目覚めから今に至って
前回の話の手前からのレミア視点です。
レミア視点***
毒の浄化後、私が意識を覚醒したとき、
「・・やっと起きたね、レイちゃん。
大丈夫?」
部屋にはファゼさんがいた。
「ぇ、・・?」
頭が痛い。ずきずきする。
体も重い。
上半身を起こしながら問い返す。
ぼんやりとした視界でファゼさんを捕らえたとき、
視界がゆがみ、体が横に倒れていく・・・
ふいに真っ暗になった。
「レイちゃん!!」
バタッ
肩が硬い服にあたる。
一瞬、ぐらりと揺れたが、それ以降、揺れは来なかった。
衝撃もない。
「ッふぅー・・。危なかった。
急に起き上がっちゃだめだよ、レイちゃん。
君は、相当体に負担がかかっている。
だから、セザルも君をおいていったんだ。・・ついさっきだけど」
彼はつぶやいた。
私を見下ろして、私の背中と寝台の壁の間にクッションを挟んで、
上半身をゆだねさせ、安定した姿勢をつくった。
「え?でん、か、が?」
心配そうな瞳の奥の不安と先ほどの言葉。
息が詰まりそうなのどから、声を絞り出して、なんとか聞いた。
おいていった?殿下が私を?
じゃあ、どこに彼はーーー
「たぶん、君が起きていたら先に自分のしたいことを話しただろうけど、
待てなかったんだよ、だって、レイちゃん、三日も寝てたんだよ?」
「みっ、・・か」
通りで、
頭も痛い、体も重い、視界がかすむ、わけだ。
だるい感覚とはっきりしない意識が私も今にも意識を奪っていきそう。
何も考えられないんだ。
言葉をそのまま真に受けることでしか、理解できない。
深く考えようとすると、つらくて、苦しい。
「い、ま、彼は、どこ、へーー」
「え?それは、レイちゃんの母国だよ。
どうしても話したいことがあるっていって。
たぶん、君についてだと思うけど」
「!!」
“君についてだと思うけど”
ズキンッ! 頭に強くそれは響いた。
いやな予感が絶不調の頭にも体にも駆け巡る。
私のこと?
まさか、それでわざわざ国に?
ズキンッ!
強く痛みが走る。
だめ!それは絶対にだめ!!
とめなきゃ!!
だって。私は、彼に何を話した!?
王族のこと、のろいのこと、犯人のこと。
たくさん、話してしまった!!
話すべきじゃなかったんだ!!
彼はきっと、国を追い詰める!
王を脅迫して、ゆくゆくは・・・
ーーー国を、滅ぼす・・!!
いやだ、滅んでほしくない!
たかが、私のせいで!私の存在のせいで!
呪いのせいで!話したせいで!!
なん、で、--私は話したの?
あれで、彼は許してくれると思ったの?
そんなわけないじゃない、こうして、彼はいってしまった!!
「レイちゃん、顔が青ざめて・・大丈夫?
無理しちゃだめだよ、寝てないと」
ファゼさんは私を覗き込んで、寝かそうとした。
「っ!」
そこで、私ははっとする。
悔やんでも仕方がない!寝るわけにはいかない!
自分の犯したことには責任をもたなきゃ!!
そのためにはーー
「ファゼさんっ!私を、つれてって!」
「えっ?」
「お願い!はやく!!殿下を、とめなきゃ!!」
重い体を無理やり動かして、彼の力を押しやってすがりついた。
彼は眼を見開いて、動かなくなる。
「レイちゃん?でも、もう彼はーー」
「だから、はやくっ!お願い。ファゼさん!!」
「そんな無理してまで行かなきゃ行けないの??」
「はい!っどうしても、大切な、大事なことなんです!!
殿下を、とめなきゃ、だからーー!!」
必死で必死で言い募った。
ファゼさんを、説得した。
体なんてどうでもいい。私なんて、どうでもいい。
私一人のことよりも、これからの未来の国の行く末のほうが大事だ!!
「わかった。幸いにも僕の乗る愛馬は国一番の駿馬だ。
一緒に行こう!それなら間に合う!!」
****
そうして、ファゼさんと私は馬に乗って駆け出した。
風は私達を味方して、走った。
パカパカパカッ!!
背に感じる駆け抜ける風と、馬の足音。
長い時間乗り続け、体も心も焦燥を感じた。
はやくはやくはやく!!
焦りと不安と緊張の糸が全身を絡める。
体はとうに限界を超えてるはずなのに、不思議と意識は前を向いたまま。
はやく、彼を止めないと!!
しかし、母国に着いたとき、もう殿下と王は面談中だった。
その扉まできてみれば、
がやがやと怒り叫ぶ声の音が廊下にも響いてくる。
とめなきゃ!!はやく!!
「殿下ッ!!」
がちゃっと、ドアを開けて、殿下を呼んだ。
届いて!聞いて、私を!!
「レ、レミア!?」
「!!」
必死に
「私のせいで、言い合いはやめて、下さい、お二方っ!!」
そう、懇親の力で叫んだ。
彼らに届くように。
そこにいた彼らは驚いていた。
その隙をついて、必死に最後の力を振り絞るように
説得をした。
懇願した。一生の願いなのだと思いをこめた。
ただ必死に、ただまっすぐに。
言い合いなどしてほしくないと、心で泣き叫んで。
だから、本当の体の限界なんて気づかなかった。
視界が徐々に見えなくなっていることも、
すでに立ち続ける力さえないことも、
頭痛でひどく意識を奪い取られてることも。
ズキィインンッ!!
痛みが、私に強く訴えた。
もう無理だと。限界だと。
体は意識だけではなんともならないことを。
理解したとたん、まだ言わないと、という気持ちになった。
足りないと、もっと説得して、取り止めにーーー
「もう、私の、話は、ー・・。ッ”--」
ーーーーーーーーーブツン、ーーーーーーーーー
そこで、意識は途切れた。