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紺碧の大甲虫  作者: そよ風ミキサー
第四章 【異界から来た者達】
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第56話 そして二人は再び歩き出す

これにて第四章は完結となります。

 マグショット達コミュニティーの拠点最下層にある転移用の部屋に擬態を解いたツェイトといつもの旅装束一式に身を包んだセイラムが並び立っていた。

 二人の前には、マグ・ショットとイッキがわざわざ見送りに来ている。

 ムカデの男がこれから旅立つツェイト達へ声をかけてきた。


「気を付けて行け、奴らは世界各国に潜んでいる可能性がある。もし奴らと遭遇したら迷わず連絡しろ」


「ああ、その時は頼りにさせてもらう」


 あの後、マグ・ショットから霊長医学機関の所長の正体について知らされた。

 今は無い、かつて栄えていた連合で最も強大な国を構えていた種族、竜の長オルメイガ。それが所長の正体だった。

 霊長医学機関が資金に困らずに運営出来たのは、件の竜の王が秘密裏に資金提供を続けた事で実現可能となった、ある意味竜の国の秘密機関の様な立ち位置だったのだ。

 それを聞かされた時のトリナイダは驚きと困惑がない交ぜとなっていたが、徐々に落ち着きを取り戻すと納得もしていた。彼女なりにマグ・ショットの話と符合するものがあったらしい。


 そして副所長についてもある程度判明した。

 トリアージェ・ラレインと呼ばれる女科学者がその正体で、今もセイラムを狙う者達の首魁だが、その素性まではマグ・ショットでも分からなかった。

 ある意味、竜の国の王だった所長よりも謎の多い人物で、得体も知れない存在だ。そんな者にセイラムが狙われている事を再確認出来たツェイトは警戒を高めた。


 だが、それでもツェイトとセイラムは二人で再び旅に出る選択をした。

 この拠点を根城にしてマグ・ショット達の情報網に頼ると言う選択肢もマグ・ショット達から提案をされもしたが、二人はそれを辞退する。


 二人で旅をしていれば、恐らく今後も霊長医学機関残党、トリアージェの一派はセイラムを狙い続けてくるだろう。もしかしたら、オルメイガ一派も続いてくる可能性だってある。

 しかし、身を隠し続けていても事態は好転しないだろう。だが、敢えて二人はそれを承知のうえで旅に出る。


 プロムナードは、トリアージェ一派の殲滅の為に行方をくらましたとマグ・ショットは推察していた。

 それなら、旅の最中に彼らと関わり続けていけば、プロムナードと会える可能性が高くなるのではと考えたのだ。

 マグ・ショット達も霊長医学機関の残党と敵対関係にあり、それらの殲滅を狙っている。だからツェイト達がもし彼らと遭遇した場合はそれに乗じて相手側の追跡を試みようと考えている。


 言い方を悪くすれば、ツェイト達はトリアージェ達をおびき寄せるための餌である。

 無論、無援で放り出されるわけではない。マグ・ショットもトリアージェ達に利するような事は断じて見逃すわけにはいかないので、機関残党の気配あらばツェイトの側にサポートが出来るプレイヤーが来れるように手筈が整えている最中だ。すぐに動けるプレイヤーにはマグ・ショットの方で思い当たる者がいるから大丈夫だ、と事。


「セイラムも本当に辛かったらこっちにいらっしゃい。部屋は残してあるから」


「ありがとうございます。でも、ツェイトと一緒ですから大丈夫。私もやれる事をやってみます」


 セイラムもイッキに心配されつつも笑って返した。

 今の霊長医学機関はプレイヤー並の戦闘力を持つ戦力を保有しているので、ツェイトともかくセイラムではどうしても分が悪いので、イッキはそれがどうしても不安の種だった。


 ツェイト達はこの旅立ちにあたって、マグ・ショットからとあるものを渡されている。

 コミュニティー内きっての技術者フィーゴとリンクルの合作で、色々と多機能が搭載されている腕輪だ。

 一つ目は、拠点のプレイヤーやツェイトとセイラムが互いに連絡が取れる通信機能だ。万が一行方不明になったり腕輪が無くなってもすぐに所在が分かるように発信機も内蔵されており、盗まれて悪用されないようにと本人以外では使えないようセキュリティが施されている。所有者識別には以前リンクルに頼まれた採取した血液による遺伝子情報が活用されている。

 二つ目は、シチブのようにこの拠点へ瞬時に移動が出来るポータルストーンが内蔵されている。これによって何かあったら拠点へすぐに戻れるようになったが、一目の付く場所での使用は厳禁だ。

 三つめは、本人が念じれば手元へ瞬時に戻って来る紛失防止機能。これは、セイラムが所持しているリュヒトが製作した槍の機能を参考にして作られた。

 更に、何か思いついたら追加できるよう拡張用の余分が設けられているので、今後二人が何か閃いたらそこに新たな機能が付け加えられる事になるだろう。尚、ツェイトは既にその余分を利用してある機能が付け加えられている。


 これを作る為に三日ほど滞在する事になったが、むしろ三日間で出来上がった事の方がツェイト達にとっては驚きである。

 これもひとえにアバターの性能のおかげと脳髄の異形と美少女姿の人形の二人は言っていた。

 

 ツェイト達のこれからの行き先は、マグ・ショットがプロムナードの足取りが確認出来た中で一番新しいとある連合内の国を予定している。


 ツェイト達の足元が光を帯び始める。

 この部屋は外部から転移した時に到着する場所になっているが、逆に拠点から外部へと出る際の移動用の転移部屋にもなるのだ。


 二人に見送られながら、ツェイト達は拠点を後にしてその場から光と共に消えて行った。




「行ってしまいましたね」


「……」


「……会長?」


「これから忙しくなりそうだ。場合によっては、セイラムを狙って向こうで争奪戦が起こるかもしれない。潰し合ってくれれば儲けものなんだが」


「連中の足取りは掴めていないので?」


「流石に何百年も隠れ続けているだけあって身の振り方が達者だ。だが、こちらも餌と釣竿の用意が出来た。向こうが食いついて来るのを待つとしよう」


「……あの娘を餌扱いというのは不謹慎ですよ」


「勿論、あの娘を死なせはしないさ。私としても、父親に合わせてやりたい気持ちはある」


「……プロムナード、どこに行ってしまったんでしょうね。会ってあげればいいのに」


「…………合せる顔が、ないのかもしれないな」


 マグ・ショットはこの世界のどこかで、今もトリアージェ一派を滅ぼすために彷徨う男の心情を思って4つの鋭い眼光を伏せた。





「……本当にこの間の場所だ」


(座標とかどうやって割り出しているんだ?)


 光と共にツェイト達が姿を現した場所は、シチブが迎えに来て拠点へと転移した際にいたオーガの国の街道から離れた山林地帯だった。

 時間帯は日が昇り始めた早朝、山の向こうから朝日が顔を出して空が青くなりはじめている。


 周囲を見渡して人気が無いのを確認すると、ツェイトは昆虫人の擬態を解いてハイゼクターの巨体を露わにする。両脇から副腕を展開して、副腕の手首に新たについた腕輪を見た。

 今のツェイトの副腕の両手首にはそれぞれ一つずつ腕輪が嵌められている。一つはクエスターの証明証。もう一つは、リュヒトに作ってもらった擬態用の腕輪――と完璧にそっくりだが、その実態はマグ・ショット達のコミュニティーで作ってもらった多機能付の腕輪だ。


 旅立ちの餞別に多機能付の腕輪を作ってもらう事になったツェイト達だが、ツェイトは既にリュヒトに作ってもらった擬態用の腕輪があるので、これ以上嵩張るのと昆虫人に擬態する時に使う腕輪が変わって変な詮索をされるのを避けたいため何とかできないかと、製作者のリンクルとフィーゴの両名へ相談をした。

 「なら今付けてる腕輪とガワだけそっくりな奴拵えて、そこに機能全部ぶっ込めばいいじゃねえか」とは今は美少女型の機械人形の体になってしまっているプレイヤー、フィーゴの意見だ。

 材料はマグ・ショットやその他所属しているプレイヤー経由で調達可能で、知能や技術力に特化したアバターのプレイヤーが二人がかりで製作した事で設計から製造まで含めて三日で出来上がった。

 どうやって作ったんだ……? とツェイトが無意識に口から溢した問い掛けに、二人は専門用語らしい未知の言語で説明してきたので早々に理解を放棄した。とりあえず、以前から使っていたものに新たに機能が加わったとでも思えばそれで十分だと判断するツェイト。

 元々持っていた擬態機能だけが付いていたオリジナルの腕輪の方は、拠点にあるツェイトの部屋へとおいてもらう事にした。


 そしてセイラムの方はと言うと、華美さの無いシンプルな縁取りや模様が刻まれた造形の、ちょっとした装飾品程度に見える古めかしい雰囲気のデザインとなった。

 ただし、傍から見た際に新品だと不審がられるので、発掘品という体を装うためにツェイトの腕輪と同じく骨董品のような古ぼけた感のある偽装が施されている。


「んーーー……っ! 何か凄く濃い日々だったなぁ…………はぁ」


 セイラムがグッと体を伸ばし、捻ったりして柔軟をすると、深呼吸をしてそうこぼした。


「どうした?」


「だってさ、今まで気になっていた自分の親とかツェイト達の事とか、いろんな事が一気に分かったんだぞ。驚きっぱなしで感覚が鈍くなってたけど、凄い事聞いちゃったんだなぁってつくづく思ったんだ」


「……まぁな」


 言われてみれば、セイラムにとっては両親の素性や母が既に故人である事、行方知れずの父の事などでも衝撃的な事実のに加えて、国どころか下手したらこの世界の危機に直結するような話にまで広がっていったのだ。

 両親の話だけに浸らせてやるべきだったか、しかし悲しみ続ける暇を与えずに、次々と衝撃的な話題が来る事で意識を切り替えさせたのは、結果的には良かったのかもしれない。

 ツェイトはこの娘が悲しむ顔を見たくは無かった。


「……なぁツェイト」


「うん?」


「…………会えるかな」


 誰に、とツェイトは訊き返さなかった。


「会えるさ」


 青みの増していく朝の空を見上げながらツェイトは、それだけ答えた。

 


 ツェイトがセイラムを抱えて翅を広げ、空へと飛翔する。

 向かう先はマグ・ショットから齎されたプロムナードらしき存在が最も最近確認された国。

 その先に幸ある事を願ってツェイト達は国境目がけて太陽が昇り始めた空を飛んでいった。

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