兄と友人
「お兄のおかげで酷い目にあったんだからね。」
どういうことかな?雅のその言葉に俺が問い詰めようと口を開きかけた時そいつは現れた。雅にのしかかっているそいつは城戸翔。そういや今まで見かけなかったな。廊下から来たとこを見ると便所にでも行ってたのか?翔は俺の言葉を遮るようにして口を挟んできた。
「それどういうこと?聞き捨てならないんだけど。」
やつは後ろから半ば抱き込むようにして雅の顔を覗き込む。……おい…おいぃぃぃ!お前は俺の目の前で な に を や っ て い る。
「聞き捨てならないって何ですか?」
そんな翔の過剰接触に対し冷たく言い放つ雅。こいつは通常運転だな。翔…かわいそうな奴。それはそうといつもならここで熱視線の翔と冷視線…いや冷死線の雅による、熱いのか冷たいのかよく分からない睨み合い?見詰め合い?に発展するのだが今日はいつもと趣が違う。翔の視線も冷たい。いや。雅に冷たいというより俺に対して冷気が飛んでる気がする。俺なんかしたか!?むしろお前が今している。いい加減 雅 を は な せ!
俺は翔と雅の間に手を入れるとベリッと二人を引き剥がし雅の視線を俺のほうに向けた。
「俺も気になる。どんな目にあったんだ?」
俺が怖がらせないよう精一杯の笑顔でそう告げると雅の引き攣った顔が返ってきた。
そのまま教室入り口で話し込んでいても通行の邪魔になるので、俺たちは人気のない屋上につながる階段の踊り場へ移動した。実際クラス一小さい由井遥花が教室に入れなくて困っていたので仕方ない。すまん由井。
とりあえずそこに着くと雅はおもむろに階段の一番下に腰掛け頬杖をついた状態で俺たちを見上げてきた。上目遣いがあざとい。ちらりと翔の方を確認するとやつは階段の手すりに肘をかけ顔の下半分を手の平で覆い隠している。目線は雅のいる方とは反対。あぁ、なるほど直視できないんですね。ゆるんだ表情が隠しきれてないですよ。耳が真っ赤に染まってますよ。
まぁそんなことは置いといて、今は雅だよ。お前いったい何があった?俺は真剣な表情で雅を見つめると雅がおもむろに口を開いた。
「で、何の話だっけ?」
こいつ絶対めんどくせぇって思ってる。俺はお前のためを思ってだなぁ。その反応に若干イライラしながら口を開く。
「俺のおかげで酷い目に遭ったってどう言うことだ?」
あっ今こいつため息と一緒にめんどくせって呟きやがった。聞こえてんだよ。あんま酷いことしてると兄ちゃん泣いちゃうよ?
そんな俺を気にする風もなく雅は事情を話し始めた。それによるとこう言う事らしい。朝、雅が家を出ようとしたところで俺の携帯から着信があった。電話に出たところ電話の向こうは俺ではなく俺の携帯を拾ったという人物だった。生徒会室に呼び出され登校後そこに向かう。するとそこには生徒会長がいて顔を撫でられ手を握られるというセクハラまがいの行為を受けた…と。
血の気が下がった気がする。ちょっと目を放した隙になんて奴に目をつけられてんだ。生徒会長といえば奴の双子の兄と共に有名な女たらしではないか!?顔と女の子に対する人当たりだけはいいと評判のろくでなしだ。会長は知らないが兄の方は知っている。噂のとおりだ!ちょっと目をはなすとすぐに厄介な奴を引っ掛けやがって。おい翔。俺をそんな冷めた目で見るんじゃねぇ。何回も言うがいつも俺は何にもしてねぇからな。雅を見ると相変わらずの上目遣いで小首をかしげてこちらを伺い見ている。何も分かってなさそうなその顔に俺は思わず肩に手をのせ雅を揺さぶる。
「お前それで手を握られた以上のことは何もなかったんだな?」
雅からの返事はない。どうなんだ!早く答えろよ!
「総司。雅白目剥いてるから。いい加減はなしたげて。」
止めんじゃねぇ。と翔を睨むと雅から衝撃発言。奴からメールが来る だ と?ろくでなしとメル友なんて兄ちゃんは許さん!今すぐやめなさいと掴みかかろうとしたところで翔に押さえ込まれる。
放 し や が れ !
「雅、会長とアドレス交換なんかしたの?」
何でこいつは冷静なんだ。
「してないよ。勝手にお兄の携帯からアドレス控えてたの。」
俺の携帯からかよ!翔、頼むからそんな哀れむような目で俺を見るんじゃねぇ!そんなことを考えていると、どこからともなくダ○スベ○ダーのテーマが聞こえてくる。発生源は俺の携帯…魔 王 降 臨 !!これは俺の天敵である魔王、佐伯一馬にあてた着メロだ。こんな時になんだってんだ。俺は慌てて携帯を出すと着信を確認する。メールだ。
from:魔王
sub:no title
ソウ。またミヤに余計な虫を近づけたね?
お前はいったい何をやってるんだい?
後でいつもの公園で。たっぷりお仕置きをしてあげる。
ゆっくりいいわけでも考えておくんだね。
何これ怖い。何で知ってるの?ストーカー怖い。とりあえず。終わった…俺終わった。俺の命は今日で終わるんだ。
真っ白になるってこういうことを言うんだな……
というわけで魔王からのメール大公開です。なぜ魔王は逐一行動を知っているのか?そのあたりは機会があれば番外編で書く予定です。
今日は頑張りました。次も早くあげられるよう頑張りますね。