盾
「お前に聞きたいことがある」
殿下は私の腕に神木の葉を当てたまま
慎重に真剣な眼差しで聞いてきた。
「・・なにを、ですか?」
空気が一瞬で変わった。
二人の間で絡み合う視線。
その色がお互い疑いの色を滲み出していた。
「さっきのやつ・・あいつは
お前の知り合いなのか?」
不機嫌そうに疑い深く彼は聞いてくる。
きっと、あの男の言葉を思い出したのだろう。
彼は私のことを暴きすぎた。
姫だの、命を削るだの・・。
本当に・・いいすぎだ。
「そう、です。
あれは私が国にいたときの同期ですから。」
ぽつりぽつりと、諦めて私は語りだした。
「同期?」
王子は眉をひそめる。
「はい。彼が言ったとおり私はあの国の隠し姫。
公にはされなかった継承権のない王女です。」
「!!」
「私は王ととある種族の平民との間に生まれた卑しい存在なのです。
生まれてはいけなかった命です。
そしてそれだけではなく、生まれつき“鎖の呪い”が身体に刻まれていました」
「扇をとめた、あれか!?」
「はい。あれは生命力を糧に生涯縛られる呪いです。
魔力を込めれば・・--全身から鎖を具現化するのも可能です。
あれがあれば、ほぼ無敵に近いでしょう。」
「・・--」
「ですが、その力は、忌み嫌われる対象としかならなかった。
私は王の駒として育てられた。
剣術、武術、魔術、・・すべて鍛えられました。
能力も、--呪いのこともあって増えました。
そのとき、彼も一緒に鍛えられました」
「彼はもともと違反者を捕まえる違反者狩りの子孫で
それを引き継ぎ、私がここへ来る前まで、それをしていたはずでした・・」
辛くひどい過去を思い出し、
それにともない頭痛がズキズキと襲う。
痛みで顔をゆがめた。
「---」
彼が何か言おうとした。
だが、私はそれを制して最後の力を振り絞った。
「あの国が首謀者なのは、分かって、ます。罰を、与えるべき・・--相手だと。
でも、あの国は、この国の圧力を、すこ、しでも、加えたら、
絶対に、ほろ、ぶ・・っ」
「殿下、私はっあなたの盾として、
生きる盾として、ここへ、差し、出されまし・・た。
私は、あなたに、忠誠を誓って、いま、・・す。
私は、生贄・・なのです。民の、国の・・
だからっーー・・」
どうか、あの国に圧力はかけないでください。
私の命は貴方に差し出すから・・--
バタンッ・・--モフッ
突然彼は私の肩を押しやって寝台に押し倒した。
ふわっと寝台が身体を支える。
一瞬何があったかわからなかったが、
「わかった。もういい。だが、
俺はお前を俺の盾という存在だけで終わらせる気はない!」
彼は堂々と上から私を見下ろしてそう宣言した。
「でん、か・・--」
「さっきからお前は無理をしすぎだ。
もう休め。話はその後だ!」
バッッ
と、毛布を私にかぶせ、
彼はさっそうと台風のごとくに去っていったのだった。
「ッ”---”」
もう日が明けてしまう時刻だったと、
カーテンの隙間からの光に気づいたが、
睡魔や頭痛のひどさに勝てるわけもなく、
私はそのまま意識を沈めるかのように眠りに引き込まれていった。