言われたくねぇよ!
「まぁいいや。お前今日はもう帰っていいぞ。ボーっとした状態で部活に出られてもはっきり言って邪魔。あんまなめたことしてっとユニフォーム取り上げるぞ。それが欲しくてももらえない奴がいるって事ちゃんと考えるんだな。」
そういうと主将は後ろ手に手を振りつつ保健室から出て行った。最後にきっちり釘を刺していきやがって…。そういうところはかなわないな。反省します…。
………ん?そういえば雅は大丈夫か?
主将の名前をようやく出すことが出来ました。妹の被害実録からあった双子設定もやっとで回収できました。少し肩の荷が下りた気分です。
それではまた次回。年内に何とかもう一話更新したいと思っております。